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聖騎士の規則

「ねぇフェイトさん、どうしてワタシじゃだめなの?」


「……は?」


フェイト=ウィルソンは自主練のルーティンにしているロードワークから戻り、水場で顔を洗っている時にいきなり声をかけられた。


相手はルゥカの同僚であるメイドのミラという娘である。


「このタオルを使って」


とミラが渡してきたタオルを見て、フェイトは傍らに置いていた自分のタオルを手に取った。


「いい。自分のがある」


そう返して顔を拭いているフェイトを見ながらミラが言った。


「どうしてワタシと付き合ってくれないの?」


「どうしても何も聖騎士の規則に違反する」


「でも中には隠れて恋人と付き合ってる人もいるんでしょ?」


「さあな。他者(ひと)の事は知らねぇが俺は御免だ」


「でももうすぐ聖女付きになって五年でしよ?じゃあ()()になるじゃない」


「解禁」


「だってそうでしょ?聖女の聖騎士は五年間は……


「ちょっとミラ!」


ミラがフェイトに告げようとした言葉を遮るようにルゥカの声が辺りに響いた。


フェイトとミラ、二人が話している水飲み場の方へルゥカが走ってやって来る。


「ゲ、また出た」


ミラがうんざりした顔でルゥカを見た。


「ミラ!フェイトにちょっかい出さないでって言ってるじゃない!」


「なんでワタシがあんたの言うことを聞かなきゃいけないわけ?これはワタシとフェイトさんの問題なんだから」


「問題って何よっ、変な言い方しないでよっ」


ミラの言い回しが気に入らないルゥカがムキになって言い返す。

それに割り入るようにフェイトが言った。


「ルゥカお前、菓子食ってたろ?」


「なんでわかるの?」


ルゥカがきょとんとして訊ねると、フェイトはルゥカの手に視線を落として答えた。


「クッキー持ったまんまだから」


自分がクッキーを持ったままで走って来たことに気付き、ルゥカは笑った。


「あ、あらやだホントだわ。ふふ、だって他のメイド仲間にミラがフェイトにちょっかいかけてるって聞いたから。慌てて一目散に飛んで来たの」


そう言いながらルゥカはフェイトの前にクッキーを差し出した。


「ったくお前は」


フェイトはそう言いながら、ルゥカの手から直接クッキーを口にする。


「フェイト、髪が濡れてる。ちゃんと拭かなきゃ」


ルゥカはそう言ってフェイトが首から掛けてたタオルを取って髪を拭いてやった。

フェイトは抵抗する事もなくじっとされるがままになっている。


その一連の様子をジト目で見ながらミラが言った。


「……アンタたち、ホントは付き合ってんじゃないでしょうね?」


「?何を言ってるの?そんなわけないじゃない」


ルゥカがきょとんとして答えると、ミラは更に目を窄めた。


「なんか醸し出してる雰囲気がおかしいのよアンタたちは」


「?だって昔からこうだし。何がおかしいの?」


「幼馴染の雰囲気じゃないって言ってんの!」


「???」


ミラの言う事にいまいち要領を得ないといった様子のルゥカ越しにフェイトが言った。


「規則違反を疑われるような事を言うな」


「なによフェイトさん、規則規則ってそればっか!」


「騎士にとって規則や隊則は絶対だ」


そう答えたフェイトにうっとりとするも、規則という言葉にルゥカは首を傾げる。


「フェイトえらいなぁ。ん?でも規則って?」


「あんた、聖女教会に勤めてるくせに規則の事も知らないの?」


「規則があるのは知っているけど、詳しい中身までは知らないもの」


ルゥカがそうミラに答えるとミラは鼻で笑うようにして告げた。


「その様子じゃ、聖女付きの騎士が五年間は結婚はおろか恋愛事を禁止にされてるのなんて、どうせ知らないんでしょ」


「え?そうなの?」


ミラの言葉を受けルゥカがフェイトを見る。

対するフェイトはふい、とルゥカから視線を外した。


「フェイト?」



どういうわけか急に目を合わさなくなったフェイト。

そんな彼に代わり説明すると、

聖女教会が聖騎士の規則にわざわざ新米聖騎士の恋愛をご法度としたのにはそれなりに理由があるようだ。


新たに聖女付きとして任命される聖騎士のほとんどが、十代後半のようやく青年と呼べる歳になったばかりの若者である。


そんな彼らが私生活での恋愛を優先、もしくは言い方が悪いが女の尻を追いかけ回すような事では教会側としては外聞も悪い。

そして尚且つ聖女の警護が疎かになってはいけないという理由で最初の五年間を恋愛ご法度とした、らしいのだ。


まぁようするに五年間は聖騎士としての修業期間とし任務第一に勤めよ、というわけである。


そしてフェイトもそうであるように大概の聖騎士が恋愛ご法度の時期を抜ける頃合いに、結婚適齢期に突入するという仕組みになっているらしい。


今、十数名で編成されている聖女付きの聖騎士の中でフェイトを含め三名が恋愛ご法度中の聖騎士なのである。



「ねぇ?フェイト?どうして言ってくれなかったの?」


後で準則を記した書類にてその事を知るルゥカだが、

気まずそうに顔を背けるフェイトに対し執拗に説明を迫った。


「なんとなくだ」


「え?」


「なんとなく言いそびれたんだよ。それに、規則の事なんかとっくに知ってると思っていたし。あえて口にする必要はないと思ってたんだよ」


「べつに隠す必要なくない?」


「隠してねぇ!」


「そう?」


「そうだよ」


「うーん?」



──知らなかった……フェイトがずっと恋愛禁止で生きてきたなんて。

ずっとルリアンナ様一筋できたのだと思っていたから。


まぁそれでも変わりはないのか。


結果的に規則を守る形となったけれど、フェイトが聖女に心を捧げている事に変わりはないのか。

ルゥカはそう思った。


そんなフェイトがコダネを渡してくれるだろうか。


ルゥカは急に不安になった。


よくわからないけど子供が出来るような大切な種をいくら幼馴染のよしみといって、ルゥカにくれるだろうか。


これは卓越した交渉術を学ばねばならない。


図書館なら交渉術の本がきっとあるはずだ。


次の非番の日にでもまた図書館に行かなくては、と計画を立てるルゥカであった。




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