聖女ルリアンナ
「見て、ルリアンナ様よ。相変わらずお綺麗よねぇ……」
メイド仲間がため息混じりにそう言うのを聞き、ルゥカもそちらへと視線を向けた。
そこにはこれから外出するのであろうこの国と教会が認める聖女ルリアンナが、護衛の聖騎士たちに前後を守られながら歩く姿があった。
その聖騎士の中に当然、フェイトの姿もある。
「聖女と聖騎士たち……絵になるわねぇ……」
メイド仲間がまたそう言うのを聞き、ルゥカは頷いた。
本当に。
本当に彼らは全員が揃いも揃って見目麗しく、美しい。
聖女ルリアンナが神がかり的な美しさなのはもちろん、彼女専属の護衛騎士たちは皆、驚くほどのイケメンばかりであった。
彼らは騎士としての腕前だけでなく見目の良さでも選ばれているという。
それは聖女教会が貴賤問わず全ての国民へのイメージ戦略の一つなのだとかなんとか。
よくはわからないが、栄誉ある聖女の聖騎士にフェイトがいる事がルゥカはとても誇らしいと思っていた。
故郷の誉れ。
そしてフェイトの努力の賜物。
フェイトが聖騎士になるために努力を重ねてきたのを誰よりも知っているルゥカは、その努力が認められた事が何よりも嬉しかったのだ。
まぁそれには恋情があったからなのだと知ってしまっては、以前のように純粋な気持ちでルリアンナと共にいるフェイトを見る事が出来なくなってしまったのだが。
──でも。フェイトの夢は叶ったのだから、やっぱり祝福してあげないとね……
ルリアンナへ柔らかい微笑みを向けるフェイトを離れた場所で見つめながら、ルゥカはつきんと痛む胸を感じながらそう思った。
そんなルゥカを尻目にドリーがメイド仲間と話している。
「ルリアンナ様は今日はどちらへ行くのか知ってる?」
「メイド長が王宮へ行かれる時の訪問着を用意されていたわ。だから王宮だと思う」
「あぁ、王弟殿下との逢瀬ね」
フェイトに横恋慕中のミラがそう言うと、ドリーが眉根を寄せてミラを見た。
「あんたねぇ。そういう事、わざわざ口に出して言わなくていいんじゃないの?」
ミラは顎をツンと突き出して言う。
「なによ、ホントの事じゃない。‘’聖女と王弟の道ならぬ恋”誰もが知ってる事よ」
「誰もが知ってる事じゃないわよ。この事は関係者しか知らないんだから。あんた、くれぐれも口外はしないことね」
「するわけないでしょっ?アタシにだってメイドとしてのプロ意識はあるんだから」
「ならいいけどさ」
ドリーとミラは互いにジト目で見ながら話を切り上げてまた仕事に戻った。
聖女ルリアンナと王弟アルフレッドは共に二十八歳。
十一年前、現国王であるアルフレッドの兄の即位式で二人は出会った。
そしてすぐに互いに惹かれ合い、婚姻が許されない聖女と王弟のストイックな恋が今も続いているのだ。
王弟アルフレッドが聖女ルリアンナの為に生涯独身を貫くと誓った事は、ごくごく近しい者たちだけが知っているそうだ。
(国王に王子が三人いるために許されている事だが)
──王弟殿下といい、フェイトといい、みんなルリアンナ様に生涯を捧げているのね。
あの美しく慈愛溢れる優しいルリアンナならばそれも仕方ないと感じている時点で既に自分は負けている。
何よりもフェイトがそれを望んでいるのだ。
ルリアンナのために独身を貫き、生涯彼女を守り続ける事を……。
知らんけど。
でもルリアンナに恋情を抱き、結婚願望がないというのなら、つまりはそういう事なのだろう。
ルゥカはそう思っていた。
◇◇◇
その日の仕事の後、ルゥカは実家の両親が倒れたと連絡があり慌てて帰省したドリーを見送るために長距離馬車のターミナルまで見送りに出た。
そしてドリーを見送った後に図書館へと足を向けたのだった。
目的の図書はもちろん、貰ったコダネをどうやってコウノトリに渡せばよいのかが記された本である。
ルゥカは様々な種について記載された本やコウノトリやその仲間についての本などを色々と調べてみたが、何故かルゥカの知りたい情報は書かれていなかった。
──どうしてかしら?コダネって、種の仲間じゃないってこと?
そんな事を考えながら再び植物について書かれた図書が立ち並ぶ書架の前で唸っている時、一人の年若い男性に声をかけられた。
「何かお探しですか?」
「はい?」
突然声をかけられて少し驚いたルゥカが声の主を見ると、
メガネをかけた真面目で穏やかそうな青年がそこに立っていた。
青年の服装から、ここ王立図書館の司書である事がわかった。
その青年が柔らかい声でルゥカに言う。
「植物についてお調べですか?」
司書さんなら本について詳しいだろうとルゥカは考え、思い切ってその青年司書に訊ねてみた。
「はい。コダネについて詳しく書かれた本を探しているのです」
「……………はい?」
優にたっぷりの間を空けて、青年司書がそう言った。
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ルゥカーー!(|||O⌓O;)