そこからなの?
聖女教会に勤めるルゥカのメイド仲間であり王都で出来た唯一の友人であるドリー=アムズは軽い頭痛を感じていた。
「ねぇドリー、私子供が欲しいの。でもそれって男の人のコダネを貰わないとダメなんでしょう?そのコダネとやらはどうやって渡して貰えばいいのかしら?それに貰ったコダネはどうやったらコウノトリさんに渡せるの?」
などと、ルゥカが冗談を言ってるとしか思えない発言を真剣な表情で言ってきたからである。
「……うーんと?色々と訊きたいことがあるけど、とりあえずどうしてそんな考えになったのか訊いていい?」
ドリーがそう言うとルゥカは少し伏し目がちになって答えた。
「私、一人で田舎に帰ろうと思って……おばあちゃんも心配だしね。でもやっぱり長い人生、結婚はしなくても子供は産んで育てたいと思うじゃない?だからコダネだけを貰って田舎でのんびり子供と生きていくことにしたの」
「ちょっと待って、田舎に帰る?あんたフェイトはどーするの?」
「フェイトの事は諦める。このまま一緒にいても先はないとわかったの。だから潔く田舎に帰る事にしたんだ」
「諦めるっ?先はないっ?何がどーしてそんな考えになったのっ?」
ドリーはルゥカの両肩を掴みガックンガックン揺らして訊いてきた。
ルゥカは頭を激しく揺さぶられながらもフェイトは聖女が好きだと分かった事と結婚願望が無いと聞いた事を告げた。
その話を聞き、ドリーはメガネのつるを指で押し上げて言った。
「結婚願望はともかく、フェイトがルリアンナ様に恋情を抱くなんて有り得ないと思うんだけど」
「そんな事ないわ。だってルリアンナ様を見て、なんとも言えないとっても辛そうな顔をしていたもの。アレは絶対、結ばれない苦しみを抱いている目よ」
「まぁそこんところは直接フェイトに訊くしかないからもう置いておこう。それよりもあんた……コウノトリ……?どうやったら妊娠するのか知らないとか言わないわよねっ?」
ドリーの言葉を受け、ルゥカはいかにも腑に落ちないといった表情を浮かべた。
「そのくらい知ってるわよぅ。でも昔はただコウノトリさんが赤ちゃんを運んでくれると思ってたんだけど、前に先輩たちが旦那さんのコダネがどうのこうので妊娠したって聞いてからなんだかわけがわからなくなって……ねえドリー、コダネってどんな形をしているの?どうやって貰えばいいの?」
「ちょい待ちそこから?そこからなの?どんなものかも分からずに子種を連呼していたの?ていうかあんた、全然わかってないから!なんでそんな事も知らないのっ!?」
「だって田舎じゃ誰も教えてくれなかったもの」
「……フェイトがあんたに集る悪い虫どもを排除し過ぎた弊害か……」
「え?私、虫に集られていたのっ?やだいつ!?」
「落ち着きなさい、このおポンコツちゃん。それは今どうでもいい話なのよ。それよりも私がなぜ成人した友人の性教育をしなきゃならない状況に陥っているのかだわよ」
「性教育?」
「いい?ルゥカ、子種っていうのはね、男性器をね……
「そこ!何をやっているのっ?ランチタイムはとっくに終わってるわよ!」
ドリーが説明しようとしたその声はメイド長の声により遮られた。
ルゥカは目を丸くして慌てる。
「わわわ!いつの間に休憩時間が終わってたのっ?大変!仕事に戻らなくちゃ!ごめんねドリー、また詳しく教えてね!」
「それはまぁいいけど……いい?決してフェイト以外の男の人に今の話をしちゃダメよ?『じゃあ実地で教えてあげるよ♡』なんて言うチャラ男に捕まったら大変な事になるからねっ?」
ルゥカはランチボックスを片付けながら返事をする。
「分かったわドリー。貰ったコダネで田舎で子どもを産む事はフェイトには知られたくないからもちろん誰にも言わない。フェイトに伝わると困るもの」
「いやフェイトはむしろ知った方がいいと思うけどね」
「ルゥカ=フィンチ!さっさと仕事に戻りなさいっ!」
メイド長が痺れを切らして金切り声で叱責してきた。
「はっ、はいっ!ごめんなさいっ!!じゃあねドリー、午後からも頑張りましょ!」
とそう言ってルゥカは一目散に持ち場へと戻って行った。
後に残されたドリーがぽつりと言う。
「どう考えても面倒くさい展開しか待ち受けてない……」
そして大きく嘆息し、彼女も自分の持ち場へと戻って行ったのであった。