エピローグ ポンコツ娘は初恋を諦めずに彼と幸せになる
予約投稿の日付け、間違っておりました!
それに気付かずまさかの寝落ち……
本当にごめんなさい!
「本当に……すみませんでした……」
ルゥカはその日、ドリーに付き添われて散々迷惑を掛けた図書館司書のパトリス=ダーヴィンに謝罪した。
ドリーを通して彼と連絡を取り、図書館近くのカフェで会い、知らなかった事とはいえ公共の場で「子種」を連呼する破廉恥な行いをした事と、それに関してパトリスに多大な心配と迷惑を掛けた事によるお詫びだ。
席に着くなり頭を深々と下げたルゥカにパトリスは慌てて頭を上げるように告げる。
「そんな、頭を上げてくださいルゥカさん。事情はドリーさんからお聞きして理解しておりますし、僕がした事といえば心配しただけだったんですから、謝って頂く必要はありません」
「でも……」
「いえ本当に。それよりも僕は勝手に勘違いをしてルゥカさんの大切な人に嫌な態度を取ってしまいました、本当にすみませんでした」
そう言ってパトリスは逆に頭を下げてきた。
ルゥカは当然それを慌てて制する。
「パ、パトリスさんの方こそ頭を上げてくださいっ…そんな誤解をさせたのも全て私が悪いのですから……」
ルゥカがそう言うと、隣の席に座っていたドリーが言った。
「そうよね。この件に関しては、私の言いつけを守らずベラベラと喋ってパトリスさんに迷惑をかけたルゥカが全部悪いわよね」
「うっ……ホントに反省しております」
ぐぅの音も出ないルゥカがしおしおと項垂れる。
そんなルゥカを見ながらドリーはパトリスに言った。
「ルゥカの旦那のフェイトも、貴方に対し不遜な態度を取って申し訳なかったと言っていたわ。仕事の都合で今日は来れなかったけど、くれぐれも詫びておいて欲しいと頼まれているの」
「まだ旦那じゃないわよぅ」
ルゥカが小さく抗議するとドリーはにべも無く答える。
「明後日には入籍するんでしょ?ならもう旦那でいいじゃない」
「いいのかしら?」
「いいのよ」
「そう?」
そんなルゥカとドリーのやり取りを見ていたパトリスが柔らかい笑みを浮かべ、こう言った。
「お幸せそうで何よりです」
それはパトリスの本心であった。
正直、ルゥカに惹かれていた自分がいた。
だけど他の誰かから奪い取りたいと思うほどの情熱を抱えていた訳ではなかった。
そして何より素直にルゥカの幸せを喜べる、まだ友情と呼び直せるそんな淡い想いであった。
ルゥカはパトリスの言葉に心から感謝の気持ちを込めて、微笑んだ。
「ありがとうございます、パトリスさん」
「ルゥカさんの幸せを心から祈っています」
真に願う気持ちを込めてそう告げたパトリスを、ドリーは眩しそうに目を細めて見つめていた。
そして注文していたコーヒーやお茶が届き、三人でしばし歓談を続ける。
「それにしても教会の発表には驚きました。新たな聖女が見つかったなんて」
パトリスがそう言うとドリーが頷いた。
「よく見つかりましたよね。それも全て王弟殿下の執念でしょうね」
「執念?」
「いずれほとぼりが冷めたら教えてあげますよ」
悪戯をする前のような笑みを向けられ、パトリスは一瞬固まったようにドリーを凝視し、そして微笑んだ。
「ええ。いずれ必ず教えてください」
何気ない会話の中で、先の事を約束し合う二人。
ここから何かが始まりそうな、そんな瞬間であった。
パトリスが口にした教会の発表とは、
先日、聖女教会が次代を担う聖女が見つかったと公表した事である。
もう何年も前から、王弟アルフレッドの命を受け、聖女教会と魔術師協会は次世代を担う聖女の発見に力を尽くしていた。
従来の唯一無二の聖女制度ではなく、有事の際や、予期せぬ不幸に陥る事態を防ぐために複数名の聖女を認定しておく事や、一定の年齢がくれば本人の希望により引退も出来るようにするためである。
そのための法案もすでに貴族院で可決、国王にも承認されていた。
それを推し進めた王弟の私情による新制度だと反発する者も中にはいたが、癒し手が増える事に多くの者が安堵し、その制度を支持した。
王弟アルフレッドの狙い通りとなったわけだ。
しかし制度は整えど、聖女認定にクリア出来るほどの神聖力を持った者など早々現れるはずもない。
アルフレッドが新たな聖女探しを命じて八年越しにしてようやくそれが見つかったのであった。
しかも二人も。
一人は十五歳の農夫の娘、もう一人は七歳になる子爵家の令嬢であった。
二人は直ぐに聖女選定を受け、そして教会と国が認める聖女に任命された。
それにより王弟はここで初めて、聖女ルリアンナに真意を問う。
このまま聖女として生きるか、それとも……
それとも、聖女を引退してアルフレッドの妻として生きるか。
そしてその問いに対しルリアンナが出した答えは……
今まで数多の者を救ってきたその手で、愛するアルフレッドの手を取る事であった。
ルリアンナに恋をして、彼女と共に生きる道を模索し続けたアルフレッドの長年の願いが叶った瞬間であった。
願掛けとして髪を伸ばし続けた(ある程度の長さになると鋏を入れたが)アルフレッドは次の日にはその長い髪をバッサリと切り、兄である国王に婚約の報告に行ったという。
そしてルリアンナの引退を渋る教会を説き伏せた。
今後も常に聖女候補者を探し続け、一人の聖女に依存せずとも良い社会を構築してゆくのだとアルフレッドは語っているらしい。
「ルリアンナ様……よかった……うぅっ…よかったよぅ。やっぱり好きな人と結ばれるのって、とってもとっても幸せな事だものっ……」
ランチタイムにみんなでルリアンナと王弟の婚儀の事について語っていて、感極まったルゥカがそう言った。
それをメイド仲間であり、フェイトと付き合いたいと公言していたミラが冷ややかな目を向けて言う。
「フンッなによ、自分がちょっと入籍したからっていい気になって。何様のつもり?」
「へ?奥様のつもりだけど?」
とルゥカが言い返すと他のメイド仲間が笑った。
「そうそう!若奥様だ」
「ミラ、あんたフェイトさんにフラれたからってやっかまないの!」
「自称イイ女を豪語するなら次行きなさいよ次!」
「うるさいわねっ!ワタシはフェイトさんが良かったの!でもわかんないわよね?アンタなんか早々に飽きられるんじゃないかしら?そしたらまたワタシにもチャンスはあるわよね?」
「ムキー!フェイトはそんな不誠実な人じゃないからっ!真面目で優しくて素敵な、私の旦那様なんだからね!」
「なによ!調子に乗るんじゃないわよっ!」
相変わらずフェイトに横恋慕するミラとバトルを繰り広げていたその時、ルゥカの名を呼ぶ優しい声がした。
「ルゥカ」
警護の交代で休憩に入ったであろうフェイトがルゥカに会いに来たのであった。
「フェイト!」
ルゥカはランチボックスを手に持って、フェイトの元へと駆け寄った。
その際ミラに、「旦那さまと一緒にランチするの。ごめんあそばせ?」と言って笑ってやった。
後ろから「なによ!」という負けん気の塊であるミラの声が追ってきたが当然無視だ。
その様子を見ていたフェイトが訊いた。
「どうした?」
「ううん。ちょっとした言い合いをしただけ。さ、お腹空いたね。中庭で食べよ?」
「ああ」
ルゥカの言葉にそう返事をし、フェイトはルゥカが持っていたランチボックスを代わりに持った。
そして二人で手を繋ぎ中庭へと向かう。
先日、ルゥカとフェイトはささやかながらも小さな結婚式をこの聖女教会にて挙げた。
聖騎士になり五年を迎えたと同時に入籍をし、二人は晴れて夫婦となった。
そしてそれから三ヶ月後に、祝福を申し出てくれたルリアンナの立ち会いの下に式を挙げたのであった。
十六の歳から側で仕えていたルゥカとフェイトの人生が幸多きものになるように祈りたいと、ルリアンナが言ってくれたのだ。
式にはその他教会に勤める皆や、今や友人となり少し前からドリーと恋人になったパトリスが参列してくれた。
そして故郷からはフェイトの両親とルゥカの祖母が、それぞれ王都までやって来て祝福してくれたのだった。
その中でフェイトがルゥカの祖母に、
「ばあちゃん、小さい家だけど一緒に暮らさないか?王都に出て来なよ」と同居を勧めた。
しかし今年七十五になるルゥカの祖母はそれをキッパリと断る。
「年寄り扱いするんじゃないよ。あたしゃまだまだ若いんだ。新婚夫婦に厄介になるほど落ちぶれちゃいないよ」
祖母の返事を聞き、ルゥカはふにゃりと情けない顔を祖母に向けた。
「でもおばあちゃん、何かあってもすぐには駆けつけられないのよ?そろそろ田舎に一人でいさせるのは心配なんだもん」
ルゥカがそう告げると、今度はフェイトの両親が新郎新婦に言った。
「カミラ(祖母の名前)さんの事なら心配いらないよ。私たちが近くにいるんだ。健康そのものだし、まだそんなに心配するほどの歳じゃない。それよりもせっかくの新婚夫婦なんだ、今のうちに二人だけの生活を満喫しておきなさい。子供が生まれたら余裕なんてなくなるんだから」
「ハ、ハイ………」
何気に恥ずかしい事を言われ、ルゥカは真っ赤になって小さな声で返事した。
ドリーにより叩き込まれた性教育が功を奏したのは……つまりルゥカとフェイトの初夜は、入籍した当日の夜であった。
それがどんな初めての夜になったのかは、
それぞれのご想像にお任せしよう。
そして結婚式を挙げた後もルリアンナが教会を去るまではと、ルゥカはメイドの仕事を続けていた。
こうして二人の休憩時間が重なれば一緒にランチを食べる事もある。
今日のランチボックスの中身は保冷庫の整理パエリアだ。
余りものの食材を放り込んでのパエリア。
冷めても美味しいように工夫してあるルゥカ自慢の一品なのだ。
「美味そうだ」
フェイトはパエリアを見て思わず顔が綻ぶ。
「ふふ、さぁ召し上がれ」
「いただきます」
「いただきます……オエッ」
「ルゥカっ?」
パエリアを口にした瞬間、鼻に抜ける食材の香りでルゥカは悪心を引き起こした。
「ルゥカっ?」
「ぼへっ……」(ごめっ……)
そしてそのまま口を手で押さえ建物の中へと駆け込んだ。
フェイトも慌てて後を追いかけたが、ルゥカが駆け込んたのが女性用のトイレであった為にどうする事も出来ない。
なので急遽ドリーに救援要請をかけた。
話を聞いたドリーは直ぐにトイレへと入って行き、吐き戻してぐったりしているルゥカを見つけた。
ドリーに呼ばれ、やむを得なしと女性用トイレへと足を踏み入れたフェイトがルゥカを抱き上げて医務室に運ぶ。
そして何故か飛んで来たのは医療魔術師ではなく聖女ルリアンナであった。
ルリアンナはルゥカの腹部に手を当てて何かを探るような仕草を見せた。
そして慈愛に満ちた笑みを浮かべ、ルゥカとフェイトにこう告げる。
「おめでとう二人とも、ルゥカのお腹に新しい命の波動を感じたわ」
「それって……」
フェイトが呆然としながらもルリアンナに問う。
「ええ。ルゥカのお腹に赤ちゃんがいるわ」
「え……?あ、赤ちゃん……」
ルゥカが当たり前だがまだ平たい自身の腹部に手を当てる。
「ルゥカ……」
「フェイト……」
「ルゥカ!」
フェイトはそう言ってルゥカを抱きしめた。
「やった…やった!ルゥカ、ありがとな!」
「フェイトっ、私の方こそありがとうっ……!」
二人ひしと抱き合い、我が子の誕生の喜びを分かちあった。
そんな二人を見て、ルリアンナも心から嬉しそにこう告げた。
「良かったわねルゥカ。ところでルゥカはどうやってコウノトリさんから赤ちゃんを受け取ったの?」
「ん?」
「え?」
「なぁに?」
なんとも言えない既視感を感じる発言をした聖女を、ルゥカとフェイトはじっと見つめた。
ルリアンナとアルフレッドの結婚式は三ヶ月後の予定だ。
おしまい
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これにて完結です。
なんと最後のオチはルリアンナ様でした。
もう一人いましたよ、
純真すぎて何もしらない乙女が☆
まぁそれは結婚してからアルフレッドが頑張るのでしょう。
後に二人の間に可愛い男の子が生まれましたからね。
補足ですが、ルゥカとフェイトの第一子は可愛い男の子だったようです。
ドリーとパトリスも1年後にゴールイン。
可愛い女の子のママとパパになったそうな。
ミラは……あの後それなりに恋愛をして結婚したのでしょう。(おざなり)
今作も沢山の方にお読みいただき、そして感想をありがとうございました!
やはり可視化できる反応というのはつい意識してしまいますね。
投稿のご褒美として、励みにさせていただいておりました。
本当にありがとうございます。
さて次回作です。
タイトルは
『嘘告のゆくえ』です。
罰ゲームと思われる嘘の告白を受けたヒロイン。
しかもそれが密かに思いを寄せていた学園イチのモテ男子で……と、よくあるシチュのお話ですが、ましゅろう流にドタバタと描いてゆきたいと思います。
投稿は土曜日の夜から。
お付き合いいただけましたら幸いでございます。
どうぞよろしくお願い致します!




