魔王配下の反応。バルキ国の王子。落下勇者
魔王様は楽しげに自室に戻られた。
「ふぅ……」
「お疲れ様ユキムラちゃん」
「ああ。パルフェル。お疲れ様」
「お主らは待機か」
「殺すなど言ってすまなかったなじい。どうも魔王様の御前だと感極まってしまう」
「いいんじゃよ。それだけユキムラ坊は魔王様を崇拝しておるという事じゃて」
「ああ。魔王様の喜びが私の喜びであるからな」
「ネームレスちゃんお役目貰えていいわよねえ。私達は待機だから……ねえユキムラ?」
「うむ。功を得るチャンスを我らは貰えてないからな。じいとネームレスが羨ましい」
「お主達は……魔王様の考えを読まれよ」
「……なるほど。私達はそもそも側仕えが基本だったわね」
「そうか!」
「そういう事じゃ」
「感謝するじい!! 魔王様ああああ!!!」
ユキムラ坊は叫び、パルフェル嬢は会釈し、魔王様の所へと向かう。
「ふぅ……恐ろしいのお……」
ワシは、恐ろしかった。魔王様が軽く放った魔法は三日と続く地獄の業火を広範囲にばらまく魔法。
これに燃やされた生物は死ねないまま、焼かれる痛みだけを三日味わう。
しかも膨大な魔力を使うそれを軽い気持ちで使われた。
ワシは恐ろしい。震えている。
そのような最高の魔法の祖のような存在にお仕え出来て、ワシは幸せで恐ろしい。震えている。
きっと魔王様の配下全員が何らかの理由で幸せを感じていることじゃろう。
楽園じゃここは。この楽園に仇なそうとする弱い人間のような虫ケラが多いこの世界の情報を調べるのも苦ではない。ここを思えば。
「フォフォ。魔王様」
じいが魔王様のお手を煩わせずに、更なる楽園の飛躍を達成させて見せますぞ。
簡素な作りの一室。
ここがこの国の中心であるという事実は、他の国から見れば驚きと奇異にみちているだろう。
そう改めて思い、自分の主君を秘書官は見る。
「千年続いた目の上のゴミ~くそ王国が燃え盛る~」
さらにこの部屋で小躍りして奇妙な歌を口ずさむ赤髪の大柄な男がこの国の王子だと知ったら誰もが驚くだろう。
「ご機嫌ですね。バルキ三世様」
「おうよ! 意味の分からない伝承を信じて、近隣の俺達の国に勇者税なんて制度の徴収をしてきた千年続いた王国が滅びたんだぜ。厄災に大感謝だ」
武力維持のために勇者国が近隣の少国に多大な税を徴収していた。逆らう国を武力で脅して。そのおかげでバルキ王国は酷く貧しい。
「だからさ。忙しくなるぜこれから」
「忙しくなるとは? いまだ現存される禍々しき城厄災に対する備えですか?」
「生きて帰れたあの国を諜報してた兵士やら聞き伝えだが、厄災は反撃を行っただけのように感じた」
「それはおかしいですね? それと諜報の方はどうやって生き延びられたのですか? 地獄のような業火が国を一瞬で焼いたと噂されておりますが」
「勇者国にいた諜報員は全滅。ピンポイントで勇者国だけあの城は焼いたのさ。伝え聞く俺達人間を全てを滅ぼそうとする悪意だけの厄災とはどうも違うよな」
「ですね。バルキ三世様。何をなされるつもりですか?」
「一月だな。一月でこの混乱に乗じて戦をおこし、勇者国の近隣に群がっている小国を呑み下し、バルキ国を王国にする」
「なるほど」
「いやいや従順に従っていたのが効いてきたな。この国の勇者税は軽く設定されていて貧しいながらも俺達には隠してきた備えがある」
「隠していた第三兵糧武器庫ですね」
「ああ。今がチャンスだ。勇者国が倒れた今、戦争を休戦していた帝国と王国も戦をまた始めだす。座していれば真っ先に俺達には暗い未来が待っているだろう」
「ここの近隣諸国を平定して大国にした後、どうなさる?」
「ぶっちゃけ大国にしてからだよな。難易度が高いのは。だからこうする。この一月で大国にしている折に厄災が何も動かなければ俺自ら厄災に問答しに行く」
「一人で危険ですね」
「いやお前もいくんだけどな」
「……話が通じますかね?」
「そこで一月だ。一月人間を滅ぼすエッグい攻撃やらを俺達にしたりしなければ会話できる相手だと信じる。信じることは大切だよな」
「ええ…何はともあれあなたの決めた事ならば問題ないでしょう」
「おうともよ!!」
秘書官はこの王子を信頼していた。為政者としてではなく、この王子の天運に。前王が狂い、第二、第三王子を殺戮した際に、一番最初に狙われながらもかすり傷ですんだ圧倒的運に。
「近隣を統一した後、俺は王子やら暫定王って国民や配下に言われずに真の王になる。そんで厄災ともうまいことやってやんよ!」
山賊から奪われ、長い間グラネス砦に二人の冒険者がいる。
砦の広間。縛られ動けない男と女の二人組。
山賊達はこの哀れな二人組を囲み、どう殺すかで盛り上がっていた。
「山賊のアジトだったとはねえ。アンナ? 僕達の財宝を探す旅はここで終わってしまうようだ」
「なーにを達観してんの!? はやく抜け出さないと殺されるわよ私達!?」
「僕はすぐ殺されるだろうけど、盛り上がっている話によれば、君は散々辱しめられて殺されるね。頑張ってほしい」
「なんであたしはこいつとパーティーを組んでいたんだろう!?」
「うるせえぞくそ冒険者どもが! なんならすぐ男は殺しちまうか? ナイフ当てゲームなんかせずによお」
「…すみません。なるべく一思いに殺してください」
「あんた潔すぎぃ!!」
そこで現場は混乱する。何故ならば
「親分!? 空から人間が降ってきたあ!」
「ああん?」
全員が空を仰ぐ。そして重たい金属音と共にフルプレートに身を包んだヘルムで顔の見えない人物が危険な落下の仕方で広場に落ちた。
全員が空から地面に視線を向ける。
「なんだあ? こいつ……」
フルプレートの鎧は傷だらけで、ヘルムも壊れかけだ。
山賊達は思い、言う。
「高く売れそうな鎧だな。なんでえ信仰なんてしてねえがアース神様のプレゼントってやつか?」
「ちげえねえですぜ! 親分」
冒険者達は、
「空から天の助けかと思いましたが、ボロボロですねあの方」
「ダサいわねえ!? 高そうな鎧着てるんだから助けなさいよあんた!!」
状況は変わらず、悲観していた。
そして、
「めんどくせえ……」
広場にその男は影のように現れた。
その男は美しい絹のような銀の髪をなびかせ、顔は美しき月のようだった。
携えし剣は漆黒の夜を切り裂くかのように白く美しく、服装は上流貴族を思わせる装飾が施される華美な黒服。
冒険者達は物語にでてくる英雄を思い浮かべ、山賊達は新しいカモだと思った。
「ああん? 貴族の坊っちゃんみたいな奴がき」
袈裟斬り一刀両断。
発言しようとした山賊の一人が鮮やかに斬られた。
それに反応するのに山賊達は時間を要した。
剣があまりに素早く見れなかったからだ。
その時間が山賊達に不幸を招いた。
僅か数秒。
全ての山賊はもう言葉を発する事も動く事も出来ないだろう。
「……すごい」
捕まって縛られている冒険者の女は純粋な感嘆。
「ふう。危機は去りましたか。夕食が食べれますね」
男はちょっとおかしかった。
銀髪の男はぶつぶつと何かを呟きながらフルプレートの人物を背負おうとしてやめた。
「あのすみません!!」
冒険者の女が口を開く。
「めんどくせえ…なんだ?」
「あの山賊に捕まっておりまして、武器をとられ、手足を縛られてるんです助けてください!」
「おいおいアンナ。この人は助けてくれるよ。フルプレートの人に興味が最初にあっただけだって」
「……傷を治す薬は取られた物の中にあるか?」
「あります! 傷に塗る薬草と下級のポーションですが三つ!」
「おいおい僕のポーションも数に入れたねえアンナ」
「あんたはちょっと黙りなさい!!」
「縄はほどく。その代わりこのフルプレートの人間の治療を頼めるか?」
「もちろんです!」
二人の手足を拘束した縄が一瞬で切れた。
「!? すごい……」
「あー久しぶりに手が動かせた。足もか」
「男の方……」
「あ、ありがとうございました助かりましたよ」
「久しぶりに手を動かせてよかったか?」
「ええ。助かりました」
「そうか。ではめんどうだが死ね」
冒険者の男が両断された。
「……え?」
女の方は呆然とする。
「念のため、男の持ち物のポーションは使うな。何らかの毒物の可能性がある」
「ど、どういうことですか!?」
「あの男は無数の血の匂いを隠していた。危険だ。その男の服の袖の下を見てみろ」
「は、はい」
女が男の袖を調べる。調べると隠しナイフが見つかった。
「これは……」
「男はすぐナイフで縄を外せるな。付け加えるなら男の縄の拘束は切った限りとても緩かった。これは予測だがその男と山賊は共謀していたのかもしれないな」
「……共謀」
そこで女は気付く。最近女冒険者の失踪事件が多いという町の噂に。大半は魔物に殺されたからだろうという推測だったが……
口車に乗せられて財宝か眠る砦と言われ自身もついてきたら山賊の襲撃。
命も助けてもらったこの男の言葉は全て正しいのではないかと思い始めてきた。
「もうめんどくせえからとりあえずこの話は置いておこう。そこの鎧の治療を頼む」
「あ、あの!! この鎧の方はお仲間なのですか?」
「知らん。ただ嫌な匂いがしない。悪い奴ではないのだろう」
「そ、そうですか……お名前をお聞きしてもよろしいですか?」
「……ネームだ」
「ネームさんですか」
様々な場所で物語は動き出していく。