終わりと始まり
遅筆ながら書いてみようかと。
<ジャスティス>
それは、十五年続くMMOだった。
特筆すべきは自由度。それぞれの正義を振りかざすキャッチコピーの元に、プレイヤーは神にも悪魔にもなれた。
様々な武器や魔法、アイテムなどを自身の手で作り出し、同じ物などは一つとして出来ないゲームであった。
そう。その全ては過去の出来事。
完全なる自由とは時として不自由にもなる。
簡単に言えば過酷すぎたのだ。
このゲームの現在の最高レベルは521。
一つの例を出そう。レベルを300から301にする場合、一日24時間ずっとこのゲームに張り付くとしよう。
無課金だと一年。最大限の経験値上昇課金アイテムを使用した場合には、一週間かかる。
経験値上昇するアイテムは、八時間勤務前提の一般的なコンビニエンスストア一週間のバイト代金である。
経験値上昇アイテムは十種類課金前提で販売されていた。
どれも前述の料金である。
逆にこのようなゲームが十五年続く事が奇跡だったのであろう。
その世界に、かつての栄華虚しく、現存する百人に満たないアクティブプレイヤーが次々とログアウトしていく最終日。
一人の女性がサービス終了を見届けようとしていた。
「ふええ……」
誰もいない広大な城で声を出した。
まあ、ゲームなんで反響とかしないんですけどねえ!!
現実の部屋だと反響してるんですけども!
そう思いながら、自分のキャラクターを眺める。
銀髪ツインテールの幼女。漆黒のドレスを纏い、玉座に鎮座している。
頭上に輝くはヒルダリアという名前、魔王という称号とレベルを表す521。
十二歳からやってきた。
二十歳の頃。就職が決まった夜。私以外の家族全員が交通事故で死んで。
次の日に仕事を辞めて引きこもり、その生命保険や遺産などをひたすらこのゲームに注ぎ込んだ。
「クズだなあ……」
自らを省みつつも笑ってしまう。このゲームのサービス終了も交通事故みたいな物だ。人生という時間は私から唐突に大事な物を奪っていく。
「でも、ちょうどよかったのかもね」
現実の莫大な不幸によって手に入れた大金も後一年で尽きようとしていた。
そう死ぬにはいい日だ。今日は。人生の全てを注ぎ込んだゲームの終了と共に、自身のクソみたいな人生を終わらせる。
「ある意味、最高かもね」
時刻は十一時五十分。
「この城に存在を許された私の下僕達よ。玉座に集え」
自分が創造した全ての存在に命令を下す。
「さてと……」
十一時五十九分。
広い玉座の部屋に数千の配下が集うと狭く感じた。
現実の自分の手には大量の薬。
既にかなりの量を摂取していて、意識が朦朧だし、飲みすぎたせいでかなり気持ち悪い。
朦朧とした意識で時を刻む。
サービス終了まで、十、九……。
ゼロ。
意識が一瞬途切れた。
そして覚醒する。倦怠感や息苦しさは何もない。
パソコンを見る。いや待って!? パソコンがない。
んんん!?
眼前に広がるのは平伏する自分が作った配下達。
正直言って怖い。引きこもりに数千が平伏してるのは精神的拷問である。
「ふええ……」
ゲームのキャラ作りではなく、素で言ってしまった。かなりキモい。静寂な玉座がその声を反響させる。えっ死ぬ前の夢じゃ
「いと高貴なる我等が魔王様がああああ!!! お声をぉ!!! お出しになったぞおおおおお!!!!!! 喝采せよおおおおおおおおおおおうぉらばあ!!!!」
鼓膜が破れそうな男の爆音が響いた後、数千の万雷の拍手と歓声が部屋に響く。
思わず、引きこもり生活が長い私でもたまらず叫んだ。
「うるちゃい!!!」
舌を噛んだ。滅茶苦茶恥ずかしい。
玉座が私の一言で静まり返る。
「ふええ……」
たまらず声をだした。