オハイオ州トランブル郡(2)
ロマンス小説は、心の常備薬。
もしあなたの気持ちが塞いだり、元気の素が必要なら、ロマンス小説を一服して、ロマンスの世界に心を遊ばせてから、また現実に戻りましょう。
あなたが帰って来た場所は、以前より少しばかりカラフルになっているでしょう。
もちろん私には、キャサリンみたいにイタリア人の祖父はいない。父方の曽祖父は、アイルランドからの移民だったらしい。曽祖父は、ケンタッキー州に入植して炭鉱で働いていた。
オハイオには仕事がたくさんあって景気がいいと聞いた祖父は、高校卒業後に、実家のあるケンタッキーからオハイオに移住して、USスティールで働いた。
母方の祖父は、GMのローズタウン工場で働いていた。この頃は、製造業の仕事がいくらでもあったらしい。常に求人があって、勤め先の工場が気に入らなければ辞めて、すぐに別の工場の仕事が見つかったと祖父世代の年寄りは言う。工場跡地ばかりになった今とは大違いだ。
父は重機オペレーターとして、建設現場で働いている。幸い家計は安定しているので、地元のオハイオ州立ヤングスタウン大学へ進学することがことができた。奨学金の申請とウェイトレスの仕事をする必要はあったけど。私の地元で大学に進学する子は少ない。
小さい頃から本を読むのが好きだったから、本当は文学部の創作科のクラスに行きたかった。でも、卒業後の進路が確実な教育学部を選んだ。公立高校の教師は給与が安くて人気はないけど、休みがが長いので、読書の時間もたっぷり取れると考えた。
教師になって三年経つけど、いざなってみると意外に忙しくて、自分の時間が思うように取れなかった。
働き始めの頃は、カリキュラムを作るため、残業が続いた。生徒の反応を見て、ああでもないこうでもないと、毎日試行錯誤してた。修士の学位を取らないと給与が上がらないので、大学での勉強も続けた。修士になるまで、あと二年はかかりそうだ。博士号を取る気力は今のところ湧いてこない。これ以上、学費も工面できそうもないし。
先週から夏休みに入って、授業がない代わりに無給だ。近所のレストランかバーで働くことを考えてるけど、空いた時間で小説を書いてみることにした。