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6自ら貴族籍を抜く(後編)

「そういえば、もう夜も遅いけど空いてるの……?」


ふと疑問に思ったことをきく。


「ああ、基本的に夜も受け付けてる。仮に閉まっていてもババアがいる」


「そうさねぇ。大体は受け付けてもらえるよ」


「それくらい、Sランクの称号は重いってことだ」


「こういうときしか使えないけどねぇ~」


二人の会話を聞きながら、なるほどと頷いた。


「は~~でも、悪かったね。足、忘れてたよ」


「すまなかった。最初から抱き上げてればよかったな」


……そう、今、私はアシェの腕の中にいる。


最初は歩けていたのだが、あのヒールをはいて歩いてたためにまた痛みが出てしまった。

元々血が滲んでいた箇所だったので仕方なかったのだが、私の変な歩き方に気づいたアシェが抱き抱えることになってしまったのだ。


「……重い?」


流石に申しわけないような、抱えられてばかりで情けないような。

しょんぼりしてしまう。


「問題ねえよ」


ふっとアシェが笑う。そして


「レアも、そういうこと気にするんだな」


笑いを噛み締めてるのが、わかる。


「~~~~」


何を言い返していいのか。ポコポコと、胸板を叩くくらいしか思いつかなくて。

そのまま、赤らめた顔をアシェの胸元に押し付けた。


「(コイツら………アタシのこと忘れてないかねぇ)」


目的地についたアビーは、振り返った先で繰り広げられている二人の様子に肩を竦めて笑う。そして、ついたことに気づいてない二人に向かって声をかけた。


「ついたぞ!」


そのままアビーは扉をくぐっていく。


アビーの声につられた私は、目の前の建物に視線をむけた。


「ここが…!」


そのまま二階建ての建物の扉をくぐると、室内は利便性の良さそうなコンパクトな作りになっていて。

夜だからか人もまばらで受付も空いている。


先に歩いていたアビーは、そのまま受付に佇む男性に向かっていて、

「ここの責任者はいるかい?」

と言いながら、首元にあるペンダント?らしきプレートを見せていた。


「!! ただいまお呼び致します」


そのプレートを見た男性が走っていく。


「アシェ、あれは……なにかしら?」


私の目線を辿るアシェ。


「ああ、プレートのことか。あれは、身分証だな。あのプレートには名前と、ランクに応じた石が埋め込まれている。ババアはS、金だ。あのプレートは三枚の対になっていて、何かあった時に自分が誰か証明出来るようになっているものだな」


「証明……?」


「例えばだが、討伐に向かって亡くなったとする。すると、生き残ったやつが1枚遺族の為に持って帰ってやるんだ。そうすれば、遺族にも何かが残せる。また、一旦退避して戻ってきた後に残ったプレートと照らし合わせれば誰の遺体かまで判明できるようにもなっている」


そこまで言われ、レアは気づく。

冒険者(郷守者)は、とても危険な職業。絶対に帰って来れるという保証はない。


だから、せめてもの、"できること"として、作り出されたのだろうと理解して頷く。


「……あれ?でも、どうして、3枚?」


「それは」


「オーーーイ!別室に移動だ」


アシェの言葉に被せるように、アビーが呼んでいる。

きっと、隣にいる男性が責任者なのだろう。


「はーい!」

「わかった」


二人で返事をして、追いかける。


そして、案内された部屋に通ると、貴賓室だと分かった。

高級なソファにローテーブル、とても洗練された部屋だ。


「大変お待たせ致しました。よろしければ、こちらにお掛けくださいませ」


恭しく腰を曲げる責任者に促されるまま、アシェが私をソファにおろし、その隣にアシェも腰かける。そして、更にその隣にアビーが座った。

座るのを見届けた責任者も、向かい側に座る。


「本日はお越しいただきありがとうございます。どのようなご要件でしたでしょうか」


どこか緊張した様子で揉み手しているのが分かる。


「ああ、実は、そこにいる子の貴族籍を抜きにきた」


「そうでございましたか…それでしたら、こちらにお名前と、証の提出、そして、こちらに一滴の血をお願い致します」


少し驚いた様子を見せるもすぐに引っ込めるあたり、普段から相当位の方々と話されてるのが分かる。付き添い人の確認はもう終わっているのだろう、省略されていることに気づく。


「…はい」


そして、指示されたとおりに動く。


渡された紙に、名前を書く。そして、髪を飾っていた飾りを取り外すと、机に置かれたケースに置いた。


最後は、魔道具である水晶玉を近くに置かれる。ここで、血を垂らすようだ。

用意されている針を親指に刺し、ぷつりと血が滲む。その僅かな血を水晶玉に垂らした。


すると、水晶玉が淡い光を持ち、文字が浮かび上がる。


不思議な光景だった。


「これは……」


「こちらは、水晶玉に刻み込まれたデータを血で判別し、登録または抹消する魔道具でございます。淡く光れば、データが存在していることを示しておりますので、あとはこちらで抹消の操作をすれば完了でございます」


「このような仕組みになっていたのですね」


「はい。また、証も、ここの宝石部分に紋章と家名が掘られており、ご本人様であるレア様の爵位と一致致しましたので、あと少しで終わりでございます」


「わかりました」


そう言い放つと、責任者は最後の仕上げとばかりに魔法を使っているのが分かる。


「これにて、爵位の返還が滞りなく完了致しました。コチラはその証明書でございます」


名前を書いた紙に、貴族籍を抜けたこと以外にも、手続きが完璧に終了した旨を記載され、責任者の印と改変不可の保護魔法をかけられた状態で渡される。


「……!」


「これより、貴方様は伯爵家とは関係の無い身分のものです。どうか、よいお時間をお過ごしください」


責任者の方は穏やかに頭を下げる。


「……はい!ありがとうございました」


私はその証明書を大切に抱えれば、いつのまにか立ち上がっていたアシェに横抱きにされていた。


「これで、終わりだよな。じゃあ、帰るか」


「そうだねぇ、明日も早いからねぇ」


「では、ありがとうございました」


腕の中でぺこりと頭を下げる。


そして、あっという間で実感が薄かったのだが、証明書を持てばなんだか感慨深い気持ちになり、腕の中で揺れながら帰路に着いた。

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