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無名頂上種の世界革命  作者: 福部誌是
12 偽りの想い
98/119

12-1

 

 気候は晴れ。空に広がる少量の雲。その中を突き抜ける船に乗り、眼下に広がる中央都市を目指す。

 だが、突如として雷の音が鳴り響く。


「アンジェリカ!!」

 俺とカルケリルの声が重なる。

 次の瞬間、目の前が発光し雷が船を貫くために迫ってくる。

 否、それは人の目で視認できる速度を超えている。


 雷を避けながら、船は進む。

 舵を切るのはアンジェリカ。



「…………………………くっ、そうやすやすと通してはくれないか」

 カルケリルがそう言いながら微笑んだ。



「次が来るぞ!」

 アルドニスの叫び声。それに呼応するように雷の槍が空に展開される。


「振り落とされないように、何かに捕まって!」

 まるで津波を越えるように、船が大きく傾く。


 緻密に操作された船が雷の猛攻を避け、徐々に船主を中央都市に向けて硬度を下げていく。


「全部は防ぎきれない! アレを用意しろ!」

 カルケリルの声に合わせ、従者たちが準備を始める。



 続いて鳴り響く轟音。そして、目の前を覆うように展開される雷の網。


「準備完了しました!」

 そこへ、従者の声が響いた。


「よし! アンジェリカ、放ってくれ!」

 船の操作に集中するアンジェリカに向けて、カルケリルが叫ぶ。


 アンジェリカが手を伸ばす。能力で操り、船から飛び出す影。それに吸い寄せられるように、雷がおかしな軌道を描いて船を避けていく。


「…………………………避雷針!?」


「あぁ、こいつの製造も間に合ったのさ」


 避雷針を次々と掃射氏し、雷を避けながら船は進んでいく。

 その速度は既に時速100キロに到達しようとしている。


 だが、次の瞬間、凄まじい衝撃が船を襲った。


 乗組員の悲鳴が上がる。


「船底をやられた!」


「なんとか、持ちこたえさせる!」

 アンジェリカに必死な叫び。残念ながら、空の上で俺たちにできることは限られている。


 雷の猛攻撃を浴びながら、船は進む。

 バジレウスの意思とアンジェリカの意思。それのぶつかり合いが中央都市の上空で繰り広げられている。


「もうすぐ街だ! 着陸態勢に入れ!」

 誰かの掛け声。雷に貫かれながらも、船はギリギリのところで街の中に突っ込んでいく。

 当初の狙いは中央の城である塔に突っ込む予定だったが、雷の妨害で大きく外れた。

 船は街はずれの建物に激突し、街の一部を削りながら暫くしたところで漸く停止した。


 その衝撃で人間の体はいとも簡単に中空へ投げ出され、地面に衝突して転がる。

 口の中に広がる血の味と、頭痛と目眩を堪えながら、俺は体を起こした。


「つぅ……………、ここは」


 辺りを確認しながら警戒をする。



「民間人の被害状況を確認しろっ!」

 そんな声が周囲から聞こえてきた。

 船は居住区の外側へと落ちたようだが、それで安心はできない。


 この中央都市は中心にバジレウスのいる塔のような城があり、その周りを大きな柵が覆っている。

 そこからしばらく離れたところに、居住区が円形に広がり、その外側には倉庫などの人がいない建物が沢山広がっており、さらにその外側に街を覆うように外壁が存在している。


 当初の目論みでは城に突っ込む予定だったが、雷の包囲網を突破できず、城を超えて倉庫街に墜落する形となってしまった。


 立ち上がり、剣を構える。


 既にここは敵地だ。いつ襲われても不思議では無い。

 民間人の救援はカルケリルの従者たちが動く予定だ。俺は不安材料を置いて、都市の中心部に向かって走り出す。


 周囲を確認しても、アンジェリカやアルドニスなどの姿は見当たらない。

 味方の被害すらわからない状況だが、目的は変わらない。

 コンクリートの地面を蹴り、スピードを上げていく。


 その時だった。


 視界の先、建物と建物の間から黒い影が飛び出してくる。

 俺の倍以上ある大きいその影は何かを振り下ろすように動いた。

 頭上に感じた殺気から身を反らして避ける。


 ズドンッ!

 と鈍い音が響き、地面が割れた。


「――――――――っ!」



 黒い影の正体を確認しようと顔を上げ、凍りつく。


 そこに居たのは牛の頭を持った巨大な人間。

 すなわち、ミノタウロスが大剣を片手に荒い鼻息を漏らしていた。


 ミノタウロスと目が合う。

 突如として、脳裏に地下迷宮での戦闘の記憶が蘇った。



「な、なんなんだこいつ!?」

 辺りから悲鳴が飛び交ってくる。


 確認すると大通りの端ではレオガルトやトラゴースの姿もある。それに苦戦を強いられるカルケリルの従者たちが目に付いた。



「…………………………まさか、配置してたのか?」


 街の中を暴れまわる怪物に、明らかに苦戦を強いられることとなる。その現状を打破するためには……………………。


 そこまで思考したのと、ミノタウロスが大剣を振り上げたのはほぼ同時だった。

 ミノタウロスの剣を避け、剣を鞘から引き抜く。


「待てっ!」

 剣先をミノタウロスに向けた瞬間、後ろからの声に俺は動きを止めた。


「バルレ!」


「何をやっている。お前のやるべきことはこいつらの相手なんかじゃないだろ!」


 バルレにそう言われ、俺は我に返る。

 叫び散らしながら突進してくるミノタウロスをやり過ごし、会話を続ける。


「……………………そうだけど、こいつらを放っては行けない!」


「大局を見据えろ。お前にはお前にしかできないことがあるはずだろ」


「…………………わかった」

 そう言って切り上げ、思考を転換させる。


「……………頼んだぞ」

 バルレは笑いながらそう言った。その笑顔のなんと眩しいことか。目がくらみそうになる。


「………………死ぬなよ」

 死亡フラグにしか聞こえない言葉。それでも、いざという時、他の言葉なんか浮かんでこない。


「あぁ、お互いにな」



 そこでバルレと別れ、俺は王城へと向かう。







 世界の中心と定められた中央都市。



 その中心には天まで高く伸びる高い塔がある。

 そして、それを囲うように巨大な城が存在している。


 俺は居住区の大通りを駆け抜け、城壁の真下にたどり着く。

 周囲に人影は無い。


 そして、目の前に高く聳え立つ城を見上げて、思わず息を飲んだ。


 遠目から見ても、その形は素晴らしかった。

 だが、こうして目の前で見上げると、また違った感想が芽生えてくる。

 白と青で調和された完璧な設計のもと建てられた巨大な城は見るものを虜にする謎の魔力をもっていた。



 建築学に精通しているわけではないが、その圧倒的な美しさの前に、建築物に魅入られる人間の心が少しだけ理解できるような気さえする。


 暫くして、我に返り、城の中に進むことを決意する。

 周囲を警戒しながら、門への道を進んでいく。

 左右には木々で装飾された小さな庭が広がっている。


 門を潜り、中に入る。


 すると、少しだけ薄暗い、大きな空間の中心に、そいつは立っていた。

 白を基調とした青のラインが入った騎士服はその場に相応しい、これ以上ないもので。

 その女は赤いカーペットの上でゆっくりとこちらに敵意を向けた。



 その敵こそ、俺がこの世界でアンジェリカと出会って以来、数度戦ったが、1回も勝つことが出来なかった強敵。


 バジレウスを護る最後の盾であり、これ以上ない矛。


 この世の秩序を司る存在。故に―――――――。



「秩序のヴァーテクス。ユースティア・テオス」


 と、そう呼ばれている。

 俺は敵の名前を口に出し、一息で剣を引き抜く。



「……………先ずは、貴様か」

 それに応じて、ユースティアもゆっくりと腕を構えた。



 最後の戦い。

 その一幕がここに幕を開ける。



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