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無名頂上種の世界革命  作者: 福部誌是
9 冥府のヴァーテクス
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9-8

 それから二日間は、それほど進むことは出来なかった。



 理由は、迫る怪物の排除と、アルドニスが喰らった麻痺毒を考慮してのことだった。



「……………………ところで、二日前にアルドニスが襲われた子供の怪物はなんだったんだ?」


 そんな俺の質問に答えたのはカルケリルだった。


「小鬼の二体一組の怪物だね。一体が泣き声で獲物を誘き寄せ、もう一体が死角から刺す。そういう怪物だよ」


 俺はカルケリルをジト目で見つめる。


「あのさ、そう言う情報は事前に貰えると嬉しいんだけど」


「ごめんごめん。でも、全員無事なんだから、いいじゃないか」

 けろっとそういうカルケリル。


「………………もうカルケリルが知ってる怪物はいない、ってことでいいのか?」

 念のため、聞いておく。


「いや、あとは馬の怪物がいたよ。木の上から弓で矢を射ってくる」


 そう、カルケリルが言った瞬間だった。


「伏せて!!」

 急に、ドミニクさんが叫んだ。

 直後、頭上から矢が数本降って来るのを眼で視認することができた。


「――――――――っ!!」


 ドミニクさんに頭を抑えられ、身を屈める。


「ちっ! おらぁ!」

 それとすれ違いざまに、アルドニスが槍を構える。

 槍先にまとった風が飛んでくる矢の息威を殺していく。


「アルドニス! そんなに動いて大丈夫なの?」

 明らかに無理をしているアルドニスに、ローズさんが急いで駆け寄る。


「俺のことは心配いらねぇ。それより、第二陣が来るぞ!」


 アルドニスの言葉通り、直ぐに矢が放たれる。

 今度はそれを避けながら、木の上を確認する。


 それは一言で言うと、人馬というのが相応しい怪物だった。

 角を持った馬の頭に、首から下は筋肉の発達した人間の男性の身体。ゴツゴツといている太い腕で大きな弓を持ち、反対側の手で背中の筒から矢を取り出し、こちらを狙ってくる。

 脚は人間のものではなく、馬のものであった。


 蹄で木の上から木の上へと高速で移動を繰り返し、射線を変えてくる。


「……………………一体だけじゃないぞ」

 カルケリルが叫ぶ。


「こいつって、体って数えるのが正しいのか?」


「そんなどうでもいいことを悠長に気にしている場合じゃありません!」


 ドミニクさんに突っ込まれ、矢を避けるために地面を蹴る。


 木の上には五体の馬の怪物が場所を移動しながら、こちらを狙っていた。


 その移動は猿のように木から木へと渡るものではなく、木を蹴って飛び移っている。しかも、フリーとなっている腕に持つ弓矢で常にこちらを狙いながら移動しているのがとても厄介だった。



「移動しながらでも射れるのか!」


 濃い霧の中を高速で飛ぶので、直ぐにその影を捉えれなくなる。


「カルケリル様! 明かりは危険です。消せないのですか?」


「うーん。無理だね。という事で、僕の事を誰か守ってほしい」


 そんなやりとりをするバルレとカルケリルに迫る弓矢。

 そこに割って入るようにルイーズが立ち塞がり、自身の血を周囲に展開させた。


「―――――これは!」


 血の盾。

 ルイーズの能力で硬化された彼女自身の血が盾となり、弓矢を防ぐ。



「オレが守ります!」


 普段から男らしいルイーズの存在に、カルケリルが大きく感動する。


「めっちゃ頼りになる!」


「カルケリルは戦えないのか!?」


「戦闘は専門外だから、ここで眺めておくよ」



 相変わらずの平常運転。余裕な様子でエールを送ってくるカルケリル。そこへ、ドミニクさんが駆け寄ってくる。



「タクミ! 視界が半分なところ、すみませんが、二体を任せていいですか?」


「残りの三体はどうするんですか?」


「私が斬ります」


「了解です。じゃ、三体は任せました」


 俺は頭上を飛び回る二体の馬に視線を向ける。

 霧が濃く、少し離されれば直ぐにそこ姿は捉えられなくなる。



「――――――素早いな。でも、俺の敵じゃねぇ」


 虹の剣を構え、地面を蹴る。強化した脚力で、その間合いを侵す。


 驚いた馬は急いで他から俺へと標的を変えた。



 身体強化・鱗。


 神経を研ぎ澄ませ、感覚を強化する。放たれた矢を紙一重で躱し、背後の幹を蹴って、一気に距離を詰める。


 目の前の一体が、次の矢を構える前に斬り捨てた。

 続いて二体目。

 俺から距離を取りながら矢を構えている。


 脚力を強化し、木の幹を蹴って再び浮上する。飛んでくる矢に剣を合わせ、防ぐ。

 身体強化能力で強化された視力の前に、飛び道具は効果を成さない。


 俺は再び剣を構え、敵との間に生じている距離を詰める。


 だが、そこで馬の怪物が予想外の動きを見せた。



 こちらを迎撃する動きから逃げへと姿勢を変えたのだ。



 矢をつがえるのを止め、馬の脚力を利用して俺から離れていく。



「……………………、逃がすか!」


 身体強化・鱗から砕へと意識を切り替える。


 パワーとスピード任せで、虹光剣を振るう。

 斬撃が飛び、虹色の光が馬の怪物を背中から両断する。


 血を撒き散らしながら、滑り落ちるように馬の怪物は地面にぐしゃりと落下する。


 自身で怪物を殺すことに、最早違和感を感じない。

 初めて剣を握り締めた時に感じた重さは、今ではよく手になじむようになってしまった。



 深い霧の中、怪物の死体を見詰めながら、安全を確認しつつ、地面に着地する。


 この世界に来て、アンジェリカの味方になると決めた時から、俺は少しずつ変わってしまった。

 もう、この世界に来る前の自分には戻れないことは頭では分かっている。


 それでも、今感じた違和感のなさを少しだけ気持ち悪いと思ってしまった。




「片目でも流石ですね」


 直後、残りの三体を片付けたドミニクさんが横に着地した。


「いえ、ドミニクさんの方こそ凄いですよ」


 お互いに謙遜し合う。


「…………………ところで、何かありましたか?

 少し顔色が良くなさそうです」



「……………………いえ。問題ないです。先を急ぎましょう」


 心配を向けてくれるドミニクさんに対し、微笑みながら言葉を返す。

 この気持ちに蓋をして、再び信仰を再開する。


 アルドニスとドミニクさんを先頭に、カルケリル、バルレ。そして俺とルイーズ、最後尾にローズと続き、警戒しながら歩いていく。



 少し離れれば前の人の背中が見えなくなってしまうほどの白い霧。その中で煌々と光る灯火があった。

 カルケリルの持つ消えず燃えることのない炎の明かりはまるで、この世界で生きる理由となった少女のように眩しいものがある。


 俺は先程感じた感情を霧に隠すように、ただ前へと進んだ。
















































 それから、森を突破できたのは二日後の出来事だった。



 森の最奥部には少し開けた空間があり、そこだけを霧が避けるように晴れていた。


 目の前には大きな岩があり、その上の方には紙のついた紐が結んである。


 その巨大な岩は6メートルほどもあり、その中央には丁度人がひとり通れるほどの穴が開いていた。




「……………………やっと、突破できましたね」


 ドミニクさんが感嘆の息を漏らした。

 それは当然の反応だったであろう。この森の突破は今まで誰も成し遂げたことのない偉業だからだ。

 ……………………推測ではアンジェリカが突破していたが、確たる確証がない中、人の身で突破できたことはかなりの感動を生んだに違いない。



 皆がそれぞれ息を整え、顔を見合わせる。



「言っとくけど、ここからが本番のようなものだ」

 カルケリルが言った。


 その言葉に頷く。

 あたりまえだ。終焉の森の突破は、あくまで冥界へ向かうための道だ。


 つまり、この先の冥界の突破。そして冥府のヴァーテクスであるカイロンを倒し、アンジェリカと合流するのが果たすべき目標なのだ。




「私が先頭で入ります。後はそれぞれ続いてください」


 ドミニクさんの指示に従い、大岩の穴へと脚を踏み入れた。








 まず初めに感じたのは寒さだった。

 終焉の森自体もっ気温は低かったが、大岩の中に入って、さらに10℃くらい温度が下がったように感じられる。


「うぅ。寒いわね」

 後ろでローズさんが呟く。


 大岩は真っ直ぐな平坦な道ではなく、少しずつ下っているような坂道だった。



 およそ、1時間近く、坂を下り、ようやく冥界の地面へと足をつける時が来た。

 鳥居のような、古い壊れた門を通過する。




 そこで目にした光景に、俺は度肝を抜かれた。





 先ず、目に飛び込んできたのは、冥界の巨大な空間。その奥でゆっくりと回転する巨大な円形の乗り物は派手にその存在を主張するようにライトアップされている。




「ん、…………………んんん!?」



 続いて、目の前をものすごいスピードで通過する謎の乗り物。その下には列車の線路のようなレールがうねりながら敷いてある。

 宙に飛び出すカラフルな玉。時折、高く舞い、炸裂する花火の音と火薬。


 まるでパレードでもするように乗り物が道という道を縦横し、そのどれもがピカピカにライトアップされている。


 装飾された城があった。クルクルと回る馬の乗り物があった。騒音だらけだった。冥界に相応しき静寂さなど、ここにはかけらほどもなかった。







 つまり、この世界の冥界は俺の知識にある、どの冥界とも異なっており……………………。



 何故か巨大なテーマパーク化されていたのである。









 観覧車にジェットコースター。メリーゴーランドに馬車のゴーカート。

 お化け屋敷っぽい廃れた城と空中ブランコにコーヒーカップ。


 まごうことなく、遊園地、又はテーマパークであった。






 皆はその光景に呆気にとられ、ぽかーんと大口を開けて固まっている。


「……………………いやぁ、これは流石に驚いた。流石冥界だなぁ」


 カルケリルがどうにか口を開いたところで、それに喰いかかるようにして俺は言葉を放つ。



「こんな冥界があってたまるか!」


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