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無名頂上種の世界革命  作者: 福部誌是
8 病魔のヴァーテクス
68/119

8-2

 切り倒した樹木を、アンジェリカが能力で浮かし、運んでいく。



 俺たちは行きと同様、馬車に乗り、その横を5本の樹木が並走する形だ。



「………すげぇ、便利そうだな」


「まぁ、実際凄い助かってる」


 俺の感想に、カルケリルが答える。


「これだけの大木をたった1人の労働力で運べるなんて」


 俺とカルケリルの会話を聞いてか、アンジェリカはどこか誇らしげに頬の筋肉を緩ませている。


 うん。可愛い。



 そして、俺たちはそのまま街へと帰還した。







 夕方。


 煌点が降りてきて、街並みがオレンジ色に染まっていく。


 俺たちは各自、休憩と自由時間をもらい、それぞれ好きに時間を過ごしていた。


 俺はしばらく、アンジェリカのことを考えていたが、結局のところ「可愛い」という結論から抜け出すことが出来なかったので、諦めてみんなの所を回ることにした。


 アンジェリカに関することも、凄く大事な事だけど、それにそれに勝るぐらい今の俺達には重要な課題が残されている。


 来たるバジレウス、ユースティアとの本格な戦いの前に、裏切り者を判明させる、ということだ。



 みんなの内情を探るべく、俺はまずアルドニスを探すことにした。





 しばらく歩いていると、アルドニスは直ぐに見つかった。


 もともと、「修行に行く!」と言って神殿を飛び出したため、行先は当たりがついていた。


「よお、アルドニス」


 俺が声をかけると、アルドニスは振り向いて、返事を返してくれる。

 振り回していた槍を収め、こちらに体を反転させてくれる。


 アルドニスは上裸になっており、普段は衣類によって隠されている鍛え上げられた筋肉が顕になっている。

 アルドニスの身体からは湯気に似た煙が出ており、大量の汗をかいている。




「……………そういや、タクミは修行しないのか?」


 アルドニスの問に、俺はうーんと首を捻ってから、


「今更修行した所で、俺の戦力はたかが知れてる。それよりも、調べておきたいことがあるから、暫くはそっちに時間を使うかな」


「でも、タクミは充分に戦力になってる。…………ほんと、才能ってのは嫌になるよな」


 アルドニスはそう言うと、肩を落とした。

 その言葉に、俺はピンと来なかった。


「才能? ……なんの?」


 俺の疑問に、アルドニスは呆れたように言った。


「そりゃ、戦い、というより剣の才能だろ」


 その言葉に度肝を抜かれる。


「え、俺って才能あるの!?」


「そりゃ、ちょっとはあるだろ。

 だってこの世界に来る前は剣を握ったことすらなかったんだろ?

 それなのに槍を振るい始めて10年経つ俺よりか、よっぽど戦力になってるぜ」



 アルドニスの不満は納得のいくものだと、俺は頭の隅にその思考を追いやった。


「この世界に来てから役3ヶ月。それだけ剣を扱えるなら、それはもう才能がある証拠だろ」



 アルドニスの言い分は最もだと思う。

 それでも、俺は自分に剣の才能があるなんて、ちっとも思ってない。



「少なくとも俺は、ホントはこの世界に来る前から剣を扱ってたんじゃないか、って疑ってるよ」



「いやいや、それはないよ。

 まあ、戦いのイメージは日々欠かさなかったし、

 人目を気にせず木刀を振るってたりもした。

 でも、あくまで木刀だったし、本物の剣を握ったのはこの世界に来てからだ」


 ………生き物に対して、本気で剣を振るったのもこの世界に来てから、というのには口を噤んだ。


「…………つまり、修行してなかったってことか?」


「まあ、そういうことになるな」


「ほら、じゃあ才能じゃねぇか。

 にしても、タクミって偶に物事を難しく言い回すよな。

 もっと、簡潔に分かりやすく言ってくれよ」


 アルドニスは口の端を曲げてみせる。


「おう。わかった。

 俺は修行をしてなかった。わかった?」


「そこはもう、わかってるっつーの」

 若干キレ気味に口を開くアルドニス。


 その様子に、頬を緩ませながら、俺は続ける。


「まあ、おれはオタクだからな」


「あ? おたくってなんだよ」


「お、そこ語らしちゃう?」

 アルドニスの疑問に、嬉しくなった俺はつい興奮気味に口を走らせる。



「オタクってのは好きなものが有る人のことだな。好きな物に、とことん時間やお金を費やしてしまうやつの事だ。え、なんでそんな事をするのかって?

 そりゃ、愛故だな。愛は無敵だから。推しを推してるだけで無敵になるっていうか、それだけで幸せになれるって言うか。例え、この想いが報われないとしても、そういうことじゃないんだよ。利益とか、効率とか関係ない。

 愛は全てに勝るそれを知ってるやつがオタクって訳だ」




「待て待て待て。悪い癖が出てるぞ!」

 耐えかねたのか、アルドニスにストップをかけられる。


「分かりやすく、一言で現してくれよ」


 そう言うアルドニスに、俺は。


「あー、つまり。

 オタクっていうのは、愛が深い人間の事だな」


 と胸を張って言い切る。


「なるほど。理解した。

 ………って、タクミって愛が深い人間だったのか!?」


「おい、どこに驚いてる!」

 俺は叫んでアルドニスにツッコミを入れる。


「俺より愛が深い人間なんてこの世に存在しないぜ」


 地球も、この世界も含めて。








 目的が脱線してることに気付いて、俺は自分の中で反省を繰り返す。


 好きな物の話になると、つい我を忘れてしまうのは悪い癖だ。



「………アルドニス。ひとつ教えてくれ」


 俺が真剣になったのが伝わったのか、アルドニスも真面目な雰囲気で俺を見てくる。


「お前にとって、アンジェリカはどんな存在だ?」


 俺の質問に、アルドニスは真っ直ぐ答える。

 まるで、それ以外の答えなど存在しない、と示すように。


「ヴァーテクス様、人間を含めて、この世界で一番尊敬できる方だ!」



「………そうか、わかった。じゃ、俺はそろそろ行くよ。

 修行、頑張れよ」


 その答えに満足し、俺は踵を返す。








 率直に言って、アルドニスは信用できる。


 でも、そういう先入観はよくない。


 もとより、裏切り者、といわれても俺には怪しいヤツなんていないようにみえるからだ。


 この世界に来て、3ヶ月と少し。


 短い時間かもしれないけど、俺はみんなの事が好きだし、信用したいと、そう思っている。


 それでも、感情だけでは、上手くいかない事を俺は知っている。


 シャルロットが好き!

 というだけで生きていけないように。


 推し活をするにはそれだけの労力が必要だということを。


 まあ、それでも足りないから俺は親の目を盗んで金を使っていた訳だが………。


 それについては、反省している。




 思考を切り替え、俺は道の先にいる女性と向き合う。

 彼女も、俺に気付いて、こちらに向き合った。



「………なんの用かしら」


 それは優しい言い方ではなく、少し刺があるような冷たい言い方だった。


「もうお姉さんぶらないんですね」


 猫を被ることなく、本性で俺に冷たい視線を送るローズさん。


「私だって、出来れば優しいお姉さんとして君に接したかった」


 呟くようにそう言うローズさんは、どんな感情なのだろう。

 考えてもきっと、それを理解することはないだろう。


「…………俺は、裏切り者じゃないですよ」


「口先ではなんとでも言うことができるわ」


 ローズさんの言葉に、俺は反論することが出来ない。


 もう、ローズさんとはアルドニスやアンジェリカのように、楽しく会話することは叶わない。

 だから、率直に聞きたいことを口にする。


「ローズさんにとって、アンジェリカってどんな存在ですか?」



「…………なんで、それを私に聞くのかしら」


「別に他意はないですよ。ただ、知りたいだけです」



 その言葉に、ローズさんは少しだけ口を閉ざしてから……。



「それは、私にとっては難しい質問だわ。恩を返したい存在、と言えばいいのかしらね」


 ローズさんは頬に手を当てて答える。


「…………以前、貴女は命を助けられたから、アンジェリカの助けをしている、と俺の質問に答えた。でも、正しくは違う」


 俺の言葉をローズさんは否定することなく、黙って聞いている。


 この街に来る前、馬車の上で聞いたローズさんの理由。

 その答えは主語が曖昧になっていた。

 俺は今までのローズさんの行動や言葉を振り返り、ひとつの答えにたどり着いていた。



「…………貴女の命を助けたのはアンジェリカじゃない。そうですね?」


「ふふふ。そうね。………なぜ分かったの?」




「ローズさんの気持ちは俺にとって共感できるものだからです」


 俺の答えに、ローズさんは「え?」と息をこぼす。


「まあ、もう知ってるかもしれませんが。俺はアンジェリカの事が好きなんです」


 俺の宣言に、ローズさんは戸惑ったように「ええ」と頷いた。


「厳しい道を歩くのね」


「そうかもしれません。俺はアンジェリカの役に立ちたい。アンジェリカの手助けがしたい。彼女の隣にいたい。そして、彼女に振り向いてほしい。俺という存在を認識してほしい。アンジェリカのハートを掴みたい。……………………つまり、アンジェリカを落したいんです!」


 恥ずかしいけど、ここは恥ずかしがっている場合じゃない。

 俺は胸を張って、自分の欲をさらけ出す。


 それが、俺の動機。

 アンジェリカに手を貸す理由の全て。



「…………………ローズさんも、一緒ですよね?」


 俺の言葉に、ローズさんはわなわなと震え出し……………………。


「一緒にしないで!?」

 と叫ぶのだった。



「え、でもローズさんがドミニクさんに恋心を抱いてるのはもう周知の事実というか……………………」


「そこは別に否定してないわよ!」


 ……………………だんだんとローズさんの当たりが強くなってきた気がする。


「………………………私はただ、………………あの人の願いを叶えたいだけ」

 顔を真っ赤に染め、目を逸らし、指先で髪の先端を弄るローズさん。


 その純粋さに、思わず息がこぼれた。


「ま、まぁ、細かいことはこの際、置いておくとして、俺の戦う理由は貴女と同じです。

 いきなり、俺を信用しろとは言いません。ただ、知ってほしいのです。俺という人間を」


 咳払いをして、邪念を払う。


 俺の目的には障害が存在している。

 バジレウスとか、ユースティアとかではなく、もっと厄介で頭を悩ませる存在。


 ドミニクさんとアンジェリカの関係性だ。

 そして、ここに来て、カルケリルというダークホースが出現しやがった。



 俺は静かにローズさんに向かって手を差し出す。


「…………………お互いに、お互いを利用しましょう。俺はアンジェリカ。ローズさんはドミニクさん。共に幸せになるために」


 ローズさんは俺の目を見詰める。その表情はとても身に覚えのあるものだった。


「こいつ、なに言ってるんだ?」という嫌悪に似た冷たい視線。


 暫く、沈黙の時間が訪れる。

 ローズさんは視線を俺の顔から若干落とすと……………………。


「わ、わかったわ。共に協力しましょう」と手を差し出してくれた。

 それが嬉しくて、俺は舞い上がる。


「でも、勘違いしないでね。私はまだ貴方の事を全面的には信用してないから!」

 そう言うと、パァン! と乾いた音が鳴り響いた。


 掌に走る衝撃と熱。

 俺は握手のつもりで手を差し出したのだが、ローズさんは俺の掌を勢いよく叩いたようだ。

 そして、意地悪く、二重衝撃が発動され、俺の右腕を襲う。


「んぎっ、痛っ!」


 ローズさんはそっぽを向き、その場から去っていく。


 …………………少しは、関係性を直せたかな?

 と俺は少しだけ肩の荷が下りたような感じがした。






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