8-1
翌日。
昼。
バジレウスを倒すために、中央都市に乗り込む必要がある。
そのための乗り物を造るための資材を集める。
俺たちはそれぞれ別れて資材を集めることになった。
俺とアンジェリカ、アルドニスは木材を。
ドミニクさんとローズさん、ルイーズは鉱石を。
そして、何故か俺たちのチームに同行するカルケリル。
「……………こっちにヴァーテクスが2人も固まってていいのかよ」
「まぁ、問題ないさ。それより、タクミは僕らのことを、2柱、とは呼ばないんだね」
カルケリルの指摘に、俺は「あ、」と息をこぼした。
「…………そうか、ヴァーテクスは柱が単位なのか」
「まあ、僕らとしても、人、で数えてくれた方が気が楽なとこはあるけど。ね? アンジェリカ」
「ええ、そうね」
カルケリルはその整った顔をアンジェリカに向ける。
そして、何故かアンジェリカに近付き、その傍に居座る。
その距離感の近いことに、俺は若干の苛立ちを覚えた。
俺たちは現在、森に向かって馬車で移動していた。
馬車の手網を握るのは、俺たちをキューベウの街まで運んでくれた小太りしたおっちゃんだ。
俺は苛立ちを抑えるために深呼吸を繰り返す。
「ダメだ。アンジェリカに器の小さい男って思われたくない」
平常心を取り戻したところで…………。
「そういえば、アンジェリカって好きな異性とかっていないの?」
カルケリルが気軽な感じで驚きの質問を口にするのだった。
「は!?」
「………………好きな異性、か」
その質問に、アンジェリカは「うーん」と考え込む様子で首を捻る。
その様子が可愛らしくて堪らないが、今はそんな場合では無い。
「ちょ、カルケリル! 何聞いてるんだよ!」
「えー、だって気になるでしょ?」
「……………ま、まぁ」
「確かに、気になるな!」
アルドニスも分かりやすく、その議題に興味を示す。
俺はチラッとアンジェリカに視線を送った。
すると、アンジェリカと目が合う。
アンジェリカは直ぐに視線を逸らすが、そのたった一瞬の出来事に、心臓が激しく動き出す。
「――――――えっ」
「それで、どうなの?」
「んー、特にいないかな」
そう言って笑うアンジェリカ。
「へぇ、そうなのか」
と含み笑いをこぼすカルケリル。
俺は気が気じゃなく、目的も時間も忘れてさっきのアンジェリカの意図について考え続けた。
気が付くと、森に到着してた。
「え、早くね?」
「そうか? 俺は遅いと感じたぞ」
俺の率直な感想がアルドニスとは食い違う。
さっきのアンジェリカと目が合った一瞬の出来事に思いふけってるうちに、どうやら時間は溶けていったようだ。
「さて、頑張ってくれ!」
そう言って、腰に両手を当てて胸を張るカルケリルに、俺は鋭い視線を飛ばす。
「マジカルナイフはどうした!」
「え、持ってきてないけど」
さらっと、当たり前みたいに言うカルケリルに更にツッコミを重ねる。
「なんで?」
「だって、他人が苦労…………じゃなくて、必死に頑張る姿って見ていて気持ちいいよね」
ニッコニコに口角を上げるカルケリルに、俺は重たいため息を吐く。
「お前、もう隠す気ないだろ」
「あはははは。じゃあ、頑張ってくれ」
カルケリルとアンジェリカは傍観。
俺とアルドニスで協力して樹を切っていく。
「これ、他のところでも作業してるのか? まさか俺たちだけじゃないよな?」
「もちろん。各地に散って木材と鉱石を集めてるよ」
カルケリルは働くことなく、傍観を決め込んでいる。
内心、「働け!」と叫びたいが、隣にいるアンジェリカを気にして口に出すことが出来ない。
虹光剣を振るい、成人男性の何倍も太い樹木を切り倒す。
その切断面から大量の水が溢れ出てくる。
その水を被らないように、少しだけ離れたところに移動し、膝に両手を着く。
「あー、疲れた」
たった1本切り倒すだけで息が上がり、かなり辛い。
「おぉ、やっと1本だね。さあ、張り切っていこう!」
カルケリルの掛け声に、怒りがふつふつと込み上げてくる。
あと、アンジェリカとの距離が近い!
虹光剣を握り締め、怒りを発散する。
「にしても、やっぱりその剣凄いな!」
アルドニスが興奮のあまりか、声を荒らげてそう言った。
確かに、この剣はかなり凄い。
振るっただけで虹のように輝き、光の斬撃を遠くへ飛ばすことが出来る。
一撃のパワーも普通の剣とは桁違いに強い。
「ちょっと俺にも触らせてくれよ」
アルドニスはまるで子供のように目を輝かせた。
「………別に、いいけど」
俺は虹光剣をアルドニスに差し出す。
アルドニスはそれを受け取ると、
「おりゃぁ」
と言って、豪快に振り回した。
光の斬撃が飛んでいき、樹木に直撃。
樹木が大きく傾く。
「いやぁ、結構重いな」
そう言ってアルドニスは剣をじっと見つめた後…………。
「あ、半分にしたら軽くなるんじゃねぇか?」
と驚きの内容を口にした。
「はっ?」
と俺が首を捻るのもつかの間。
カルケリルが、
「お、いいね!」
と激しく賛同し、アンジェリカは、
「手伝う?」
なんて口にしたのだった。
「いやいやいや、待てよ。『手伝う?』じゃねぇんだよ!
俺の大切な愛剣を勝手に折られてたまるか!」
俺はアルドニスから剣を取り返すと、3人から距離を取った。
「いやー、冗談だったんだけど」
カルケリルが冷めた目でこちらを見てくるが、その横できょとん、としてる奴が1人。
絶対本気にしてやがった。
と心の中で叫ぶ。
「まぁ、あと数本切ったら今日のとこは引き上げよう」
カルケリルが話題を変える。
「さぁ、2人とも。頑張ってくれ!」
「お前も手伝え!」
俺がツッコミを入れると、カルケリルは無言のまま手を差し出してくる。
「ん、なんだよ。その手は」
「その剣を貸してくれたら手伝うよ。僕の腕力だと振れないかもしれないから、半分くらい折ろう」
爽やかな笑みを向けてくるカルケリル。
「いや、いい。やっぱお前はそこで大人しくしてろ!」
結局、俺とアルドニス2人だけで樹木を5本切り倒した。
最後に、中から溢れ出てくる大量の水を、まるでシャワーのように浴びて、汗を流した。




