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無名頂上種の世界革命  作者: 福部誌是
7 賭けのヴァーテクス
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7-8

「えー、というわけで。これから会議を始める!」


 バスケットコートひとつ分くらいある、大きな部屋にカルケリルの声が響いた。

 部屋の真ん中には木製の四角いテーブルが置かれている。

 そして、その周りを、俺とアンジェリカ、ドミニクさん、ローズさん、アルドニス、ルイーズ。

 バルレとカルケリルの従者5人がそれぞれの間隔で囲んでいる。


 テーブルの正面には張り切っているカルケリル。


 これから行われるのは、対バジレウスの本格的な計画立案会議だ。


 カルケリルは机に真っ白な紙を広げ、その上に黒いペンで計画の設計図を描写しながら、説明を始めた。


「まず、計画の全容の前に、判明しているバジレウスの能力から」

 そう言って、カルケリルはバジレウスの能力を箇条書きしていく。


 ①雷操作

 ②光弾

 ③飛翔

 ④千里眼

 ⑤伝達能力

 ⑥能力付与


「っと、こんなところか」


 雷操作は、アウルから聞いた。光弾能力は、地下迷宮際にテラシアに放たれたもの。

 最後の能力付与はそれぞれのヴァーテクスに能力を与えたことからも納得はいく。


「………飛翔ってのは?」


「バジレウスの移動方法だよ。バジレウスは空を飛んで移動する。他にも、この能力を使った有名な逸話があるだろ」


 そう言って、カルケリルは天井に人差し指を向けた。


「夜の大岩ですね」


 ドミニクさんの言葉に、俺は「あー」と手を打った。


「そう。バジレウスの有名な逸話。巨大な大岩を宙へ打ち上げた、というものさ」


「それについては納得がいった。じゃあ、もうひとつ質問がある。千里眼ってのはなんだ?」


 俺は残る疑問に指をさす。


「バジレウスは現在を視ることができるんだ。それが千里眼さ。奴は中央都市の王城に閉じこもっていても、世界中のあらゆる現在の監視が可能なのさ」


「―――――は?」


 カルケリルの言葉に、俺は言葉を失いかけた。


「じゃ、じゃあ、今この瞬間もバジレウスに情報が筒抜けかも知らないってことか?」


「そうなるね。でも、この千里眼の能力は視界情報しか得られない。僕らの声までは把握出来てないはずだ」


 それでも、引っ掛かりが残る。


「それが本当の話なら、おかしいことがあるだろ。

 俺たちがいる場所が分かっているのに、なんでバジレウスは襲ってこない?」


 俺の質問に対し、カルケリルは視線を落とした。


「そこなんだよ。まさしく、そこに付け入る隙があるのさ。

 バシレウスは基本的には中央都市から動かない。僕たちが現状を覆す驚異となってもね」


「…………なんで」


「奴にとって、それよりも大切な時間があるからさ。

 バジレウスは複数の人間の女性を常に侍らせている。そして、彼女たちと楽しく過ごすのがバジレウスの日常だ。

 僕たち反逆者に対処するよりも、彼女たちとの時間に重きを置いているのさ」


 男としてちょこっとだけ羨ましいそのハーレム状態に、少しだけ憤りを感じる。


「………それは、信じていいんだろうな?」


「もちろん。………これが僕たちが付け入るバジレウスの隙だ。

 バジレウスは動かないから、僕たちは攻めに専念すればいい」


 もし、バジレウスが攻めてきたら………。

 という受けの構想を練らなくていい分、俺たちにとってはいい情報だ。


「でも」と、俺が声を出したところで、カルケリルに止められる。


「わかってる。バジレウスは動かないが、ユースティアは別だ。

 あいつは本気で僕たちを潰しに来るだろう。

 だから、ユースティアを撃破するのは君たちに任せたい。

 僕らは中央都市に攻めるための作戦を考えるからさ」


 その言葉に、俺は静かに頷く。


「…………その作戦とやらは上手くいくんだろうな?」


「あぁ。バジレウスの能力で危険視しなければならないものは主にふたつ。雷操作と光弾だ。だから、それを防げる馬車を造る」


「馬車?」


「あぁ。大人数を一度に運べる巨大馬車を鉄の塊で覆う。これで雷と光弾を防いで中央都市に攻め入る。どうかな?」


「いいと思うぜ」



「………ちょっといいかしら」


 そこで手を挙げたのはアンジェリカだった。


「鉄って雷を防げるの?」


「そこについては安心して欲しい。雷を弾く特別な鉄を作る予定だ」


 カルケリルの答えに、「ならいいわ」と返すアンジェリカ。


「そこで、材料を集めるのに人手が欲しいんだけど、アンジェリカたちにも手伝ってほしいんだ」


 カルケリルの提案に、「いいわよ」と返事をするアンジェリカ。


「ありがとう。

 じゃあ、話をまとめる」



 そう言って、カルケリルは紙に会議のまとめを描写していく。


 中央都市に攻め入る為の乗り物づくりはカルケリルたちが担当。

 その材料集めは全員で分担。

 対ユースティアの作戦は俺たちが担当。


「と、こんなところかな

 異論や疑問点はあるかな?」


 カルケリルはひとりひとりの顔を順番に見ていく。

 声を上げるものはいないようだ。


「よし。これで会議を終了とする」


 そうして、会議は終わり、それぞれ部屋から退出していく。

 その中で、人の流れに逆らいながら部屋に入ってくる人物がいた。


 細い目の小太りした男だ。



「…………って、俺たちをこの街まで運んでくれたおっちゃん!?」


 それが見知った顔だったので、思わず声を荒らげてしまうのだった。


「はい。先程ぶりですね」

 ペコり、と丁寧に頭を下げてくるので、驚きが収まる。

 慌てて会釈を返す。


 その男は封筒をカルケリルに渡す。



「……………ってことは、まさか。俺たちをこの街に連れて来たのもお前の計画の内だったのか!?」


「あはははは。まあ、そうとも言うね」


 俺の疑問に対し、カルケリルは薄い笑みを浮かべた。


「………ほんとに食えねぇやつ」

 ボソリと、ちょっとした不満を口に出す。



「…………ひとつ、質問があるんだけど」


 俺の言葉に、

「なんだい?」と首を傾げるカルケリル。


「俺たちの味方なら、どうして嘘までついて俺と勝負をした?」


「君には負けられない、と感じていたからね

 ………ダウトとして接触したときから。」


 その答えに、チクリと胸が痛む。


「…………………………やっぱり、あれは本気なのか」

 数時間前の出来事を思い出し、不安をこぼす。




「あと、君の覚悟を見極めたかった」


 続けてそう言ったカルケリルに、

「覚悟?」と首を傾げる。


「だって、そうだろ?」

 そう言って息を吸い込んだカルケリルはそのまま言葉を続ける。


「これから挑むのはこの世界最強の存在だ。僕たちがやろうとしていることは、この1300年間誰も成し遂げられなかった大偉業なんだから」



 その言葉に、俺は改めて自分の意思と対面することになる。

 かつては恐いと、逃げ出した。

 でも、勇気という人の強さを教えられ、俺は戻ってきた。


「……………もう逃げない」


 再び達成できなかった誓いを、今度こそ守るために。


 俺はアンジェリカの剣として、世界最強の生物に挑む。


 その覚悟を胸に、俺はカルケリルを真っ直ぐ見て口を開く。


「それで、俺は合格だったのか?」


「もちろん。これからよろしく頼むぜ」


 悔しさを呑み込んで、俺たちは共に進み出す。

 これから先訪れる。『本当の戦い』に向けて。




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