表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無名頂上種の世界革命  作者: 福部誌是
7 賭けのヴァーテクス
58/119

7-2

 ダウトと名乗った商人が、まさかの賭けのヴァーテクスだった。


 見た目、40くらいの男が、サングラスと髭を取ったことで、見た目20歳に若返った。



 その事実を視認し、俺の頭の中では様々な疑問が飛び交った。


 何故、ダウトと偽った?

 あれは変装?

 ……その前に、やつの目的は?



 その結果。思考がショートしかける。


「驚いてるかい? それは何よりだ。バレないように頑張ったかいがあったってもんさ」


 ダウト…………ではなく、カルケリルは陽気に口を開く。


「なに、単純な話さ。ダウト、という名の謎の商人の正体が賭けのヴァーテクスだったてだけだよ」


 爽やかな笑みを落とすカルケリル。


「………な、何が目的だよ」


 絞り出した声はみっともなく、震えていた。



「…………目的、か。そうだね。今は言えないかな」


 不敵に笑うカルケリルに、俺は腰の剣に手を伸ばす。


「…………アンジェリカたちを、返してもらう」


「暴力は嫌だなー。僕は君たちと争うつもりはない。それとも、この街の全てを敵に回してみるかい?」


 俺の敵意をそのまま返される。

 軽く、明るい声。だが、それが告げるのは脅しそのものだった。

 俺が何も言い返せないでいると、その様子を見たカルケリルは楽しそうに笑いだした。


「あっははは。冗談だよ、冗談。…………といっても、素直にアンジェリカを引き渡すことは出来ないな。だから、ここは賭け事で決めよう」


「………賭け事、だと?」


「あぁ。ここはこの世界最大の娯楽都市。賭博はこの世界における数少ない娯楽のひとつだ。そしてこの僕は賭けのヴァーテクスでもある。この上ない勝負の方法だと思わないかい?」



 カルケリルの不敵な笑みを見て、俺は熟考する。


 賭けのヴァーテクスというからには、賭け事には強いと見るべきだ。

 対して俺は、賭け事はルールを知っている程度だし、これまでの人生でギャンブルなんてほとんどやってこなかった。

 まあ、アニオタとしてギャンブルアニメとかは観てきたから、その知識は活かせる……………いや、素人には無理か。



「血も流れない平和的な解決だと僕は思うけどなー」


「……どうせ、そっちが有利な賭け事になるんだろ?」


「そんな事ないよ。ヴァーテクスとして誓う」


 カルケリルはこう言ってはいるが、1ミリも信用できない。

 ただでさえ、正体を偽って俺たちに接近してきたんだ。なにか裏があるとしか思えない。


「一応、聞いておく。何が目的だ?」


「君たちを従属させたいんだ」

 恐ろしいことを、爽やかな笑顔で口にするカルケリル。


 控えめに言って、リスクが多すぎる。


「…………バルレ、どう思う?」

 俺は声を潜め、バルレに相談する。


「………えっと、それは」

 バルレも答えに困っているように、視線を泳がせた。



 そんな時、カルケリルがバルレに視線を送り、何故かウインクを放った。しかも、オマケにピース付きだ。

 顔が美形なのが余計にムカつく。


「…………ここは挑んでみるのも悪くはないでしょう。武力の行使は最終手段で」


「…………そうだな。そうするぜ」

 リスクはあるが、賭け事で勝てるならそれに越したことはない。


「答えは出たかな? どうするんだい?」


 再び聞いてくるカルケリル。

 俺は、少し目を閉じたあと、深呼吸をして瞼を開く。


「………本来なら、ここでカッコよく断って、NOを叩きつけてやるのがアニオタとしてのセオリーなんだが。……………ここはその提案を受け入れることにしよう!」


「そうか、よかったよ。それで、勝負するのはタクミになるのかな?」


 カルケリルの問いに、俺たちは顔を見合わせる。


「私が勝負するのはお門違いってやつでしょう」

 バルレがそう口にする。


 俺はローズさんに視線を送る。


「私はこういうの苦手だけど………」

 俺の視線に気付いたローズさんは複雑な表情で言葉をこぼした。

 そのはずだ。彼女は俺が裏切り者であると疑っている。

 つまり、この勝負を俺に預けたくない、というのが本心なのだろう。



「………ここは、タクミでいいんじゃないですか?」


 横からバルレが口を挟む。

 その後、バルレはローズさんに近付き…………。


 俺には聞こえない声の大きさで何かを耳打ちした。



「ん?」


 バルレの話が終わると、ローズさんは「それもそうね」と1人で何かを納得する。

「ここはタクミに譲るわ」


 何が何だか分からなくて、咄嗟にバルレに視線を泳がせる。

 そこでバルレと視線が合う。彼はただコクリと頷くだけだった。


 ……。なにか不安なんですけど!


「…………俺が引き受けるよ」


「よし。じゃあ、場所を移動しようか」


 そう言って、カルケリルは出入口の方へと歩いていく。


「何処に行くんだ?」


「せっかくなんだから、賭博場でやろう。こんな味気ない場所でやってもつまらないし、なにより観客は多い方がいい」






 カルケリルについていき、辿り着いた先は巨大なギャンブル場。中は騒音で騒がしく、幾つも設置してある大きなテーブルを大勢の人間が囲っている。


 テーブルの上では、カードやボールが入ったクルクル回転する円盤。サイコロのような目が彫られた立方体など、様々なギャンブルが行われている。

 人々の様子は一喜一憂。


 ギャンブルの内容次第で、プレイヤーも観客も表情や態度をコロッと変えている。


「………不思議な場所ね」


 そんな様子を見ていたローズさんが言葉をこぼした。


「喜びも、怒りも、悲しみも……。その全てがこの場所には詰まっていて、多くの人たちが楽しんでいる」


 それを聞いたカルケリルは「そうだろ?」と嬉しそうに呟いた。

「断言するよ。ここはこの世界で一番楽しい街さ」





 カルケリルがギャンブル場の奥へと進んでいく。

 すると、ひとりの男がカルケリルの存在に気づいた。


「カルケリル様!」


 その声を皮切りに、それまでギャンブルに夢中になっていた人々がこちらに顔を向け、カルケリルに頭を下げ始めた。


「カルケリル様! おはようございます」


「今日はどうなさったんですか?」



 その人気ぶりからカルケリルの人柄が伺える。



「随分と親しまれてるんだな」


「そりゃあ、僕はヴァーテクスの中で一番優しいからね」

 へへへ、と照れ笑いするカルケリル。


 自分で自分のことを自慢して勝手に照れている。



「みんな! 今日はこの人間と、大切なものを賭けた勝負をする。興味がある奴は是非観ていって欲しい」


 カルケリルが一声かけると、多くの人間が高いテンションで声を荒らげた。中には指笛を鳴らす奴もいる。



「いい熱量だ」


 その熱に浮かされる俺とは正反対に、カルケリルはこの状況を楽しんでいるように感じた。


 カルケリルの従者に促されて、テーブルの席に着く。その正面にカルケリルが座る。

 テーブルは喫茶店やファミレスにある4人席と同じくらいの大きさだ。



「まず公平を期すために言っておくことがある」


 ゲームのルール説明の前に、カルケリルが口を開いた。


「なんだ?」


「僕の能力さ。僕の力は不正の発見能力と賭けた内容の絶対遵守だ」


「――――――はっ?」


 俺とローズさんの声が重なる。


 恐らく、ローズさんは今の言葉を聞いて、俺に勝負を託したことが不安になったのだろう。


 俺はカルケリルの言葉を脳裏で再生させる。

 不正の発見ってことは、イカサマが通じない、ということか。

 まぁ、イカサマを仕掛けるつもりはなかったが。


 それよりも、重要なのは後者の方だ。

 賭けた内容の絶対遵守。

 つまり、この勝負に負ければ、カルケリルへの従属は避けられなくなる。そうなれば強硬手段の武力行使が行えないことになる。


「言っておくけど、今更勝負を降りるのは聞き入れないよ。君も男なんだろ? 自分の発言には責任を持つべきだ」


 思考を見透かされ、釘を打たれる。

 カルケリルを囲うようにして立つ従者たち。そして、俺たちを囲うようにして立つ街のギャラリー。


 こいつが勝負場所をここにした理由を今更理解した。

 俺たちはここから逃げられない。


「………………………わかったよ」


 苦渋の選択……というより、他に選択肢がない。

 勝負以外の選択肢は潰されたのだから。


 俺は剣をバルレに預け、再びカルケリルと向き合った。

 カルケリルはニコッと笑って言葉を発した。


「さあ、賭けを始めよう」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ