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無名頂上種の世界革命  作者: 福部誌是
7 賭けのヴァーテクス
57/119

7-1

 馬車はガタゴトと賭けの街に向かって進んでいく。


 森を出て今は広い草原を進んでいる。


 ローズさんもバルレも疲弊しており、寝心地の良くない荷台の上で器用に身体を休めている。

 それを確認してから、馬車の運転席に目をやった。

 運転席に座る男は、俺たちに何も聞いてこない。無闇に関わろうとしてこないので、気が楽ではある。



 俺は、虹の剣に触れた。

 虹光剣と呼ばれるこの剣を、あの時持っていたら………。



 たらればの話はしても意味が無い。そう分かってはいても、止められないのだ。

 あまりの悔しさに、奥歯を噛み締める。






 休息を挟み、再び馬車は進み出す。



「そろそろ交代の時間ね」


 ローズさんの言葉に、俺は「はい」と短く答える。



 いつ、何があってもいいように、俺たちは3人で護衛と休憩をローテーションすることに決めていた。


 最初は俺。その次はローズさん。その次はバルレ。そしてまた俺。というように。


 ローズさんと交代で、俺は荷台の上で横になる。

 ………なろうとして、その動きを止める。



「………ひとつ、ローズさんに聞きたいことがあるんですけど」


 俺の問に、ローズさんは「なに?」と聞き返してくれる。


「ローズさんがアンジェリカの手伝いをする理由です」


 俺がそう言うと、ローズさんは何かを納得した様に頷いた。


「なるほど。私を疑っているわけね」


 ローズさんの冷たい言葉に、俺は目を背ける。


「いえ、そういう訳ではありません。ただ、聞いておきたいだけですよ。これから先、ローズさんを疑わない為に」



「………物は言いようよね。…………いいわ。話すわよ」



 少し間を開けてから、ローズさんの話が始まる。





「私がアンジェリカ様を手伝うのは、アルドニスと同じ理由よ。命を助けられたから」



 まるで過去を思い返しているように、彼女は遠い空を見上げた。



「私の両親、結構早くに死んじゃってさ。だから、私が幼い弟と妹を養う為に村から街へ出稼ぎしてたのよ。………それで、ある日。村へ帰ったら怪物に襲われてて村人は全滅。私は絶望と憎しみからその場にあった武器を手に怪物を追い掛けたの」


 その苦しく、悲しい過去に俺は何も言えなくなる。


「村を襲った怪物は見付けて仇を摂ることはできたの。でも、気付けば人気のない森の中で他の怪物に囲われてた。絶体絶命で、家族も全員亡くし、命を諦めた。その時にね、助けてくれたのよ」


「………………………………その恩返しとして?」


「ええ。その通りよ。だから私は戦うの」


 ローズさんが発した言葉の重みを考える。


 ………彼女の言葉が真実ならば、裏切り者とは考えにくい。



「…………これはあくまで私個人の意見だけど、怪しいのは私より後に仲間になったアルドニス、タクミ、ルイーズの3人よ。その中で1番動機が分からなかったのが貴方ってだけ」



「…………俺がアンジェリカを手伝う理由は、きっと多くの人が共感できるありふれたものですよ」


 俺は柔らかい笑みを彼女に向ける。これ以上は今考えても仕方がない。考えることを先延ばしにして、俺はその場に横になる。


 やっぱり荷台の上は寝心地が悪かった。


















 そのまま5日程、馬車は進み続けた。



「見えましたよ。あれがキューベウです」


 運転手の言葉に、俺たちは荷台から顔を出す。

 遠目に煌びやかな街が見えた。


 そのまま馬車は進み、門を潜って中へと入る。



 その街の地に降り立ち、当たりを見渡す。


 最初の感想は騒がしい! だった。


 とにかく人が多く、装飾がキラキラと輝いていて眩しい。門から奥へと続く大通りの両脇にはギラギラと輝く建物がズラリと並んでいる。その建物の中の音や人の声が外まで聞こえてきて、まるでお祭り騒ぎのようだった。


「どうですか、キューベウの街は?」


「そうですね。なんだか、物凄いです」


 そんな感想しか出てこない自身の語彙力のなさ。


「ここはカルケリル様が運営する娯楽の街。大通りの両側に並ぶのはカジノ、と呼ばれる賭博場です。ここはこの世界で1番お金が動く街。ここで勝ち続ければ一攫千金、大金持ちになるのも夢ではありません。………と、私はここで失礼します。楽しんでいってくださいね」



 運転手は気前よく街の説明をして、その後、街の奥へと向かっていった。

 残された俺たちは、これからどうするのかを話し合った。


「とりあえず、賭けのヴァーテクスに会わないとな」


「でも、初めて来た街だから、よく分からないわね」


 俺とローズさんの会話に、どこかで聞き覚えのある声が「あのー、すみませーん」と割り込んできた。


「ん…………えっ!?」


 振り向くと、そこには見知った顔の男が立っていた。

 ………まあ、顔はよく分からないのだが。



 目立つショッキングピンク色の髪は襟足が長く、また同じ色の髭が口回りにモジャモジャと生えている。オマケに、サングラスをしているので、顔が把握しづらい。

 だが、こんな目立つ男の事は忘れることが出来ない。


 薄い生地のシャツと短パンに革の靴といったよく分からないファッションで現れたその商人の名前を口ずさむ。


「―――――――ダウト!」


「お、ようやく気付いてくれたね。こんなところで再会出来るなんて、とても感激だよ」


 嘘泣きする素振りを見せるダウト。

 まあ、嘘泣きだと丸分かりなので、無視するが。



「ダウトもこの街に来てたのか」


「まあね。この街はいい街だろ? 人が活気づいてる。………ところで、タクミたちはどうしてこの街に?」


 その言葉に、俺はチラリとローズさんに視線を送る。それに気付いた彼女はコクリ、と頷いてくれた。


「俺たちは、賭けのヴァーテクス様にお目通りしたくてこの街に来たんだ」


「へぇー、そうなんだ」


 驚かれると思ったが、淡白なその反応に俺は驚く。

 が、それを表情に出さないように気を付けながら情報を聞き出す。


「………この街は簡単にヴァーテクス様に会えるのか?」


「まぁ、そうだね。会おうと思えば誰でも会える。………と、さては君たち。街に来たはいいものの、カルケリル様がどこにいるか分からないんだろ?」


「まあ、そんなところだな」

 そう答えると、ダウトは嬉しそうに口の端を釣り上げた。


「よしきた! 特別に僕が案内してあげるよ。カルケリル様がいる神殿までね」


 上機嫌で歩き出すダウト。その背中を追って俺たちも歩き出す。

 と、バルレがぽかーんと口を開けて呆けていることに気が付いた。



「バルレ?」


「………ん、え、あ」

 俺が名前を呼ぶと、我を取り戻したバルレは変な声を出して、こちらを見た。


「大丈夫か?」


「あ、あぁ。それより、あの人は?」


 バルレが指した人物はダウトのことだ。


「前に助けてもらった商人だよ。名前はダウト」


「へぇー、そうなのかい」


 まるで明後日の方向を見ているかのような返事。


「…………ほんとに大丈夫か?」


「大丈夫だよ。さあ、追いかけよう」


 バルレが小走りで追い付いてくる。

 そして、俺たちはダウトの背中を追いかけて神殿を目指した。

















 それは、黄金色の神殿だった。



「すげー金ピカ」


 純金の巨大な神殿を見上げて、率直な感想をこぼす。

 大きな屋根を支える為に、何本もの柱が長方形に並んでいる。


「ささ、入口はこっちだよ」


 ダウトの案内に従って、中へ入る。


 そこで再び息を飲むことになる。

 外は純金で派手だったが、内部は白の大理石でつくられていた。


 両壁の内側に柱が何本も並んで立っており、その間を結ぶように、金色の布が弧を描いて結んである。


 まるでギリシャにあるような神殿のつくりに、俺は呆然と立ち尽くす。


「この奥に部屋があるから」


 ダウトの声で、我を取り戻す。

 ダウトの背中にピタリとくっついて、目の前の階段を上る。

 玄関のような空間の先には低い階段があり、それを登ると長い廊下が奥へと続いている。

 まず、初めに感じたのは神殿の内部構造の華やかさ。

 次に感じたのは、人の多さであった。


 神殿。ヴァーテクスの居城というから、人は少ないと勝手に想像していたが、どうやらここは違うらしい。

 赤いカーペットが敷かれた中央通路、その端を人が何人か行き来している。


 通路の先を観察してみると、少なくとも20人弱の人間がこの神殿内にはいるようだ。


 彼らは中央通路のど真ん中を歩く俺たちに視線を飛ばしては、軽く頭を下げてくる。



「…………なんか、人が多いな」


「あ、そう感じるかい? まあ、他の神殿と比べると人の数は多い方だよ。なにせ、カルケリル様は人間に寛容で優しいヴァーテクス様だからね」


 ダウトの説明に「へぇー」と深く納得する。


「でも、アンジェリカ様の事は捕らえたんだろ?」


「………まあ、それには理由があるのさ」



 理由? と聞き返そうとしたところで、ダウトが足を止めた。


「この先だよ」


 神殿内の通路の最奥。白い大理石の壁の中央に、四角にくり抜かれた穴が奥へと続いている。

 つまりは、扉が無い狭い通路、ということだ。


 ダウトに続き、その狭い通路を通過する。

 すると、数人の人間たちが腕を後ろに組み、こちら向きに立っている。


 男が3人。女が2人だ。


 彼らは俺たちに向かって深く頭を下げると。


「お帰りなさいませ」


 と口を揃えて言葉を発した。


「?」


 理解が及ばず、頭の中で?マークが弾ける。


「…………ここって、カルケリル様の部屋よね?」


 隣でローズさんが疑問をこぼす。




「あぁ、そうだね。ここは僕の部屋だ」


 そう言葉を発したのは、俺たちの前に立つダウトという名の商人だった。


「改めて自己紹介をしよう。勇ましい反逆者たちよ」

 ショッキングピンク色の髪をした男はそう言うと、くるりと体を反転させて、俺たちに向き合った。

 サングラスを取り、口の周りのもじゃもじゃした髭をベリベリと剥がす。


「僕こそがこの街を運営する賭けのヴァーテクス。カルケリルさ」



 かつて、ダウトと名乗ったその商人は、勝ち誇ったようなニヤニヤとした顔でこちらを見詰めてきた。


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