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バジレウス側。
世界への嘘の伝達。
それを行った後、バジレウスは乱れた自身の服装を整えていた。
それを、従者である女たちは腰を低くして待っている。その中で、戦闘スキルが高い背の低い女がバジレウスに近付いた。
「ん、ユースティアを信頼していないのか、だと?」
バジレウスの声に、女は静かに頷いた。
「そういうわけではない。ただ、念のためというやつだ」
バジレウスが答えると、女は満足したのか引き下がった。
「それでは行くとするか」
その後、バジレウスの身体が唐突に宙に浮き始める。それを合図として、従者の女たちの身体も宙に浮く。
空高くへと舞い上がり、そのまま飛翔する形で東へ進んだ。
暫く、空を突っ切るように進み、ある山のふもとへと到着する。
「用事を片付ける。しばしここで待て」
それだけを言い残し、バジレウスは女たちだけをその場に着地させると、ひとり高く舞い上がり、そのまま山の頂上へと向かった。
山の頂上に足をつけたバジレウスは険しい顔で森の奥を睨む。
バジレウスが降り立った山は、怪物の神殿がたっていた終焉の森の手前の大きな山だった。
バジレウスが睨みつける視線の先には、巨大な人型をした怪物がゆっくりと脚を動かしている。
8メートルに達するその巨大な身体はまるで巨人のように、しっかりと形を保った手足を所持している。身体の皮膚はまるで木の幹が何層にも折り重なったような造りをしている。しっかり頭部のような形も存在しているが、鼻や口の形は見えない。赤く光る大きく釣り上がった目と、頭には巨大な角を持っている。
その右手には、樹木で造られた巨大な大剣。
左手には、まるで秤を模した黄金の輝きがある。
それは以前、タクミたち一行が怪物の神殿の最奥へと向かった道中、地下9階で目にした巨大な卵の中に入っていた最強の怪物だった。
それを知る者は、いまやこの世界にはいないが、その怪物はバジレウスに対するカウンターとしてテラシアが残したとっておきだった。
その性能は、迷宮内の怪物と同じようにヴァーテクスの障壁を貫通し、その手に持つ秤で相手の能力を計測しそれと同等の効果を自身に付与するという驚愕の力を持っている。
「……………………テラシアめ。最期にとんでもないものを残して逝きおったな。使い方によっては世界そのものを滅ぼす獣とか、流石に我でも引くぞ」
バジレウスは険しい顔を崩すことなく、独り言を呟く。
「……………………我は忙しい。こんな怪物に付き合っている暇はない。…………………が、これは流石にユースティアの手にも余る災害だ。よって、我自ら相手しよう」
そうして、多くのものが気付かない、人気が無い場所で。
世界の命運を賭けた戦いが幕を開けた。