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無名頂上種の世界革命  作者: 福部誌是
6 知恵のヴァーテクス
55/119

6-■

 知恵のヴァーテクス。アウル・テオス


 その男はこの世界の謎、ヴァーテクスの存在とその発生理由について疑問を持った。


 何度もバジレウスに問いただし、その度あしらわれてきた。

 それでも、アウルは諦めなかった。





 その男に与えられた能力は未来視だった。

 アウルは未来視を使い、多くのことを成した。


 天候の予言。

 災害の予報。


 怪物に襲われ、滅びる運命にあった小さな村を救った。

 死ぬはずだった人間を助け、多くの書物を探し出し、読めない文語を解き明かしもした。


 そして、その男は知恵のヴァーテクスと呼ばれるようになった。




 知恵のヴァーテクスと呼ばれ、何年か経った頃。



 アウルは唐突に虚無感に襲われた。


 いつでも、どんな時でも結果が見えてしまうアウルにとって、この世界で生きることは苦しいことであった。

 新しい発見も、経験も、アウルが体験する前に結果として理解してしまう。


 そんな人生に絶望した。


 それでも、アウルが生を諦めなかったのは、解き明かせない問題があったからだ。



 ヴァーテクスの謎。



 未来視をもってしても解き明かせない謎に、アウルはのめり込んでいった。あらゆる答えを、予め識ることができるアウルにとって、解き明かせない問題というのは、ものすごく魅力的であり、そして生きるための支えとして機能するものだった。


 それでも、結果は変わらなかった。




 そんなある日。

 1柱のヴァーテクスからある提案をされる。


「一緒に、バジレウスを倒さないか?」


 最初はバカバカしいと思い、突っぱねた。


 だが、次第にそのヴァーテクスの言葉が正しいことを悟っていく。

 バジレウスを倒すことで、未来視の消失とヴァーテクスの謎の解明を同時に達成できるかもしれないのだから。




 提案を受け入れ、バジレウスの打倒のためにアウルは走り続けた。





 そして――――――。





「……………その結果が、これか」


 静かな闇の中、アウルはか細く息をこぼした。

 口の中に広がる血の味。胸を貫く激しい痛みに、アウルは自身の死を悟る。


 心臓が潰されれば、いかにヴァーテクスといえども、蘇生はありえない。


 アウルにとって、自分の人生はつまらないものだった。

 常に答えが見える道程に、何度も嫌気がさした。




 バジレウスに叛逆し、タクミと出会い行動を共にした。


 この数時間の出来事はアウルにとって、狂おしくも暖かいものだった。

 未来が見えないという異常の中でアウルが感じたのは恐怖と楽しさ。



「…………タクミ、くん。この数時間は、ほんとうに、楽しい一時だったよ」


 掠れていく声。

 喉が血で埋まり、次第に音が出せなくなっていく。


 夜の真っ暗闇の中、かつてバジレウスが打ち上げた夜の大岩だけが、ポツリと淡い光でアウルを見下ろしていた。







 そして、知恵のヴァーテクス。アウル・テオスは息を引き取った。








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