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無名頂上種の世界革命  作者: 福部誌是
6 知恵のヴァーテクス
46/119

6-4

 ゼンさんの葬式は、土葬という形で行われた。


 小さな村の全員が参加し、悲しみを並べた。







 そして、それから3日が経過した。




 最初は悲しみに暮れていたが、今はだいぶ楽になった。

 いつまでも、脚を止めているわけにはいかない。ゼンさんに教わったことを無駄にしないためにも。



 アルドニスやローズさんも順調に村の暮らしに慣れていった。


 アルドニスは畑で鍬を振るい、ローズさんは差し入れを休憩時に持っていく。

 それだけで畑に群がる男たちは歓喜の声を上げ、ローズさんを囲いながら冷たい水で喉を潤している。



「……………………人気者ね。ローズは」


 それを遠くから眺めている俺の横に、いつの間にかアンジェリカが立っていた。

 勿論、白い布を頭から羽織っている状態だ。


「……………………もしかして、羨ましいとか?」


「バカ言わないで。そんなこと微塵も思っていないわ。それに、正体がバレたら大変でしょ!」


 プイッとアンジェリカは顔を背けてしまう。


 そんな彼女の様子が可愛くて、俺は思わず笑みをこぼす。


「……………………そう言えば、この前亡くなったゼンさんっていう人。私の事を知らなかったわ」


 なにかを思い出したように、アンジェリカが呟いたことで、唐突に話題が切り替わる。


「……………………ゼンさんとも知り合っていたのか?」


「違うわよ。今回この村に来てから、一度顔を視られてしまったのよ。それでも私がヴァーテクスだってことを知らないような様子だったわ」


 アンジェリカって正体を隠す気あるのかな?

 と本気で疑いたくなる。


「……………………やっぱり、アンジェリカって結構ドジだよね」


「そんなことないと思うけど」


 自覚はなし。これは本物の天然キャラだ。

 ……………………と、話題が変わってしまうので自分にストップをかける。



「……………………ゼンさんは記憶を失っていたという。だからじゃないのかな?」


 実際、ゼンさんがどれほどの記憶を失っていたのかは結局分からないままだ。

 その言葉自体が嘘だったのか。それとも本当に記憶を一部失っていたのか。


「なるほどね。それなら私の事を知らなくても無理はないわね。……………………この話はここまでにしましょう。亡くなった人を疑うのはあまりよくないことだわ」


 天然でもあり、誠実さも兼ね備えている。

 それが、アンジェリカというヴァーテクスの魅力だ。

 本性さえ知らなければ、凛としていて可愛いのだから。



 まぁ、容姿がシャルロットに似ている以上、外見はこれ以上ないくらい完璧なのだが。



「今日の昼から、私とドミニクでバジレウスに対抗するための話し合いをするから。タクミも時間を空けといてね」


「おう、了解した。じゃあ、俺は剣の修行に行ってくるぜ」


「えぇ。行ってらっしゃい」


 アンジェリカに見送られながら俺は村の広場を後にした。








 村の北端にある、木々に囲われた小さな空間で木剣を振るう。虹の剣は後ろの木に立てかけてある。

 今は木剣での特訓だ。

 ゼンさんから教わったことをなぞるように体を動かす。



「おー。精が出るな!」


 そこに姿を現したのは長い木の棒を肩に担いだルイーズだった。


 そういえば、今日は朝から姿を見てなかった。


「ルイーズ。どうかしたのか?」


「あぁ。オレも修行の最中でね。向こうからタクミの姿が見えたもんで少し話に来たわけだ」


 視線を落とすと、ルイーズの両腕には真新しい包帯が巻かれていた。

 それに気づいたルイーズは隠す素振りもなく、説明するかのように口を開いた。


「能力の修行も兼ねてたんだ。オレはこの能力が扱えるようになってからまだ日が浅いからな」


「それを言うなら俺もだよ」


「でも、タクミは能力を申し分なく使いこなせてるじゃないか」


「……………………まだまだ、だよ」

 俺がそう答えると、ルイーズは「ふん」と何故か鼻を鳴らし、

「そう言う謙虚なところがタクミのいいところだよな」

 と笑った。


「……………………それで、タクミの方はもう怪我はいいのか?」


「あぁ。まだ包帯は取れないけど、それでもやれることはあるだろ?」

 怪物のヴァーテクスの迷宮でレオガルトに受けた傷は完全に塞がることはない。

 ミノタウロスから受けた傷もあるが、レオガルトのものが一番大きなものになる。


 今は薬を塗って腕に包帯を巻いてある。

 完全に左腕を今までのように動かすことは出来ないが、それでも少しずつ慣らしていかなければならない。

 この先に待つのは全能のヴァーテクスとの対立なのだから。



「そうか。じゃあ、少し試合をしてみねぇか?」


 そう言って不敵に笑うルイーズに、反応が遅れてしまう。


「神殿での戦闘でタクミが強いことは把握してる。あそこまで戦えるやつはそうはいない。だから気になるんだよ」


「……………………なにを?」


「おいおい、分かり切ったことを聞くなよ。オレとお前。どっちが強いかに決まってんだろ」

 ルイーズは肩に担いでいた棒をクルクルと回してその先端を俺の顔面に向けてきた。


「……………………ルイーズの方が強いと思うけど」


「冷めてんなぁ。男ならもっとガツンと来いよ。そんなんじゃ女にモテねぇぜ?」

 俺の言葉に、ルイーズは大きく肩を落として項垂れた。


「……………………別に俺はそういう事のために剣を振るってるわけじゃないから」


「それがつまらねぇって言ってんだよ。男なら、女の一人ぐらい力でねじ伏せてみせろってんだ!」


 マジか!

 言葉を聞かず、突進してくるルイーズ。

 まるで闘牛のようだ。


 ………………暴力反対だ!


 ルイーズの突進を躱して、木剣を構える。


「はははは。しっかりやる気出てるじゃねぇか!」


 笑いながら、再度突っ込んでくるルイーズに合わせ、剣を振るう。

 が、俺の頭上を飛び越えて彼女は軽々とその一撃を避ける。


「―――――くっ! 野生児すぎる!」


 2メートルはある細い木の棒を振り回すルイーズ。槍と斧は付いていないが、充分凶器にたっするレベルだ。


 棒の先端を木剣で撃ち落とす。

 が、それを予見していた如く、反対側の先端がこちらに向かって伸びてくる。

 顔面に伸びるその一撃を避け、距離を取る。



「よし! 能力使用もありにしよう!」


「―――――は、はぁ!?」

 爽快な声と共に飛んでくる赤い塊。ステップを踏んで必死に回避を試みる。

「次いくぜぇ!」


 と飛んで距離を詰めてきたルイーズの飛び蹴り。

 更に、着地と同時に振るわれる木の棒が辺りの草木を揺らし、葉っぱを宙に舞わせる。俺はその攻撃を避けて、攻撃に転じた。











 ―――――結果は、惨敗。


 ルイーズの圧勝に終わった。



「よし! オレの勝ちだぁ」

 まるで子供のように勝ちを喜ぶルイーズ。無邪気に笑うその笑顔は眩い程に輝いている。

 ルイーズのお転婆ぶりには手を焼くことになる。そう悟った。


「タクミもまだまだだな」


「俺は数か月前まで剣を持ったこともない普通の男子高校生だったんだよ!」

 と叫びたい衝動を堪える。



「よし、オレはそろそろ戻るけど、タクミはどうするんだ?」


「ドミニクさんと交代して、村の外の巡回をしてくるよ」


「おぉ。次はタクミの番だったか」


 俺は立てかけておいた虹の剣を取り、「じゃあ」と別れを告げて村の外を目指す。







 門を越え、村の外を巡回する。柵があるとはいえ、怪物が出たら危ないのは変わらない。


 怪物を討伐したり、仕事を手伝う事で報酬を貰う。

 これは正当なビジネスなのだ。


 まさか、この歳で働くことになるとは……………………。

 地球にいた頃は思いもしなかったな。



 巡回を始めて1時間近くが経過する。

 その間、怪物を発見することはなかった。


「……………………この辺りの怪物はほとんど討伐し終えた可能性が高いな」

 ボソリと言葉をこぼす。



 すると、人気のない森の中で、人の気配を感じ取った。


 ガサガサと、草木を押しのけて歩いてくる音が聞こえてくる。


「お、見たまえバルレくん。吾輩の言った通り、人がいたではないか」

 その言葉と共に、2人の男性が姿を現した。


 前を歩いてくる男性はとても高そうな服に身をくるみ、目を引き付けられた。紫の生地に花のブーケ模様が施されたコートに、中には濃い色のベストのようなものを着ている。下は赤色のパンツを着ており、まるで貴族のように見える。


 その男は鼻の下の髭を指で弄りながら、こちらの顔をじっと見つめてきた。


「……………………えっと。旅の人、でしょうか?」


「……………………まぁ。そんなところだよ。さて、君はこの先にある村の人、でいいのかな?」


 とてもダンディーな声が返ってくる。

 この世界に王族や貴族はいない筈なので、彼も一般市民なのだろう。

 まぁ、とてもそんな風には見えないが。


 きっと、ものすごいお金持ちなのだろう。


「いいえ、俺も旅人なんですよ。タクミといいます」


「おぉ。これは親切にどうも。吾輩はアウルだ。そして、彼はバルレくんだ」

 男に指され、後ろにいた男がペコリと頭を下げた。それに応じてこちらも頭を下げる。


 バルレ、という名の男は衛兵のような恰好をしている。軽装備型の鎧と兜。それに、槍を手に持っている。

 金持ちと、その男が雇った兵士、といった感じだ。


「村まで案内します。こちらです」


 俺は彼らを導くように村までの道を引き返す。


「……………………村まではどういったご用事で?」


「吾輩は知り合いに会いに来たんだ。バルレくんはその付き添いだ」

 アウルと名乗った男はそう答える。


「ご友人ですか?」


「……………………まぁ、そんなところだよ」


 アウルがそう答えたところで、村の門が見えた。



 すると、その前に立っていた2人の衛兵が何やら慌て始める。


 一体、どうしたというのだろうか。


 その疑問は直ぐに晴れることになる。


「アウル様! お、おおおお、おはようございます!」


 衛兵が背筋を伸ばし、声を合わせてそう叫んだ。

 その瞬間、俺の脚が止まる。否、止まらざるを得なかった。



「――――――アウル、様?」


 俺は振り返り、その男を見た。


 あぁ。なぜ、直ぐに疑問に思わなかったのだろうか。

 こんなにも分かりやすい格好をしていたのに。



「あぁ、吾輩の名はアウル。知恵を司りし者だ。吾輩はヴァーテクスである」


 男はにやりと口端を曲げてそう言い放った。







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