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無名頂上種の世界革命  作者: 福部誌是
6 知恵のヴァーテクス
44/119

6-2

 

「久しぶりね! ハンナ!」


 アンジェリカのその言葉に、俺は固まる。



「お、お久しぶりです。アンジェリカ様!」


 そんな俺を置き去りにして、ハンナは頭を下げて、彼女の事を、アンジェリカ。と呼んだ。






 数分間、その場に停止していた。

 頭の整理が追い付かず、交互に2人の顔を見詰める。



「タクミ、どうしたの?」

 やがて、俺の状態に気付いたアンジェリカが首を傾げた。



「どうして、アンジェリカ様とタクミが一緒にいるんですか?」


 続いて、ハンナがアンジェリカに対して首を傾げた。


 それを聞いたアンジェリカは再び俺の方を振り返ると、

「どうして、タクミとハンナが顔見知りなの?」

 と首を傾げる。



「……………………どうして、アンジェリカとハンナは顔見知りなの?」

 と2人を真似して首を傾げてみる。


 ???

 はてなが3つ並んだだけだった。



「そうだな。先ずは俺から説明するか。ハンナ。聞いてくれ」


「はい!」背筋を伸ばしたハンナは元気に返事をする。

「アンジェリカは俺の仲間なんだ。彼女の目的を手伝うことが俺のやりたいことなんだ」


「次に、アンジェリカ。ハンナは俺がこの村で一番お世話になった人だ」


「なるほど。タクミが前に独りでこの村に来た時に知り合いになったのね。じゃあ、あとは私とハンナについてか」

 アンジェリカの言葉が一旦区切られたところで、生唾を呑み込む。



「私は10年前、この村を訪れてね。その時にハンナと知り合ったの。だから、彼女は私をアンジェリカと呼んでくれるし、私にとってもかけがえのない人よ」


 アンジェリカの言葉に、ハンナが「そうです」と頷く。


 ……………………なるほど。

 お互いに知らないところでお互いと知り合いになっていたわけか。

 数奇な縁というのもあるもんだなぁ。



 その後、3人で互いに語り合った。

 それこそ、煌点が傾くまで。


 2人のガールズトークを聞いているだけでも楽しかった。

 途中で、ソフィアさんが帰宅する。


「あ、やばいわ。顔を隠さなきゃ」

 そう言ってアンジェリカは白い布を被って顔を隠す。


「なんだ。ソフィアさんとは知り合いじゃないのか」


「ええ。私はハンナの部屋から外に出るわね」

 そう言って階段を上がっていくアンジェリカ。

 ソフィアさんと鉢合わせすることなく、ハンナの部屋の窓から外に出るつもりだろう。


「タクミは? もう行っちゃうの?」

 そう首を傾げるハンナに、俺は首を横に振った。


「まだいるよ。ソフィアさんにも挨拶したいから」


 少し待っていると、扉が開かれてソフィアさんが入ってくる。

 そして俺の顔を視たソフィアさんは驚きながら俺の事を祝福してくれた。


「今日はうまい酒でも飲むか!」


「俺は飲めませんからね!」

 未成年だし。


 あの頃。ほんの短い数日間のように。

 微笑ましいこの家族の生活が、なによりも温かく感じられた。






「煌点が完全に沈む前に、ゼンさんに挨拶しに行かなきゃ」

 そう切り出し、ハンナの家を後にする。


「また明日、会いに来るわ」


「うん。また明日ね」

 ハンナは笑顔で送り出してくれる。



 そうして、俺はゼンさんの家の場所を聞くため、村長の家に向かった。






 村長に話を聞き、ゼンさんの家を訪ねる。

 だが、どれだけ扉をたたいても返事がなかった。


 家の明かりはついていない。


 寝たきりという話だったが、どこかに出かけているのだろうか?



「……………………また明日にするか」

 呟いて、就寝用の借りた家に戻るため、静かな家に背を向けて道を戻る。












 ♦♦♦



 ハンナの部屋の窓を開け、そこから飛び降りたアンジェリカは、村の中を歩いて回っていた。

 村人に正体がばれないように、白い布で顔を隠しながら。



 広場、診療所、教会、畑。


 そして、村の中を回り終わったアンジェリカは森の中を進んでいく。

 もちろん、村を囲う柵からは出ないように。



 そんな時だった。

 唐突に吹いた突風で白い布を飛ばされてしまう。

 オレンジ色の煌点の下に、その可愛らしい顔が晒される。



「ぁ、……………………待って!」


 誰かに顔を視られる前に、布に追い付かなければ!



 そして、風に運ばれる布は一人の男性の足元に落下した。


「――――――ぁ!」


 その男性は、白い布を拾うと、それを不思議そうな顔で眺めていた。

 厳つい皺だらけの顔。白髪の多い頭。薄い生地でつくられた袖の無い白い服を着た老人だった。


 薄い皮と、皺だらけの腕を伸ばし、白い布をアンジェリカに返すために近寄る男性。

 その男性はまじまじとアンジェリカの顔を視てー――――――。



 その動きを停止させた。



 その目は大きく開かれ、ぽかーんと口を開き……………………。

 それはまるで信じられないものを見たような顔だった。


 この世界に住む住人なら誰もが同じような反応を示すだろう。


『なぜ、こんなところにヴァーテクス様が!?』と。


 しかも、ここは小さな村だ。森に隠され、バジレウスですら存在を知っているか定かではない、忘れられそうな小さな村なのだ。


 だから、ヴァーテクスという超存在を見た人間が驚くのは当然のことなのだ。


 だが、その老人は信じられないようなものを視た。そんな顔で喉を鳴らし、意味の分からないことを呟いたのだった。


「っ……………………! シャルー――――――!?」



 その声に、アンジェリカは「え!?」と言葉をこぼした。


 当然だ。呟かれた言葉はアンジェリカが想定していたどの言葉とも違っていたのだから。



 ふたりの時間が停止する。

 まるで、そうすることが決定されていたかのように。


 長い時間、動きを止めていた男性がようやく口を開いた。


「すまない。知った顔に、君がそっくりだったから」


 どこかで聞いたようなことを、その男性は呟いた。

 目を細めて、どこか遠い場所を見詰めるように。その男性は少しだけ微笑んだ。


「この布を返すよ。見たことのない顔だね。旅人さんかな? もう暗くなるから早く村に戻るんだよ」


 白い布を、アンジェリカは受け取る。


 男性はアンジェリカの横を通り過ぎ、歩いていく。


 アンジェリカはその場でその男性の方を振り返った。


 男性は確実にアンジェリカの顔を視認した。そして、驚いた様子を見せた。

 だけど、それはヴァーテクスであるアンジェリカに驚いたものではなかった。




 アンジェリカはその男性の後ろ姿をずっと眺めていた。やがて、その後ろ姿は木々の間に吸い込まれるように小さくなり、消えていった。






















 もしこの場に、異世界から来た黒髪の少年がいたなら。

 ひとつの謎が解決したのかもしれない。


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