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無名頂上種の世界革命  作者: 福部誌是
16 全能のヴァーテクス
115/119

16-2

 アウルが提唱し、カルケリルが場面を整え、全員で掴んだ確信。


 それを受けてなお、バジレウスはニヤリと笑った。


 ……………何かを見落としていた。


 そう判断した時には既に遅く…………。



「アンジェリカ、来るな!!」


 こっちに駆け寄ろうとしていたアンジェリカに制止の声をかける。

 その直後だった。バジレウスの身体が発光し、雷に包まれる。


 その放電は周囲に展開され、やがて収束しだす。


「――――――――雷纏、雷脚」


 雷を纏い、帯電したバジレウスの姿が浮かび上がる。近づくもの全てを感電させる雷の鎧だ。


 ――――――――なんだ?


 初めて見るその姿に、思考が追いつかない。


 剣を握る手に大量の汗が浮かび上がる。



 その瞬間、確かに捉えていたはずのバジレウスが音もなく一瞬にして視界から消えた。


「雷剣っ!」


「――――――――ぐっ、ふっ!!」


 その次に感じたのは痛みだった。雷を杖に宿し、形を剣の形へと変えた刃が俺の体を切り裂く。


 気が付けば、腹から大量の血がこぼれ、口や鼻からも血が垂れ落ちている。


 ――――――――???


 バジレウスが離れたあとも、雷が傷口をバチバチと刺激し、言い難い苦痛が常に襲いかかってくるのを感じた。痛みだけで脳がバグりそうなほどに、その場に悶える。



 突然の出来事に、思考が追いつかず、現状が理解できなかった。あるいは、理解しようとするのを否定していた。


 見えない。見えなかった。

 バジレウスの速さは音を超え、或いは光の速さに達している。まるで、時間を超越しているような動き。


「………………ありえねぇだろ」


 現実離れした状況に、無力感と絶望感がふつふつと湧き上がってくるのを感じた。


「――――――――きゃっ!」

 と、アンジェリカが悲鳴をあげる。目を移せば、ちょうど、アンジェリカに雷が襲いかかり、その身体から大量の血を流していたところだった。



 ………………俺は、何を……………!!!


 あらゆるものを呑み込み、立ち上がる。

 これほどの事で脚を止めるほど、俺の心は弱っていない。それを許される立場にいない。


 ここに至るまで、多くのものを失った。もう引き返せない。

 ここに至るまで、多くのものを託された。負けるわけにはいかない。



 あの日、誓ったことを再び自分に縛める。







 身体強化・砕鱗。


 全力をもって全能を凌駕せんと、踏み込んで剣を握る。

 視界の先でバジレウスは足を止めて杖を構えた。その杖の先端には雷が集まり、刃の形になっている。


「能力。威力強化、倍増」


 不穏な言葉がバジレウスの口から放たれる。

 咄嗟に思考を切り替える。


 脚に力を集中させ、バジレウスの腕が振るわれる前にアンジェリカの元へと辿り着く。そして、すれ違いざまにアンジェリカの腕を引っ張り、頭を抱えて低い体勢をとる。


 その直後だった。

 ゴゴゴゴゴと爆音が鳴り響き、俺たちを覆っていた筈の天井が消え去る。


 いや、この建物のこの階より上の階が一瞬で蒸発したのだった。


「――――――――っ!!!?」


 あまりの出来事に、俺もアンジェリカも言葉が出ない。

 恐らく、終焉の森を消し去った一撃。それが振るわれた。天までそびえる建物を一撃で蒸発させる威力。その出力は文字通り世界を断つ一撃と言っても過言ではない。


 これ以上、あの力を振るわれる訳には行かない。



 絶望よりも早く。身体がやるべき事の為に動いていた。


 全能のヴァーテクス。その底はもう知れた。後は消耗させるだけで片がつく。だが、その前に奴は俺たちを消しにかかるだろう。

 ここに来て初めて。バジレウスは俺たちを早々に殺すべき対象だと判断した。


 ここからどれだけ死なずにバジレウスを削れるか。


 それだけが俺たちに課された課題だった。



 建物が消し炭になったことにより、どこまでも続く空がこの戦いの終焉を覗いている。

 いつの間にか空には重く暗い雲が広がっていた。



 思考が達する前に身体は動き出していた。自然と剣を構えてバジレウスの首を狙う。対するバジレウスもこちらの動きを捉えている。


 だが、そこへ黒い物体が外から入り込む。

 それは避雷針だった。



「――――――――なっ!?」


 漏れる声。直後、バジレウスの身体が避雷針に引っ張られた。


「――――――――ぬ、雷纏、解除」


 バジレウスを纏っていた雷の鎧がなくなる。だが、もう遅い。

 この剣は既にお前の首を捉えている。


 剣筋が虹色に光り、バジレウスの首が飛ぶ。


 だが、身体は倒れない。

 首と胴が切り裂かれた状態でなお、平然と動く。


「………………ちっ!」


「光弾!!」

 バジレウスの左手のひらが向けられ、そこから光の弾が俺を襲う。無数に放たれる光の弾は避雷針を破壊し、俺の肉を削いでいく。



「ぐっ――――――――っ、!!」

 怯んでいる暇はない。


 バジレウスは俺から離れてアンジェリカを狙う。

 奴の狙いはあくまでアンジェリカ。

 執拗にアンジェリカの命を狙い続ける。その身体が再び雷に包まれる。


「……………終わりだ。雷剣!!」


「――――――――ぐっ、ぁぁぁぁぁあっ!」


 バジレウスの杖が振るわれる寸前、アンジェリカが抵抗する。両手を広げ、バジレウスの身体を纏う鎧を剥がし始める。


「――――――――っ!?」



 フローガの時と同じだ。

 アンジェリカの能力は干渉能力。本来、あらゆるものへ干渉が可能だ。だが、その能力は無制限ではなく、相手の意思が働くもの、すなわち抵抗力に弱い。


 目、鼻、口から血を逆流させ、バジレウスの胸の辺りの雷が剥がれる。

 そこへ、突き刺すための剣がアンジェリカの周りを既に浮遊している。


「…………………まだ、終わり、じゃない…………!」



「いや、終わりだとも。雷玉、展開」


 その言葉の直後だった。

 無数の――――――――、100を超える雷玉が部屋の中にいっせいに展開された。


「――――――――っ!?!?」


 苦悶の声が零れた。唐突に突きつけられる二択にアンジェリカの思考は乱される。

 1秒経たず、アンジェリカは選択する。


 バジレウスの迎撃ではなく、雷玉の破壊を。

 瞬間、部屋中に展開された全ての雷玉を剣が貫いた。

 打ち漏らしはない。

 展開された雷玉が起動を始める一瞬の隙を突いて、全ての雷玉の破壊に成功する。


 その時点で、アンジェリカは限界だった。

 ゆらゆらと身体を揺らし、その場に座り込む。



 そこへ、バジレウスの振るう凶刃が迫る。



「――――――――させるかっ!」


 脚に力を集中した瞬間だった。

 空間が光だし、「光弾」が放出される。


 小さな光の礫が肉を削り、力を削ぐ。



 その時点で、敗北は決した。






 アンジェリカの頭に、凶刃が振り下ろされた。













































 俺は、ただその光景を見ることしか出来なかった。



 剥き出しになった空。どんよりと広がる黒い雲の下。赤い光が煌めいた。




 それは、隕石のようにものすごい勢いで飛来する。

 炎の降臨。それは振り下ろされるはずだった雷の刃を焼き、その勢いのままバジレウスの老体を吹き飛ばした。


 真っ白い外套が炎に焼かれ、塵へと変わる。





 降り立った炎の中から、上裸の男が姿を現す。



 それは、この世界に来て初めて戦ったヴァーテクス。


「…………………フローガ?」


「おいおい、情けねぇツラしてんじゃねぇよ。テメェは俺を倒した男だろうが」


 相変わらずの口の悪さ。それは嘘偽りなく、あの憎き男のもので…………。


 なんで、どうしてここに。何が一体どうして…………。


 様々な疑問が頭の中に浮かぶ。

 だが、そういったものが全てどうでもよくなるほど、今目の前で起きた事実をそのまま受け入れることが出来なかった。




「――――――――どういう事だ、フローガ!

 貴様も我を裏切るのか!?」


 しばらくして、バジレウスの怒った声が轟いた。


「あぁ?

 ふざけんなよ。俺はテメェに従ったことなんてねぇんだよ」


「…………………この期に及んで、シラを切る気か?」



「ハン、そんな訳ねぇだろ。炎のヴァーテクス、フローガ・テオス。この名前、今ここで返上する!!」


 不敵に、炎の男はそう叫んだ。


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