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無名頂上種の世界革命  作者: 福部誌是
16 全能のヴァーテクス
114/119

16-1

 気が付けば、頭の中が真っ白になっていた。


 どうバジレウスを倒そうとか、どういう風に立ち回ろうとか。

 そんな事は一切忘れ、ただ声を荒らげながら目の前の敵に突っ込んでいた。


「バジレウスっ!!!!!!!」


 勢いのまま剣を抜き、力任せに振るう。

 ザクッと嫌な感触が刃から腕に。腕から脳に伝わってくる。


 そのまま肉を断ち、目の前に立つ老人は肩から腹にかけて勢いよく血を吹き出す。


 だが、それは一瞬の出来事で………。

 次の瞬間には切断したはずの胴は元通りに治っている。


 ギロリっと奴の目が動いた。


「――――――――っ!!」


 音もなく放たれる雷撃。視界の先がピカッと光った瞬間にはもう遅い。


 反射に近い形で雷を避け、そのままバジレウスから距離をとる。


「タクミ! 大丈夫?」


「あぁ。問題ない。それよりも………」

 その現場に残された惨状を見る。


 カルケリル。ドミニクさん。ヴィーネ。シエナさん。


「………バジ、レウスっ!!」


「タクミ。落ち着いて!」


 アンジェリカの手が背中に触れる。

 その暖かさに、冷静さを取り戻す。



「…………ありがとう」


「うん。勝ちましょう」


 静かに、剣の柄を握り締める。見据える先には全能の存在。最後の敵。


「――――――――いくぞ、バジレウス」


 深呼吸して、狙いを定める。深く息を吸い込んで、一思いに床を蹴る。

 タンっと音が鳴り響く。

 もう、意識は落ち着いている。もう、取り乱すことはしない。


 落ち着いて、冷静に。作戦通りに剣を振るう。



「――――――――雷玉、展開」


 バジレウスの周囲に電気を帯びた黒い玉が複数展開される。自動で敵意を認識して迎撃するバジレウスの攻撃。

 だが、それらが俺を迎撃することはなかった。



「――――――――な、なにっ!?」

 異変に気付き、バジレウスは驚きの声を上げる。

 その頃には全ての準備が整った。

 全ての雷玉には剣が刺さっている。雷玉の展開に合わせてアンジェリカがこれを無力化する。


 身体強化・砕


 全力でバジレウスの首を狙う。


 虹の斬撃がバジレウスを襲い、その首を断つ。

 確かな手応えがある。だが、それではバジレウスは倒れない。


 バジレウスの握る杖から雷が直接放たれる。それを避けて次の攻撃へと移る。

 完全に再生される前に肩から縦に右腕を両断する。


 バジレウスの首が再生し終わる。


「…………光弾」


 小さく囁かれる言葉。

 直後、建物の天井がピカッと光り、光の弾が降り注ぐ。


「――――――――くっ!」



 距離をとってそれを避けつつ、次の雷撃へと備える。

 だが、雷撃が放たれることはなかった。

 右腕の再生が終わり、バジレウスはジッと俺の事を見詰めている。


「……………まさか、神話時代の武器か」


「――――――――?」


 ボソッと言葉を呟いた直後、八方からアンジェリカの操る剣がバジレウスに突き刺さる。

 バジレウスの体から血が吹き出す。だが、依然ダメージは入っていない。


「…………無駄だ。何をしようと我を傷付けることは出来ない」


「傷付けることは出来ない?

 は、お前はユースティアじゃない。再生能力は確かに強力だ。だが、それ故の弱点もある」


「弱点だと?」


「そうだ。再生するから避ける必要が無い。攻撃を受ける事が当たり前になってるぞ、バジレウス」


 再び、アンジェリカの操る剣がバジレウスの肉を削る。アンジェリカが操る剣は回転しながらバジレウスを襲う。もし、再生能力がなければ致命傷にすらなり得る攻撃だ。



「それがどうした!?」


 それをものともせず、バジレウスは雷を放つ。

 それを避けながら、剣を構えてバジレウスに近付く。


 攻撃を受ければ傷ができる。再生能力で傷は消せても痛みは残る。痛みは苦痛。たとえ、それに慣れたとしても、その苦痛は積み重なる。


 だからこそ、バジレウスの攻撃を避け続け、攻撃を続ける。傷を与えれば再生でバジレウスの攻撃は多少緩む。


 バジレウスと違い、こっちは少しの傷が致命傷になりかねない。


 ………………なんというクソゲー感。だが、これを乗り越えなければ勝利は無い。



「全能が笑わせる。傲慢のヴァーテクスに改名したらどうだ!」


 戦闘の最中に口を開けば舌を噛むリスクがある。

 思考が乱れれば攻撃を受けかねない。

 それらをシャットアウトして、目の前の状況を処理することだけに思考能力を費やす。


 身体強化・鱗。


 頭の中に重く白い霧がかかる。

 眼球に痛みが走る。


 攻撃を受けた方が楽になれるんじゃないかと思考が鈍る。


 その度、思い出すのは苦痛の記憶。

 逃げ出した罪の意識。それをバネに弱みを掻き消す。問題ない。俺は充分に狂えている。


「……………ふん。ならば空中戦に切り替えようか」

 攻撃と再生。その繰り返しの膠着状態に耐えかねたのか、バジレウスの足が床から浮いた。

 そのままゆっくりとふわふわと宙に浮き、天井近くまで上がっていく。

 俺たちを見下ろすように、そこから雷を放ち始める。



「――――――――くっ、そ!!」


「これで貴様は攻撃に参加できまい」


 バジレウスが飛翔した以上、俺の攻撃はバジレウスには届かない。

 アンジェリカの剣でバジレウスに攻撃を当てるしかない。


「――――――――結構厳しいわ」

 ここまで沈黙で、剣を操ることに集中していたアンジェリカが口を開く。



「分かってる。プラン変更だ」


 この戦闘において、アンジェリカの負担はかなり大きい。

 展開された雷玉を自由にさせない為に即座に破壊。

 バジレウスに攻撃をしつつ、その思考を一部縛る。

 攻撃を受けないように常に移動しながら奴の攻撃に注意する。


 たったそれだけの事でどれだけの神経が削がれることか。



 俺には計り知れない。だからこそ、それを少しでも軽減するために、バジレウスへの攻撃は今まで俺をメインに据えていた。


 その役割を崩す。



 再び、能力の用途を切り替える。

 身体強化・砕。脚に力を貯め、一気に解き放つ。


 地上のアンジェリカを避け、床から壁。壁から壁へと蹴りながら高速移動。地上に展開された10個の雷玉を3秒で全て破壊する。



「――――――――っ!」


 僅かに、バジレウスの表情が曇る。

 脚力の限界突破。音速を超えなければこの技はなし得ない。

 もちろん、脳や脚に多大な負荷がかかる。



 だが、これでアンジェリカの負担は軽減された。


「全剣砲!」


 そう叫びながら、アンジェリカは能力を展開。それに伴い、全ての剣がその矛先をバジレウスに向ける。


 雷を放電し、剣を撃ち落とそうとバジレウスは試みるが、既に遅い。

 死角から忍び寄る剣がバジレウスの背中に突き刺さる。

 僅かに生じた隙を突くように、全ての剣がバジレウスに突き刺さる。


 傷を受け、自動再生が開始される。

 僅かに思考が乱れれば、飛翔能力はその権能を失い………。


 バジレウスの高度が落ちる。





 身体強化・砕。

 脚に貯め残していた力を解放する。



「これなら届く!」


 剣を構え、その勢いのまま床を蹴る。

 ドンッと大きな音が響き、床が割れる。そのまま、俺は天へと昇る。




 その時だった。



「時間停止」


 僅かな時間だった。ただ、その言葉だけが囁かれた。





 次の瞬間。突如、バジレウスが口から血を大量に吹き出した。


「――――――――!?!?」



 何が起きたのか分からない。ただ、これだけは分かる。俺たちの作戦は通じたのだ。


「アンジェリカ!!」


「わかってる!」


 咄嗟のことで剣を振り忘れたため、俺の体は失速してそのまま落下していく。だが、この気を逃したら駄目だ。俺が叫ぶ前にアンジェリカは既に動いている。



 無数の剣がバジレウス目掛けて飛んでいく。



 俺は空中で体勢を直し、綺麗に着地する。すると、1秒後、バジレウスの肉塊が上から降ってきた。


 嫌な音を立てて床に衝突しながらも、身体が勝手に再生されていく。その痛みは想像を絶するものだ。

 獅子のような髭まみれの顔は血で汚れている。その中で光る鋭い眼光が俺の事を睨んでいる。


「…………気付いてるか、バジレウス。再生、遅くなってるぞ」


 俺の言葉に、バジレウスはピクリと眉を動かす。

 直後、バジレウスは完全再生を果たし無傷の姿となる。


「…………何をした?」


「何もしてねぇよ。俺は、な」



 俺の言葉に、バジレウスはきっと不快な思いをするだろう。


「………………カルケリル、か」



 バジレウスは全能のヴァーテクス。その能力は能力を付与するというもの。

 だが、人間に能力使用の限界があるように。

 いくらヴァーテクスとして身体を創り変えようとも、限界は存在した。


 ヴァーテクスとしていくつまでの能力なら許容できるのか。



「お前は能力を付与できるだけで、消すことは出来ない。アンジェリカたちから能力を消してないのがその証拠だ。

 そして、この1300年。お前は必要になる度、自分に能力を足してきた。お前は神じゃない。その真似事をしているだけ。人間の延長線上にいるだけだ」


「……………許容限度を超えた、か」



「……………俺たちの勝ちだ」


 勝ちを確信し、宣言する。

 その言葉を受け、バジレウスの口角が持ち上がり、ニヤリと笑った。

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