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無名頂上種の世界革命  作者: 福部誌是
13 1300年前の恩返し
105/119

13ー3

 僕が記憶を取り戻していることを、絶対に悟られてはならない。





「能力を授ける」


 そう言われ、いろいろと悩んだ。思考を巡らせた。

 幸いか、それとも凶か。僕には自分自身で能力の内容を選択できる権利が与えられた。



 ……………………他者に能力を付与できるなら、自分自身にも付与できるはず。



 ここで、戦闘系の能力を選んでも、対処される場合がある。



 ユースティアは空間系能力。

 テラシアは生命を司る能力。

 アウルは未来視の能力。


 それだけ、自分に自信があるということか……………………。



 病の能力。冥界の支配権。炎能力。精神支配。


 彼女は、選ばなかった。





「……………………僕は、賭けの絶対遵守と、不正の発見能力で……………………」



 怪しまれない方を選択。





 他のヴァーテクスたちが散り散りになる中、彼女は留まることを選択した。

 心の中で、別れの挨拶を告げる。





 そうして、僕は僕のやるべきことを始めた。



 先ずは町の運営と発展。

 バジレウスやユースティア、アウル、テラシアが築いたヴァーテクスへの信頼と畏怖。それを逆手にとって、資金を手に入れる。



 ……………………先ずは、バジレウスの目から逃れれる場所を確保するために動く。

 資金を手に入れ、ヴァーテクスとしての権利を存分に使って人を動かす。


 街はどんどんと発展していき、持つものとして生まれた富裕層を相手に商売を始める。

 それからシステムの確立と運用。確実に金を巻き上げ、それを使って打倒バジレウスの準備を気付かれないように進める。


 少しずつ。でも、着実に。



 いかにヴァーテクスといえど、運が良かっただけ。

 たまたま奴の目につき、拾われただけ。


 能力を存分に生かしたが、それだけじゃ足りなかった。

 圧倒的な才能の無さ。


 とにかく、マイナスをプラスにするために時間を費やした。

 使えるものは、なんだって使う。



 金に困っている人間の人生を買い、使った。

 アウルの知識を存分に使った。ユースティアやテラシアの力を使って、街を繫栄させた。



 漸く、街に小さな地下空間を設置できたのは50年が過ぎた頃か。


 闇の中に階段と扉を設置。闇があれば、バジレウスの目は届かない。

 そして、この空間の存在がバレない限り、バジレウスの目をごまかせる。



 そして、鍛錬を始める。相変わらず、才能と呼べるものはなかった。でも、とにかく時間だけはあったから、つぎ込めるだけの時間をつぎ込み、戦闘に関する知識を増やして、鍛錬を積んだ。




 100年が経過するころ。

 最初の方にカルケリルに賛同してくれた人間も老い、多くの別れを体験した。最初は慣れることのなかった、常に見送る側という立場にも慣れ始めたころ。ようやく、街が理想の形になり始めた。



 バジレウスの正体、ヴァーテクスの謎を解くための試行錯誤を始める。

 ……………………成果が出ないまま時が過ぎる。






 事が起きたのは700年が経過するころ。

 テラシアが突如、姿を消した。この大きな事件は瞬く間に世界中に広がった。

 彼女の様子を見に行ったり、テラシアを捜す時間を設ける。



 テラシアが見つかることはなく……………………。


 暫く経ってから、この世界に怪物が闊歩し始めた。



 多くの事を察することができた。だが、口を噤む。

 彼女の苦しみと悲しみから目を逸らした。




 800年が経過する。


 テラシアの所在地と思わしき場所を発見。

 近付こうとしたが、怪物とぶつかり、撤退。



 900年が経過する。

 街が理想の形と一致するまで繁栄に成功。完全な管理方法と、システムを構築。世界中の飢餓に苦しむ子供に食料を分け与えるために動く。



 1000年が経過するころ。


「やぁ、最近順調だってね」

 街をアウルが訪ねてきた。


「あぁ、おかげさまでね」


 アウルはジッと僕を観察する。


「ほーう」


「な、なにかな?」


「少し、いや、だいぶ筋肉が付いたね」


「あ、あぁ。僕個人が走り回ることが多いからね」


「ノンノン。僕の目はごまかせないよ」


「……………………何を言ってるのさ」


「今夜、時間はあるかい?

 少し話したいことがあるのさ」



 そう言ってアウルの街へと移動する。

 驚いたことに、アウルが隠し持つ、暗闇の先の研究所に案内された。



「…………………………………………これ、は?」


「ヴァーテクスの研究所さ。この世界にはかなり少ないが、旧時代の書物が存在している。吾輩は今、それを調べていてね。すると、調べれば調べる程、疑問なんだよ」


「……………………なにが?」


「惚けなくてもいいさ。君も不思議に思っている筈だろう。だから、いろんな準備をしている。その中にはバジレウスが禁じているものもあると吾輩はみた」


「…………………………………………」


「なぜ、この世にヴァーテクスが存在するのか。吾輩は知りたい」


「…………………………………………それを、なぜ僕に?」


「吾輩から打ち明けるのが公平だと判断した。君の隠し持つ知識を教えたまえ」




 そこから、アウルとの協定が始まった。

 全てを話すことは出来なかったが。できる限りの協力を行った。



 アウルは、ヴァーテクスとしての人生を退屈に想っているようだった。


 そのころから、物の開発を行い始めた。




 1200年が経過するころ。

 多くの人材を金で買う事をした。

 そして、世界中に派遣する。賭けの絶対遵守。それを駆使して、裏切りのない従者をつくり、各ヴァーテクスの情報を集め始める。



 1290年が経過するころ。

 また、世界が動いた。

 無名のヴァーテクスが炎のヴァーテクスに喧嘩を売って負けたらしい。

 そして、そこでアンジーナ、とは別の名前を宣言したらしい。



「……………………アンジェリカ。それが、君の名前なんだね」


 その時の興奮と感動が、どんなに嬉しかったか。きっと誰にも分らない。

 彼女の変化に気付いたのは、バジレウスとアウル、そして僕だけだ。


 暫く、バジレウスの動きを警戒したが、動くことはなかった。どうも、特別な人間の少女と仲良くするのに忙しいらしい。



 アンジェリカに全てを話したい!

 その葛藤があった。でも、それはしないと誓った。

 これは僕が独りで始めた僕の自己満足の大きい勝手な恩返し。


 最後の最後に、君のとびきりの笑顔が見られれば、それだけでよかった。





 それに、僕とアンジェリカが手を組めば、流石にバジレウスやユースティアが動く可能性があった。

 なるべく限界まで、彼女は一人で戦うのが最善の手だと判断した。


 それでも、手助けはあった方がいい。


 ……………………そう言えば、この前買った人間の中に、剣の才能がある青年がいた。




 その青年を、彼女の最初の従者へと任命した。






 1300年が経過するころ。



 また、変化が訪れる。


 異世界の住人がこの世界に現れた。そして、彼女と出会った。


 そして、10年前の雪辱。フローガを撃破したのだ。


 本来、僕が勝ち取りたかった彼女の横に、その少年は居座った。

 少しだけ、ほんの少しだけ嫉妬した。負の感情があったのも事実だ。だから、すこし意地悪をしたりもした。





 そして、介入し始めることを決意した。干渉して、勝ちへと導く。それが僕にできる最善の支援。


 少年と少女の合流の支援。ヴィーネ戦への介入。



 テラシアの死とアウルの死。




 そして、街に来るように仕向け、そこから行動を共にしてきた。




 それが、カルケリル・テオスの全てだ。







 ♦♦♦





 雷撃がカルケリルの胸を貫く。


 衝撃が体全体に響き、カルケリルはその場でよろめいた。

 口から流れ落ちる赤い血を拭いながら、狭まる視界の先でバジレウスを捉える。




「…………ようやく、当たったな」


 バジレウスは杖の先端をこちらに向け、倒れるカルケリルを見て安堵のため息を吐いた。


「……………マジかっ」


 爆煙は晴れ、お互いにお互いの姿を視認できるようになる。


 バジレウスに目立った外傷はない。

 それでも、カルケリルは笑ってみせる。



 それがとてつもなく、バジレウスの目には不気味な姿に映る。


「…………何を、笑っている?」



「…………………………いやぁ、全て、ね」


 長い溜めを作り、カルケリルは言葉をこぼす。



「………………………全て?」



「………………………あぁ。予測、通りなのさ。彼の」


 カルケリルの言う彼が、一体誰の事を指すのか。

 バジレウスは一瞬理解が遅れた。

 だからこそ、次の行動に出遅れた。



「―――――――――っ!? しまっ、」



 カルケリルの体が大きく揺れ動き、そのまま倒れるかと思った瞬間、カルケリルは地面を蹴りバジレウスとの距離を詰めた。



 咄嗟に杖を構え直すバジレウス。

 だが、対処は間に合わない。


 カルケリルの手には勿論、ナイフか握られている。



 その瞬間、バジレウスは理解した。

 カルケリルの言う彼。それが誰を現すのか。その後ろ姿が脳裏に、唐突に浮かんだ。



 自身がその手で殺し、その目で死ぬところを確認した、男の姿を。





 未来視ではなく未来予測。

 能力を制限された男が1300年の中で培ってきた経験を元に導き出した答え。




 それに彼らは導かれてきた。

 そして、その場を全て整えてきたのが、今目の前で対峙する男なのだと。



 バジレウスの頭にナイフが深々と刺さる。

 次の瞬間、バジレウスの頭が弾け飛び、その衝撃でカルケリルの身体も吹き飛んでいく。




「…………………君は今まで、一度も僕を警戒してこなかった。それが何故か、分かるかい?」



 床の上を転がり、停止した所で身体を起こしたカルケリルが口を開く。



 その声を黙って聴きながら、全てが無駄だと心の中で吐き捨て、回復を待つ。

 弾け飛んだ脳の中身はドロドロに溶け落ち、塵となって消える。

 そして、失ったものは新しく生えてくる。


 不老であっても、不死身ではないヴァーテクス。

 だが、全能であるが故かバジレウスだけは最も例外に近い。

 完全な自己再生能力。


 それが機能する限り、バジレウスは死ぬことも、傷を負うこともない。



「…………………貴様らがどれだけ反逆を志そうと、全てが無に終わるからだ」


「…………………そこだよ。だから、思ってもない方向から刺されるんだ。わざわざ戦闘向きじゃない能力を獲得し、今までずっと戦闘する場面を見せてこなかった」




 1300年間、努力し続けた。

 そして、騙し続けた。

 カルケリル自身が培ってきたものを一度も披露することなく、この場面の為だけに隠し通してきた。




 最後の最後に敵を打ち負かすために。



 テラシアも、アウルも、デービルも、カイロンも。

 どんな死も受け入れてきた。



 たった一度だけ。最後の最後に勝ちを手にする為に。

 それ以外の全てを犠牲にして、騙し続けた。



「……………僕は、ギャンブラーだ!!」



 カルケリルは大胆不敵に、笑う。


 それが例え、見栄だとしても。



 最後まで、カルケリルはそうあり続ける。

 それが、カルケリルという名を得た男の本質だった。



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