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無名頂上種の世界革命  作者: 福部誌是
13 1300年前の恩返し
103/119

13-1

 タクミや、アンジェリカがユースティアと戦っていた頃、城の上層部にいたバジレウスの元を訪れた人物がいた。


 その人物は、下層へ降りようと準備を終えたばかりのバジレウスを遮るようにして現れる。



「…………やぁ、そんなに急いで、どこに行くつもりなんだい?」


 その声に、バジレウスはその場に停止する。

 そして、静かにその人物を睨み、僅かに口を開く。



「…………カルケリル」


 名を呼ばれた人物は微笑みを浮かべ、挨拶するかのように片手をあげる。


「やぁ、元気にしてたかい?」


「貴様らが全員死ねば、それで全て解決だ。

 何故、我を裏切った」


 バジレウスは厳つい顔をカルケリルに向け、手に持った杖を強く握りしめる。


「…………何故、って言われてもね。

 それが僕の使命だと、そう決意したからさ」


「使命、だと?

 笑わせるな。本気で我を殺せると、そう思っているのか?」


「思ってるよ。じゃなきゃ、ここまで来ない」


「……………貴様には、無理だ」



「…………ふ、そうかもね。君を倒すのは彼らの役目だ」



 そこで一旦言葉を区切ったカルケリルはおどけてみせる。

 それから、腰のポーチへと手を伸ばし、言葉を続ける。

「……………でも、いつまでも見下していると、痛い目をみるかもよ?」

 言葉と同時にポーチから取り出した短剣をバジレウスの足元へと投げる。


 バジレウスの足元に刺さった短剣は、直後弾けて、周囲を巻き込む小さな爆煙がその空間に広がる。



「…………こんなものでは、本気で殺せると?」


「こんなもの、なんて酷いじゃないか。

 これには僕の親友が付けた、マジカルナイフっていう素晴らしい名前があるんだよ!」


 続けてマジカルナイフを投げ続け、爆発を起こし続ける。


 だが、爆煙の中に消えたバジレウスの気配が消えることは無い。


「口説いっ!」


 その雄叫びと同時に、爆煙の中で何かが煌めく。

 途端、雷撃が顔を覗かせカルケリルの足元を焼き払う。


「うわっ、と。危ない!」


 爆発の中から悠々と姿を現すバジレウスには傷一つ見当たらない。

 それを確認して、カルケリルはベロを出す。


「少しは効いて欲しかったぜ」


「…………底が、見えたな!?」



 バジレウスを護るように周囲に浮かぶ黒い玉。

 雷玉がカルケリルに向かって空間を裂く。


 それに向かってカルケリルはナイフを投げつけ、爆発で雷玉を破壊してなんとかやり過ごす。


 そこで一息付き、手の甲で額に浮かんだ汗を拭った瞬間だった。


 カルケリルの背後に、死の腕が伸びる。


「―――――――――っ!!!?」



「…………終わりだ」


 冷たく、小さく呟かれた声。

 その直後、バジレウスの腕が発光し、雷が直接カルケリルの、身体を焼く。

















 ………………………はずだった。



「………………っ!!?」


 声にならない声。

 それを漏らしたのはバジレウスの方だった。



 一瞬、何が起きたのか理解出来なかった。


 直ぐに視界を元に戻し、状況の理解に思考をフルスロットルさせる。


「な、なにが。…………………我、は。倒れているのか!?」


 すぐさま起き上がり、雷玉を周囲に5つ展開する。





「言っただろ。いつまでも見下していると、痛い目をみるかもよって」


「…………貴様、何をした!?」

 ギリっと奥歯を噛み、再びカルケリルを睨むバジレウス。

 その視界の先に映る男は、不敵に笑って応える。



「………………まだ、表情は崩れない、か」



「…………………貴様、一体、何の能力を使った?」


「能力?

 使ってないよ。僕の能力は君も把握しているだろ。

 賭けの絶対遵守と、不正の発見さ。誰かを打ち負かせる特別な力なんて、持ってナイナイ」


「…………惚けるなら、それでいい。貴様がどんな小細工を仕掛けてこようが、結果は変わらない」



「そう?

 それなら、いいさ。

 ……………ところで、今日は女神様、見かけないね。この部屋の近くにはいないのかな?」



 そこでようやく、変な間が生まれる。


「……………………………………………貴様、なぜそれを?」



 長い沈黙の後、その疑問だけが呟かれる。


 カルケリルは再び微笑みを向け、惚けてみせる。

「さぁ、何故、だろうね」



「……………………いや、違うな。

 …………………………いつ、からだ?」



「そうだねー。あえて言うのなら、最初から、かな」


 その言葉の後、カルケリルの姿が消える。

 否、消えるように、バジレウスには見えた。



 その直後、バジレウスの左胸に短剣が深々と突き刺さる。


「―――――――ぐっ!」


「ハッ、やっと表情を崩したな。バジレウス!!」



 その直後、バジレウスの胴を上下に破裂させる爆発が鳴り響き、爆煙が部屋の中に広がる。


 それを回避するため、カルケリルは後ろに跳び、バジレウスから距離をとる。

 だが、それを追うように爆煙を突き破って雷が鳴り響く。



「―――――――不死身かよっ、嫌になるな!」



 それを軽く避けながら、ナイフを投げ続ける。












 爆煙の中心で、バジレウスは思考していた。


『最初から』

 というのはいつのことを指すのか。


「…………まさか。いや、そんなはずは無い。

 アンジーナが気付く素振りはあった。だが、奴には無かった。

 いや待て。よく思い出せ。いつから我の計画が崩れた?

 その首謀者は本当にアンジーナなのか?

 そもそも、アウルを誑かしたのは誰だ?

 我には現在の全てを見通す千里眼がある。なのにも、アウルやカルケリルの裏切りを直前まで知ることが出来なかったのは何故だ?」



 そこに至ったことで、ようやくバジレウスは自分の置かれている状況を全て把握した。



 そこで、爆煙の外から声が響く。

 それは今、最も憎むべき敵からの挑発だった。


「バジレウス。君はいくつかの過ちを起こしている。

 それを教えてやろう」



「…………我が、過ちだと!?」



「そうだ。ひとつ、わざわざ僕たちを殺すためだけに世界中を水浸しにしたこと。この戦いに僕たちが勝とうが負けようが、元の平和な世界には戻らない」



「…………それは、全て承知の上で行った。我に過ちなどない!」



「………そうか。ふたつ、千里眼を絶対だと信じている事。その能力にはいくつか欠点がある。ひとつは君自身が知らない場所は覗けない事。だから街の地下にある秘密部屋を除くことも出来ない。ふたつ目は暗闇の中を見透す事は出来ないこと。地下への入口を闇で閉ざしてしまえば、その部屋への人や材料の移動を知る事は出来ない」



「………………………っ!」


 アウルとの密談。船と呼ばれる乗り物の製造。

 それらの問題が解決され、盲点だったことをバジレウスは認めた。



「…………みっつ。アンジェリカの反逆への対処を怠ったこと。女と一緒に過ごしたいという欲、自分が全能であるという圧倒的な自負。それらによる怠慢のツケがこの結果さ」


「…………どれもこれも、些事だ。我を焦らせる要因にはならない」



「そうやって、色んなことを後回しにしてきたんだろう。そして、悪い結果を真っ直ぐに受け入れない。周りを見下し、侮る。だから足元をすくわれるんだよ」


「口説いな。今から全てを焼き払えば、それで解決する話だ」



「そうかい。……………そして、君の最初の過ちは僕をアンジェリカに再会させてしまったことさ!」



 そうして、カルケリルの扱うナイフがバジレウスの脳を貫いた。瞬間、頭が弾け飛ぶ程の火力が炸裂し、新たな爆煙が部屋の中に満ちることとなる。





 だが、バジレウスの吹き飛んだ頭は1秒も経たずに勝手に修復される。


「………………再会、だと?

 意味が分からぬわ!」



 雷を走らせるが、バジレウスは手応えを感じない。

 その事に憤りを募らせつつも、周囲を警戒する。





「言っただろう。最初から、だって。

 僕はヴァーテクスとして生まれ変わったあの日、アンジェリカと再会した時から、人間だった頃の記憶を取り戻している、ということさ!」



「―――――――――な、なに!?」



 バジレウスの驚きの声が初めて響き渡る。


「これは、僕の。1300年前の恩返しだっ!」



 その声と、爆煙の中から飛び出したカルケリルがバジレウスの首をナイフで切断したのは、ほぼ同時だった。


 そして、刹那の瞬間。



 カルケリルは思い出す。



 初めて彼女と出会った日の事を。



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