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無名頂上種の世界革命  作者: 福部誌是
12 偽りの想い
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12-4

「オレを止めるだぁ?

 いつまであまいこと言ってんだ。オレを止めてぇなら、殺してみろ!」


 ルイーズの猛攻撃に、俺は下がりながら対応する。

 勢いよく振るわれるバルバードにタイミングを合わせ、弾きながら少しずつ下がり続ける。



「……………………止めてみせる!」


 俺の答えが気に入らなかったのか、ルイーズは眉間に皺を寄せ、更に距離を詰めてくる。


 ルイーズは猪突猛進タイプに見えて、意外に多くの事を考えている人だった。

 初めて出会った時の印象は、それこそがさつで、大雑把で男勝り。いかにも脳筋タイプといった感じだった。


 だからこそ、何事にも真剣に向き合う。そんな女性だった。



 ルイーズと出会った後、直ぐに始まった地下迷宮の攻略。

 その中で、何度も彼女に助けられた。


 その行動に、偽りはなかった。




「ふざけんな!

 真面目にやれ!」


 目の前で、血液が自然の流れに逆らい、集まっていく。

 それは液体から個体へと変化し、鋭い刃となり、こちらの首と胴を切断するために猛威を振るう。


「俺は、真剣だ!!」


 ルイーズの言葉に、叫び返して血の刃を弾き飛ばす。

 その質量は重く、ひとつ飛ばすだけで腕や足の血管が何本か千切れるくらいの疲労感があった。

 それがあと3つ。


 こちらを休ませることなく次々と襲い掛かってくる。


 単純な話だ。

 論理的に考えて、ルイーズを殺すことを選択すれば、もっと単純だったかもしれない。

 目的のために、冷静になる必要があるのかもしれない。

 時には残酷な決断を下す鋼の心が必要なのかもしれない。



 それらを全て吞み込み、俺は足を進める。


 舞い上がった砂ぼこりの中、脚力を強化する。


 ギリッと、奥歯が少しだけ欠ける音がする。


 そして、地面を蹴った。



 命の奪い合い。かつて仲間だった人との殺し合い。

 ひとつミスればすべてを失うかもしれない。その中で、俺たちは我が儘を押し通そうとしている。


 これは、呪いの道。


 たったひとつ。

 この身体を動かす、信念がある。


「……………………俺は、あの日に、……………………誓ったんだ!」


 砂ぼこりから飛び出し、ルイーズにきりかかる。

 彼女は驚きながらも、バルバードでその一撃を受け止めた。


「……………………なっ!」


「もう……………………二度と。……………………仲間は、見捨てない!!」


 一度逃げ出し、再び立ち上がるきっかけを貰ったあの日から。

 ずっと、その誓いを通す為だけに進んできた。


 バルバードごとルイーズの身体を吹き飛ばし、更に追い打ちをかける。



「ふざけるな!

 オレを、まだ仲間と呼ぶ気か!?」


「あたりまえだ!」


 俺の答えに、一瞬だけ彼女の目が泳ぐ。


「オレは、ずっとお前たちを裏切っていたんだぞ!

 お前たちの仲間になったのだって、そういう命令があったからだ!

 オレは……………………オレは、一度もお前たちの仲間には、なってねぇ!」



「それは、嘘だ!」


「嘘じゃねぇ!

 オレはお前たちの居場所や作戦を、ユースティア様に伝える為だけにお前たちに近付いた

 お前たちを仲間だと思ったことは、一度もない!」



 バルバードに押し負け、距離を取る。


 俺はそこで、剣を下げる。

 そして、真っ直ぐにルイーズを見た。



「……………………嘘だ」


 ルイーズは肩で呼吸を繰り返し、顔を俯かせている。

「……………………嘘じゃ、ねぇよ」



「……………………じゃあ、なんでそんな悲しそうな顔をしてるんだよ」


 それが、全ての答えだった。

 息を呑み、顔を上げたルイーズ。その表情がすべてを物語っている。



 俺が最初に感じた印象より、きっと多くの事を考え、俺たちを欺こうとした。

 それでも、不器用な彼女にはそれは相当苦しいことだっただろう。


 俺たちの旅は、この世界の謎を解き明かす禁断のものだ。

 その核心に近付けば近付くほど、ユースティアに傾けていた信仰心が揺らぐのを感じたはずだ。


 そして、彼女は俺たちを欺き、ユースティアと連絡を取り続けた。

 そこに苦痛がなかったなんて嘘だ。

 何事も真剣にとらえるルイーズが、誰かを騙す行為に苦痛を感じない筈がなかった。


 それでも、俺たちを欺き続けるために、嘘の仮面を被り続けた。



 でも、心は限界だった。

 彼女の両腕には、いつも白い包帯が巻かれていた。


 ルイーズはいつも、能力の特訓だ、と言っていたけれど。

 それは嘘。腕から血を流し、文字を形成。それをユースティアに向かって飛ばす。

 それが彼女に与えられた命令の全て。


 だけど、非効率だ。




 ルイーズは何も言わないまま、また俯いてしまう。


「ずっと、腕の血でユースティアにメッセージを送っていたんだろ。お前の腕にはずっと白い包帯が巻いてあるもんな。ずっと、気付いてほしかったんだろ。誰かに、止めてほしかったんだろ。じゃなきゃ、わざわざ分かりやすい場所に、傷なんかつくらない。ほんとうに能力の特訓だったら、ひとりでコソコソやる必要もない」



 俺の言葉に、ルイーズは身体を震わせ、バルバードを地面に落とす。

 乾いた音が、部屋の中に響く。


 今まで、ずっと俺たちを欺き続けていたと。お前自身が嘘をつくなら。


「今、お前の本当の声を、聞かせろ! ルイーズ!」



 ルイーズに踏み込む。

 人には誰しもプライベートというものがある。

 簡単に踏み入ってはいけない領域があり、少なからず距離を取ったり、壁を築いて生活している。

 そこに踏み込むことは怖いことで……………………。


 人に嫌われたくなくて、築いた信頼を失いたくなくて。


 無意識に、脚を遠ざける。


 人と付き合うのにも、それ相応の距離感というものがある。





 でも、それだけでは駄目なのだ。


 真剣に人と向き合い、踏み込んでいく。


 そこに真面目さがあれば、築いた信頼はそんなに簡単には失われない。


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