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無名頂上種の世界革命  作者: 福部誌是
12 偽りの想い
100/119

12-3

 

 俺とアンジェリカ。ユースティアとルイーズが向かい合う中、最初に動いたのはユースティアだった。


 敵意むき出しの構えから躊躇いなく振り払われる腕に合わせ、防御不可能の斬撃があらゆる物を切断していく。


 コンクリートの地面や壁面に大きな斬撃の跡が増えていく。


 それに合わせ、ルイーズもバルバードを構え、突っ込んでくる。


 アンジェリカを攻撃することは叶わないから、勿論狙いは俺だ。


「ルイーズ!」


 俺は真っ直ぐに彼女と向き合い、剣を交える。

 バルバードの重さにより、体が吹き飛ぶが上手く着地してみせ、同時に地面を蹴る。


 ルイーズの持つバルバードと俺の持つ剣では質量が違いすぎる。真正面からの衝突ではこちらが押し負けるのは明白だ。


 ……………でも、それは俺が能力を使わなかった場合の話だ。


 身体能力を強化して、腕力に力を注ぐ。振り下ろされるバルバードを弾き返し、息をつく。


「…………本当に俺たちと戦うんだな!」


「そうだ!」


 俺の言葉に、ルイーズは覚悟を決めた表情を見せる。


「私を、忘れるなよ?」

 そこへ、間髪入れずにユースティアが割りんでくる。

 振り抜かれる腕から放たれる空間切断攻撃。

 それを避けようと試みて…………。



 血の槍に脚が貫かれる。



「ぐっ……………ぁ」


 ユースティアとルイーズの連携攻撃に、俺の体は斬撃に晒されるはずだった。



「っ、ぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 俺と迫る斬撃の間に飛び込み、アンジェリカは両手をかざす。全てを切断するはずの斬撃はアンジェリカの手元で火花を散らし、数秒後。


 僅かに俺たちから軌道をずらし、後方の壁に激突した。


「アンジェリカ!?」


「だ、大丈夫」

 そう言って強がるアンジェリカだが、どう見ても大丈夫な状態じゃない。

 口や鼻、目から血をこぼし、両腕が真っ赤に腫れ上がっている。


 アンジェリカの能力は他への干渉能力。

 その力を用いて、主に剣を操って戦闘している。

 操ろうと思えば何でも操れる能力だが、苦手なものがある。


 それは、他者の意思がかかっているものだ。


 アンジェリカが操る物の抵抗力が大きければ大きいほど、アンジェリカはそれを操れなくなる。


 フローガ戦で炎を操った時と比べ物にならないほど、疲弊したアンジェリカを前に、俺は覚悟を改める。



 そこへ、怒号が響く。


「俺を、忘れるんじゃねぇ!」


 アルドニスが叫びながら、槍に纏った風を暴発させる。

 巻き起こる竜巻に、ユースティアは思わず障壁を展開させる。



「………アルドニス!」


 アルドニスは失った利き腕の代わりに、左腕と左脇で槍を持っている。


「大丈夫だ。このくらい何ともねぇ!」


「ここからは私達も再戦します」


 ローズさんが駆け寄ってくる。


 集まった3人を前に、俺は強く目を瞑る。


「…………どうしたの、タクミ?」


 そんな俺を見て、アンジェリカは心配そうな目を向けてくる。それが少し暖かくて、少しだけこれから発そうとする言葉に詰まった。



「…………………みんなは、ルイーズを、許せるか?」


 その一言が全てだったと思う。

 多分、俺の一言で、その場にいる3人は俺の意図を察してくれた。


「大丈夫だろ。あいつが悪いやつじゃないって事を俺たちは知っている」



 真っ直ぐな言葉。


 正直、器がデカイなと思った。

 でも、それだけで片付けられない何かがあった。


 仮に、今まで一緒に過ごしてきたルイーズが全て嘘だったとしても………。

 俺たちに対する態度が偽りだったとしても………。

 俺たちを騙し続けていたのかもしれないけど………。



 そうやって思える事に、凄く幸福を感じた。



 …………正直、ローズさんは少しだけ不満気な表情を見せた。

 でも、嫌とは言わなかった。




 積み上げた信頼はたった一つの小さな裏切りで、全て簡単に崩れると思っていた。

 信頼を築き上げることはすごく大変で、崩すのは簡単なのだと………。



 でも、この世界に来て、この人たちと出会って、寝食を共にして、互いに命を預けあって………。


 そんな生活が俺の中の考えを変えた。


 信頼を崩すのだって、そんなに簡単じゃない。




「…………タクミ。ルイーズの事。任せたわよ」




 そう、背中を押され、俺は強く剣の柄を握り締める。


「あぁ。任された」










 竜巻が収まり、視界が開ける。


 対するユースティアは瞬間移動で直ぐに俺たちの死角へと飛ぶ。


 それをサポートするように、ルイーズの血の刃が展開される。


 ユースティア単体でも大変だが、ルイーズの攻撃が合わさることで、隙の無い連携が生まれる。

 この2人を同時に攻略するのは骨が折れる。




 だから、引き剥がす。




 アルドニスが展開する風により、ルイーズの体が吹き飛ぶ。


「おわっ!」


 その風に、俺自身も乗り、そのまま隣の部屋へと吹き飛ばされる。



「…………くそっ!」



 アンジェリカとローズさん、アルドニスはユースティアの相手。



 俺はルイーズの相手だ。





「…………なるほど、オレを引き剥がしたか

 こうすれば勝てると思ってるのか?」


「さぁ、どうだろうな。

 でも、これならお前と話が出来るだろ?」



 俺の言葉に、何を思ったのか。

 ルイーズは舌打ちをする。



「…………………正直、こうはならねぇと思っていた。

 オレの裏切りは直ぐにバレるって。そう思ってたのによ」



「…………………気付いてたよ、正直。

 カルケリルと出会った頃くらいには」


「じゃあ、なんで直ぐに問い詰めなかった!?」


 ルイーズが牙を剥く。

 その瞳には怒りが宿っている。



 大広間では今でも激しい殺し合いが展開されている。

 対して、隣の小さな部屋に飛ばされた俺とルイーズの間には深まり続ける溝があるのみだった。


「さぁ、なんでだろうな…………」


「オレを直ぐに殺しておけば、お前たちが勝てたかもしれねぇ。お前たちと………………殺し合わずに、済んだのに」


 ルイーズの痛々しい想いがこぼれる。




「そうかもな。でも、俺に後悔はない」


「…………そうだな。オレにもねぇよ。今のは忘れてくれ」


 ルイーズの表情に、力が戻ったのを感じた。


「お前を殺して、ユースティア様に助力する。そうすれば、アンジェリカ様もお終いだ」


「……………そうはさせない。そうさせない為に、お前を止める」



 一度すれ違えば、もう二度と戻れない。


 そんな予感を胸に、俺たちはお互いの武器を交える。



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