免許更新（コント台本）
免許更新をモチーフにした不条理コントです［ コント台本 ］
（ゲラゲラコンテスト４応募作）
登場人物
①講師（以下「講」） ②若者（以下「若」） ③年配者（以下「年」）
教壇と机が並べられている教室
机には年配者１人が座っていて、そこに扉を開けて若者が入ってくる
若：講習かぁ… 面倒くさいなぁ
若者、年配者に声を掛ける
若：後ろの席空いてますか？
年：ああ。 君、講習初めて？
若：ええ、こないだ免許取ったとこなんで
年：なんだよ、いきなり違反者講習か
若：お恥ずかしい限りで。おじさんは結構なベテランさん？
年：まぁな、ちょっとしくじっちまって
若：ちなみに、どんな違反ですか？
年：ちょっと操作ミスって人を殺っちまってな、２人ほど
若：ちょ、ダメじゃないですか！
年：仕事で免許使ってりゃよくあることよ、気にしない気にしない。ちなみに、あんちゃんは何の違反したんだ？
若：ええ、実は…
教室に講師が入ってくる
講：講習始めるぞ、席着けよー。なんだ今年は二人だけか
講師、教壇に手をついて話を始める
講：今日ここに集まったのは複数回の違反行為があった方です。君達が使う道具は、少し使い方を間違えると容易に人を傷付けてしまいますし、場合によっては罪のない人を殺してしまうことにもなりかねません。だからこそ、今日の講習は他人事だと思わないでしっかり学んでいって下さい
年：話が長ぇな
講：そこ、私語を慎むように。君は… 確か罪のない人を二人殺めたんだな。反省の色が見えんな
講師、教壇をバンと机を叩く
講：では、これから講義を開始する。まずは教材を机の上に出すように
若者と年配者、鞄からテキストと拳銃を取り出す
講：君達が普段使っている、これはなんだ
若＆年：拳銃です
講：そうだ。じゃあ、君たちが持っている免許は何の免許だ
若＆年：暗殺者の免許です
講：よろしい。では、テキスト１０ページから。そこの君、読んで
指をさされた若者、読み始める
若：見通しの良い交差点の先にターゲットがいます。あなたは何に注意しますか
講：じゃあ君、何に注意する？
講師、年配者を指さす
年：えっと、きっちり狙って撃ちます
講：そうじゃないだろ！ 『横から急に関係ない人が出てくるかもしれない』『ひょっとしたらターゲットじゃないかもしれない』と、常に細心の注意を払うんだろ！
講師、若者を指さす
講：ちなみに、これをなんと言う
若：『かもしれない射撃』
講：よろしい、常日頃から誤射のない確実な暗殺を心掛けること。次はテキスト２０ページだ
講師、年配者を指さす
年：左右に駐車車両がたくさんあり、その車列の先をターゲットの車が走っています。タイヤを撃ち抜く際に何に注意しますか
講：何に注意する？
年：数撃ちゃ当たるだろうから、弾切れに気を付けます
講：『当たるだろう』じゃないだろ！
講師、また机をばんばん叩く
講：駐車車両が発進するかもしれないし、ターゲットの車が急に曲がるかもしれない。きっと当たるだろう、車の進行方向が変わらないだろう、そういう考えが一番よくない。こういうのをなんと言う、君
指さされた若者、答える
若：『だろう射撃』
講：そうだ。間違いが起きないように、きっちり予測をするように
年：面倒くせぇ。ターゲットさえきっちり片付けりゃいいじゃねぇか
講：なんだと
講師、年配者を睨む
講：これを見てまだそんなことを言ってられるのか！
講師、教壇の下からクマのヌイグルミを取り出す
講：おい、これを撃ってみろ
年：え？
講：いいから撃ってみろ
年：講習だから弾入ってねぇけど
講：撃つ振りだけでいい、さぁ
年：ば、ばーん！
講：だーん！
講師、反動をつけてヌイグルミを後ろへ放り投げる
講：誤射の事故が起きた時、撃たれた人間はこんなにふっ飛ぶんです！ 君たちは免許を持ったヒットマンです。民間人を巻き込まないようプロである自覚を持って、セーフティな暗殺を心掛けないといけません。あとは…
講師、年配者の方へずかずかと歩いていく
講：なんだ、その構えは
講師、年配者が銃を構えている腕を取る
講：腕はもっと開いて、そうそう10時10分のポジションだ。それから、撃つ前にきっちり右見て、左見て、周囲の安全を確認するんだ！
きーんこーんとチャイムが鳴る
講：時間だ。今日聞いたこと忘れるんじゃないぞ
年：はぁ、やっと終わったか
若：お疲れ様
年：ひでぇ目にあったぜ、あ、そういやさっきの話だけど、お前はなんのヘマをやらかしたんだ？
若：それはね…
年：って、お前の銃、安全装置はずれてるぞ。いくら弾が入ってないからって…
たーーん、と銃声
年配者が腹を押さえて倒れる
若：よし、お仕事完了っと
年：お、お前…
若：組織のボスからあんたの始末頼まれてたんだよ。あんたみたいないい加減な仕事されたらウチらの信用台無しだ
年配者、動かなくなる
若：じゃあ、俺もとっとと帰るか
講：ちょっと待て、お前今免許証持っているのか
若：あ、いけね
講：おいおい、お前免許不携帯でこの講習呼び出されたんだろ
若：すいません
講：講習追加だ。次の１０時から始まる補修出てこい
若：うわー、最悪だよ
若者、すたすたと教室の外へと出ていく
講：こらー、ちゃんと死体片付けてけー！
─ 了 ─
ゴールド免許目指して頑張りましょう
