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PTを解散した俺、ただの農家に転職しました。〜考え直す?決まっているのに考え直す必要はない!〜

 

「はい!解散します!」


 手を叩いて声高々に宣言すれば、もちろんパーティの面々は目を点にして俺を見つめた。


 最初に俺を引き留めようと、肩をがっしり掴んできたのは、このパーティの頼れる兄貴、聖騎士のマンディだ。王国直属の云たらかんたらで、とにかく暑い男。


「いやいや待て、考え直せ。むしろ考える前に戻ってこい」

「マンディちょっと何言ってるかわかんない。考える前に戻ったら、マンディが仲間に加わる前まで戻らないといけなくなるよ?」

「え、そんなに戻るのか……?」


 俺はマンディの手をどけて、目を見て諭す。

 次に俺の服を掴んできたのは、うさ耳幼女改め聖女のウェンディだ。ちなみにこのウェンディは、聖なる炎の力を宿した癒しの云々で、つまりはうさ耳幼女属性持ちの、ロリババアである。いいか、ババアだ。


「あれか?最近流行りの、追放とやらか?ならばその必要は全く以ていらぬぞ?何せ、お主の能力の必要性も、そして人間性の良さも儂らはよく理解しておるからの」

「まずこれは追放じゃありません。解散です。その違いをよくよく読んで理解してから、もう一度発言をよろしくお願いします」

「嫌じゃ嫌じゃ!追放も解散も嫌じゃー!」


 ワガママ言うなよ!

 てか何?最近流行ってんの?

 そういえば、ギルドのお姉さんも言ってたな。


(以下お姉さんの言葉)

「最近では自分を過大評価しているパーティが、有能な人材を切り捨てているんですよ。まるで仕事場みたいですよね。ほらあれです、上司がイキれるのは部下が雑用をこなしているからなのに、それに気づかず、むしろ自分が優秀だと思いこんでいる糞上司」

(以上お姉さんの言葉)


 ちなみにうちのパーティはこれに当てはまらない。

 さっきウェンディも言ってくれたが、お互いがお互いを評価してるし、誰かが有能とか無能とかそんなのない。むしろ、自分ではこなせないからこそ、お互いをリスペクトしている。


 けれども。

 けれども、だ。


 それとこれとは関係ないのだ。


「ねぇ、なんでいきなり解散なの?私のこと、嫌いになった?」


 そう上目遣いをしてくるのは、メンヘラもとい元暗殺者のサーシャ。暗殺者の割に派手な格好、それからどぎつい化粧。元は綺麗なのだし、そこまで濃くしなくてもというのが俺の感想だ。


「嫌いになってないし、そもそも俺とサーシャってそんな関係じゃあないよね」

「他に女が出来たの?私のダーリンに色目使った女とか誰よどこにいるのよ世界の果てまで追いかけてころ」

「落ち着け。とりあえず世界の果てには魔王がいるけど大丈夫か?一人は危なくないか?」

「ダーリン!私を心配してくれるの!?やっぱり私ダーリンといる!」


 抱きついてきたサーシャを押しのけて、俺はいつ理由を言うかを見計らう。別に大した理由じゃない、きちんと説明はすべきだとは思うけど。


「それで解散したい理由なんだけど」

「混沌の気は汝を蝕み恐れさせる」

「……なんだって?」


 相変わらず意味のわからない単語を並べ立てているのは、呪術士のサンだ。真っ黒いローブの内側に、よくわかんない薬を大量に仕込んでいて、正直薬をいつ盛られるかわかったもんじゃない。

 サン、なのに暗いのはツッコんじゃいけない。


「光に触れし心は満たされ、我を以てして悠久なる時を過ごさせん」

「コミュニケーションってわかる?言葉のキャッチボールね、はいこれ大事」


 少し悲しげに目を伏せたサンに、内心謝って、それからやっと本題に入れると俺は大きく息を吸った。


「飽きた」


 これだけ言うのに、どれだけかかったことやら。

 ぽかんとしているメンバーに構わず、俺は腕組みして続ける。


「いやぁ、そもそもさ、なんで魔王を倒さないといけないのか考えた時にさ、ふと我に返ったわけよ。なんだっけ、王様が言ってたあれ。王女を嫁にとか言ってたけど、なんで初対面に近いよく知りもしない子を、友達とか彼女とかをすっ飛ばして嫁にせなあかんのかと」

「き、貴様、王女を愚弄するのか!」

「落ち着けマンディ。むしろ考えろ、見合いどころか合コンもせずに付き合えると思っているのか」


 俺は無理だ。第一、顔すら見てないんだぞ。せめて顔くらい見せてくれ。


「ふむ。ではお主はどうするつもりだ?」

「それだ、それだよ。農家になろうと思ってる。自給自足の生活って憧れない?だから解散!」

「私と毎日あんなことやこんなことして過ごせるね、ダーリン!」

「毎日土いじりだけど出来んの、サーシャ」


 虫嫌いなサーシャに出来るわけがない。項垂れるサーシャをよそに、俺は手を何回か叩いて「はい、解散」と告げて背を向けた、のに。


「我は生命の息吹を聞きたし、その声すらも愛おしい」

「……何?なんだって?」


 振り返った先の、全員の顔を見て、とてつもなく嫌な予感がしたのだ。



 半年後。



 額の汗を拭って、腰をポンポンと叩く。

 夏大根の収穫まであと少しだ。次に茄子を植えて、あとはピーマンもやりたい。春に撒いたジャガイモは、そろそろ収穫時かもしれない。


「来年はキャベツもやりたいなぁ」


 と空を仰いでいると、遠くから俺を呼ぶかつての仲間たち。そう、俺の農家転職への道は、見事に仲間たちも転職させてしまったようだった。


 え?魔王?

 それはどっかの誰かが、なんとかしてくれるんじゃないだろうか。たぶん、な。


「おおい、腕のいい農家がいるって聞いたが、君かぁい?」

「あ、はい、俺です……って、魔王!?」

「え?あ、はい、魔王です。野菜買わせて欲しいんだけど」


 前言撤回。

 魔王はうちの、顧客になりそうです。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 短い中に落ちをちゃんとつけておられてくすりと笑わせてもらえる作品でした。 [一言] 最近は短編まで長くなっている自分としては、自分の短編の書き方ついて考えさせられました。私は何処で道を踏み…
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