20 テオからのプロポーズ
テオは私が偶然張った守護結界があるけれど焚火の番をすると言って出て行ってしまったので、一人で幌馬車の中に横になっていました。
すると昼間に感じなかったやりきれなさが押し寄せてきてますます眠れなくなりました。
私は幌馬車を出てテオの横に座りテオの肩にコテンと頭を預けました。
「どうしたの? 野営なんて初めてだから眠れない?」
テオが心配そうに尋ねくれたけれどそのまま暫くじっとしていました。
「いろいろ考えちゃって眠れなくて……。聖女も頑張っていたけれど結局追放されちゃったし、婚約は破棄されたし……」
「……」
テオが黙って聞いてくれたので私は続けました。
「王太子様と婚約なんて恐れ多かったから破棄されても良かったけれど。……どうしてかな。やっぱり親に売られる子は誰にも愛されないのかな。大神殿では嫌われてばかりだったし。私なんて誰にも好きになってもらえないんだなと……」
「……ミリアっ」
ガバッとテオに抱き締められました。
「テ、テオ?」
今まで誰にもこんなふうに抱き締められたことはなかったので驚きました。テオの力は結構強くて振り払うことはできません。
「そんなことはないって僕が言ってもミリアは信じないかもしれないけど……」
そう言うとテオは腕を緩め私に顔を寄せてきました。暗いけれど焚火の炎でお互いの表情は分かります。
テオは真剣な表情をしていました。頬に手を当てられて顔を固定されたので目を逸らすことも出来ず、
「……僕はずっとミリアのことが好きだったんだ」
焚火がパチリと爆ぜた。
「……テオ」
「だけどミリアは僕のことなんてただの商人としか見ていないのも分かっていた。それでも僕はミリアが好きだったよ。そして、ミリアが聖女になると僕にはもっと手が届かないと知ったとき絶望したんだ。だから聖女候補者のままでいて欲しいと女神様に祈ったときもあった」
テオはそこで目を伏せて、
「ミリアが大神殿で僕以外に親しい人がいないのも薄々気がついていた。それも少し嬉しかったんだ。僕だけがミリアの特別だと思えたから。女神様から見れば、いや、ミリアからすれば僕も悪い人間だったかもしれない」
私は驚いて何も言えなくなっていました。
まさか、テオが私を想ってくれていたんだという嬉しい気持ちで。
「ミリアは僕のことを商人としてしか見ていなかったから驚くよね。だから今言っておくよ。ミリアはいつも頑張っていた。そんなミリアだから女神様も祝福を送ったのだろうし、僕だってミリアがいたから行商人の見習いも頑張れたんだよ」
「テオ……」
いつぶりか私の目から暖かいものが流れ落ちていました。涙が勝手に溢れて止まらないのです。
でもこの涙はあの村でのお母ちゃんとの別れとは別物でした。
「……私、頑張ったんだよね? 親から要らない子と言われても女神様は祝福してくれていたもの。女神様は私を認めてくださっていたよね? 私は聖女として頑張れていたんだよね」
テオは再びぎゅっと私を抱き締めてくれた。それは痛いくらいでテオの気持ちも伝わってくるようでした。
「そうだよ。ミリアは立派な聖女様だったよ。僕はずっとミリアを見てきた。だからミリアが頑張っていたのを誰よりも知っているよ。女神様だってきっと分かっていらっしゃるはずだ」
私はテオの言葉にわんわん泣きじゃくってしまいました。
子どもの頃だってこんなに泣いたことはなかったように思います。
ずっと見ていてくれた人がいたことがこんなに嬉しいとは思いませんでした。
「テオ、ありがとう。テオがいなかったら私は今頃どうなっていたか……」
泣きじゃくりながらお礼を言うとテオは照れながら、
「弱っているミリアにつけ込むようで悪いんだけど聞いて欲しい。これからも僕はミリアと一緒に生きたい。だから僕のお嫁さんになってください」
私は突然のテオの言葉に涙が引っ込んでしまいました。けれど慌ててテオの申し出に肯きました。
「うん! 私なんかでよければテオのお嫁さんになるよ」
「なんかじゃないよ。僕にはミリアが一番なんだ。ミリアが側でいてくれるだけで僕はとても幸せだよ」
優しくテオに言われて涙がまた溢れ出しました。おかしいですよね。もう私も成人した大人なのに。こんなに泣き虫だなんて。
テオは私が泣いてしまったので慌てていましたけれど私からもぎゅっとテオを抱き締め返しました。
「……誰かを好きになるのって、愛おしいって気持ちってこんなふうに暖かいものだったんだね。大神殿はいつも冷たかったけどテオが会いに来てくれていたから私は凍らずにいられたんだね」
「ミリア。愛している。これからもずっと」
そっと二人で顔を寄せ合いました。
お互いの温もりが心地よくとても安心できるとこのとき初めて知りました。
夜空には星々が瞬き、二人を祝福しようとほのかな光が天空から降り注いでいました。
予約投稿をミスってまして、連続投稿しております。
一番書きたかったシーンなのでこれで終わっても良いくらいでししたが、もう少しだけお付き合いください。怒涛? のラストを今書いております。