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19 野営で美味しいもの食べよう

 テオは幌馬車の側に魔物避けの焚火で串刺しにしたお肉を直に炙っています。


 周囲にはお肉の焼けるとても良い匂いが漂っていました。


「前にミリアは肉をお腹一杯食べてみたいって言っていたから、こういう旅の食事はワイルドだけど美味しいんだよ」


「こうして命の恵みを尊くいただけることに女神様、生きとし生けるもの全てに感謝します」


 私は女神様への祈りを捧げました。テオはそんな私を物珍しそうに見ていました。


「生きとし……って、もしかして野菜とかもそうなのか?」


「植物もそうですよ。生きていますから、私達は全ての命をいただいて生きているのです。女神様の教えはだから全てに感謝と教わりました」


「まさか、魔物とかにも?」


「そうです。生きるもの全てですもの。女神様の祝福は平等に降り注いでいます」


「へえ、魔物に、植物にもかぁ。じゃあさ、このパンはどうだ」


 悪戯っぽい表情をしたテオが出してきたのは、


「へ? パン?」


 柔らかそうで白いパンだった。


「うわぁ。柔らかそう。それでふわふわ!」


「ミリアに食べさせたかったんだ。ミレニア王国で美味いと評判なんだ」


 そのパンを口に入れるといつも食べているのも美味しかったけれどこれはそれ以上に美味というか天上の味です。


「パンが甘い~。なんて美味しいのでしょう。美味しさの説明ができない。ふわっとしてもちっとして。ふわもち。ふわもち。もぐもぐ」


 私は夢中であっと言う間にパンを食べてしまいました。


 ――テオに呆れられていないかな?


 パンがお腹に消えてしまうと私も我に返りそっとテオの方を見遣ましたがいつもの優しい表情のテオでした。


 眼を細めて私を嬉しそうに見つめています。目が合うとにこりと微笑んでくれました。


「ふふ。ミリアに食べてもらいたかったんだ」


 そんなふうに言われて恥ずかしくて私は炙られていたお肉に急いで齧りつきました。


 熱かったけど香ばしい肉汁が口の中一杯に広がっていきます。


「あちち、うぁぁ、これもとても美味しい!」


 私の様子にテオは満足げな顔をしていました。


「でもこんな簡単な料理じゃあこのお肉の神髄は分からないよね。慌てていたのであまり準備できなくてさ。いつかまたきちんとしたお店で食べよう」


「いいえ。とんでもない。これもとても美味しいよ! これの調味料ってあのお高いブラックペッパーよね。以前大神殿でも食べたことあるの。ピリッとして不思議な味。それに私の方こそごめんなさい。今の私はテオの厄介になっているだけだもの。せめてお料理だけで手伝えたらなと思っていたけど最近は祈りが多くて自分で作れなかったから……。でも聖女料理はお粥が基本なの、だからお粥は任せて!」


「お粥……」


 テオは戸惑った表情をしていました。


 あら、お粥はヘルシーなのですよ。東の国の赤い実のピクルスを入れると酸味があって美味しいのです。食欲がないときはこれで決まりでした。


「儀式があるとお粥を食べていたの。だって、大結界の儀式の前は必ずそういう決まりだったから、歴代聖女様は皆そうなのよ」


 私はそれも懐かしくて自然と口元に笑みを浮かべていました。


「聖女料理って言ってね。お肉抜きだけど工夫を凝らせているので美味しいのよ。聖女様達が百年かけて編み出したものですからね。それに儀式で祈りを捧げると眩暈がしてあまり食べられなくて、大結界に祈りを捧げると酔ったみたいに気分が悪くなったりしたからお粥ぐらいがちょうどよくて。それに儀式によっては決まった時間に食べられないことがあって、そんなときは台所であまり物をいただいて食べていたの」


「肉抜きの聖女料理……。それに台所であまり物だって? いつも思っていたけどミリアは聖女様だったのに周りはどうかしているよな。いつもミリアだけが祈願していて、癒しもミリアが一人でしていたしな」


「え? 他の聖女見習いの方も祈りを捧げていたはずよ」


 テオは私の言葉に首を左右に振りました。


「いいや。僕が知っている限りはミリアだけだ。平民の祈願者なんかはお願いしようとして他の聖女見習いに声をかけても無視されていた。結局お金持ちや貴族を優遇していたんだよ」


「そんなこと。一体どうなっていたの? マルクトじゃあ聖女見習いが皆で分担して……」


「どうと言われても。僕が行商で行くときはミリアがいれば祈願や治療の部屋は開いていたけどそれ以外は閉められていたよ」


「……確かに部屋は言われた時間に行って開けていたし、祈りは決められた時間に一人で祈っていたし。まさか、ひょっとして大結界の祈りも私だけだったとか? でも私だけの魔力ではとても大結界の維持はできなかったはず」


「ミリア……」


 心配そうなテオに私は微笑んで見せました。これも聖女生活の賜物です。汝、いつも笑顔を湛えよの精神です。


「……でも、もうそれも終わったのよね! だって私は聖女じゃないって追放されたのだもの。私はこれから好きなところに行って好きなようにできるの!」


 私が明るく言うとテオも一緒に肯いてくれました。


「そうだよ。ミリアは聖女様を十分頑張っていたからもうゆっくりしたらいい」


「よーし! そうと決まったら何からしようかな? でも、私ったら今まで祈りを捧げることと治療しかしたことないの」


「とりあえず今は食事して暗くなる前に休もう。ゆっくり寝て、起きたら美味しい物食べて、ミリアが行きたいところに行こう」


 そう言われて幌馬車の中に一人で横になったけれど楽しい計画に興奮して寝られませんでした。

お読みいただき、評価、ブックマークをありがとうございます!


タイトル一つを回収出来ました。

外で焼いて食べるバーベキューのお肉なんかは美味しいですよね。

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