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18 楽しい追放の旅

「ではミリアさん。どちらに参りましょうか?」


「あの、テオ君。もう私は聖女じゃないの、敬語なんて必要ないよ。ただのミリアでお願いね。私もテオって呼んでいい?」


 私がそう言うとテオは顔を真っ赤になりました。


「う、うん。もちろん! えっと、ミリアさ、ミリア、ミリア。僕もテオって呼んで。ええとそれで行きたいところはある?」


「あはは。面白い。テオったら。いいえ。特にはないけど……。あ、でも生まれ村に行ってみたいな。でも何処か分からなくて……、それに私は王国を追放されているのでどちらにしても今は行けないし」


「ミリアの生まれた村、じゃあそこにまだ両親はいるの?」


「多分そうだと思う。八歳の時に地方の神殿に連れて行かれて、大神殿で聖女になったので十年以上は会ったことがないから分からないけど」


 私はテオにうろ覚えの村のことを伝えました。子どもの頃だったので村の名前なんて知らなかったし、場所も間違えているのかもしれません。自分の出身の村が分からないなんて恥ずかしいですね。


 でもマルクトの神殿では辛うじて村の位置は地図に場所を書き込まれていましたが名前は無く、大神殿では村の存在さえ認められていませんでした。


「もう村の名前もうろ覚えで場所は分からないの。でも引き取られた地方のマルクト神殿は覚えている。追放のほとぼりが冷めたら一度訪ねに行きたいな。マルクトでは皆優しかったから」


「うーん。そうか、それならとりあえず、落ち着いたらその地方神殿から訪ねてみよう」


「そうね。お願いしたいけど私はこの国を追放されているから暫くこの国には戻れないのよね。だからとりあえずテオ君の行くところで良いよ。私はどこか適当なところで降ろしてもらうから」


「適当なところでなんてできないよ! じゃあ。僕の家に一度寄ってみる?」


 幌馬車の操作をしつつテオは器用に私の方に向きました。


「え? テオのお家?」


「ああ。家と言っても大きな商会だからそこならひょっとしてミリアの村のことも分かるかと思う。うちはそれなりに手広くしているから行商先にあるかもしれない」


「そうなの? じゃあ、テオのお家の商会に行ってみようかな。もしかして商会をテオが後を継ぐことになるの?」


「じゃあ、そうしよう。家の商会は兄さん達がいるので僕が継ぐことはないよ。だからこうして余所で修行をしていたんだ。将来は何処かの支店ぐらいは任せてもらえるかもしれないけどね」


 テオはにこりと微笑んでいました。


 そこには独り立ちした自信と余裕のようなものが漂っています。知り合ったばかりの頃の可愛い男の子から大人の男の人になったなぁと思っちゃいました。でもまだ顔立ちや笑ったところは可愛いなんて本人には言えませんね。


 私は大神殿でいたとき、月に一回か二回くらいテオと会えたときにこうして話をしていたことを懐かしく思い返しました。そうだ。テオの独り立ちのお祝いもしないとね。


 テオはそのまま順調に馬車を走らせました。



 夕方まで荒野の中を通り、まだ明るいうちに雑木林の側で馬車を止めると野営の準備を始めました。


「疲れてない?」


 幌馬車で野宿することになって、準備を手伝っていると心配げに尋ねられた。


 テオは行商人の親方の下で見習いをしていたので旅慣れていて無駄のない動きでテキパキと支度を終えました。


 結局私の出る幕はなかったけれどまだ自分の身の回りのことだけでもできてほっとしました。


 尋ねられて気がついたことがあったのです。


 初めて自分の身体が軽いと感じたのです。


 それに眠くない。いつもだるくて眠かったのに。


 私はスッキリした頭に驚き、今まで結界の維持に自分の魔力を持っていかれていたことに思い当たりました。


 これだけ違うのですね。恐るべき大結界です。まるで魔道具のお掃除吸入機械みたいに魔力を吸い取られていたのでしょう。


「いいえ。座りっぱなしでお尻が少し痛いことだけ。それ以上に自由になった解放感とかで嬉しくて、なんだかとても体が軽いの!」


「……自由か」


 テオが眩しそうに私を見ました。だから私は思いっきり笑って大声で叫びました。


「ええ! 自由なの! 私は自由よ。もう聖女なんかじゃないの!」


 周囲には人影はありませんでしたので大きな声を出しても大丈夫でしょう。


 思いっきり叫ぶととてもすっきりしました。


 私はあまりの体の軽さに焚火の周りでつい踊ってしまうほどです。


 踊れるのは女神様を讃える踊りばかりですけどね。


 だからキラキラした女神様の祝福が出ちゃったけれど野営地の守護結界になったので結果オーライということでしょう。


 女神様のなさることに無駄はありませんと言いますもの。

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