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16 国境を越えて(大結界の消失)

 そうして過ごしているうちにテオ君が幌馬車で国境までやって来ました。


「聖女様。お待たせしました!」


「テオ君。本当に来てくれたんですね」


「当たり前でしょう。聖女様との約束は破れませんよ」


 テオ君は満面の笑みでまるで本心から言っているようでした。


 私はただの顧客だったのにここまでしてもらって申し訳なくてテオ君のお手伝いもできたらと考えました。


「じゃあ、ここから君が聖女様をお守りできるのか?」


 パーシーさんがいろいろとテオ君に尋ねていました。


 パーシーさんは私達より十歳くらい上で落ち着いた大人の男性です。この国境の関所まで来るのにとても頼りになりました。


「ええ、僕は今まで行商人の弟子をしていましたが、このたび独り立ちを認めてもらいました。商いがてら聖女様のご希望の行く先に送り届けたいと思います。それだけでなく、……その、できればずっと聖女様の側に一緒にと思っています……」


 テオ君は語尾を濁らせて私の方をチラチラ見てきました。


 私はテオ君の独り立ちの知らせに我がことのように喜びました。


 ――こちらを見ているってことはきっと盛大に祝って欲しいんだよね!


「まあそうなの? テオ君、独り立ちおめでとう! お祝いしなくちゃね。でも、いいの? 私と一緒になんて……」


「ありがとうございます。聖女様のお役に立てるなら僕こそとても嬉しいです」


 テオ君は清々しい笑顔を浮かべていました。パーシーさんも横で力強く肯いていました。それに若いっていいことだなんてぶつぶつ呟いていましたけどパーシーさんだってお若いですよ。


「そうか、なら頼んだぞ。ゆめゆめ聖女様に危害がないように。困ったことがあったら私も微力ながら助力しよう。王城の警備隊の事務所に連絡をすれば伝わるようにしておこう」


 パーシーさんが言うと居合わせた他の兵士達も力強く賛同してくれました。


 ――ここの皆さんも本当に良い方ばかりですね。


 もう私は聖女ではないと話しても分かってもらえませんでしたけれどそんなことは些細なことでした。


 私はテオ君の馬車の御者台に上ると二人で並んで座りました。


「テオ君。よろしくお願いします」


「ええ、聖女様」


「あの聖女じゃないから、これからずっと名前で呼んでよ」


「あ、えっとじゃあミリアさん?」


「どうして疑問形なの」


 あははと私が笑うとテオ君も一緒に笑ってくれました。

 

 ……良かった、笑ってくれて。テオ君を国外追放なんてとんでもないことに巻き込んでしまったもの。


 テオ君は慣れた手つきで馬車を走らせると国境に向かいました。


 パーシーさんや国境警備の兵士達はずっと手を振ってくれていた。


 そして、国境線を越えた瞬間、私の中でプツンと糸が切れたような衝撃がありました。


「あっ」


「何かあったの? 聖……、ミリアさん?」


「いえ。あの、大丈夫です」


 とうとう私はこの国を守護していた大結界から引継ぎの特別な儀式もしないで出てしまいました。


 これでもう私が祈りを捧げて大結界を維持することや綻びを直すことはできなくなりました。


 これからはそのお役目はサマンサ様にお願いしましょう。


 それにサマンサ様だけでなく他の聖女補佐や見習いの方も一杯いらっしゃるからきっと大丈夫ですよね。


 それに直ぐには大結界も消滅しないはず。


 でも、結界の綻びを放っておけばいずれは大変なことになるから皆さんもそれくらいは学んだのでご存じでしょう。


 大結界の綻びを修復しないとどのくらいで大結界が消滅するのかは私にも分かりません。


 建国から百年あまり経っているけど今までにそんなことは無かったのだからどうなるのか誰も分からないと思います。


 それに大結界を出たら何か大きな音や衝撃もなく、ましてや空が落ちてくるといった劇的な変化もなかったので大丈夫かもしれません。


 穏やかな空の下、テオ君が操作する幌馬車が危なげなく旅の道を走っていきます。


 ――とうとう国境を越えてしまった。これで当分ミレニア王国には帰れません。なんたって王太子のご命令ですから。案外あっけないものでしたね。私は本当に大結界に魔力を注いでいたのかな? なんて思ってしまうほどでした。


 いいえ、元聖女として古の聖女様のことを疑ってはいけませんね。


 親に売られそうになった私にも女神様は祝福をしていただいたのですから。


 隣でテオ君が気持ちよさげに天を仰いでいます。


「良い天気で旅にはもってこいだ」


「そうね。風が心地よいです」


「聖女様を乗せているからかな。女神様の祝福のお陰で天候に恵まれるといいね」


「もう、テオ君。私はもう聖女じゃないよ」


「そうだった」


 なんだかテオ君はとても楽しそうだった。巷で流行っているという歌まで歌い出したので私はそれに聞き入っていました。


 そうして、気がついたことがあったのです。

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