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12 婚約破棄

 聖女になって三年間勤めたある日のこと、それは起きた。


「聖女ミリア! お前はいつもぼんやりして、役に立っているのを見たことがない。お前は聖女ではなかったのだ! お前は偽物の聖女なのだ。よって王太子であるこの私がお前の聖女の地位を剥奪する! そして、婚約も破棄だ!」


 王城の祈りの間でこのミレニア王国を守る大結界を維持する祈りを捧げていたら、ヘンリー王太子様にそう宣言された。


 正直、今朝は三時に起きてこの儀式の準備をしたのでとても眠かった。


 確かに祈りを捧げているときの私は周りからぼんやりして見えるかもしれない。


 だって、魔力を捧げると眠たくなるの。


 眠りたい。眠いよう。聖女になってからあまり眠れていない。というか眠った気がしない。


 お昼前のこの時はマックス眠いと言っていいかもしれなかった。


 でも、祈りの心は研ぎ澄まされていますね。


 頑張って今日も女神様に祈りを捧げているもの。


 何せこのために食事はずっと聖女料理だし。


 お肉がなくてお野菜中心のものだけど美味しくなるように工夫されている。


 村にいた頃を思えばこうして料理を作ってもらえるだけでもありがたいことだと思う。


 正直、儀式や祈念していると魔力を使って疲れてしまうから食事を作る体力が残っていなかった。


 儀式の日のお昼のご飯は顔の映りそうなお粥ぐらいしか食べられないけど。


 だけどこうして毎日衣食住があるだけで女神様に感謝を捧げようと思う。


 そうそう、空腹も過ぎれば一周回って空になることを聖女になって知ったことの一つ。


 村でいたときは常に空腹だったので慣れていたから、今の方が辛いかもしれない。


 それに祈っていると魔力を使いすぎて気持ち悪くなり、結局軽いものしか食べられないときもある。


 でも夜はもう少しましなものが食べることができた。


 そうでないととっくに逃げ出していたかもしれない。


 それよりもヘンリー王太子様は今何ておっしゃいました?


「ええ? 聖女の地位の剥奪ということは、私は聖女じゃなくなるのですね? じゃあ、もう祈らなくてもよいのですか?」


「ああそうだ。所詮聖女などお飾りだろう。お前のような愚鈍な者を担ぎ上げるくらいなのだからな!」


 ――愚鈍? ええ、まあそうかもしれない。


 この国を外敵から守る大結界を維持するための呪文を忘れないように努力しているけど、用意したカンペをチラ見するときがあります。だって、呪文が多すぎるのだもの。


 まあ、この国を守護している大結界はそこんじょそこらのとは訳が違うからね。


 普通の結界は文字や線でのあくまでも二次元で展開する。


 守護の大結界はそれに空間の縦軸に時空を加えた立体空間に術式を展開して構築するの。


 要は魔方陣を立体にも描いていく大変な作業なんです。


 それだけ聞いても大変だと分かっていただけますか?


 正直、頭の中でなんとか立体に術式を唱えて展開しているので、急に呼ばれても返事は出来ません。


「それに……」


 ちらりとヘンリー王太子様は私を上から下まで眺めた。


 今の私は聖女の略装に身を包んでいます。


 大結界を継続する祈りを捧げるためにあちこちに行かないといけない。


 だから正装なんて動き難いものは大祭の儀式のときにしか着ていない。


「そもそもお前のような小さい、……ごほん。お前のような者が聖女では我が国は周辺国に侮られる。ましてやこの私の婚約者など認められない」


 ――ああ、体も小さいし、メリハリが少ないからでしょうか? 


 でも私はもう十八歳を超えているのでとっくに成人済みですよ。


 そうじゃないとこんな激務は務まりません。


 大きな儀式のときは暗い早朝から夜中まで祈り通しのときはよくあります。そう言えば以前倒れたこともあったかな。


 でも、聖女がきちんと祈りを捧げて大結界のメンテナンスをしないと結界は壊れてしまうのです。



 大結界が壊れると凶悪なモンスター達が王国を襲ってきたときに退けることはできない。


 この大結界の守護は小さな無害なモンスター達は出入りできるけど、そうでないものは寄せ付けないようになっています。


 これはとても素晴らしいシステムで、今ではこのような結界を新しく構築する術式は失われて久しいものなのです。


 だから大結界が壊れないように綻びを直し、魔力を注いで大結界の維持に努めるのがこの国の聖女の一番の役目です。


 建国からそれは続いてきてこのミレニア国は聖女の祈りや儀式によって守護の大結界が維持されているのですよ。


 それはこの国も誰もが知っているお話です。


 そもそも大結界は大昔の偉大なる大聖女様が魔物の侵入から国を守るために張ってくださったものだった。

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