竜娘、酒場に行く
街に辿り着き良さげな宿屋を探す。
しかしどこの宿屋も満室で泊まることが出来ずに途方に暮れる。
「仕方ない……。多少高くなるが良い所に泊まろう」
「まぁしょうがないね。まさかどこも満室なんだもん」
しかしどこも埋まってるというのはどういう理由があるのだろうか。
「ここらで何かお祭りでもある?」
「うーん。一個だけあるけどアレってここの住人のみで執り行ってるらしいし。なんならソレが終わるまで部外者は街にすら入れないから多分今部外者の人達がここにいるのは別の理由だと思うよ」
「じゃあなんだろうね??」
その言葉を待ってました。と言わんばかりに目を輝かせる。
「そういう時の酒場だよ」
「情報収集って訳ね。まぁお腹も空いてるし宿が決まり次第行こっか」
「ありゃ……。意外と普通だね」
「まぁ、昔はよく酒場で屯ってたから……」
「あー、屯うなんて悪い子なんだー!!」
「はいはい。私の事は良いから良さげな宿屋を見つけないと野宿になるよ」
「……それなんだけどぶっちゃけテント張れる所あれば良くない?多分というか普通に宿屋に泊まるより快適でしょ??」
その言葉にハッとする。
確かにそれもそうだなんで考えもつかなかったのだろうか。
「その顔を考えもしてなかったって感じだね。褒めても良いのよ♪」
「よぉしよしよし!!グッガールだぁ」
これでもかと思いっきり撫で回した。ついでに沢山褒めちぎった。
そうして一通り馬鹿な事をやった後は何事もなかったかのように普通に戻りとりあえずで人気の少ない場所を探すこと数分。
「ここかな。人目もなければ邪魔になりそうな場所でもない」
「だね。まぁ後日ちゃんと許可を取らないとね」
「まぁこんな夜じゃ仕方ないよね
手慣れた手つきでパパっとテントを設営を済ませる。
「さぁて飯だが何処にする?」
「それならここを探してる時に良さげな場所あったからそこにしようよ」
「それは助かるそれじゃあ早速行こ〜」
必要な物のみを所持しそこえと向かう。
大衆の笑い声や陶器類の音が絶え間なく聴こえる店の前にまでやってきた。
「人……多そうだなぁ」
「まぁ宿が満室って考えると仕方ないよ。ほら入ろ」
人混み嫌いなんだよなぁ。と思いながら手を引かれながら店内えと入る。
「いらっしゃいませー!!」
元気な挨拶と共に声の主を見上げる。
それはとてつもなくデカい女性だった。
「空いてます??」
「んー今どこもうまってるからなぁ相席でもいいかい?」
「私達は構いません。良いよね」
「まぁ、仕方なし」
「それじゃあちょっとの間お待ちをー」
デカい女性は健やかな笑顔をこちらに向けると手に持っていたジョッキを頼んでいたテーブルに置くと相席してくれそうな人達を探し出してくれる。
「……でっかい人やね」
「オーガ種の人かな」
「はぁ……。めっずらしい」
しかし呼ばれるまでただ呆けているのも勿体ないので店全体に耳を傾ける。
……がここまでの人数となると雑音のが大きく全てを聞き取れない。
しかしその中でも気になるワードがいくつか捉えることに成功した。
・勇者
・坑道
・橋
・登山路
……他はこれといって気になるような物はないか。
ふ〜む。めんどくさいタイミングで来たな絶対これは。
聴力強化を解くとほぼ同時にこちらを呼ぶ声が聞こえそちらに視線をやると先程のウェイターさんが手招きをして呼んでいた。
「こちらの方々が良いですってよー!!!」
そこにいるのは女性のみで囲われた席であった。
配慮してくれたのだろうか。
すぐさま駆け寄り挨拶をする。
「すみません。見ず知らずの人間の同席を許可してもらって……」
「良いのよ〜。男がいる席なんて気が気じゃないでしょう??」
「まぁそれは確かにそうですね」
「ほれほれ。おふたり共、座りなんせ。メニュー表をあるけんね〜」
「……………」コクコク
気の良い人達のようでよかった。
注文を取りながら私たちは自己紹介をし合う。
1番最初にしてくれたのはカリナという人間の女性。見るからに元気ハツラツな見た目をしている。例えるならバスケ部にいるタイプの感じだ。
2人目は桜花という鬼人の女性。聞けばオーガ種の先祖返りとか何とからしい。見た目は華奢そうに見えるが私程のサイズをした大樽を片手で持ち上げ中身の酒を豪快に飲む姿はまさに鬼の姿そのものだ。
最後はリコメルという女性。三人の中で一番小さいということ以外にこれといった容姿の確認が出来なかった。彼女は軽く挨拶をした後はずっとちびちびと両手にグラスを持って飲みながら深々と被ったフードの隙間から何故かイリスの方をじっと見つめている。
互いの自己紹介が終わるとカリナが質問してくる。
「二人はどこから来たの?」
「私たちはスーリャンからだよ。王都に行こうと思ってね。ここに来たのはちょっとした羽休めって感じかな」
「王都かぁ……」
カリナが渋い顔をする。
「なにか問題でもある感じ??」
「……そうなんだ。今あっちに行ける道がひとつもないんだよ」
「ひとつも……??」
「そう。一番安全なルートに谷跨ぐ橋があるんだけどそれが昨日までの大雨の時に落雷の影響でぶっ壊れてね。使えないんだ」
「え。それって直せないの?」
「出来るけどこればっかしは時間がかかるみたい」
「……そっか」
イリスが間に入る。
「他にはないのですか?」
「あとは登山道があるけどあそこも雨で土砂崩れのせいで進めないね。まぁ橋の復旧よりは早く終わると思うからもし急ぐ必要があるならそっちを待ってるといいかも」
イリスがこちらを見てくる。
「まぁ急いでないんだし良いんでない??」
「貴女が良いならいいけど」
勢いよく親指を立て大丈夫だと伝える。
そんな事をしてると私達の注文したものが目の前に並ばれる。
「だったら人が多いのも頷けるかな……」
そんなつぶやきに反応したのは今の今まで無言だったリコメルだった。
「……それは、違う……よ」
ものすごくか細い声だったが確かにそう聞こえた。
「……どうゆう事か聞かせてくれる??」
返事が帰ってくると思ってなかったのかものすごく挙動不審になるが仲間の二人が落ち着かせる。
「えっと……ね。いま、ここにはとあるダンジョン……がね生成されてるの」
「と言うことは、アレかな。皆ダンジョン攻略に躍起になってるって事??」
勢いよく頷く。どうやらそういうことらしい……が三人の顔が変だ。
「……でもね。あそこおかしい……の。」
「おかしいって??」
「攻撃与えても……ダメージを受けてる……気がしないの」
ほーん。なるほど、どん詰まりしてるって事か。
「それはどの攻撃も??切断、打撃、魔法といったありとあらゆる??」
「……そう」
その言葉を受け少し考える。
そんな事ってありえるのか??ダメ無しってのは普通はありえない。たとえ耐性があったとしても最低ダメは食らうはずなのだが……。
そんな全攻撃無効敵MOBなんて今までいただろうか?
「……その敵の容姿ってわかる??」
「……えっとね。今、確認できてるのが……鉱石に……身体が侵食された動物型の……魔物が確認、できてる……よ」
構えてた身体が魔物の特徴を聞いた瞬間一気に脱力する。
「なんだぁぁ。ただの【百日ダンジョン】じゃん。構えて損した〜」
「え……え!ええ!!」
「ちょっともしかして何か知ってるの!!」
カリナとリコメルが問い詰めてくる。それをとりあえず落ち着かせようとするイリスとそれを酒の肴にしながら笑う桜花。
「知ってる。知ってる。正式名称は【果てなき欲求鉱山】って名前ね。と言っても聞いてる感じだと入口でそこまで苦労してるなら攻略は絶対無理かな〜」
しかしさっきから食ってるコレめちゃくちゃ美味いな。追加で注文しようっと……。
「あ。だからか」
「え?何が」
「いや、ここでちらほら聞こえてた勇者がいるとか聞こえてたけどそこを攻略するためか」
「……勇者??知ってる??」
三人が首を振る。
あれ??そこらで噂してる人いるからてっきり皆知ってるるもんだと思ったけど違うのかな?
「……まぁでもたとえそれが本当に勇者であっても攻略は無理だろうね」
「なんで??勇者だよ??伝承や伝説的存在だよ??」
「だってここのダンジョンの適正レベル千越えだもん」
みんなが愕然とする。それもそのはずレベルが千越えというのは規格外も規格外なのだ。
一般的に人間の冒険者達のレベルで平均的に三十を超えてたら良い所でその他の長命種でも百を超えてるのはほんのひと握りしかいないらしい……が定かでは無い。
もしかしたらもっとレベルが高い人達は居るのだろうけど隠されたりしてるのかもしれないが今はどうでもいい。
しかしそうなるといままでこのダンジョンが出現する度に誰かが処理してるはずなんだよなぁ。
通称【百日ダンジョン】正式名称【果てなき欲求鉱山】には千年に一度百日の間だけ鉱山そのものがダンジョン化するという設定がある。
まず初めに腕試しの入口の攻略から始まる。そこ自体の適正レベルは百も行かない。
しかしそこは前座で本命はその奥にある扉を開けたその先には総合レベルが千を超えた十一の魔物との連続戦闘であり一体を倒す度に魔物の強さが段階的に上がっていくという仕様になっている。
そして十一の魔物を全て倒しきる事でダンジョン化を鎮める事が出来るのだが……。このダンジョンのめんどくさい仕様がありそれが二十日事に敵の強さが変動していきドロップするアイテムが変わるというものだ。
最初の二十日間では適正レベルが千丁度から始まりラストの魔物の頃には二千行かない程度の強さに変わるのだがこれが最後の二十日間は敵の強さが初手から二千越えというトンチキ仕様となっており非常に強い魔物との激戦が必須となっている代わりに倒した際のドロップアイテムは物凄く豪華という仕様となっている。
それを考えるととりあえず様子見をするべきだろうか。
と言っても正直私はあそこのアイテムを手に入れた所で旨みがないんだよなぁ。
そんな事を二人からの質問攻めを無視しながら考え耽っていると突然店上部に馬鹿でかい魔法陣が現れる。
店に居る全ての人間が咄嗟に警戒態勢になる。
酔っていようが異常事態の時にはちゃんとするってのは見ていてかっこいい。
魔法陣をボーッと眺める。感じ的に悪い予感はしない……がめんどくさい事には違いない。
隣で警戒してるイリスの腕を掴み咄嗟に【ミラージュコート】を使い姿を隠しこれから起こる事をとりあえず見守る事にした。




