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竜娘、提案する

 


 綺麗な瞳がこちらを捉えて離さない。ゆっくり、ゆっくりと身体を動かしこちらに近寄ると思いっきり顔を掴まれる。


「……にゃんにぇ」


「……本物?」


「ほんみょのだきゃらとりやえずはにゃして」


 私の頬っぺを揉みしだいていた手は何故か物凄く名残惜しそうに離れていく。


 自分の頬を労りながら質問する。


「そういえば私を探してたんでしょ?」


「あ!!そうだよとりあえずこれ!!返す!!」


 おもむろに取り出すは少し大きめのカバン。その中から出るの私が残していったものたちだった。


「要らなかった?」


「要らない。受け取る理由が見当たらない」


 謝罪とか感謝のためにと思って残していったのだけどなぁ……。


「そう。でもとりあえず持っててもしかしたら気が変わるかもでしょ?」


「そんなこと……」


 彼女が言い終わる前にものすごい音がする。彼女のお腹の音だ。咄嗟に腹を押さえ真っ赤な顔をしながら恥ずかしそうにする。


「とりあえずご飯でも食べに行く?」


「……いく」


 そうと決まればとりあえずイリスは身支度のためにその場から移動する。そしてその間に私も先程までいじっていたものを保存せずに閉じる。


 こんなむちゃくちゃなもの残しても意味ないよね。とりあえずの使い方だけでも分かったんだけでも儲けものだ。


 机に突っ伏しイリスが戻るのを待つ。


 てか、イリスが来たのってあれらを返すためだけなの?わざわざ面倒だったろうに……。そこまでしていらなかったのかなぁ。

 出来れば持ってて欲しい縁だけでも良いから繋がってて欲しいというのはわがまますぎたのだろうか。

 無意識に視線だけが身支度の為にイリスが入っていた扉を見つめる。




 顔を洗い歯を磨き寝癖を直す。


 しかしビックリした。すぐに会えるとは思ってもいなかったから起きたら彼女が居るなんて予想にもしてなかった。……でも良かった。元気にしてたみたいで。

 でも出来ればこれらは返したいんだよね。彼女の考えが何かは分からないけど私は出来れば対等な友人としてありたい為あんな希少すぎる物なんてとてもじゃないけど貰えない。


 鏡に映る自分を見つめ寝癖が無いか他に変なところが無いか確認する。

 それらが無いと確認できるとその部屋から出る。そして不意にエスタスを見つめてしまった 。


 互いに互いを意識してしまう。

 理由は違えど考える事は両者とも『嫌われたくない』が第一であった。




「準備できた?」


「大丈夫」


 どうにか嫌われないかを気をつけながらか互いが互いに接する雰囲気がどうしても固い。

 そんな雰囲気のままとりあえずギルドから出る。


「ご飯って言うけど何食べる??」


「……それなんだけどね私ここ初めてなんだよね」


「また何故に??ここならあそこから行けない距離でもないでしょうに」


「あ〜……」


 腕を組み首をかしげ何かを言い悩んでいる。


「あ、別に無理に聞きたい訳じゃないからね。言いたくないなら言わなくても……」


「いや別にそんな事はないんだけどね……。まぁ大丈夫かな。えっとねここってエルフの間じゃ有名なんだ。呪われた街って感じで」


「呪われた……街??」


 ん〜?呪われ??呪いってここにそんな曰くあったかな??……クエスト関係でも聞いた事も受けた事もないしこっちでの追加された要素なのかな。

 しかし呪いか。

 エルフは見ることができるのは変わらずという事か……。


「そんな怯えるものでもないよ。呪いなんて、単体で何かできるモノでもないからね」


「それ!!それずっと気になってたの天城さん?のお連れの人も言ってた」


「天城さんの連れが??」


 誰だろう。会った時には一人だったしここに来るまでの間に合流したとかかな。


「その人の特徴とか分かる??」


 その一言にすぐさま答えようと口を開けるが一瞬動きが止まりそして何かを考え込む。


「……あれ。何も分からない」


「……冗談よね?」


「違うちがう!!冗談じゃなく本当に分からない。顔も服装も何もかもそこに居たって今年だけしか覚えてないの!!」


 そう否定する彼女の顔はものすごく青ざめていく。その様子からもものすごく混乱しているのがよく分かる程に動揺しずっとぶつぶつと呟いている。


 そんな彼女の肩を叩くと勢いよく跳ねこちらに視線が来るのを確認すると落ち着かせようと口を開いた。


「まぁまぁそこまで怖がる事ないって多分だけどその人はあんまり自分の事を知られたくないから認識阻害系の魔法でも使ってたんじゃないのかな?」


「そ、そうかな。幽霊とかじゃないよね」


「多分??天城さんが一緒に居たって事は信用はできるって事だろうし大丈夫だと思うよ」


 と言ってみるが実の所、認識阻害系の魔法って聞いた事ないんだよね。

 どれも前提として一定の人数と一定の距離で強制解除というのが私の認識なのだが。

 聞く限りだと密室の上かなりの大人数となると新規で作られた魔法だろうか?

 しかし仮にそうだとしてなぜ故にそんな物を使ったのだろうか。やましい事があるから?それとも有名だから??うーむ。分からない。


 第一呪い関係だろう?そうなると呪術師関係をメインとしたプレイヤーになるが……。あんな効率悪い職業使う知り合いが少なすぎる。一応記憶にある奴で一人だけいるが確率的に今遭遇する事はない気がするしそもそも彼奴はコソコソ隠れて何かをする性格でもないんだよなぁ。



 そんな事を話したり考えたりしながら適当に街中を歩く事、数分。



「「あ!!」」


 互いにほぼ同時に会話を中断させ一軒の店を同時に指差す。二人して顔を見合わせ緩い顔をしながら笑う。


 二人が選んだ建物に入る。

 中は至って普通の個人経営店のお店な感じで時間が時間だからだろうか人もまだらにいるだけでかなり空いている。


「はーい、いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞー」


 その言葉にとりあえず適当な席に着くと同時に店員がお冷とメニュー表を持ってくる。


「決まりましたら呼んでくださいねー」


 雰囲気の良い店員さんはそう言うと他のテーブル掃除をしたりと先程までしていたであろう業務に戻っていく。


 さてどれにしようか悩むな。


「こういう時はどれ選ぶか迷うよね〜」


 悩んでいるとイリスがそう言う。


「だよね。王道を行くべきかそれとも邪道をいくか……」


 ここは港街なんだよなぁ。そうだとすればやはり海鮮系だろうか?

 しかし今はガッツリ系が食べたい気分なんだよなぁ。


 ペラペラとページを捲っていき裏面まで行き着くとそこに書かれたものに注視した。


 ……これでいいか。


 デカデカと書かれたオススメという文字。その誘惑に負ける。

 視線をイリスに向けるとどうやら待ってくれていたみたいでこちらと目が合ってしまった。


「……ん。もしかして先に決まってた?もしかして待たせた??」


「いやいや全然ほぼ同じぐらいだよ」


「そう?それなら良いのだけど……」


 とりあえず店員を呼び互いに注文する。


「では以上の二点ですね。すぐにお持ちしますのでごゆっくりお待ちくださいませ〜」


 パタパタと早足で裏に消えていくの見守りながらボーっとしていると不意に真面目な声色で聞かれる。


「……ねぇ。これからどうするの?」


「ん〜……。とりあえず身分証の発行の為に出来る場所まで旅かな」


「……その後は??」


「分からない。その時になってみないと。……だけど多分旅を続けると思うよ」


「…………そう」


「そっちはどうするの??別にここに長期滞在するつもりで来たわけでもないでしょ??」


「それは!!……確かにそうだけど。実の所は何かしたいって訳でもないのよね。元々これらを返す為ってだけでここに来たわけだし」


 少しの静寂が二人の間にはりつく。

 エスタスは外を見つめるだけでイリスの顔を見ようとしない。


「…………まぁとりあえずは元の場所に帰るだけかな。元々休養中だった訳だし」


「……そっか」


 …………くっそ気まずいいいぃぃいい!!!

 うぅ……。だってだって一緒に旅しない?なんて私が言える立場な訳ないでしょう。

 でもだからってこんな態度をとるのは違うだろ自分!!

 そんな自分にため息しか出ない。


 そのまま時間は過ぎ完全な無言は無くなるが会話は続かない。結局そのままほぼ無言のまま食事を済ませとりあえず外に出る。

 気づけば時間にして四時過ぎになっていた。


 ……どうしようかな。いや、とりあえず私は宿に戻ろう。


「私とりあえず宿に帰るけどイリスはどうする??」


「……あ。私、宿まだ取ってない」


 どうしよう。と慌てふためく。

 確かにこの時間からとなると取れる宿は少ないだろう。

 ふむ。それならととある提案をしてみる。


「嫌じゃなければだけど。とりあえず私と相部屋で泊まる??宿主には私から言うから。第一に元を辿れば私が原因でここに居るわけだし宿代位なら出すからさ。どうかな??」




 混乱する。

 彼女が分からない。

 嫌われていると思った矢先にこの提案をされるなんて思いもしなかった。

 どうしよう。この提案は受けても良いのだろうか……。


 少しだけエスタスの顔を覗く。

 特に変わった様子はなく先程から同じ申し訳なさって感じの表情のままでこちらを見つめている。

 あぁ……。これは多分本当にただ罪悪感でしてるだけかもしれない。先程、言っていた様に自分が原因だからその分の責任ぐらいは負わせてくれ。と……。


「……分かった。その提案に乗るよ」


「良かった!!それじゃ善は急げって言うし行こっか」


 彼女はそう言うと即座に私の手を引き歩く。


 えぇ……。

 なんだろう。本当に謎すぎる。素っ気ない態度をするのかと思えばえらく積極的になる。

 どういう感情でこの手を引かれていれば良いのだろう。どういう感情で今私の手を引いているのだろうか。

 混乱しながらも大人しくついていくことにする。

 そして道中喋ることなく十分もしないほどの時間で彼女が泊まる宿にたどり着くとそこでようやく彼女は手を離しそして建物内に入る彼女の後をついて行く。


 建物に入ると一人の男性が彼女に話しかけてくる。

 とりあえず私は後ろの方で静かにしながら聞き耳を立てながら大人しくした。

 なるほど聞く感じだとあの人はオーナーなのか。普通に好印象な人だ。


 そして本題になるが……。

 すごいトントン拍子で話が進んでいく。オーナーさんも特に断る事もなく追加料金だけで了承してくれる。

 そして話が終わったのかオーナーさんは何処かに消えエスタスはこちらに向かってくる。


「大丈夫だって!!実は断られるとは少し思ったけどそんな事なかったや」


「いい人だよね。普通は途中からの相部屋なんてあまりいい顔はしないと思うけど」


「余裕がある人なんだよきっと。よしこんな所で話しててもアレだしとりあえず部屋に行こっか」


「そうだね」


 重い腰をあげエスタスの後をついて行きそして部屋の前までたどり着くとエスタスが先程受け取っていたのであろう鍵を取り出し鍵穴に差し鍵を開け扉を開けてくれるとエスタスが部屋の中に誘う。


 気づかれないように深呼吸する。

 とりあえずこの数日間での目標を決める。

 出来れば対等な友人になると……。頑張れ自分と言い聞かせる。


 覚悟を決めたイリスは扉の先に進み部屋に入るとその覚悟を逃がさないと言わんばかりに扉は閉まる。



 そうして気付けばエスタスが元より決めていた旅に出る前日まで時が経つ。

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