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竜娘、破壊の化身となる



トレーニングに誘われてすぐさまストレッチを開始。

十分そこらで身体がほぐれ温まってきた。


「よし!!ストレッチも終わったし本格的に始めるとしよう」


「さて、とりあえずコレ目掛けて打ってみよう」


そう言って取り出すは良くボクシング等で見るミット。


「打ってみようって……どうやって??」


「どうやって……ん〜とりあえずこんな風に自分が打ちやすい体勢になって拳を前に突き出してみてごらん外しても問題ないから」


「……うぅ、分かった」


彼の構えを参考に自分の打ち込みやすい構えを取り勢い良くミット目掛けて振りかぶる。




油断してないと言えば嘘になる。

最初は彼女の力量を見るためにしただけであり結果によって教える内容を変えるつもりでいた。

まぁ……彼女の言葉通りであればまともにミットにすら当たらず空振りするだろう。そう思っていた。

それに踏み込みも甘く、全身にも無駄な力が入りすぎている。

これは苦労しそうだなと思った刹那だった。

空を切るような速度の乗った拳はミットの僅か横を通り過ぎ空振りをして見せた。

互いに顔を見合わせる。一人は失敗しちゃった的ななんとも言えない顔を。

もう一人はお前な〜……。的な呆れた顔を。

そんな状況に笑いが出そうになった……その時だった。

ふと横を見てしまった。

その瞬間、両者の顔に物凄い量の汗が浮かび上がる。

完全な沈黙が続く。

それは空振りに対してでもあるがむしろ空振りしたその先の光景が原因に近いだろう。



「やば、やばばばばばばい!!!!!人いないよね!?大丈夫??これ殺人してないよね!!!?」


「おち、おち、おちちつくんだ!!?なんの技を出した!!」


「知らない!!知らない!!!思いっきりって言われたからとりあえず本気でやっただけだって!!!」


「それにしたって……」


被害のある木々に近寄り観察する。

かろうじて自然以外に被害は無さそうでホッとする。

そして特徴的な捻れたような傷跡に蟹丸は見覚えがあるようで……


「あ〜……あれだな。【コークスクリュー】系の技だな」


「それでもここまでの威力出るような技あった??」


「そこはステータス補正も重なった感じだろうな。しかしこのまま野に放つのは危険だな」


「……野に放つって私は獣かなにかか!!」


「いや〜どう考えても獣より酷いだろ?手加減できない人間なんて凶器そのものだろ?」


「うっ……それじゃどうするの?」


「簡単だろ?手加減覚えるしかないだろ?」


「どうやって??やり方とかない??」


「あるぞ?」


蟹丸による手加減説明をうけるが……。


「え、え〜とつまり……。」


「なんでも良いから殴ってそれが壊れなければ習得完了だ!!!」


「脳筋すぎんだろ!!」


「そんなもんそんなもん」


そんなやり方に果てしない疑問を浮かべながらも蟹丸自身もそうして覚えたと言う実績がある以上無視する訳にもいかず

しょうがなく手当り次第に手加減する事を覚える為にあらゆる物を殴り続けた。

そうして数十分が経つ……。



殴る。


蹴飛ばす。


叩きつける。


握り潰す。


と言ったありとあらゆる破壊行為をしながらも少しづつだが感覚を掴み始めてくる。


最初のうちは塵一つも遺す事すら許さないと言わんばかりに綺麗に消えていた要らないけど処分に困ってた蟹丸の所有物達のお陰もあってだろう。

壊す事は無くなり代わりに物凄い速度で木にぶつかって飛んでいき衝突してそこで壊れるぐらいにまでには成長した……。

がそれでもまだまだ無駄な力が入りすぎているらしいが……。


「まぁ最初にしては十分だろ?」


「でも……。」


「そうしょげるなって?こればっかしは慣れなんだからさ訓練している内に出来るようになってるから」


「それより俺が気になるのは……本当に今まで格闘技とかやってないんだよな?」


「やってないよ?なんで」


「いや、見てて思ったけど徐々にだけど動きに無駄が無くなってる気がしてな。いや、もちろん職業補正もあるだろうけどそれにしてもなんというか身体が元々染み付いていた物を思い出してるって感じがしてな」


「あ〜多分だけど……」


そこで私はエスタスの事を話した。

ただ私はこれが異常な事だとは思わなかった訳で話を聞きながら蟹丸の頭にはハテナマークが散りばめられていた。


「あ〜なんだそれ!?チートやん……いや、意外とそうでも無いか。身体の持ち主のお前が追いついて無いんじゃ俺らの最初と対して変わらんか」


「まぁだろうね。良くてアドバイスが聞けるぐらいかな??」


そう言うといつもの様に紙がアイテムボックスから出てくる。


『お主見ておるからな!!忘れるんじゃないぜ|ω・)』


「……とまぁこんな感じだね」


「は〜変な感じだな。しかしそう考えると俺達も実は会ってるのかも知れないなただ記憶から消えてるだけって感じで」


「かもしれないね」


そんな会話をしていると遠くから子供達の声が聞こえ出す。

どうやらかなりの時間が経っていたようで皆が起き出す時間になっていたようだ。


「もうそんな時間になってたのか。戻ろうか」


「そうだね。動いたからお腹すいた」


バラバラになった回収可能なゴミのみをアイテムボックスに入れて広場に戻る。


各々が既に朝食の準備に取り掛かっている。


「手伝った方がいいよね?」


「大丈夫だろ。こんだけ人数いるんだむしろ邪魔になるだけ大人しく待ってた方がいいよ」


そんなものか……。

その言葉を信じ隅の方で大人しく座っていると後ろから声をかけられる。


「おはようございますエスタスさん蟹丸さん」


「お〜、おはよう」


「おはようございます天城さん」


天城の方に振り返ると後ろに数名立っていた。

ん〜どういう組み合わせなんだろうと思っているとどうもこれから街に戻る所らしく一応挨拶だけして行こうとの事だった。


「そんなに大事になった感じ??」


「それほどでも無いですね。まぁ一応念の為にという奴ですねですから気にしないで大丈夫ですよ」


「そうですか」


「あ!そうだこの子借りていい??」


視線が下に行ったのでそれを追うとそこにはメンダクスがいた。借りるも何も私のペットではないんだけど別に……。


「全然構いませんよ別にそれ野良なので」


「……そういえばそうだったね」


「それじゃ僕達はここで街であったらご飯でも食べましょうそれではまた」


軽く会釈するとそのまま数名を引き連れて広場から出て行った。


「大変だね〜宮仕えっていうのは……何見てるの??」


私の言葉を他所に蟹丸が紙の切れ端を見ていた。


「ん、あぁこれか。ちょっとな大したことじゃねぇから気にすんなそれよりもう皆食い始めてるから俺らも食べようぜ」


「う、うんそうだね」


はぐらかされた……。

まぁ彼が気にして欲しくないいうならそうするしかないだろう。


多少のモヤモヤが心にまとわりつくも今日も一日が始まるのであった。



(なんだってあいつは俺にこんな情報渡したんだよ……というか来て早々災難だなぁあいつも)


そんなことを思いながら紙の切れ端にはこう書かれていた。


『彼女は誰かにマーキングの魔法が付けられている。気を付けて』

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