●終章 ~ コソコソとやるのが好きなもので
次の朝、ノワールは自身の自宅兼診療所で、安いインスタントコーヒーを薄くいれたものを飲みながら、新聞に目を落とした。
そこの一面には、「盗賊団逮捕!」と大きな見出しが載っていた。
内容は端的に言えば、騎士団によって盗賊団が逮捕された、と記載されていた。それだけである。
だが黒ずくめの不審者ことノワールのことはひとことも記載されていなかった。
というより、むしろ書けなかった、ということが正確だろう。
まず第一に、騎士団のメンツを保つためだろう。騎士団が警護についていたにも関わらず、護衛対象を守れず、しかも盗賊団のまとめ役一人に一蹴されてしまったのだから。
そんな盗賊団を退治したのは、騎士団ではなく黒ずくめの不審者だった、などと書いたらいい笑いものである。
だが、その前に、騎士団が退治できなかった盗賊団を、不審者一人で退治した、などと誰が信じるか。
そんなことを書いたら新聞社に抗議殺到である。
そういう内容の記事は、どこぞのゴシップ誌が書けばいいことである。
ノワールのことについて触れられないことは、彼自身が望んでいることであり、彼の要望通りと言ってよいだろう。そのために姿を隠しているのだから。
なので、むしろ全く触れられないことに、彼はご満悦である。
そんな記事にほくそ笑みながら、彼は今日も陰ながら『お節介』をするのだろう。