雨と彼
雨ふる市街地、車が行き違う黒く光る道。
忙しい人々は足を止めない。
少し外れた小道に、誰かが暗闇の中にうずくまっている。
泣いてるのか、笑っているのか、彼に『感情』は宿ってないような気がする。
雨は激しく当たり、時には優しく彼に触れる。
少し震える体に寄り添うのは寒さと痛さ。
『なぜ』 『何で』 『どうして』
心から溢れ出したヒソヒソとした呟き。
彼に残る言葉はそれくらいだろう。
『寒いね』
『寒いね』
隣から聞こえるこえに彼は答えた。
どんな声でだろう。
少しは暖かさを感じた。
そして誰かが傘をさしてくれたような気がした。
それとも雨が止んだのか。
と、彼はそんな夢を見ながら、息を引きとった。
遺言に、微笑みを垂らした。
最初で、
最後の。