56話 未完成なパズルでも見えるものはある
天文部初の活動をした翌日、僕は登校してすぐに1年D組を訪れた。教室にはすでに目的の人物がいた。
「美羽」
僕が美羽を呼ぶと、美羽は驚いた顔で僕を見てくる。
「蓮? どうしたのだ、こんな時間に?」
「ちょっと聞きたいことあるんだけど、場所変えてもいいかな?」
美羽は首を傾げつつも、僕についてきてくれた。そして、誰もいない廊下の隅のほうまでやってくる。
「わざわざこんな人気がない場所に来たということは、聞かれたくない話なのだ?」
察しのいい美羽に助かる。僕は頷き、さっそく本題に入った。
「美羽、保科先輩とは友達で、この学校に来てからも時々一緒に星を見ていたんだよね?」
「そうなのだよ。けど、それがどうしたのだ?」
僕は一度間を置き、その先を聞いた。
「それで、保科先輩に屋上の鍵を貸したことってある?」
「屋上の鍵を? ……あっ、確か一度だけあったのだ!」
袖をばたつかせてポンと手を鳴らす美羽に僕は詰め寄ってしまう。
「それっていつ!?」
「え……えっと、確か10月12日なのだ」
(10月、12日!?)
「鍵って、すぐに返ってきた?」
「そ、それは……17日なのだ。確か、ボクが部室を訪れたら、お礼のメモ書きとともに机に置かれていたのだ」
その事実に僕は息を呑む。やっぱりか、ここまでは予想通りだ。でも、これじゃまだ不確定要素すぎる。
「れ、蓮、本当にどうしたのだ!? 顔が怖いのだよ!?」
言われて今の状況を思い出す。無意識の内に、僕は美羽に詰め寄りすぎてしまっていた。
「ご、ごめん!?」
慌てて美羽から距離を取り、一度気持ちを落ち着かせる。
「う、うむ。けど、何でこんなことを聞いてきたのだ?」
「それは……ごめん、今はまだ話せない」
僕の勘違いの可能性はまだ高い。その状態で伝えて違ったら目も当てられない。美羽から訝しむ目を向けられるが、申し訳ないと思いつつもこの場だけは無視させてもらう。
美羽の話で、ピースは一つはまった。後は、もう一つのピースをはめるだけだ。僕の予想通りなら、彼女は嘘を吐いている。
僕は2年生の教室に行き、美術部員であり保科先輩の友達でもある田中さんに話を聞くことに。
「え? 美玖と真倉ちゃんの関係?」
田中さんは僕の問いに疑問で返す。その様子に、予想が外れたかと一瞬焦るも、田中さんは何かを思い出したかのように話し始めた。
「直接関係があったわけではないけど、美玖と廊下を歩いている時、よく真倉ちゃんを見かけることはあったかな。それだけは別に変じゃないけど、美玖はよく真倉ちゃんのことをじっと見つめていた気がするよ」
――ピースが、はまった。
「そうなんですね。お時間いただきありがとうございました」
「え? う、うん」
困り顔をする田中さんと別れ、僕は頭の中で完成したように見える未完成のパズルを眺めた。
田中さんが言ったことが事実なら、保科先輩は僕に嘘を吐いたことになる。保科先輩と部室で初めて会った時、彼女は美柑のことを知ったのは美柑が美術部に入ってからだと言っていた。けど、実際はそれ以前にも度々美柑のことを見ていて、知っていた。
なぜそんな嘘を吐く必要があったのか。それは、おそらく彼女こそが『ヒマワリ』、そして『unknown』だからだ。自身の正体を隠すために、彼女は最初から美柑を知らないフリをしたんだ。知らなければ、メールの送り主の候補から外れやすいから。
それに、美羽から聞いた話で、なぜ保科先輩が僕と美柑の正体を知っていたのかも予想がついた。
けど、今僕の頭の中にある予想は、どうやっても予想にすぎない。探偵のように証拠を集めきれたわけじゃない。でも、可能性としては十分すぎる。だから、ここは勝負に出させてもらう。いつまでも、迷惑メールに振り回されるのは勘弁だ。
放課後、僕は部室には行かず屋上に向かっていた。天文部に入部して二日目で休むことになったのは気が引けるけど、今日だけは許してほしい。
屋上に到着し、先生から借りた鍵を使って屋上へと入る。当然、屋上にはまだ誰もいない。僕は時間まで日陰で待つことにした。
ベタのような感じだけど、保科先輩の下駄箱に手紙を入れておいた。今日は美術部の活動がないことは美柑から聞いているから、何もなければもう手紙には気づいている頃だろう。
僕は頭の中のピースを整理しつつ、保科先輩が来るのを待った。
――――来ないんだけど……。
いくら待っても保科先輩は来なくて、空はすっかり夕日が沈む頃合いになっていた。
あれ、僕ちゃんと保科先輩の下駄箱に入れたよね? まさか、違う人のと間違えたわけじゃあるまいし。ていうか、そろそろ完全下校時間になるからまずいんだけど!?
僕がスマホの時間を見て焦っていると、やっとの思いで屋上のドアが開かれる。現れたのは、待ちに待った保科先輩だった。
「み、水城ちゃん? その、遅くなってごめんね」
保科先輩は心底申し訳なさそうに謝罪する。その様子に、むしろ僕が申し訳なくなってくる。
「そ、その、随分と来るのが遅かったですね」
僕が顔を引きつらせて尋ねると、保科先輩はその細い目元を困ったように曲げ、言いづらそうに口を開く。
「私ね、普段から部活がない日でも一人で部室に行くことがあるのよ。今日もそのせいで、水城ちゃんの手紙に気づくのが遅くなってしまったの」
衝撃のカミングアウトに、僕はうなだれてしまう。そ、そういうことか!? それは全く考えていなかったよ!?
「それで、時間もあんまり無くなっちゃったけど、話って何かしら?」
保科先輩が気まずい雰囲気を変えるためか、すぐに先を促してくる。いきなり出鼻をくじかれてしまったけど、気を取り直して話し始める。
さあ、探偵まがいの推理の開始だ。




