27話 デートって、買い物を意味する隠語じゃないの?
僕は自宅の洗面所で自分の格好を眺めていた。といっても、いつも着ている学校の制服姿だけど。
昨日美柑とゾンビであることを互いに打ち明けた後、どういう流れなのかさっぱりわからないけど、美柑とデートをすることになった。
今日は休日だから、言わば休日デートだ……ってそうじゃなくて。
何で急にデート? あの会話の流れから何でそうなったのか。小一時間考えてもわからなかった。
ていうか、デートってそもそも男女間でおこなうものだよね? あ、もしかして、デートっていうのはただの隠語みたいなもので、実際はただの買い物ってオチじゃないか? うん。そう考えるとしっくりくる。
なら、僕の格好もこれでいいよね。別にデートに合わせて着替える必要ないし(本当なら私服の方がいいんだけど、私服のセンスは僕にはまだわからないから諦めた)。
「お兄様、くれぐれも気をつけてね。もし告白されても、間違っても受け入れちゃだめよ」
寧がジト目で僕を睨み付けてくる。今日美柑と出掛けることは、当然寧も知っている(昨日の屋上での会話も筒抜けだしね)。
「はは、告白なんてされないよ。それに、これはただの買い物だよ」
僕は冗談を言う寧に笑ってみせる。告白って、僕と美柑はまだ出会って一週間も経ってないし、何より女の子同士なんだ。告白なんてそんなこと、あるはずないじゃないか。
デートなんて隠語で、ただの買い物だろう。そう僕は思っていた。
「お待たせ! レンレン!」
待ち合わせ場所にやってきた美柑の姿は、デート衣装かと思えるかのようにばっちりと決めていた。服の種類や組み合わせとかは全くわからないけど、全体的に白を基調とした服装で、美柑の明るさをより際立たせていた(今度服について勉強しておこう)。
対する僕なんて、いつもの制服なんだけど?
「レ、レンレン、制服で来たんだね」
温度さの違いかのように、さすがの美柑も苦笑いだ。本当にごめんなさい!
「ご、ごめん。あんまり服装について知らなくて。つい楽な格好できちゃった」
「そうなんだ。でもそれならちょうどいいね! 今日はレンレンに似合う服装を探そう!」
美柑は僕の手をつないで走り出した。気のせいか、その頬がいつもより赤い気がする。
あれ? これ本当にただの買い物でいいんだよね? 美柑の姿や様子に、どことなく不安を感じる僕だった。
不安は見事に的中し、服屋、食事、映画館、ゲームセンター等々いくたびに、美柑はどんどんその顔に笑顔を咲かせていく。まるで、好きな人だけに見せるような笑顔を。
まさか、美柑は本当に僕のことが? いや、考えるな。もし違ったら恥ずかしいじゃないか。それに、例えそうだとしても、僕は美柑に嘘を吐いてしまっているんだから、付き合うなんてことはできない。
そうして再び服屋に戻ってきた僕と美柑は、互いに服を見繕いあう。見ていく中で、僕は美柑に似合うであろう水色のリボンを見つけた。
「ねえ、これ付けてみて」
僕が美柑に差し出すと、美柑は笑顔で「わかった!」と嬉しそうに言う。そして、今付けている黄色のリボンを解いて、水色のリボンを付けた。
「ど、どうかな?」
照れくさそうにいう美柑の表情も相まって、美柑の可愛さが跳ね上がってしまった。
「う、うん。似合ってる。それ、もし気に入ってくれたならプレゼントするよ」
「え! でも、悪いんじゃない?」
「これくらい気にしないで。まあ、友人の記念みたいな」
「レンレン!? わ、私もレンレンにプレゼントしたい!」
そう言うと、美柑は僕に似合うものを探し始める。
10分後、会計を済ませて僕たちはお店を出た。美柑の髪には僕がプレゼントした水色のリボン、僕の髪には美柑がプレゼントしてくれた銀色の花の形をした髪留めが付いている。
「にゃはは……嬉しすぎて顔がにやけちゃうよ」
美柑はリボンを手で撫でつつ、崩れぎみの笑みを浮かべている。喜んでくれたのはいいけど、これはちょっとまずいかも。
正直、ここで美柑の好感度を上げるべきではなかったけど、美柑の変化に気づいた僕は、真っ先に美柑のリボンに取り付けられている監視カメラを何とかしなくてはと思った。これ以上、寧に見せるのは色々とまずい。
美柑は寧に監視カメラが付けられていることを知らないらしい。いくら助けた恩があるとはいえ、盗撮まがいのことを美柑にするのはよくないと思うんだけど。
「この新しいリボンを付けて、レンレンと一緒に登校してみたいな。そういえば、まだ一回もレンレンと通学路で会ったことないよね?」
「そ、そうだね。タイミングが悪いっぽいね」
僕は咄嗟に嘘で誤魔化す。タイミングの問題じゃないのは薄々気づいていた。
通学路で美柑と会わないのは、寧が意図的にそうしていたからだ。
以前、僕が寧と二人きりでいる時、普段二人きりではスマホを触らない寧がスマホを触っていたことがあった。あの時、監視カメラ越しに美柑の出る時間をはかっていたんだ。僕と寧が一緒に登校するところを見られたら、僕の正体がばれる危険性があったから。
用意周到すぎる寧に、少し辟易してしまうよ。
そんなことを考えていると、急に僕と美柑の体が夕焼けに照らされた。どうやら、そろそろ夕刻時らしい。
「夕陽は僕たちにとっては害になるから、一度屋内に避難しようか」
そう言って僕は歩き出そうとするけど、美柑は僕を見つめたまま、その場を動かない。
「美柑?」
まさか、今の一瞬で体に変調をきたした?
「レンレン、あそこ行きたいんだけど、いい?」
美柑はある一点を指さして言った。指さした先には展望台があった。
夕刻時に、あの展望台か。その二つが揃うことで意味するのは、いわば告白する、もしくは告白されることを意味する。あの展望台はそういうことでも有名だ。
どうする? 断るなら早い方がいい。けど、
「っ……」
美柑は顔を赤く染めつつ、じっと僕から視線を外していなかった。
ちゃんと美柑の気持ちを聞くべきだ。その結果、美柑を傷つけてしまっても。
ここだけは、逃げちゃダメだ。




