22話 不審な格好をしている人が不審者を探している
ましろのスマホの修理が終わるのを待つと決めた翌日、僕は校長室にいた。
ちょうど夕焼け時で、夕日が窓から差し込むはずだった。けど、今校長室の窓は黒いカーテンで閉め切られている。夕日を浴びると、僕の体が腐り始めるからだ。
そんな配慮も今の僕には何も嬉しくなく、僕は床に土下座でもするかのように座っている。おまけに、両手は荒縄で縛られている。
僕は今、目の前の寧から尋問を受けていた。
「それでお兄様。寧に何を隠しているのかしら?」
まるで僕が隠し事をしているかのような言い方だな。事実だけど。
「だ、だから! 何も隠してないってば!?」
それでも、必死に秘密のことは絶対に隠し通してみせる。
寧はここ最近の僕の行動に不審なものを感じ、今日この場でこうして問い詰めてきたのだ。相手が妹じゃなかったら、先生の生徒に対するパワハラだからね、これ?
「本当に強情ね。そういうところも素敵だけれど、今は感心しているわけにもいかないのよ。さあ、お兄様? 早く寧に話してごらんなさい? でないと」
寧は懐から鞭を取り出した。やっぱり、またそれか!?
「む、鞭はもう止めて!? それ、本当に痛いだけだから!」
痛いだけで、決して気持ちよくなんかないんだ。僕はMじゃないから!?
「なら、わかるわよね?」
くっ、何てひどい妹だ。これじゃ言わない限り逃れられないじゃないか。
といっても、ラブレターのことだけは絶対に言ってはならない。ラブレターの送り主の身のためにも!
でも、それじゃあ別の隠し事をでっち上げなければならない。誰にも被害が及ぶことなく済むようなものはないのか? ……あった。確実に僕が犠牲になるけど。
「じ、実は、生徒の中に僕のことが好きだった子はいないかなと思って探し回ってたんだ……」
言ってて、あ、死んだな僕と思った。けど、生徒の誰かを犠牲にするわけにはいかない。ここばかりは、自己犠牲の精神でいこう。
「お兄様。……簡単にばれる嘘を吐くなんて、寧をなめているのかしら?」
笑顔ながらも、目の奥が全然笑っていない寧が耳元でそう囁いた。こ、怖い!
「とりあえずその勇気に免じてこの場は許してあげるけど、今度今みたいなこと言ったら、鞭では済まさないから覚悟しておいてね」
え? 鞭以外にも何かあるの?
「お兄様。返事は?」
「は、はい!?」
このやり取り、以前もここでやったよね!? デジャヴを感じることが多いよ、最近。
命からがら寧の尋問を耐え抜き(根本は何も解決してないけど)、駅までの道を寧とともに歩く。外は夕日がもう半分も沈んでいるため、体の心配はしなくて大丈夫だ。
「お兄様。少しコンビニに寄っていくから待っててもらえるかしら?」
そう言って、寧はコンビニに入っていった。
寧が買い物を済ませてる間、僕は沈みかけの夕日に照らされた住宅街をぼんやりと眺めていた。その視界に、ふと見知った人物を見つけた。
(あれって美柑、だよね?)
遠くから見えるその人影は、美柑のものだと思う。けど、色々と様子が変だ。まず、美柑はなぜか真っ黒なサングラスに、白いマスクといった、まるで通学中の僕みたいな格好をしている。そして、そんな不審者みたいな格好で、美柑は住宅街に住む人たちから、何やらメモを手にして聞き取り調査みたいなことをしている。
本当に何やってるの? 美柑は?
不審者みたいになってしまった美柑に、僕は思わず不安を覚えずにはいられなかった。
聞き取り調査を終えたらしい美柑は、そのままそそくさと住宅街の奥へと消えていった。
僕は不安に駆られ、まだ外にいる聞き取り調査を受けていた女性のもとに走った。
「あの、すいません! さっきここで、マスクとサングラスをした女の子に話しかけられてませんでした?」
女性は目を丸くして僕を見てきた。
「え、ええ。あなたはあの子の知り合い?」
「ま、まあ、そんな感じです」
まずい、僕まで変だと思われてしまうかも。
「あの子に何を聞かれました?」
怪しいものと疑いをもたれるよりも先にそう聞いた。
「それが、ここ最近で怪しい人は見ませんでしたかって聞かれたのよ」
「あ、怪しい人?」
「ええ。でも、この町って基本的に平和で、犯罪事も滅多に起こらないのよ。むしろ、あの子のほうがあんな怪しげな格好しているから不審者に見えてしまったわ」
おっしゃる通りだと僕も思います。あの状況を見たら、誰だって美柑のほうが不審者に見えてしまうだろう。
「あなた、あの子の知り合いなら何か知っているんじゃないの?」
「あー、その、明日聞いてみます!」
そう言って、僕は逃げるように踵を返した。僕自身も、何で美柑あんなことしているのか知らないんだって!?
とりあえず、美柑の不可解な行動は気になる。明日、直接聞いてみよう。
ちなみに、コンビニから勝手に離れた僕を寧が許してくれることもなく、その日の夜も鞭で叩かれることになってしまったのは、言うまでもない。




