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一通の便り

作者: 皐妃

今年も気づけばあと二か月になってました。秋なのにまだ暑くて大変です。

 一日の終わり。空が昼から夜に変わる中間にある夕方にポストを確認するのがいつの間にか日課になっていた。「今日もないか。」私は一人つぶやき家へ入る。ある人からの便りをずっと待っている。もう待って何年になるのだろうか、それすらわからないほどに待っている。季節は何度と繰り返し訪れるのに、私の望みは一向にまわってこない。どこかで寄り道でもしているのか。だとしたらだいぶ長い寄り道だよな・・・。

 今日は金曜日。世間は華金だ、やっと仕事が終わった、また明日も仕事だと様々な感情を持ち一区切りつけているが私はそれをつけられずに一人飲んでいた。昔はよく外へ飲み歩いていたが最近は家で飲むのにはまっている。料理の腕もあがるし、何より気兼ねなく飲んでいられる。さて、何を飲もうか。瓶ビールに缶チューハイ、梅酒もいいなぁ、いや焼酎か?なんて思いながら最初の一杯目を選んでいるのが楽しい。ま、悩む割にはだいたい梅酒の炭酸割りスタートなのだけれども。ささっと何品かつまみを作って一人飲みがスタートする。この時は便りが来ない寂しさを忘れられるから好きな時間だ。七時頃から適当に飲み始めて12時近くまでぐだぐだと飲んでいる。いつの間にか寝ていて次の日起きたのは昼近くだった。

起きてから出掛けて夕方に日課をこなす。今日もなかった。その次のまた次の日も・・・便りがくる気配はなかった。季節と一人飲みがある程度巡り巡るくらいに待っていたが、来ることはなかった。

 待ち続けて何年かわからなくなったことが久しくなった頃。私はすっかり年を取ってしまった。年は取りたくなくても取ってしまうものでこの辺についてはもう仕方ない、そういうプログラムが人には組まれていると諦めていたので特に悲しくも寂しくもなかった。日課にしていたポスト確認は相変わらずだが、一人飲みはあまりしなくなった。長年の蓄積で体に負担がかかりすぎたせいだ。私は話しかけた。「もうこんなになってしまったよ。そろそろおいとましようかな。」ある人はいつでも柔らかい笑みを浮かべて私を見ていた。来ることのない便りを待っていた私に会ったら何と言うだろうか。きっと笑って私らしいと言ってくれるだろうか。

 その数日後、私は自らの手でこの世から離れた。最後は一人飲みをし、処方された睡眠薬を大量摂取して布団へ倒れこんだ。綺麗な離れ方ではないかもしれないが、私は一通の便りを握りしめてある人がいるところへ向かった。

 

 「長いこと待たせてしまったね。会いに来たよ。」

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― 新着の感想 ―
[良い点] ラスト凄い衝撃があります。 [一言] ホントに良いものを読ませていただきました。 感銘を受けました、素通り出来ない程。この作品凄いですね。
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