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 暗い。苦しい。内臓が干からびて胃が張り付いたかのようだ。細い息をするのがやっとで体に力が入らない。

 そこへ目の前に一人の男が椀を差し出し、中の液体をそっと口に流し込んでくれた。

 『父上?』

 男の顔ははっきり見えない。父の顔も覚えていない。だが、なんとなくその男は自分の父のような気がした。喉を通る生暖かい汁が干からびて張り付いた喉を、胃腸を柔らかく潤していく。人心地着くと周りの景色がややはっきりしてきて体が動くようになってきた。そして異様な部屋の様子に気付く。

 土間の隅には大きな樽。醤油の様な赤黒い色に染まっている。樽の周りに数人分の衣服が無造作に積み上げられている。その中に子供用の服が混じっている。見覚えのある柄。そうだ、あれは隣の二つ年下の女の子の物だ。よく一緒に遊んでいた実の妹のような存在の子だ。

 『あれ?私が近所の子供と遊んだことなんてあったっけ?父上が生きていた小さい頃の記憶?』

 動くようになった体で樽に近づく。おもむろに中を覗き、恐怖に心臓がぐしゃっと潰されたような感覚を覚えた。

 「きゃあ!」

 自らの叫び声で暁は目を覚ました。はぁはぁと荒い息を整える。脂汗をびっしょりとかいていた。夢の中で樽の中身ははっきり見てはいない。なのになぜか自分は中身がおぞましいものだと知っている。おそらく死体だ。それも知っている人間の。心臓がいまだにバクバクと暴れている。ただの夢なのに暁はそれが現実に起こった事のような錯覚を覚えた。過去にあった確かな記憶のような、だがどう考えてもそれが自分の身に実際に起こった事とは考えられない、不思議な感覚だった。

 『那由他と一緒にいるからかも。』

 人を喰らう話を何度もされたせいでこんな変な夢を見たのだろう。それしか暁に納得できる説明はなかった。

 

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