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臆病兎の錬金経営譚  作者: 桜月華
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99話 夫婦の創世奇譚 04話 告白

カレンとの対戦から翌日、意識を取り戻したシドが勢い良く起き上がる。


(―――また負けたか)


シドが状況を把握するといつもの自分の部屋で寝かされてる事に気がついた。負けて気がついたら自分のベッドで目覚める、もはや慣れ親しんだ様だ。


「おはよう。調子はどう?」


いつもと違ったのはカレンが部屋の壁に寄りかかって此方に声を掛けて来たことだ。今まで目覚めたらカレンが部屋に居たことなんて一度も無かった。


「あ、、ああ、体にガタがきてると思ったが、今は調子がいいな」


シドがベッドの上で上半身だけ起き上がり肩を振るうが頗る調子が良い事に自身でも驚く


「ガタ? あんた何を言ってるの?」


シドはなぜカレンがいるのか気になったが尋ねるのは後にし、総魔力の消失感と魔力の消費も感じられないことを打ち明ける。

シドの話を聞いたカレンはくつくつと笑いシドの疑問に答える。


「それは魔神として魔法が完全に定着したのね。時空掌握(じくうしょうあく)身体能力上昇(しんたいのうりょくじょうしょう)武装能力上昇(ぶそうのうりょくじょうしょう)動体視力上昇(どうたいしりょくじょうしょう)風属性最強化(かぜぞくせいさいきょうか)、あんたはこの5つの魔法を司る魔神となったことでこの魔法を際限無く行使できるようになったのよ。最も定着した以上新しい魔法の会得は困難になるんだけど、あんたの場合、元から不可能だから不都合は無いわね」


カレンの説明に流石に理解が追いつかないシド、自身が魔神になったとはいえ詳しくは知らないのだからシドにはしょうがない事だった。


「魔神とやらはそんな事ができるのか。てっきり体の酷使でもう後が無いと思っていたが、今度魔神について詳しく調べておかないとな」


死に体と思い込んでいたシドには寝耳に水だったが、どうやら危険は無いらしいと判断し魔神のこと、自身のことを詳しく調べようと心掛けるがカレンの待ったがかかる。


「その必要はないわ。あんたもう魔神ですらないから。今のあんたは超越者(ちょうえつしゃ)よ」


カレンの説明でまた初耳の単語が出てくる


「・・ちょうえつしゃ? なんだそれは。俺はまた訳の分からんものになったのか?」


シドの当然の反応を想定済みだったカレンは颯爽(さっそう)と解説する


「超越者。文字通りあらゆる理から外れた超概念存在よ。この存在はあんたと私を含めて4者だけよ。数多ある星々、世界には無数の生物や逸脱者・異能者・天使・悪魔・神がいるけど超越者は4者だけ。不老不死を得て神殺しを成し魔神に至れば到達できる存在ね」


最早理解以前に意味が判らず困惑するシド


「――――ああ、、その、色々聞きたいことが多すぎるんだが良いか?」


「どうぞ?」


「国を滅ぼした事はあるが、流石に神なんて大層な存在を殺した覚えはないんだが」


「ルールよ。あれ、槍を司る神を形代にしたから、神も同義よ」


「知らないうちに神を殺してたのか・・・ってか槍の神ときたか。道理で槍捌きが凄いわけだ、それに比べたらいつぞや剣聖に挑もうとしてたのが笑えてくるな」


カレンのしれっとした告白に腰を抜かす。知らないうちに「あなた神殺してましたよ」なんて言われたら誰でもこうなる筈だ。


(それもよりにもよって槍の神ときた、出鱈目に強いと思ったが―――さすがに初手の相手から難易度が厳しすぎないかカレンよ)


「それで、他には?」


「ああ、超越者とは具体的になんだ? また知らないうちに体に変化が起きたら困るからな、出来る事なら知っておきたい」


また魔神の定着みたいに変化が起きては堪らないと今回は隠さずカレンに尋ねる。死に体と思ってたが実は元気だったと知り、少しばかり気恥ずかしいシドだった。


「さぁ? 私にもよく分からないわ」


「え?」


「え?」


「―――お前も超越者なんだろ?」


流石に聞き間違いと思い再度尋ねるシド


「ええ、逆に聞くけど、元人間のあんたに人間を具体的に説明してって聞いたら答えられる?」


「・・・」


(言わんとしてる事はなんとなくわかる、わかるが―――さすがにそれはどうなんだ? だがそんなカレンも素敵だ)


恋は盲目


「まぁそのうち他の超越者に会う機会があれば聞いてみるといいわ。新たな超越者が誕生したとなれば2者も興味沸いて来るかもしれないわ」


「―――そうしよう。それとさっき時空掌握と言ったが、空間掌握から変化したのか? 覚えがないんだが」


「・・・・覚えてないの?」


「? ああ」


(他の超越者とやらがかなり気になるが、会う機会もいつかあるだろう。それより時空掌握について聞いたらカレンが気のせいか怒ってるような)


「時空掌握は空間掌握の上位互換で反応領域を絶対領域に昇華した魔法ね。この領域まで達すると察知が未来予知の域に至るわ。まさか対戦中に、あの場面で時空掌握に至るとは流石に想像もしてなかったわ」


「ほう、なら次の対戦は更に有利になったわけだな」


「・・・もうあんたとは対戦しないわよ」


「え?」


「え?」


「――っ! まさか俺に付き合いきれず愛想が尽きたのか?!」


カレンの衝撃の発言を受けたシドは悲壮(ひそう)な顔でカレンに詰め寄る。


(流石に時間が掛かりすぎて呆れられたか?! いや! っでも・・・そういえばここにきてどれだけの時が経った? 100年ぐらいか? さすがに嫌がる相手に言い寄るのは駄目だろう。―――だが―――)


「…最初の約束を思い出しなさい、馬鹿」


今まで見たことの無い怒り顔で、左手の甲を顔まで持ち上げシドに見せると乱暴に部屋を出て行く。


(あの傷は?)


カレンの左手の甲に巻かれた包帯から軽く滲み出た血を見て、状況から自分が負わせたのは察したがどうやって付けたのか必死に思い出す。


カレンとの対戦で領域の中、カレンの手刀に合わせて左手の月詠(つくよみ)で反撃をした事を

意識が飛ぶ前に微かだが確かに感じた手ごたえを、カレンの驚きの顔を最後に記憶が飛んだ事を


(あの時に一手刺せたのか! だが―――最初の約束? 勝ったら口説いていいと―――)


苦悩しているシドがここでふと100年以上前のかつての会話を思い出す


『いいわよ、私に掠り傷でも付けたら口説くチャンスをあげるわ』


(あ・・・いつの間にか勝つ事と勘違いしていた!!!)


やっと状況を理解したシドはベッドから飛び退き、部屋の隅にある簡素な机からある物を持ち出し、一目散にカレンの部屋に向かう。





焦るシドとは対照にカレンは不貞腐れていた

勘違いしてたのは判っていたが、いざその時になってみると中々・・・モヤモヤする

最初はシドの勘違いを面白いから放って置こうと思ったが、この先の事を想うとなんとも落ち着かない。


『いいわよ、私に掠り傷でも付けたら口説くチャンスをあげるわ』


かつて自分が口にした台詞を思い出す、チャンスをあげるだけで嫁になるわけではない。断る選択肢もあるが今のカレンにはそんな気は毛頭無かった。


かつての友を思い出し、寂しさを紛らわす為に世界に降り立った事を思い出す。

人間には興味が無かった。始めのうちは興味もあって観察していた、同属で殺し合い、犯し、食べる様を見て少し残念に思った。勝手な神に人類が結束して挑んでいく様は目を見張るものがあった。逸脱者が神を滅ぼした後、その逸脱者を殺して自分たちで文明を自滅させた時は呆れた。それでも尚、人類が文明を再現させた時は関心したが、またも愚かな事に滅んだ・・・それを只々無数に繰り返し見届けた、今はもう完全に興味を失った。


アイオン。あんたの創造したものは私にはどうあっても関心が持てないわ。


かつて崇められた事もあったが飽きて放り出した。魔女として追われた事もあった、全て返り討ちにした。国を差し出し求婚された時は呆れてその世界を去った。現人神(あらびとがみ)に異端者とみられ無様な信徒が討伐軍を編成して襲ってきた事もあった、国ごと滅ぼした。数え上げたらキリが無い。

人間の老若男女がどうなろうが私には最早関心が無かった。


かつての友がその様を見れば口にするだろう


それでも人間を観察する君は寂しがりだね・・・


そんな寂しがり屋の前にシドが現れた。

どこかかつての友2者を彷彿(ほうふつ)とさせる彼に興味を惹かれ、いきなり求婚された。自分より遥かに大きい巨躯の男なのに子供のように素直な彼を家に連れ込んでみた、気紛れだった。そんな彼が家に残ってまで自分を欲した。知識を与え、逸脱者にし、半神半人にし、魔神に転生させ、今は自分と同じ超越者に至った。100年以上の時をかけて。


途中で根を上げると思った事もあった、一度彼に尋ねたことがあった。


「今のあんたなら数ある英雄を押しのけて大英雄として君臨できるわよ。あんたが欲すれば国も世界中の女も好きに出来るのに」


カレンの問いにシドは即答で返した


「そこにカレンは居ないのだろう? なら興味ない」


その返答を聞いてから、以前から彼に誘われてた国々を巡るようにもなった。1者だと見向きもしなかった事でもシドと一緒だと興味を惹かれた。


ああ、これは・・・



ドンドンッ!


「カレン! 入っていいか?!」


慌しくノックされるドアにこんなにすぐ行動に移るとは想像がつかなかったカレンはため息交じりに答える


「はぁ、入ったら?」


「あ、ああ」


入ってきたシドは先日の勇ましさはどこへいったのか顔を赤くし、おどおどしていた。


(あんたのそんな顔始めてみるけど、面白いわね)


「カレン! 着いて来てくれ」


「、っちょっと?」


突然カレンの腕を掴むと、有無を言わせず外へ向かいシド手製の庭園に連れてこられた。


庭園の中央にある噴水前で、肩膝を突いてカレンの両手を握り締める。


「俺は詩人のように上手い言葉は思いつかん。だからこの場所で言わせてくれ、幻華(げんか)の森で一目見たときからお前に首っ丈だ! 100年経った今でも更に惚れて自分でもどうしようもないんだ! 昔食わせてもらった旨い料理の腕に、普段の冷たい態度に、偶に見せる優しさに、妖精を可愛がる姿に、全てが俺を夢中にさせるんだ。元奴隷の俺が女を幸せにできるかなんてわからん、だがお前と一緒に居られれば俺は幸せになる自信がある! 俺の女になってくれ!!!」


シドの色気のない愚直(ぐちょく)な告白にカレンは言い表せない感情がなにか思い至り、それがストンと胸に落ち着いた。


(私でも恋なんてできるのね・・・)


「ふふっ、、確かに詩人のような浮いた台詞ではないわね」


「―――駄目か?」


カレンの言葉に肩膝を突いたまま瞑っていた両目を片方開けチラッと此方を覗く。


(本当に可愛いわね)


「私は我儘よ?」


「そんなお前に惚れた」


「・・・離れるつもりはないわよ?」


「お前が嫌といっても離れん!」


(ああ―――遂に見つけたわ、ありがとう)


「…そう。ありがとう。共に不滅の存在だもの、この先無限に続く時を一緒に過ごしましょう」


「、、、おお! おおおお! そうかっ!! そうかそうか! ありがとうカレン!」


カレンの同意を得て狂喜乱舞のシドはカレンを抱きしめ一心不乱に振り回す。

100年懸けてやっと添い遂げたシドは初めてカレンを目にした時と同じぐらい緊張し、胸が高まる。


「ちょっと、苦しいわ」


「あ、ああすまん、つい――な、そうだこれを受け取ってくれ」


シドの目一杯の力に流石に抗議し、少し名残惜しくも離れるとシドは懐から指輪を取り出した。

あらゆる世界で色々な宝石を目にしたがそんなカレンでも始めてみる指輪だった。宝石をくり抜き、指輪の形に加工したそれは、あらゆる色の輝きを発し中央に月の細工が施された見事な一品だった。


「見たこと無い宝石ね」


「この日の為に作った宝石だ。名前は出会いの場所からとって幻月華(げんげっか)にしようと思うんだがどうだ?」


「凄く綺麗―――幻月華、素晴らしい名ね」


なんだかんだと、詩人のような洒落た名付けにカレンは朗らかに笑う。


「…んっ、、、」


再度優しく抱き上げられ、在り続けて初めての経験。唇を交わす。


(変な感じ・・・でも嫌じゃないわね)


「ありがとう、シド」


この日初めて男の名をカレンは口にした。

そして超越者の番がとある秘星で生まれた。

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