09話 仕入れる錬金術師
幻神歴2958年02月13日
「おかえり、鉱山はどうだった?」
アシュリー工房の購入、修繕作業の手配が済んだ翌日
引き続きスピカ亭に一泊した2人は早朝に今日の活動を決めて別行動を取っていた。
錬成台や必要道具の購入手配にカレンは錬金組合へ、コボルトは鉱山の現状確認に
そして日も暮れ茜色に染まった頃、一足早くスピカ亭に戻ったカレンは夕餉はコボルトが来てからでいいので、と葡萄酒とお通しを注文し、市場が締まる直前の賑やかさと雑多な声が宿まで届くのでそれを背景音にして1人酒を満喫しているとコボルトもスピカ亭に戻ってきたので葡萄酒を追加注文して別行動の結果を尋ねる。
「おお、想像以上の宝の山だったぜ。初めに加工組合に寄って北鉱山で発掘できる一覧を訪ねたんだが、どうやらエーテルと魔力が浸透した一種の異界化した鉱山らしくてな、多種多様な鉱石が発掘されてるんだが岩盤にぶち当たって難航しちまって今は西鉱山に専念してるとよ。実際に行ってみたが確かに岩盤があって人間だとあれは手が掛かるだろうが俺っちなら難なく掘れるな」
結果を話してる間にコボルトの分の葡萄酒が届いたので一気飲みして御代わりを注文し、カレンは2人分のおかずを頼みコボルトと乾杯する。
そしてカレンは結果報告に大満足で喜ぶ。
コボルトは最下級の幻獣で戦闘能力は皆無だがその分山や森などの自然界での感覚がずば抜けてるので主に偵察が契約目的だ。
そして契約者側にはあまり関係無いのだがコボルトは銀を好み隙を見ては銀を探すような奔放な種族だ。
そんなコボルトなので種族特性で発掘技術もずば抜けており岩盤など土のように発掘できるのだ。
「じゃあ独占できるじゃない! チャンスよ」
「まぁまて、それについては俺っちに案があるから任せてくれ。それで、おめぇのほうはどうだった?」
はしゃぐカレンを落ち着かせ、コボルトは何か案があるとちらつかせそれでこっちの話は終わりとカレンの成果を尋ねる
「へへ~。聞いてっ! 流石錬金術師を束ねるだけあって組合の品揃えは見事だったわ! 錬成台も様々あったけど思い切ってエーテル鉱が組み込まれた錬成台を手配してもらったわっ! ―――それだけで金貨90枚消えたけど…」
楽しそうにカレンは結果を話していたのに金額の所で言葉尻が弱くなる…そんなカレンにコボルトは問題無いと続きを促す
「気にすんな。それは今後の商売の軸になるもんだから金掛けるのは間違ってねぇ、それで? 他の道具も手配できたのか?」
錬成台の予算については金貨50枚前後と話していたが金貨90枚だと金貨40枚も予算越えしてるが実の所コボルトはそれを見越していた。
本音を言うとコボルトの実予算は金貨100枚だった。
カレンの性格を熟知してるので多少の予算越えを見越していたのだ
錬成台については先の言葉の通り今後の軸となる品で金を掛ければそれだけ見返りも高くなるので問題ない。
「ありがと。うん、錬成器具一通りと水薬用の容器500本も手配出来たわ。錬成台と一部の道具は首都から取り寄せるから組合の元に届くのに2週間程掛かるって。
錬成台と合わせて金貨145枚と銀貨25枚の出費だけど錬成器具はやっぱり市場よりも組合のほうが安いし品揃え良くて数も頼めるから今後も必要な錬成道具は組合で手配するわ」
市場でも錬成器具を扱ってる店は数こそ少ないが一応有る、だが他の町と比べてルルアでは公の錬金術師が少ないので必然器具の需要が薄く、市場に出回る器具は中古が殆どで少なさから割高となっている。
「あいよ、それで幾ら残った?」
「金貨128枚と銀貨54枚ね。―――星金貨を除いてね」
「ふむ、2週間か。提案があるんだが、…先に言っとくが俺っちの我儘も入ってるのは認めるがそれでもいい案だと思うから聞いてくれ」
珍しく真面目な口調でコボルトが話を切り出す
「ええ」
「工房の手入れに約一ヵ月掛かるだろ。そして錬成台が届くのが2週間後、その二週間を無駄に過ごすのは勿体ねぇからそこで例の道中の花畑、誰が造ったのか知らねぇが国有地なんだ、遠慮する必要はねぇ。あそこの植物を荷台に積めるだけ積んで来るんだ。往復で丁度二週間だろ」
「いいわね」
カレンとしてもあの花畑にはまだまだ未練があるのでコボルトの案に即答する
国有地に勝手に造られたというのもあって罪悪感も無く丸ごと移植する気満々だ
「で、だ。戻ってきたら丁度錬成台が届く頃合いだが急ぐ必要はねぇんだから工房完成するまでルルア渓谷に採集いってみようぜ。俺っちはおめぇが戻ってくるまで早速明日から鉱山の発掘に専念する。どうだ?」
コボルトの計画では工房が完成しても屋内の家具や機材の設置もまだ手付かずだしなにより肝心の販売する商品がまだ無いので完成して直ぐ工房を開くのはとてもではないが無理だ。
だが、その点には執着してないので時間を掛けて商品を揃えるつもりだ。
しかし現在の残金では家具や機材、そして香水と茶葉以外の素材を揃えるにはとても足りない、テンゲン大樹海のように素材の自給自足が出来ない以上素材も渓谷で仕入れるか購入するしかないが未だ未踏の渓谷にカレン1人で採取に行かせるのは不安なので却下、なら例の花畑と鉱山で素材を仕入れてカレンが戻り次第護衛を雇ってルルア渓谷に採集に行き更なる素材集めの算段だ。
「ん~…ん? ちょっと待って、明日から鉱山ってじゃああの花畑まで私1人で行くってこと?」
「ああ。うちの荷台の他にも更に1台荷台だけ借りてリリーに荷台2つ運んでもらえ。植物だけならリリーでも二台運べるだろ、嵩張るだけで重量はそんなにねぇしな」
「それはいいけど―――来るときは無事だったけど大丈夫かな…?」
「それなら心配はねぇ、平原までの街道は何年か前に小動物以外魔獣含めて狩り尽くしてるとよ。それに盗賊対策に軍が遠視の魔法で監視してるらしいから街道まではここ数年は盗賊被害も無いらしい」
カレンの心配事にそういえばまだこいつには伝えてなかったと仕入れた情報を伝える
街中を挨拶周りで駆け巡っている間に仕入れた情報のお陰で街道での疑念は解決した。
余談だがルルアに着いてからカレンは組合へ加入以外殆ど活動せずスピカ亭でだらけていたが、商人気質のコボルトは挨拶回り・工房の宣伝・人脈作り・情報収集と奮闘していた。
商人にとって人脈と情報は命だ、それも移住したばかりの町で店を開くとなると猶更の事だ。
「あんたそんな事まで調べてたの? まぁそれなら安心みたいね。分ったわ、そうしましょうか」
カレンも納得した事で2人の今月の予定が決まり翌日早速準備を進める
荷台を馬抜きで二週間借りる費用に銀貨30枚とその間の食料に銀貨6枚使い、残りの金は町に残るコボルトに預けカレンはリリーと共に荷台を2つ繋いで街道へ向かった。
一方コボルトはカレンが戻るまでの間の2週間は食料を買い込んで鉱山に籠る予定なので宿は取らず、鉱山へ…行く前に加工組合を訪ねて腹案の取引を持ち掛ける。
「すいやせん、昨日も尋ねたもんですが、ちょいと北鉱山について良い話があるんで組合長と話せますかい?」
昨日も尋ねたことも有り加工組合の受付員とは見知った間だが突然組合長と合いたいと言われても通常は事前に予約が必要なのだが受付員は組合長へ話を通した、これは事前のコボルトの挨拶の賜物もあるがコボルトが鉱山について話を持ち込んだのも大きい。
その証拠に受付員はコボルトの元に戻ってくると「組合長が是非お話を聞きしたいとのこですのでご案内します」とコボルトを組合長室へと案内しノックすると渋い声で入室の許可が下り、受付員はそのまま受付に引き返しコボルトのみ入室する。
室内には加工組合らしく至る所に加工済みの見事な装飾品が展示されており、その中央に石造りの見事な装飾が施された長机と椅子が七脚有り、上座に中老のいぶし銀といった組合長が鎮座していたが立ち上がり自己紹介を始める
「どうも。加工組合長のミルド・セドランドです、北鉱山についてなにか良い話がるとか?」
挨拶こそ丁寧だが顔は全く笑っておらず、どう見ても歓迎の様子では無く、しかめ面のままでコボルトに席を進め、そんなミルドの応対を気にかけずにコボルトも遠慮せずミルドの直ぐ隣の席に座り自己紹介を済ませる
「どうもどうも、あっしは見ての通りのコボルトで、先日相棒の錬金術師のカレンと共に北鉱山の発掘権利を得たんですが、当然組合長はご存知で?」
「うむ、件のエーテルポーションの制作者のアシュリー氏だな。正直妬ましいよ、コボルト殿がいながら発掘の権利など…」
そう、ミルドの不機嫌な理由がコボルトには判っていた
特権として得た発掘の権利、当たり前だが鉱山の所有権ではないので鉱山を管理してる加工組合に一定の発掘期間を申請してその間自由に発掘できるというものだ。
そして北鉱山は今発掘作業が停滞しておりそんな所にコボルトに発掘権利など出せば実質コボルトの独占のようなもので、それが加工組合長のミルドの態度の理由だ。
最もコボルトはそんな状況を改善し双方の得になる話を持ち掛けるので嫌味を軽く流し早速本題を切り出す。
「いやぁ、そこなんですがね。あっしならあの岩盤も難なく掘れるんですが、ここで提案というか取引しませんかね?」
「ほう、取引、ですか? 聞きましょう」
ミルドの顔が益々渋くなり完全に怒り顔になる
このタイミングでコボルトから取引などどう見ても理不尽な内容しか浮かばず、ミルドは内心憎々し気に、それでも話は聞く、どれだけ理不尽でも鉱山の発掘再開の望みがあればそれを不意にする事はできない。
発掘職人の数は数百人と存在し、今でこそ西鉱山に集中してるが二ヵ所の発掘場の人員が一ヵ所に、それはいずれ食い扶持を無くす組合員が出るのは自明の理だ。
「坑道を塞いでる岩盤を掘り尽くした後、途中の岩盤も掘ります」
「ふむ」
途中の岩盤の奥も掘り尽くすと言ってるようなものだ
「けどあっし1人で独占してもあれなんで、こちらの組合の職人方と合同で発掘しやせんか?」
「…発掘量の分配ですな?」
合同の発掘とはミルドの予想外の提案だが自身がコボルトの状態で考えてみるとすぐにそこからの利益に思いつく
発掘品の5割…いやそれ以上かもしれない、それほど今のコボルトは有利で、そんな内容でも飲むしかない状況なのが現状だった。
(まったく癪に障る…領主殿の意見もあって発掘権を発行はしたが…代価が金貨5000枚と聞いて組員への保証に充てられると喜びも束の間でまさかコボルトが相手だったとは、これでは鉱山の資産食い潰されて金5000など割に合わんというものだ)
北鉱山で発掘できる物の中には質の良いエーテル結晶や魔力結晶も含まれておりそれだけで一回の発掘量で金貨5000を軽く超える品だ。
ミルドは職人気質で商人のように駆け引きは不得手なのだがそれでも組合長という役職の元組合員の生活を守らなければならない、今でこそ西鉱山で働き口は足りるがいずれ人手が溢れその組員の生活保障にかかる額が金貨5000で補えるがそれはいつか北鉱山での仕事が再開するのを見越しての話だ。
なのにコボルトが北鉱山を独占すればそれを失い、いずれ金貨5000でも補えなくなる。
なのでどれだけ理不尽な内容でも北鉱山の発掘再開に繋がる道は見過ごせないのだ。
「ええ、あっしはあっしで発掘するんで代わりにそちらの職人方が掘った鉱石の内から銀と2級原石を3割頂きたいんでさ」
コボルトの要求を聞いてミルドは初めてしかめ面を崩し思案顔になる
銀はともかく2級原石は大した値打ちの物ではない、しかも3割という余りにも控えめな割合に意図が掴めずコボルトの真意を測る
「―――銀と2級原石以外の分配は?」
「不要でさ」
「ふむ、正直此方の益が多すぎて怪しいですな。其方の益は?」
即答するコボルトにいよいよ真意を測るのを諦めるミルド、元々このような駆け引きは性に合わないと自覚している彼は相手が不快に感じようとも素直に思いの内を口にする
「なるほど実直な方で。銀と2級原石の安定供給だけでも十分有難いんですが、こっちも実直に行きましょう。此方の組合に貸しを作りたいんでさ」
コボルトはこの時点で組合長が駆け引きを得意としない、職人気質と見抜き、ならば此方もストレートに行こうと狙いを明かす。
元々この提案は双方に得があるのだから堂々と持ち掛ける
そんなコボルトの言にミルドは強欲な商人に対する警戒を解き、顔を崩し素顔で応対する
それでもいぶし銀な顔は鷹の眼のように鋭いのだが
「ほうほう、その先の狙いを聞いても?」
「見ての通りあっしはコボルト。鉱山とは長い付き合いになる、そして相棒のカレンは錬金術師。当然原石や宝石の加工も仕事の内、必然カレンも加工組合にお世話になる。そんなお世話になる組合を差し置いて独占して敵対するより利益を共有して親しくなりたいわけでさ」
この提案は表向きは加工組合への顔を立てるというのものだが、コボルトの本音は銀と2級原石の安定供給を確保する事が大きかった。
これで自分が発掘できない間も素材が手に入り店の商品が潤うというもの。
銀は自分の為だが2級とはいえ原石には鉱石の指定はしてないので全種類の鉱石が3割だ、それをカレンなら一級品の原石に錬成できるので一工房としてはかなりの額の安定が見込める。
「なるほど…確かに錬金術師がおられるなら2級原石でも用途はありましょうな。ですがあの鉱山は更に錬金術師なら欲するエーテル鉱や魔鉱石が発掘されている、当然貴方もご存知でしょう? それも分配は不要と?」
先の発言からコボルトが目先に走った商人ではないと察したがそれでもミルドは気になる点を訪ねた。
錬金術師ならクズ原石も宝石にできるがそれはあくまで収入の1つでエーテル鉱や魔鉱石は錬金術師の己の技を高める必需品ともいえるのになぜそれを要求しないのか、そしてその問いにもコボルトは心根を語る
「本音を言えばそれも喉から手が出るほど欲しいんですがね、銀やクズ原石と違ってそれは下手な宝石より値が付くもんだから今回は控えさせてもらいまさ」
言葉の通り今回の取引を持ち掛ける直前、正確には加工組合の前まで魔鉱石とエーテル鉱の取り分については悩んでいたのだ
だが、例え少量でもエーテル鉱石を取り分に加えたら職人の賃金に影響を与えてしまうと考慮して苦渋の末諦めたのだ
加工組合と長く良い付き合いを目的としてるのにその組合内の職人の賃金を下げてしまっては意味が無い、それほどこの2つは高額で希少な品なのだ
「商人なら真っ先にエーテル鉱や魔鉱石を要求すると思うのだが、なぜ控えられたので?」
「あっしらはつい先日この町に居ついたばかりの新参者でさ。そんな新参もんが偶々手にした特権を盾に既存の職人の食い扶持を損なうような真似したら一時は潤っても後々の諍いの種になるのは目に見えてるもんでさ。あっしらはこれから工房を持つ商人です。目先の金より長期的に加工組合とは親しくさせてもらうほうが先の眼を見れば得ってもんです」
ミルドはコボルトを見据える
コボルトは最下級の幻獣で契約しやすい
幻獣師や召喚師は未開地での探査目的で契約するのだが種族本能で銀を欲してしまい精霊種族特有の奔放振りから契約主も手を焼く種族でもある
だがコボルトの発掘技能を目的に鉱山に携わる職人が先の2師と契約して鉱山で発掘に取り組めば効率がいいのは当然なので何処の国でも試しているのだが正直これが全く上手くいかず、折り合いのついた鉱山は極僅かである
理由がコボルトが鉱山をテリトリーにしてしまい発掘された品を独占してしまうのだ
最下級とはいえテリトリーとなってしまうと幻獣や召喚獣に関する規制によりどこの国でも幻獣側に一任されてるのでどうしようもないのだ
だが目の前のコボルトが持ち込んだ内容は既存の職人を考慮した取引内容だ
なぜ商人をしてるのか不明だがこれは確かに双方に益になると確信させるだけの説得力もある
なら決まりだ
「成程、強欲でない良き商人のようですな。失礼しました、コボルト殿の提案快く受けましょう。早速契約書の手配を」
そんなコボルトの言にミルドは初めて笑顔で気を許す
ミルドにとって打算の無いその取引内容、コボルトと将来性のある錬金術師との有益な繋がりを得ると知り組合に損はないと判断し、そうなると行動は早く即座に受付員を呼び寄せ契約書を用意する。
そんな即断即決なミルドにコボルトも気に入って笑顔で握手を求める
「感謝しますぜ、是非今後とも懇意に頼みまさ」
「此方こそ。良い商人との出会いは金貨の重みに勝るもの、この契約を通じてお2人とは末永く良きお付き合いをしたいものです」
こうして契約を交わした2人の行動は早く、その日の内に鉱山に赴き久々の発掘に大はしゃぎで尻尾をぶんぶん振り回しながら発掘を始めるコボルト、翌日には加工組合から30人の発掘作業員が鉱山入りして、当初こそコボルト相手にぎこちなかった作業員達だったがコボルトの気さくさと発掘の卓越振りからすっかり馴染み、北鉱山は破竹の勢いで発掘が進んだ。
余談だが契約書には銀と2級原石の3割の他に追記で組合員の発掘分からエーテル鉱と魔鉱石3%も含まれておりコボルトが問う前にミルドは言い切った
コボルト殿の配慮は理解したが3%の損失なら今後の発掘で十分補えるのだよ、当組合の職人ならそれぐらいやってのける。其方の誠意への答えだ、と。
長年支えてきた組合長としてのプライドを見せてくれたのだ
一方カレンは2つの空の荷台をリリーに運んでもらい、南門の検問所で通行税の銀貨1枚払って街道を進んでいた。
今回の仕入れは2週間の予定なので錬金組合に伝えるだけで良いので問題無く外出は決まり、その目的が香水や茶葉の原料採取なのをリールーに教えると「新しい香水に期待してます」と応援も貰い、意気込み良くルルアを出た訳だが…
「これ、2週間1人だけってなんか寂しいわね…」
思えばこれだけの期間1人なのは初めてだと不安と寂しさから弱音を吐き、久々のリリーとの一方的な会話? に励む。
そんな久々のスキンシップにリリーは満更でもないのか喜んでる様子で、道中もコボルトの言う通り軍の遠視という抑止力が働いているのか賊の輩に全く出くわさす事無く、何度か行商人らしき馬車とすれ違うぐらいだ。
そんな安全で特に冒険も無く道中に寄った花畑に着いた。
幻神歴2958年02月28日
以前来た時からまだ日が経ってないので以前通りの風景だが、今回は採取ではなく丸ごと移植目的だ。
ただの鑑賞用の花を除き、素材になる植物だけ選別すれば荷台2つでもなんとか全部載せれるので早速移植作業に入る。
(流石にこれ全部移植となると二日掛かりになりそうね、今日は無理せず明日に…)
「ねぇねぇ~」
カレンが思案していると突如背後から声を掛けられ、驚きで振り返ると其処には少女? が居た。
「私の花畑でなにしてるんですかぁ~」
10歳前後かそこらの外見通り少女らしい舌足らずで間延びした声。
服装は装飾の無いシンプルな白のワンピースだけだが容姿が整いすぎて状況も合わせて深窓の令嬢を彷彿とさせ、初めて見る漆黒の長髪がなびいて幻想的だが、カレンは胸中それ処では無かった。
(やばいやばい! どうしよ?! てっきり魔法師かなんかの気まぐれで造った花畑と思ってたのにまさか人外の場所だなんて…)
そう、カレンは少女が幻獣や召喚獣といった人外と見抜きてんぱっていた。
戦闘職特有の気配の察知などカレンは無縁だが自慢の聴力で誰か近付けばさすがに判る。そしてそんな様子もなく、音も無くこのような場所に現れたのが外見は子供にしか見えない少女だ。
まさか花畑の主に遭遇するとは思いもよらなかったが魔法師ならまだ話合えばなんとかなるが人外となると話は別だ。
幻獣や召喚獣にとって契約の代価や自身の縄張りを侵されるのは逆鱗に触れるも同義、敵対行為そのものだ。
早い話、絶体絶命の危機に陥っていた。