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臆病兎の錬金経営譚  作者: 桜月華
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77話 幕間 アシュリー工房の日常

幻神歴2960年09月24日


アシュリー工房の朝の光景

左右の2人より一足先に目覚めたアマネが起こす気が有るのか無いのか、小声で2人に声を掛ける


「うゅ・・・カレンちゃんアリスちゃん朝ですよぉ」


いつも通り無反応だ


「相変わらず2人とも朝はだめだめですねぇ」


そしてアマネは整髪道具を準備して2人を上体だけ起こさせて好き勝手始める


「ん~~今日はぁ――ふわふわの巻き髪にしましょうねぇ」


姉妹兎の寝起きの悪さにかこつけて未だ無覚醒の2人の髪を整髪して朝の楽しみを満喫するアマネ

カレンの整髪をするようになって今迄毎日髪型を変えている。

妹兎の整髪が終わり姉兎の整髪に取り掛かっているとここで漸く姉兎も目覚める


「――ぁ~おはよ、、」


「アリスちゃん起きましたかぁ」


「今日は巻き髪? お前も飽きないわねぇ~」


誰かに髪を手入れしてもらうなどそれこそ幼少期の最早朧気になった母にしてもらったぐらいでこそばゆい気持ちもあるがアマネの技術は本物なので大人しくされるがままに任せるアリス


「私の楽しみですからぁ!」



アマネが無い胸をえへんと張って言い切ると同時にカレンも漸く意識が覚醒する


「ん~~姉様、アマネ。おはよ」


最初の内はカレンも目覚めたらアマネに髪型をセットされている事に抵抗が有ったが今では慣れてしまい日課と身に付いてしまっている。アマネの執念の勝ちだ


「カレンちゃんおはようございますぅ」


3人とも覚醒した事で其々服を着て朝の仕事に入る

アマネはコボルトとシャイタンと合流して店舗の品出しや整理、アリスは引き続き朝食が出来るまでの束の間を二度寝。フラミーは森で妖精や神獣達と打ち合わせ、そしてカレンは台所で朝食の準備と此処から既に仕事は始まっていた


「さて・・・今日の朝餉の献立は良いとして、弁当は何にしようかしら?」


そう、アシュリー工房の1日100食限りの限定弁当も作らねばならないのだ

開店当初はカレンも弁当に種を凝らしていたのだがリピーターの要望で兎に角がっつり量を! との声が圧倒的に多いとコボルトから聞かされ使い捨て容器を倍の大きさにしたので大忙しだ。


前日にある程度仕込んでいるとはいえ100食分の献立と箱詰めだけでかなり時間が取られてしまう

そして暫く考え込み今日の献立は家族の朝餉と同じ焼肉と決まった


アシュリー工房では健啖家2名とこの弁当の素材を考慮してコボルトが市場の食材屋と契約して毎週定期的に工房まで大量の肉や食材が運び込まれており肉に至っては何人前処では無く何等分規模で買い込んでいるので牛・豚・鳥・熊・猪とあらゆる肉が備蓄されているので手際よく焼いて行きカレンオリジナルのタレで味付けして肉7パン2野菜1の割合の弁当が完成し、梱包も済ませ次に家族の朝餉に取り掛かる


「おっ、今日は朝からガッツリ肉か! いいねぇ」


「朝から焼肉とは豪勢ねぇ」


「私はこのタレにつけてパンと食べるのが好きですねぇ」


「先輩、品出し終わったぞ。おや、カレン様今日は朝から肉ですか」


「お早う御座います皆さん、カレン様の料理はどれも楽しみですな」


朝餉の準備が終わり姉を再び起こして台所へ連れてくると丁度一同介して朝餉の感想が零れる

食卓の上には熱した大鉄板と山盛りの種類様々の肉が乗った大皿が所狭しとありカレン手製のふっくら白パンにアマネ作の野菜も忘れていない


「味付けはしてあるけど各々自分で焼くから結構楽だしね、でもでも。今日の夕餉は新作を披露するつもりだから期待しててっ」


皆忙しなく食事の腕を進める中カレンが夕餉に期待を持たせる

前回アマネ作の稲から造った米、ご飯を披露した所、アリスとアマネは好評だったが我が家の健啖家コボルトとシャイタンには不評だったのでそのリベンジを図っていた


尚、フラミーの分は焼いた分をカレンが床へ配膳しており、てっきりフラミーも良く食べるのかと思いきや、それ程でも無く、2,3人分で満腹だと言う

コボルトとシャイタンの2人だけでアシュリー工房のエンゲル係数は1桁増えている





朝餉も済んだことで各々仕事に入る

カレンは地下工房で商品の錬成と研究に、アリスは部屋で3度寝、アマネとフラミーは森の視察と手入れに、そしてコボルトとシャイタン、それと開店間際に森からティターニア率いる名無し妖精4人が就労に入りアシュリー工房の開店だ


開店時間を過ぎて数分、早速ドアベルが鳴るとお客は子供が4人だった


「お、チビ共よく来たな」


氷菓子を販売するようになってコボルトの狙い通り子供の客も増えてきており子供達にとってはアシュリー工房はルルア兎に妖精、毛玉のコボルトと遊び相手の尽きない場所となっている


「毛玉の! 今日も氷頂戴」


「コボルトちゃん私も氷~」


「俺も氷だけど妖精ら遊べ~!」


早速子供に囲まれたコボルトが慣れた所作であしらいつつ銅貨を受け取り氷菓子を配膳して備え付けの机に呼びつける。

子供たちの中で1人だけおしゃまな子が野花をシャイタンに送っていた


「・・・・・シャイタンさんこれどうぞ」


「なんだ草か。拙い、これは食えんだろうが」


子供相手でも愛想の無いシャイタンだったがおしゃまな子はそんなシャイタンに満更でもないのか満足気になって机に向かった。


子供達を皮切りに次々とドアベルが鳴り忙しくなるが今でも半数はコボルトへの挨拶やお礼が目的なので接客は横柄なシャイタンと適当な妖精5人で事足りている。


昼餉を挟んで営業再開すると予約していた商業組合の視察人が来たのでこれもコボルトが対応して店舗にある机で商品について議論を交わす


白熱した議論は30分で済み互いに握手して終えるとコボルトも接客と挨拶客相手に戻る

そして閉店まであと1時間と言った所でまたしても商業組合の人が、但し先程とは違う部署の人で当然コボルトが対応する


「ジードさんじゃねぇですか。今日はどうしたんで?」


「やぁやぁコボルトさん。実はですね、とある商談がありまして是非相談に乗って頂きたく――」


「勿論でさ、ささあちらの机へ、名無し。お茶の用意を頼む」


近くにいた名無し妖精にお茶の手配を頼んで備え付けの机を囲む


「了解~」


妖精の運んできたお茶を簡素にコボルトが淹れ、2人して喉を潤すと早速ジードが本題を切り出す


「早速なんですがね、キャラバンサライで支店を出してはどうかと提案したくてですね」


「あ~――やっぱキャラバンのほうからも声が掛かりやしたか」


ルルアに来た当初はキャラバンサライの存在を知らなかったが、暫くしてその存在を知ったコボルトだが行商では無く街で居を構え営業する自分には無縁と思っていたのだがアシュリー工房の知名度が上がるにつれ無視できないでいた難事だった


「ええ、コボルトさんの営業方針は存じてるのですがキャラバンサライは他国の行商人も多くいるので無下に出来ないので商業組合でも困ってるんですよ・・・」


キャラバンサライは行商人の集いだが出資元は連合国で当然シャルマーユも含まれており一大規模だ

行商人の為の区域で宿泊施設から庁舎まで有り当然その場で営業も行われる


「あっしもそれは予想してたんですが結局はポーション類が目当てだろうけど、個数指定あるから支店を出してもなぁ」


「ええ、そこなんですよ。お上のお達しなので支店を増やそうが指定個数が増える訳じゃありませんからコボルトさんには全くメリットが無いのは判るんですが・・・商業長も頭を悩ませてまして、なにせキャラバンサライは多国連盟ですからルルアの一存では弱くてですね」


2人の懸念通りキャラバンサライとしてはアシュリー工房で個数指定されているポーション類を扱いたいという事だがジードが言った通りで、仮に支店を出した所でその支店にも別途販売個数の指定が成される訳では無い、それが可能なら支店を乱立させ大量販売するという悪用ができてしまうからだ。


コボルトとしてはこの話、乗るメリットが殆ど無い。

無いが、ルルアの有名店としては無視できる話でも無い、そこで前々から思案していた腹案をジードに提示する


「んん~~~こういうのはどうですかね? 指定個数のあるポーション含めて信用の置けるキャラバンに構えてる行商人に卸すってのはどうですかい?」


「成程、支店でなくキャラバンサライでも行商人を介して販売すると・・・此方としては助かりますが、宜しいので?」


コボルトの提案は端にキャラバンサライも客になるという単純な話では無い

例えばエーテルポーション、アシュリー工房だけで毎月完売しているのにキャラバンサライにも販売するとなると供給が減る事になる。同じ売り上げでも客への供給が変わるのだ。


「元々キャラバンサライの存在を知ってから無視はできないと頭の隅に置いてた話なんで構いませんぜ。その代わり行商人の手配は其方さんに任せていいですかい?」


今現在アシュリー工房と契約している卸商人は3人だがジードの打ち合わせでキャラバンサライから2人信用の置ける実績ある行商人も新規契約する事になった。


「ええ、ええ! 勿論ですとも!! いやぁ助かりましたよコボルトさん」


こうして新たな商談も成立し閉店時間となり閉めの掛け看板を出そうとした所で最常連客が訪ねて来た


「コボルトさんどうも」


「リールー嬢さん今日は遅い出勤ですね」


アシュリー工房の半従業員のお出ましだった


「ははっ・・・出勤ですか・・・・本当笑えない、、あら?」


リールー・エイシャ自身もう自覚してるので諦めも交えて溜息をつくと商品予定棚に見慣れない瓶を発見する


「ああ、そいつですかい? 酒の製造許可出たんで早速カレンが錬成したやつも商品にしようと思いまして」


アシュリー工房はアマネの作物以外全てカレンの錬成品なので当然販売品には錬金組合の許可が居るので新商品はリールー用の予定棚に陳列されているがその瓶に付いてる値札がリールーの予想を遥かに超えていた


「成程。ですが・・・・・この値段本気ですか? コボルトさんらしくない価格設定ですね」


その価格はカレンが付けたような値段だった

予定棚には12本の瓶があるがどれも金貨20枚以上というお酒では有り得ない金額なのだ


「あ~それについては俺っちも納得いかねぇんだけど商業組合の決定だからどうしようもねぇんでさ」


「組合の指定? どういう事です?」


出来る女、リールー・エイシャが組合指定と聞いて眼鏡をくいっと掛け直し詳細を尋ねる


「あぁ、俺っちも詳しくは理解できなかったんだが、なんでもそこに並べてる酒は古酒とやらでどこぞの国のお貴族様が占有する程の品らしくてね。その貴族の手前と希少性からその価格指定されたんでさ」


抑々売り物になる筈がない品なのだ。商業組合としては販売は止めたいのだが別に違法でもないので止める事も出来ず上層部と相談した結果フルーラの貴族への体裁を踏まえて価格設定された清酒や米酒だった


「そんなに珍しいお酒なんですか。相変わらずカレンさんの錬成品は落差が激しいですね」


一本手に取りしげしげとお高い酒瓶を眺めるが水にしか見えない不思議な酒だった

リールー・エイシャは酒が大好きという訳では無いが付き合い上飲む機会が多く、かつては女子会で飲み会もやっていたのだ

つい好奇心が勝ってしまう


「丁度夕餉時ですしリールー嬢さんも一緒にどうです? その酒も空けるんで味見してみては? 俺っちには薄味だが珍しい飲み心地ですぜ」


親切心からの誘いだったが後日コボルトは姉妹兎にこれがしこたま叱られる事になる


「そ、そうですか? じゃ、じゃあ折角なので」


こうして夕餉に久方ぶりにリールー・エイシャも囲む事となり家族皆歓迎してカレンの新作が披露された

健啖家2名に不評だった米を大皿に敷き詰めその上に刺身と山葵と醤油、つまり海鮮丼だ


昔の大和では良く見られたその料理に健啖家含めた家族全員とお客のリールーは大満足でカレンは忙しなく食卓と台所を行き来してお代わりを装う


そして古酒も蓋を開いた


シャルマーユでは酒と言えば葡萄酒か蒸留酒、変わり種としてエールぐらいだ

水のように飲み干せる葡萄酒、度の強い焼ける様な蒸留酒、苦みのある癖有るエール

カレンの創った古酒は飲みごたえは葡萄酒で度は蒸留酒だ


飲み慣れない度の強いお酒、当然酔う、そしてリールー・エイシャは鬱積の権化だ





・・・・・つまり悪酔いした




「わらける~♪ ほんっとわらけるわ~!」


場の空気は食初めから一変していた・・・

躁鬱の激しいリールーをアマネが抑えようとするが


「あ、あのぉ、リルルちゃん。もうその辺にしといたほうがぁ」


「黙れ問題児2号! 今日も元同僚の部下に怯えた目で視られる私の気持ちがわかるっての!?」


「リルルちゃんの境遇は解りますけどぉ、で「解られて堪るかっ!! 畜生、あいついっそのこと本当に襲ってやろうかしら。ひっく―――バージルなんて完全に腫物扱いしやがってちくしょうぅ」


酒瓶片手にラッパ飲みして机に突っ伏すその姿は居たたまれない


「姉様やっぱりリルルそっちの気が・・・「カレンしっ。こういう時は空気になるのが一番よ」


「聞こえてるわよそこの疫病兎共っ!」


ちなみに姉妹兎は既に部屋の隅で正座させられていた


「「あ、はい」」


酔っ払いは得てして無茶を言う者


「あんたらちょっと人体錬成で男創ってこいよ」


眼の据わったリールーの真面目な台詞だった


「ね、ねぇリルル? 人体錬成は禁忌よ? 無茶言わな「わらける~!!!」


「散々禁忌も真っ青ないかれた魔導具生産しといて今更禁忌の1つや2つ何言ってんの? わらけるわ~」


流石に悪酔いしすぎだとカレンが食って掛かるがこの場合暖簾に腕押しだ

アリスに至ってはリールーが酔って最近の口癖の「わらける」が出たと同時に委縮してしまっている


「いかれてないわよっ! 大体人体錬成なんて無茶するぐらいならさっさと番見つければいいじゃないっ!」


「嫌味か疫病兎!? その番になれない元凶の分際でなにを・・・到達点の先まで開くぐらいなんだから男の1人や2人朝飯前でしょ、ほら。さっさと錬成してこい」


「「ムリデス」」


「私の悪評も気にしないちょっと年上で、やさぐれた私を丸ごと優しく抱いてくれる渋いイケメンな」


「「ムチャデス」」


「無茶苦茶な存在が何言ってんの? あっ、パパとママを将来面倒看るぐらいの器量は必須だからな。後ついでにコボルトさんみたいな商才ある奴な」


「「ゴメンナサイ」」


「商才といえば聞けよ。商業組合の戒めで強欲な商人は金貨を手に孤立ってあるけど? 私商才あるんじゃね? 今正にその境遇なのよ? 分る?」


「「ワカリマセン」」


「疫病兎共と問題児二号とそこの憎たらしい使い魔のせいだろうがっ!!!」


アマネに抑えられつつ酒を煽り正座している姉妹兎に鬱積をぶつけるリールー・エイシャに姉妹兎はさっさと酔い潰れて寝て欲しいと願った。後にアシュリー工房の掟でリールーに古酒は与えない事が決まった瞬間だ


「シャイタン様、やはりこの者欲しいですな」


「だろう? こんな逸材早々巡り合えんぞ。行く末が楽しみでしょうがない」


コボルトが笑い転げて顛末を楽しむ中、大悪神の2柱はリールー・エイシャに心底興味が有り、益々欲してしまう程だ

なにせこのリールー・エイシャ。姉妹兎に怒りはするものの悪感情が無いのだ


これがどれほど貴重な存在なのか悪神の2柱しか解からない事だった。

こうして最後はリールー・エイシャの暴走で今日という一日は終わった。

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