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臆病兎の錬金経営譚  作者: 桜月華
75/148

75話 逢引する錬金術師

幻神歴2960年07月23日


「ね、姉様この格好は恥ずかし過ぎますっ!」


カレンの部屋に部屋主の声が轟く


シャイタンの望んだ土曜日、つまり逢引の日

アリスとアマネのコーディネートによってカレンは普段のローブ姿から一変していた


「何言ってるのよ可愛いカレンにお似合いよっ」


自身の眼に狂いは無いと目の前の愛妹の可愛い姿に見惚れる姉兎


「そうですよぉ! カレンちゃん益々かわいいですよぉ」


アマネも大好きなカレンの晴れ舞台に念願の着飾った様相に大満足でにこにこ顔だった


「ううぅ・・・アマネまで」


初めての着飾りに慣れないカレンは終始うさ耳は垂れ顔は真っ赤だった


「弁当はちゃんと準備したわね? ハンカチは持った? 忘れ物は無い?」


折角の逢引なのだからとアリスの助言でカレンお手製のシャイタンの好物詰め合わせの特性弁当を早起きしてこさえたのだ


「姉様! 私はもう子供じゃありません!」


カレンは子供じゃないと言うがアリスからしたら大事で掛け替えのない愛妹にして赤子から見て来ただけに娘にもにた愛情を持っていた


「カレンちゃんこの機会にシャイタンに名一杯甘えちゃうといいですよぉ。それがシャイタンも喜びますよぉ」


「そうなの?」


同族との番は無縁と幼少から嫌でも痛感してたのでこの手の話題は全くの無知でアマネの助言を素直に受け取る


「はいぃ!」


そしていよいよカレンの晴れ姿をお披露目と先に売り場で待たせていたシャイタンにカレンの背中をアリスとアマネの2人してグイグイ押してシャイタンの前に連れ出す


「シャイタンお待たせ~」


「いえいえ、この待ち時間も楽しめました」


「女性の準備は時間が掛かる物だからね」


「あぅ・・・その、シャイタンさん。どうかな? この格好」


シャイタンの反応が怖くて碌に顔を見れず下を向いたまま感想を尋ねるカレン


普段の蝶のローブ姿で無く、バンシーのアイマスクはそのままだが今のカレンは着飾っていた。



ローブは羽織らず普段の黒のタイツとブーツは変わりないがシャルマーユの女性の装いにしては珍しく白のショートパンツにピンクのベルト、上は白のフリルのついた半袖のシャツに薄絹の羽織と赤のタイリボン。肘までの高級ミトンのロンググローブ。そして頭上にはフードの代わりに黒の二別れしたベレー帽を被りうさ耳を隠している。

アマネの気合の入った整髪によって臀部までの黒い長髪は2つ結びの三つ編みになっており左には聖遺物の蓬莱の玉の枝の髪留めとなっている。


正に愛らしさとボーイッシュを兼ね揃えたといえる格好だ


シャイタンにこの姿を見られるのは気恥ずかしさも有ってカレンは顔を真っ赤にしてもじもじしておりその姿が余計に悩ましかった。


「―――カレン様の愛らしさを存分に引き出す素晴らしい装いです。美しいです」


カレンの装いに度肝を抜かれたシャイタンが素直に感想を口に出す

そんなシャイタンの服装もアリスのコーディネートで上質な黒のズボンに上は赤のワイシャツと黒のロングコートを纏っていた


「!?う、うつ・・・あ、逢引だからってお世辞はいいわよ!」


慣れない姿、気恥ずかしい台詞に耐えられずシャイタンの胸をポカポカ小突くカレンにアリスもアマネも微笑ましかった。同席していたコボルトは馬子にも衣裳と心中で思っていた


「心からの感想ですが? 私奴が主姉妹に世辞も虚言も吐く筈有りません。とてもお似合いですよ」


意地悪顔で無く本心からの笑顔で更に追い打ちを掛けるシャイタンにカレンはついに折れた


「・・・ぁ、ありがと///」


顔から湯気が出る程のカレンを家族が見送る


「それじゃ2人とも楽しんでらっしゃい」


アリスは2人の進展に期待して見送り


「まぁ良い機会だしこれを機にカレンも女を磨け」


コボルトはカレンの成長の一助になればと見送り


「シャイタン、ちゃんとカレンちゃんをエスコートするんですよぉ」


アマネは素直に2人が楽しめるよう見送った


「それではカレン様、行きましょう」


さも自然にシャイタンは腕を突き出し、カレンがたどたどしくその腕を組む


「え、ええ」


そして2人は仲良くアシュリー工房を出て逢引を始める


「本当はリリーに相乗りで行きたかったんだけど、なんでかリリーはシャイタンさんを乗せるの嫌がるのよね」


嫌がる所では無い、完全に敵視しておりシャイタンが近づくだけで興奮して突いてくるのだ


「鳥馬は元々気性が荒いですからね、私奴と性が合わないのでしょう」


カレンの感想にシャイタンは以前フラミーになぜリリーにこれほど嫌われてるのか興味本位で尋ねた所どうやら焼きもちを焼いてるようでシャイタンは笑ってしまった


「先ずは市場へ行ってみましょ!」


アマネにエスコートしろは言われたが2人とも逢引など初めてで勝手が分かたず、その場の流れに身を任せる


「ええ」


30分程のんびり2人して腕を組んで街道を歩き、更に10分程進んで市場に入ると超密度の人口過多で市場はごった返しており、喧騒が絶えない。

そんな中でも見事な装いの美男美女のカレンとシャイタンは人目を集めた


「・・・日に日に訳の分からない物まで並んでるわね」


カレンの感想の通りで今のルルアは観光メッカで大国から小国まで旅の露天商が市場を開き2人も初見の物も多く並んでおり値段も銅貨数枚の物から金貨の物まで様々だった。本来市場の露店で金貨の品など先ず並ぶ事は無いのだが今のルルアはそれでも飛ぶように売買されている。


「確かに、あれなど何の用途なのか検討も尽きません」


「あっ! シャイタンさんあれ面白そう。見てみましょっ」


カレンに腕を引かれシャイタンは嬉しそうに付いて行く


「はい」


そして気になった露店でカレンは商人の勧めるがままほいほい購入してしまう。シャイタンはその品を見て呪いの道具かと疑った


「カレン様、それは何に使うのでしょうか? 店主の説明を聞いても私奴には理解できませんでした・・・」


露店を離れた所でシャイタンがカレンに尋ねる。一応店主の説明を隣でシャイタンも聞いてはいたがはっきり言って妄想の垂れ流しのようで全然理解できなかった


「私もさっぱり解んないわ! でも形が面白いから何かの錬成の閃きになるかも。そんなに変?」


興奮気味に彩良い物体をシャイタンの眼前に見せびらかすカレン


「は、はぁ・・・その、変と言いますより・・・大変です」


そんなカレンの手には名状しがたい物体が怪しい光を放っており、余りにも不気味なのでシャイタンが帰るまで時空掌握に預かる事になった。


シャイタンはそれの正体を嫌でも理解させられたが正直関わりたくない品だ、ある意味魔神器より厄介なのだから


「ん?」


そして次なる露店で更にカレンは歩を止める


「カレン様如何されました?」


「あれ・・・あそこに並んでる変な棒みたいなの、姉様の服の柄になんか似てるの」


その露店に並んでるのは確かにアリスの着物に似た染め具合と柄の棒状の物だった

カレンは姉の服以外見慣れないがシャイタンはそれが同じ永久評議神の伊邪那岐の国の名産と一目で判った。

以前、超越者カレンはこの110の星は数多の星を掛け合わせて創造したと言ったがこの様にシャイタンでも見知った物もあった。


(あれは・・・伊邪那岐の国の物だな。この星では確かフルーラ産だったか)


この星では途絶えた織物産業だ


「ねぇ、おじさん。この変わった棒みたいの何?」


カレンがその棒を手に取って店主に尋ねる


「おや、お客さん珍しいのに興味を示すね。それはフルーラの昔使われてた雨具で傘っていう奴らしいです」


商人が竹の棒のろくろを弄ると1m近くの見事な柄が展開され表示された。青と白を基調に紫陽花と蝶の柄が目立つカレンやアリス好みの装飾品だ。


「雨具だと? 投擲(とうてき)を防ぐ防具じゃないのか? だが紙の防具なんてあるか・・?」


シャイタンが疑問をぶつける。

古代では傘も普及してあったが現代ではレインコートが主流で傘は廃れてしまった。着物同様にその技法が途絶えたからだ


「いえいえ、れっきとした雨具で流石に矢などは弾けませんが油を塗ってあって雨や強い日差しは凌げますよ。ただフルーラの昔の技法で造られた名品で正直客寄せの看板商品でとても取引できる値段じゃありませんよ」


正直者の店主の様でこの品は客の眼を引くための飾り物で売り物では無いと明かす

その証拠に露店にはフルーラの細々とした工芸品がずらりと並んでいる


「綺麗・・・」


そんな店主の言葉もカレンには届かず傘の柄に魅了されていた。そしてその様を見てシャイタンの行動は決まった


「幾らだ?」


「え? お客さん此方をお求めで? これは販売用じゃないのでとてもじゃないが買えませんよ?」


「構わん値段を言え」


「はぁ・・・ん~そいつは最低でも金貨800枚は頂かないと・・・」


「これでいいな? 釣りは要らん」


そう言って懐から星金貨1枚取り出しぞんざいに店主に渡す


「ほ、星金貨!?」


客引きの超高額の代々伝わる宝の代価にまさかの星金貨を受け取るとは店主も思わず度肝を抜かれ放心してしまう


そして傘を受け取ったシャイタンは無詠唱で不懐と永続化、そして幾つかの防御魔法を施して両手で甲斐甲斐しくカレンに差し出す。


「カレン様、宜しければこの贈り物受け取っては頂けませんか?」


「え!? 自分で使うんじゃないの? そんな高価な物いいの・・・?」


目の前で店主とシャイタンのやり取りを見ていただけにそんな高額な品は受け取れないという気持ちがあるが・・・正直それ以上にこの傘に魅かれてカレンは思わず戸惑ってしまう


「私奴には合わないでしょう。なによりカレン様が綺麗と気に入られたようなので是非」


「ほ、本当に良いの?」


「勿論です。美しいカレン様にお似合いでこの道具もカレン様に使われるなら満足でしょう」


こうまで言われては受け取らないと言う選択肢はカレンに無い。


「シャイタンさん・・・ありがとね。大事にするわ」


品もだがシャイタンの気持ちが素直に嬉しかった。カレンは照れてそれを素直に受け取る


「はい」


「そうだ! 日差し対策にもなるなら早速使ってみましょう」


早速傘を広げてその柄を満喫して差してみる


「それでしたら私奴が持ちましょう」


「ふふっ、ありがと」


シャイタンが左手で傘を差し、右腕をカレンと組んで再び市場を巡る

一際目立つ2人が更に物珍しい物をかざしているので余計目立つが2人は周囲の目など気にしない

シャイタンは眼中に無く、カレンに至ってはシャイタンと腕を組んでるのが恥ずかしくてそれ処では無いのだ


「次は何処へ向かいましょうか?」


「そうねぇ、お昼までにはまだ時間あるし・・・そうだ! 香辛料店へいきましょ」


次に向かうはカレンの通い慣れてる香辛料店と決まった


「香辛料店? 香辛料ならカレン様が錬成できるのでは?」


宝石店同様に未だ良品質の香辛料は高額で国家資格を保有した商人だけが店を開くことが許される貴金属同様に高額なのだ。そんな訳で市井では魔法師の複製した粗悪な香辛料が未だ大半を占めているのが家庭の実情だ。


「確かに錬成できるし大抵の品なら自作のほうが良い出来の自信はあるけど専門店だと私の知らない香辛料なんかも有ったり新たな閃きにもなるのよ。行きつけの所あるから行きましょ」


カレンの錬成する香辛料は専門店でも滅多にお目に掛れないほどの出来だがそれでも料理への飽くなき追求の為ルルアに移住して暫くして香辛料店の存在を知って足しげく通っている


「判りました」


料理に関しては自分は口を挟むべきで無いと心得てるシャイタンは素直にカレンに案内されるがまま市場を抜け、商店街へ向かい立派な商店に入る


「おや、カレンちゃん久し振りだね。今日はまたえらい男前連れてるねぇ」


カウンターで出迎えた店主は50代の小柄ではあるものの筋肉質で印象的な人物だった

カレンが初来店した際に錬金術師と明かし、自作の香辛料を店主に味見してもらった所すっかり意気投合して通々の仲となった


「へへぇ~逢引中よ!」


腕を組んだまま店主のキースに自慢気に明かす


「ほお、お熱い事で」


「キースさんあれから何か新作は入手したの?」


「あ~一応仕入れはしたんだが味の選り好みが激しくてな、正直売れ行きはいまいちだ」


香辛料界隈は非常に狭く、新たな開拓は非常に難しい。それだけに既存の香辛料の品質改良に力を注いでいる

カレンの問いにキースは顔に似合わない沈んだ声で内情を明かす


「どんなの?」


「主に魚料理用に醸造技術により発酵させた醤油ってやつと山葵って植物なんだが匂いと味が独特過ぎてな」


香辛料店の主な客層は貴族などの富裕層で好みに関係なく沽券から新商品は先ず買う者もそこそこ居るのだが、それでもこの新商品は客を選ぶ品だった


「何? 魚料理だと」


魚大好きなシャイタンとしては口を挟まずにはいられなかった


「ん? 兄ちゃん魚好きなのかい? シャルマーユじゃ先ず食卓に並ばないがフルーラじゃ刺身つってな、鮮魚を捌いてさっき言った醤油や山葵を付けて食べると絶品だぜ。まぁ最も人を選ぶ品だが」


「ほう。興味深い」


カレン以上に食いついてるシャイタンだった


「刺身ねぇ・・・その醤油と山葵試食できる?」


香辛料は少量でも高額なだけに当然試食用もある。最も作法があって貴族の会食の時の様に多めにつまむ事の無い様親指と小指で少量すくって舐めるのが作法となっている。そして高額だけに試食でも料金は発生する


「あいよ」


「俺も頼む」


キースが奥へ準備しに行き、暫く待ってると4つの小皿と2本の10㎝程の緑の植物を2人の前に並べ、まずは黒い液体が入った小皿2つを差し出す


そしてカレンは作法通り手袋を外し醤油を軽く舐め、作法を知らないシャイタンは人差し指で多めに舐め・・・2人の反応は微妙だった


「ん~確かにこの醤油は癖が強いわね・・・でも魚以外にも色々使えそう」


「私奴はこれ単品では今一ですね」


「其処は任せて。私の腕に掛けて美味しい料理を開発するわ」


「次は山葵だがこいつはおろし金ですってさっき言った刺身にも使えるし通ならそのままポリポリ食えるぜ。但し滅茶苦茶辛くて刺激が強いから少し齧るようにな」


続いてキースは残りの2皿と2本の植物を差し出し事前に注意を忘れない

カレンは忠告通り小皿の緑のペーパー状の物を軽く舐めると初めての味覚に驚く


「っ~~?”!?!”? かっら!!」


キースは事前にこうなると見てたのか果実水も用意しておりカレンに差し出し、それを煽るように飲み干す

真逆にシャイタンはペーパー状の山葵を舐め気に入ったのか、植物をそのままぽりぽり食べてしまい、余ほど気に入ったのかカレンの分まで食べてしまう


「ほう! これは旨いな」


「シャイタンさん良くパクパク食べれるわね・・・でもこれさっきの醤油と合わせて確かに魚と合いそうね」


驚きはしたがこの2つで魚料理以外にも醤油を用いた様々な料理が閃いたカレン


「気に入って貰えた様で何よりだが肝心の魚だが、燻製の魚と違って刺身用の魚が必要でな。それが原因でその2つはサッパリ売れない訳さ」


試食も終わった所でキースが懸念事項を伝える。

陸続きで海に隣接してないシャルマーユでは鮮魚など先ず仕入れが極端に難しい、尚且つ刺身用の魚となれば種類も狭まりそれがこの2つが高額な値段以外にも売れない理由だった。


「魚なら何とかなりそうだし2つとも貰うわ」


だがそこは異界化したアシュリー工房。なんと自宅領の土地に湖が有り其処には人魚が居て何故か居着いた魚は仕入れ放題だ


(未だ恐ろしくてルサルカに何を食べてるのかは聞けてないが)


問題無いとカレンは醤油と山葵を購入すると伝える


「そうかい? 山葵が一籠で金貨2枚と銀貨15枚に銅貨30枚で醤油はちょいと高めで容器一本で金貨3枚だ」


「山葵はアマネに頼めば栽培できそうね・・・・それじゃキースさん山葵二籠と醤油20本頂戴」


「そんなにいいのかい!?」


「ええ、それと醤油は今後も定期的に購入したいから仕入れのほう宜しくね」


「あいよ!」


支払いはカレンがするつもりだったがシャイタンが「私奴の好みでもあるので」と遮り気前よく支払った。

思わぬ発見と大量の良い品を仕入れた2人は店を出ると早速シャイタンが荷物を時空掌握(じくうしょうあく)に保管する。カレンもすっかりこの現象になれたものだ。もっとも幼少期から姉のうっかりで散々見せられたのもあるが


「思わぬ発見でしたね」


好物の魚の新料理と聞いてシャイタンは大満足の結果だ


「ええ、ルサルカさん次第だけど刺身用の魚が手に入ったら早速今日の夕餉にでも出してみましょ」


「楽しみにしております」


早速件のルサルカに伝達の魔法を行使するシャイタンだった


『ルサルカ』


『はいシャイタン様』


『今日の夕餉に刺身とやらが食いたいから刺身に使える魚を用意しておけ』


『畏まりました。ふふっ、シャイタン様もすっかり食に目覚めましたね』


『ああ、主姉妹のお陰だな。では頼んだぞ』


「魚の話してたら丁度お腹すいてきたしそろそろご飯にしましょ。今日の為に腕によりをかけて弁当を作ったのよ!」


「それは待ち遠しいですね」


丁度昼時にもなり人気の少ない空き地でシャイタンの為に特製の力を込めた弁当を2人して満喫する

弁当の内容は油で揚げた魚を挟んだパンに以前領主にも振舞った新鮮な生肉、そしてアマネ作のサラダの山盛りと水筒には氷菓子から更にアレンジした初披露の飲料化した氷菓子。そしてデザートにはこれまた新作の神樹の果実の焼き菓子。勿論量はシャイタンに合わせてたっぷり6人分だ


シャイタンは1つ1つ口する毎に感想を言ってくれ、カレンも嬉しかった

唯惜しむらくは頬に着いた食べかすを取ってあげたり、あ~ん等度と言った逢引の王道が無かった事だ


最もそれでも2人楽し気に食事を満喫していたが




楽しい昼餉も済み2人して再び傘を差し腕を組んで繁華街を散策してると一際目立つ人だかりと喧騒が目立つ一向が目に付く


「あら、あれは何かしら?」


「何やら出し物のようですね」


2人して人混みをかき分け出し物の前に出るとどうやら風営業を興行していたようだ


「さぁさぁ衆人観衆の皆さん寄ってらっしゃい見てらっしゃい!! サイコロを使った一攫千金のチャンスですよ」


「サイコロ? ギャンブルかしら?」


「そのようですね。あの手の物は大抵胴元が勝つように仕組まれてるのですが・・・ふむ」


シャイタンが興行人を思考看破するとどうやらやましい商売で無く至極真っ当な生業のようだ


「私の最近の強運なら稼げるのは間違いなしよ! おじさん私やるわ!」


「えっ!? 強運? か、カレン様ギャンブルに興味がおありで?」


カレンの奇行と珍言にシャイタンが驚かされる


「ふふ~んテンゲン大樹海でコボルトと2人暮らしの時はよくサイコロで遊んでたのよ」


アリスが旅に出てた頃テンゲン大樹海でコボルトと2人してサイコロで物を賭けて良く遊んでいたのだ

結果は言うだけ野暮だろう


「お! 別嬪なお嬢さんどうぞどうぞ! ルールは簡単! 掛け金をお客さんが決めてサイコロの奇数が出たら倍払い、偶数なら此方の物、シンプルでしょう?」


興行人が12面体のサイコロを挑戦者のカレンに渡して細工の有無の確認を済ませるとルールを説明する


「ええ、判りやすいわ!」


「但し一点だけ注意が有って星1つが出た時は3倍の支払い、逆に星12が出たら3倍の払い戻しだ。だもんでお客さんの運次第ですよ」


「12分の1の確立なんて私が引く訳ないわ! シャイタンさん見てて、これで大稼ぎしてみせるから! ふふふ、おじさん賞金の用意しておいてよ♪」


衆人観衆は勇敢な挑戦者に声援を送るがシャイタンは頭を抱えていた


「・・・」


「・・・・・」


最初の数回こそ観衆は声援や煽りを飛ばしていたが今や周囲は無言だった

ただ細々と小さい声だけが響く


なぁ嬢ちゃんもうやめとけよ・・・


お姉ちゃん可哀想


余り近づいちゃ駄目よ、不幸が移るわ


おいあの姉ちゃん本気で泣いてるぞ


あれイカサマじゃないのか?


どんなイカサマしたら自分で24回降って24回とも星1つ出るんだよ、あからさますぎだろ。狙っても出来ねぇよ


「ぐううぅ・・・・」


ぼろ泣きで自棄になって止めるに止められないカレン、なにせ既に銀貨200枚以上巻き上げられたのだ

逢引用の小遣いが・・・拙いと更に焦るカレン


「カレン様、もう止めましょう」


周囲の声に賛同してシャイタンが止めに入るがカレンは頑として動かなかった


カレンも涙目だが興行人もこの結果に困り果てていた


「な、なぁ嬢ちゃん、そこの彼氏の言う通りもう止めときな。これ以上はこっちが罪悪感が半端ねぇしこんな結果イカサマ疑われちまうよ。嬢ちゃんギャンブルは向いてねぇよ、ヘルメス神に祟られてるんじゃねえのか?」


宗教に無学なカレンは知らないが権能では無いがヘルメスは賭博関連にも関与があり金運や賭博に奉られる事も多い


そのヘルメスを夢中にしてるカレンに対して知らぬとはいえ興行主も意味深な台詞を掛けるものだ


金額だけ言えば大儲けではあるが24回連続で星1なんてどう考えてもイカサマにしか思われない

実際の所細工もイカサマもしてないのにこれでは興行としては風評被害が半端無い

もうこの変な客帰ってくれと心から思っていた・・・・・


「ま、まだよ! これだけ負けが続けば次こそは勝てるわ! なんでヘルメスの名前が出るのか知らないけど錬金術師の私なら大丈夫な筈よ!! 虎の子の金貨掛けるわ!」


之だけ負けが続けば次は勝てる。ギャンブルの典型的な罠に嵌ってるカレンはアマネの内緒のお小遣いの金貨10枚を掛け大勝負に出た・・・!






そして金貨30枚払った


「「・・・」」


カレンはえづきながらガチ泣きでシャイタンと腕を組んで帰路に着いていた。雨は降ってないのに何故か傘は雨に打たれてる雰囲気だ。


(12分の1の確立を25回連続で引き当てる。天文学的な数字の筈なのに・・・ヘルメスが加護を授けたがる御方なのに錬金術の才能に比例でもしてるのか・・・? だとすれば・・・ふっくくくっ)


「カレン様」


「何よ・・・」


「とても面白い事象を見せて頂きました。絡繰りの無いサイコロでまさか25回連続で星1を出すとは狂運の持主ですね。くくくっ不憫な御姿が愛らしいです」


慰めるどころかこれ以上に無い意地悪顔でカレンに語り掛け追い打ちを掛けるシャイタンだった


「シャイタンさんの意地悪っ! 其処は慰めてよ!」


「いやはやカレン様と居ると本当に楽しい。くくくっ」


「ううう」


シャイタンの胸を再びポカポカ小突くカレン


「そろそろ日も暮れましたね。カレン様、帰りましょうか」


「―――ねぇ、シャイタンさん」


帰る・・・この逢引が終わる。

今迄の雰囲気と打って変わって真面目な表情でカレンはシャイタンに問いかける


「はい、なんでしょう」


「今日の逢引、どうだった・・・?」


「至福の一時でした」


迷い無く即答で返事を返す


「本当?」


正直カレンは不安だった。

同族で無いシャイタンとの逢引でシャイタンに呆れられないかと

好いた張れたは解らないがシャイタンに見放されるのは嫌だと


「はい、カレン様に虚言など申しません」


力強く何度も言った台詞を繰り返す。やましい事の無い本心なのだから


「その、ごめんね。人間同士か玉兎同士ならここで何か愛の台詞でも出るんでしょうけど、やっぱり私には判らないの」


カレンの戸惑いにシャイタンは行動で示す


「ふむ、其れでしたらカレン様。逢引の締めくくりに1つ我儘を言わせて頂いていいでしょうか?」


歩を止めカレンの正面に立つシャイタン


「何? シャイタンさんなら大抵の事なら聞くわよ」


「お手を」


「? こう?」


良く解らないが利き腕の左腕をシャイタンに差し出すカレン


そして・・・


「!!!」


「私奴も逢引は初めての経験なのでお互い初めて同士、今は之で満足です」


「て、手にキス・・・え、え?!?////」


カレンの手袋を丁寧に外し、手の甲を両手で支え軽く口付けをした


「次の機会には頬でにもさせて頂けると嬉しいのですが」


魅了の魔法でもなんでもない。シャイタン個神の惹きつける魅了だ

シャイタンの行動にカレンは顔が林檎の様に真っ赤になって返答した


「つ、次!?」


「はい、私奴はカレン様をお慕いしてるのでこれからも逢引をしたいのですが・・・駄目でしょうか?」


「し、した!? わ、わ、わ、解んないわよ! で、でも気が向いたらまたやりたいかも」


「ふふっ、有難う御座います」


これ以上言葉は無く、2人は再び腕を組んでアシュリー工房に、家族の待つ我が家に帰る

他種族の初々しい逢引は大きな進展は無く恙なく終わった。ただし2人の胸の内に小さな芽生えはできたやも

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