65話 ストライキな姉兎と新人と錬金術師
幻神歴2960年05月05日
苦を知らなければその者の人生は平穏である
しかし一度苦を知って知ってしまえばそれは苦痛となり得る
では労働を知った姉兎はと言うと
愛妹の工房で自堕落を満喫していたアリスだったが最近友人の余計なお節介? のせいで売り子として働く羽目となった
妹の為、愛するカレンの為と耐えに耐えた。
そんなある日、本国で式典が開かれるとの事でルルアの人足も減り自然とアシュリー工房の客並も落ち着き今やコボルトとシャイタンだけで補えていた
所が式典も中頃になると人足は戻り始め、又してもアリスに看板娘になれとコボルトが急かしに来たのだが…
「もう嫌よっ!」
今日もだらけるつもり満々のようでアマネによるうさ耳の手入れと整髪を終えても衣服を纏いもせず扇情的な下着姿でベッドの上で子供の様に駄々をこねる姉兎だった
「駄々こねてねぇでさっさと準備しろ」
尚カレンがこの姉の行動に自分が売り子するから姉様は寝てて大丈夫です! と本末転倒な事を言い出したのでコボルトはアマネと共に森に追い出した
「もうお金一杯儲けたんだからいいじゃん! 後の奴らなんて追い出しなさいよ!」
「んなことしたら工房にもカレンにも悪評が建っちまうぞ」
愛妹の名を出されたらめっぽう弱い姉アリスだがこればかりはどうしよもないのだ……
「ぐぅ~、でもでも!!! もう人前出るのは嫌よっ!」
対にアリスは布団を被ってベッドに引き籠ってしまう
「これは困りましたね、シャイタン様、――――――というのはどうでしょう?」
コボルトとアリスのやり取りを聞いて居たシャイタンとフラミーで打開策を練る
尚カレンと違いアリスは使い魔に下着姿を視られても全然気にしないようでアリスと2人旅の際は普通に水浴び前に下着姿を披露していた。但しカレンが居る場合はきちんと事前に入室前に確認をする辺りシャイタンも弁えている
フラミーに至ってはコボルト同様に中性と聞き、迎えた初日に姉妹によってコボルト同様強引に入浴を進められもみくちゃに洗われ、姉妹の一糸まとわぬ姿を既に眼にしている
「ふむ、それなら丁度良いのがいるな」
自分の配下や部下には人の姿の者も大勢居る。
だが肝心のカレンへの説明が難しいがフラミーの案なら解決できる
シャイタンはアリスの布団に近づきこそっと小声で内容を明かす
「アリス様。人材を雇えぬ以上――――――と、いうのは如何でしょうか?」
「っ!? それよ! 一切を任せるから後はお願いね!」
一瞬だけアリスは亀の子の様に顔を出して快諾するとまたしても布団に潜ってしまう
頑固なアリスを説得できるとは何事かと気になってコボルトがシャイタンに内容を訪ねる
「おいシャイタン何を言ったんだ?」
「何、働き手の補充だ。主姉妹の種族が露見しても問題無い伝手があるのでな。ただ先輩、アマネから甘い果実を今採取出来るだけ持ってきてもらえるか?」
シャイタンのカレンへの意地悪顔にコボルトはまた碌でも無い事になりそうだとは予想は付くが2人とも出鱈目なのは知ってるので互いに納得してるならいいか、とアマネへの使いに行く。
「まぁこいつも納得なら良いか、了解」
アシュリー工房近辺の森にて
(ふふ~ん。こうしてまた呼ばれるとは私も頼られた者ね)
辺りを見渡すと神域で聖獣や神獣が至る所に居り、自分にも住み心地のいい環境だとフワフワ飛行しながら目的地へ向かう
(ここ・・? アシュリー工房? 魔女、この星だと魔法師の工房かしら)
そして新人は呑気にドアを潜ると二度と会いたくない、いやある意味待ち望んでいた怨敵と出会った
「ああああ!!!!! あんたいつぞやの詐欺師じゃない!!」
リールーの許可を得て新商品の陳列にカレンが勤しんでいるといつぞやの阿呆の子妖精が何故かアシュリー工房に入ってきた
開店前という事もあってフードも被らずうさ耳は立ったり折れたりと忙しなく、虚を突かれた遭遇についカレンはきょどりまくってとぼける
「んげっ! な、ななななんのことやら・・・」
新人・妖精からしたら忘れる筈も無いその風貌を見間違えるはずもなく、カレンの胸元に掴みかかる
「あんたのその風貌で誤魔化せる訳無いでしょ! あんたのせいで私がどんな目に遭ったか・・・・兎に角あの宝石返しなさいよ!!」
この妖精はこの詐欺師『達』のせいで最上位悪魔に一日尻を叩かれるという折檻を受けたのだ
忘れる筈も無い、尚且つ性質が悪いのはその後首謀者に阿呆扱いされ実行犯の友神に褒美をもらうという訳分からない事も有って余計苛立ちが募っていた
(ってかこいつ髪黒かったっけ? それになんか縮んでるような、胸もぺったんこだし)
脳内では悪辣非道なボンキュッボンな悪女の筈だったが目の前に居るのはどう見てもキュッキュッキュの子供だ
妖精が疑心暗鬼に陥ってるとカレンはその鬼気迫る勢いに負けて素直に打ち明ける
「そ、それは・・・その・・・もう使っちゃって……もう無い・・・です」
うさ耳も素直にしゅんと垂れ下がりつつも独白するカレン
妖精の魔力込みの秘石テンキュウを用いた錬成で胸が小さくなると言う悲惨な結果に再度歯がゆい思いを浮かべてしまう
「はぁ~?! あんた馬鹿ねぇ、まだ返すなら見逃してあげたけど。私の友神様は怒ると怖いからあんたどんな恐ろしい目に合うやら、まぁ私を騙したんだから当然の報いね」
そんなカレンの心境を知らずに妖精はカレンの周りをふよふよ浮き回り意地悪くにししと笑い目の前の詐欺師がどんな目に合うか楽しみだった
「そ、そんな・・・大体何であんたが此処に・・・」
『友人』とやらも恐ろしいが肝心な話なぜ妖精に此処がばれたのか、尋ねようとした所に第三者の声が割って入った
「おや、カレン様。顔合わせはお済のようで」
普段のカレンへの意地悪顔したシャイタンがにこやかに立っていた
妖精は友神を見つけて肩を組んで以前の釈明をする
「あ、友神様こいつですよ! こいつ!! 以前私の宝石騙し取ったの。どうしてやります?」
そんな妖精の顔を押し退けながらシャイタンはバッサリ宣言する
「どうもなにも俺は此方のカレン様の使い魔だぞ。貴様もカレン様の元此処で働け」
妖精は我が耳を疑った
「・・・・は? 友神様が使い魔? この詐欺師に? ぇ、ちょっと友神様どうしちゃったんですかっ!? 貴方使い魔に何てなっていい御方じゃないですよね?! まさかこの詐欺師に誘惑でもされたんですか!?」
思わずシャイタンの肩を揺らしながらも必死に正気に戻そうと妖精が詰め寄るが…
様と慕う方にその有様はどうかと思われるが妖精とはこういうものだ
そして妖精の言い様に言い得て妙だと得心がゆくシャイタンは素直に認める
「ふむ、誘惑か。―――その通りだな、俺は主姉妹に心から魅了されてるからな。貴様も先輩を見習って馬車馬の如く働け」
その表情は普段友神が見せない穏やかな屈託の無い笑顔だった
「友神様が狂ったぁ~!?!?!! オェングス様~~~助けて~!」
もう手遅れだと、つい主に泣き叫んで助けを求める妖精だった
「まぁ落ち着け、先ずは之を口にしてみろ」
そんな妖精を掴み果物の棚の前まで引っ張りシャイタンは甘い果物を1つ手に取り妖精に差し出す。甘い物に目の無い妖精は先程までの醜態もどこへやら、シャイタンの差し出した果実に齧りつく
「!? うっわなにこれ! すっごい美味し!!」
豊穣の神アマネ作の果実等妖精からしたら垂涎ものだ
「だろう? 貴様が此処で働くならそれを好きなだけ食って良いぞ、表の森に幾らでもあるからな」
「頑張りま~す!」
自由奔放な妖精のバイトが決まった瞬間だった
そして妖精の言っていた友『人』とはシャイタンだと知りカレンは恐る恐るシャイタンに尋ねる
「ね、ねぇシャイタンさん。此方の妖精様はその・・・知り合いで・・・?」
うさ耳もぴょこぴょこと伺うように先端だけシャイタンへ向く
「はい。私奴の友の部下のようなもので、アリス様が人前に出ないで済むよう手配致しました」
その笑顔はいつもの意地悪顔だった、だがそうなると以前の事も有って強く出れないでいるカレンはおずおずと上目遣いでシャイタンに様子を伺う
「よ、妖精の知り合いがいるなんで凄いわね・・・その、前にちょっとこの子と不幸な行き違いがあったんだけど・・・」
行き違いでは無く騙し取ったというのが正確なのだが…
「不幸な行き違いですか? くくくっ、ええ、ご心配には及びません。承知の上で妖精も見ての通り快く働くとの事です」
思惑通り、カレンの困惑振りとカレンの頭上のうさ耳の可愛い仕草が見れて大満足のシャイタン
そんなシャイタンの袖をクイクイ引っ張って更なる要求する妖精
「ねぇ、これすっごく美味しいから私の友達も何人か呼んでいい?」
「構わんぞ。但し店での売り子はきちんとこなすよう言いつけろよ」
「りょうか~い!」
妖精が思念伝達で仲間を呼んで来るまでの間この甘美な菓子を少しでも食べておこうと更に山盛りにして備え付けの机でご満悦で頬張ってるとまたしても新たな闖入者が
「ん? うぇ!? おめぇこの前の阿呆の子妖精じゃねぇか!」
胸一杯のアマネの果実を落として驚きの再会にどういう事か困惑するコボルトに妖精は気分が良いのか名乗りを上げる
「あ、詐欺師の片割れじゃん! まぁ私は気前がいいからもう許してあげるけど阿呆とは聞き捨てならなわね、私にはティターニアって名前があるんだからそれで呼びなさい」
阿呆の子妖精ことティターニア
全長はコボルト同様1m程だが背中に七色に輝く色鮮やかな身長程の羽がありいつもふわふわと浮遊している
緑色のウェーブ掛かった腰までの長髪が特徴的な、身長的にアマネ同様愛くるしい妖精
実は妖精界隈では支配者層で女王でもある
そしてその妖精の女王に名乗られるのは大変名誉な事なのだがシャイタン以外この場でその意義を見出す者は居なかった
むしろ名前を聞いてコボルトが焦って妖精に詰め寄る
「何? 待て待て、確か妖精って名前つけたら概念から逸脱して寿命ができちまうんじゃねぇのか?」
コボルトの言う通り妖精は自然概念なので寿命は無い。
但し個を定義付ける名前を付けると概念から逸脱して寿命が出来てしまい背中の羽以外人の子と変わらなくなる
といっても相手の付けた名に妖精が同意したらの話でティターニアのような一部の例外を除いて妖精は名前という概念がまず無いので滅多な事ではこの事故は起きない
「それは下級や生まれたての妖精の話で私ぐらいになると立派な名前があるのよ」
「へぇ~そいつは知らなかったぜ」
「先輩、見ての通りこれが今日から売り子として働くので好きに使え。追加に何人かも来るらしい」
「そりゃ働き手は幾らあっても足りねぇから助かるが流石に妖精となると・・・」
コボルトは商人だけに妖精への非道な話は嫌でも耳にする。
するのだが‥‥ここには抑々アリスが居た。そして出鱈目なシャイタンも居る。いくら胸糞悪い話だろうと妖精に不埒な輩が寄ってきても余裕で対処可能と判断した。
「まぁ此処にはあのアリスがいるし妖精に手出す馬鹿来てもどうとでもなるか」
改めてコボルトは自己紹介をしてティターニアと握手を交わす
「あのあの、ティターニア様、宜しければ此方に貴女に超お勧めのお菓子があるんですよっ!」
そんなティターニアにカレンはとある事を閃き猫なで声で接待する
「へぇ~何々」
「ささっ、どうぞどうぞ」
アイスボックスから色とりどりの氷菓子を中皿に盛ってティターニアに差し出す
その宝石の様な菓子に抗えずティターニアはパクパク食べつく
「冷たっ甘くておいしい♪」
「お口に合いましたか?」
ティターニアは瞳をキラキラさせてアマネ同様に忙しなくぱくつく
元来妖精は木の実など自然植物を摂取し人が手を加えた物を口にする機会が余り無いので氷菓子を口にした感動はある種シャイタン以上に衝撃だった
「最っ高よ! これも一杯食べて良いの?!」
「ええ、もうお仲間と好きなだけどうぞどうぞ」
「あんた、カレンだっけ? いい奴じゃない! 気に入ったわ!」
「有難う御座います! それでですねティターニア様、すこぉ~しお願いがるのですが」
「何々?」
「お手隙の時にでも工房にある鉱石や金属に魔力を込めて頂けないかなぁと思いまして、その、どうでしょう?」
接待の本音はこれだった。
本来唯の貴金属でも妖精の魔力が込められたら価値は跳ね上がるがカレンの場合価値にではなく、素材として欲していた。
(上手くいけばまた妖精の魔力付きの秘石テンキュウが手に入るかも!)
カレンのアイマスクの奥の瞳はテンキュウで一杯だった
「それぐらいお安い御用よ!」
女王といえどやはり阿呆の子妖精、交渉技能Fのカレンの接待ですら上機嫌で快諾する
妖精の魔力を込めた金属、それがどれ程の価値かと言えば他星では国軍をあげて妖精を無理やり拉致して従わせ、金属や宝石に魔力を込めさせようと画策する者が途切れないほどだ
「ほんと!? ティターニア様最高!」
ティターニアの色よい返事にカレンはうさ耳を立たせついティターニアを抱きしめる程だ
「えへへ~、もっと褒めてくれてもいいのよ」
適度にティターニアを褒めつつもすり足でコボルトに寄り添い耳打ちするカレン
(コボルト、解ってるわね?)
(あたぼうよ、俺っちの金とおめぇの有り金で貴鉱石買い込んでくるぜ)
(テンキュウと玉鋼と孔雀結晶、あ、あと氷納水晶も私のお金全部使って買えるだけ買い込んできて)
(任せろ! 俺っちも加工組合で上質な銀買い込んでくるぜ)
普段ならカレンの無駄遣いに説教をするコボルトだが妖精の魔力が込められるとなれば話は別だ
「ってことでシャイタン、急用が出来たんで加工組合行ってくる。開店までには戻るがそいつに最低限のことだけでもいいから教えといてくれ」
やはり阿吽の呼吸だった。
尻尾をぶんぶん揺らしながら外へ駆け出るコボルトをシャイタンは笑みで見送った
カレンの残金、星金貨1640枚の使い込みが決まった瞬間でコボルトも今回に限っては大出費で星金貨200枚分の今加工組合にある最高品質の銀を買い込み、加工組合は今回の依頼だけでボロ儲けと相成り互いにWIN-WINとなった
「了解」
そして量が量だけに加工組合と契約を交わし、後日納品と相成ったコボルトが店に戻るとティターニアの他に4人の名無し妖精が元気に飛び回って居た
無言で頭を抑えるコボルトだがここはそれ、割り切ればいいかとシャイタンと共に5人の妖精と共に開店した
そしていざ開店して入店した客は皆当然妖精に驚くが、妖精にとっては人間の驚きの感情は御馳走な様なもので皆接客に勤しんでいた
昼頃にはやはり妖精の話を聞きつけ良からぬ輩がアシュリー工房に足を運んだが店に入った瞬間に有り金全部はたいて商品を買って帰り際には森で行方不明となった
言うまでもなくシャイタンの洗脳と指示の下だ
そして昼餉が済んで小休止してる間にリールーが訪ねて来た
妖精は甘い物が大好物で果物や菓子しか食べないという事で普段は森で食生活を送る事になった
リールーを出迎えた妖精を見たリールーは眼鏡がずり落ち、自棄になっているので此処はこう言う所だと受け入れた
「今度は妖精ですか・・・アシュリー工房は何を目指してるんですか?」
阿呆の子錬金術師の工房に幻獣のコボルト(唯一の良心)、幻獣のアマネ(変獣)、使い魔のシャイタン(横柄)、使い魔のフラミー(幻獣? 魔獣?)そして妖精
確かに何屋か不明な面子だった
カレンも出て来た事で要件を済ますが、その前に思ったことを素直に口に出すリールー
「貴女いっその事幻獣組合か召喚師組合にでも入ったらどうですか? 余裕で最上位なれるんじゃないですか?」
アマネとシャイタンとフラミー・そして妖精が異常なだけでカレン本人にその手の使役の才覚は皆無なので組合に加入した所で下位止まりが精々だ
だが褒められてその気のカレンはそれもそうかも・・・と思案気になっていた
「はぁ、まぁそれは兎も角。以前申請のあった酒精製造の許可下りましたよ」
「ほんとっ!?」
酒精製造については厳しい制約があるのでアシュリー工房でも直ぐには許可が下りなかった
だが、そこはコボルトの賜物で商業組合に綿密に計画した内容を提示して互いに利益になると交渉を続けた賜物だった
「ええ、此方が許可証です。これもお客さんの眼に見える所に提示してくださいね」
「おっけ~」
「それと、コボルトさんには伝えてますが毎年金貨40枚の契約費用掛かりますから気を付けてください」
アシュリー工房はルルア領主から住民税と間接税の免除の特権を得ているが商業組合の酒精製造の税は適応外で金貨40枚もアシュリー工房の収益から算出された額だった
最もカレンの香水の酒精購入だけで一日で余裕で金貨40枚超えるので大助かりだ
そして夕餉、今日も姉妹合作でシャイタンの好物の魚料理、それも新作二種でアシュリー工房のオリジナル香草を使ったムニエルと小麦粉・パン粉を使用し油で揚げたフライと斬新な料理に早速酒精の製造許可が下りた事で姉の秘伝のレシピにあった古酒を創って夕餉に振舞った
案の定魚料理は大好評で皆ぱくついていたが古酒については皆意見が分かれた
コボルトは薄いと、アマネは蒸留酒みたいで苦手だと、フラミーは無言で飲み干し、アリスは懐かしの味にご満悦でお代わりを何杯もしており、シャイタンは葡萄酒以上に気に入った様で魚に合うとグイグイ飲み干していた
そしてカレンはと言うと、呑み慣れない酒に完全に酔っぱらっていた
泣き上戸と絡み上戸なカレンはそれぞれに泣きついて姉が居なくて寂しかったとわんわん泣き、他の皆には抱き着いて絡んでいた
そして翌日、まだ酒の抜け切れてないカレンはアマネのうさ耳と整髪を終え、姉妹揃って衣服を纏うとまだベッドの上でぼ~としておりそんなカレンをアリスは抱き着いて愛でていた。そしてノックがしてシャイタンが入ってきた
「アリス様、カレン様、剣聖が着ております。お通ししますか?」
「「おっけ~」」
「なぁ、早速聞きたいんだがなんで妖精が居るんだ?」
入室してカレンがお茶菓子の準備と棚を漁りその隙に開口一番に気になった事を尋ねるロックン、幻獣に神に聖獣に神獣に妖精とアシュリー工房は何を目指してるんだと小一時間問い詰めたかった
「雇ったからに決まってるだろうが」
そんなロックンの心境など知った事かとシャイタンが一文で済ます
(てかあれティターニア様だろ。お前なんて方呼出してんだよ!)
かつて幻魔涙戦の際に妖精族はティターニアとその夫が妖精を率いて参戦し、呪われた獣達や悪魔と争ったバリバリの武闘派だ
「むぅ! シャイタンさんとロックンだけで内緒話ずるい! 私も混ぜて!」
シャイタンとロックンがコソコソと内緒話をしてるのが気に入らないのか、頬を膨らませてカレンも混ぜてと駄々を捏ねる、その顔はほんのり赤かった
「・・・おい、なんか今日のカレン変じゃないか」
「昨日の酒がまだ抜けておられないからな・・・・ふむ」
ふくれっ面のカレンに一考してシャイタンは閃きカレンに語る
「カレン様、内緒話といえば一つお尋ねしたいのですが」
「何々? なんでも聞いて!」
「此処だけの話ですが、風の噂で聞いたのですがなんでもカレン様は雪を降らせる魔道具を創ったとか?」
緘口令の敷かれた話題を聞く訳が無い。以前の賢者ルードからの贈り物というべきか、知識にシャイタンは興味津々でこの酔ってる今ならチャンスと迫るシャイタンだった
「ぶっ」
ロックンがエナジーポーションを噴出す
最も危惧していた物騒な国にノウスが渡るより遥かに危険な相手に渡ろうとしているのでロックンがエナジーポーションをお代わりするのも仕方ない事だろう
「ん~? うん! ・・・そう、そうなのよ! なんとね~。総帥とかいう偉い人に星金貨10枚で買いとってもらったの!」
カレンは未だその総帥が賢者と気付いてすらいない、胡乱気な表情で呑気に内容を明かす
それは自身の魔道具が星金貨10枚で売れたという自慢気もあって薄い胸を反らしてドヤ顔だった
「それは素晴らしい」
カレン曰く素敵な笑顔、他者からすれば愉悦の笑みを浮かべるシャイタン
「お、おいカレン。その話は確か緘口令敷かれてなかったか?」
堪らずロックンが割って入るが…
なぜ緘口令を敷かれた事を自分が知ってるかなどの説明等とばしてカレンの口を閉ざそうとするが酒の残った阿呆の子をロックンが黙らせられる訳がない
「あ、そうだった。でも家族だし此処だけの話だから大丈夫よ!」
大丈夫な訳無ない。緘口令を敷いた本人の前で堂々とそれを破るカレンにロックンは頭を押さえてあのリールーにもっと常識を学ばせないと‥‥と頭と抱え、ついでに最近頻繁に起きる胃痛のせいで胸も抑える
緘口令を破ったらどうなるか? 言うまでも無く極刑だ。
それを目の前の無自覚な阿呆の子は知らずにペラペラと最も吹き込んではいけない相手に語る
「その素晴らしい魔道具が日の目を浴びないのはなんと忍びない、よろしければいつもの素材提供の際にその製法も教えて頂けませんか?」
(おい! もうお前のことだから説教はせんがこの人間界でだけは絶対使うなよ!!)
(安心しろ、弁えている)
「おっけ~」
こうしてシャイタンは実に恐ろしい兵器を手にした
「何々、カレン気象操る魔道具まで創れたの?! 今度一緒に他の気象操る魔道具創ってみましょ」
「はい姉様!」
そんな魔道具に魅かれたアリスがカレンと新たな魔道具に取り掛かろうと提案し、完成次第で某賢者は狂喜乱舞しロックンの胃への負担が更に増す事になる




