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臆病兎の錬金経営譚  作者: 桜月華
63/148

63話 賢者+α再びと獣達の集いと錬金術師

幻神歴2960年04月22日


「おっ、爺さん久しぶりだな。そちらは・・・娘さんですかい?」


最近では開店前、閉店後に尋ねる客も多く、すっかりその対応に慣れてしまったコボルトがやはり開店前に尋ねて来た客に対応すると以前良く足を運んでくれていた上客の老人でコボルトは気前よく接する


ただ今回は老人の隣に老人よりは2周りは若い、それでも老齢な婦人もおりコボルトは人間の容姿の区別に自信は無いが当たり障りのない関係を問う


「ふぉっふぉ、こんな悪態ばかり付く手間のかかる娘は御免じゃ、年は離れとるが友人じゃよ」


「ほう! 主が噂のコボルトか。 ・・・他のコボルトに比べると随分とまぁけった・・・特徴的じゃのう」


念願のアシュリー工房にやっと足を運べた事でハイテンションな老婆は丸みを帯びたコボルトを撫で繰り回し素直な感想を零す


「うちの手間のかかる契約主共のせいでこの様でもう自覚してまさ。所で爺さんの事だからまたあいつのガラクタ目当てなんだろうが生憎お上のお達しで販売禁止になっちまったんだよ」


最近では氷菓子目当ての子供の客層も増えておりその都度子供に珍獣扱いされ子供に囲まれるコボルトはもう慣れたものだった。そして以前の老人の浪費振りも思い出し前回のアシュリー工房への制約を老人に告げるが老人は問題無いとばかりに一枚の書類を差し出す


「うむうむ、知っておる。ほれ、これがあれば問題無いじゃろう」


客の差し出した書類はシャルマーユ皇帝陛下のサインが記載されたアシュリー工房物販許可証だった

流石にコボルトも書類をまじまじと確認するが一語一句紛れもない本物の書類とみて改めて目の前の豪奢なローブの老人の正体が気になるが下手に藪を突いてもしょうがないと接客に戻る


「・・・!? 爺さんあんた・・・いやこいつは野暮だな。そういうことなら問題ねぇ。其方のお客さんも同様ですかい?」


「ああ、この通りじゃ」


老人、賢者ルードと同様に老婆もさも当然のようにルードと同じ書類をコボルトに差し出す

この許可証を得るのに相当苦労したのだ。


最も苦労したのはフルーラ王とシャルマーユ皇帝陛下で老婆はごねただけなのだが、老婆からしたらその辺りはどうでも良かった


「確かに、といっても陳列してる訳じゃねぇからな・・・おいカレン! 例のお得意さんの爺さんがお見えだぞ!」


客2名の正体は知らないがこの際それはどうでも良い、アシュリー工房に金貨を落としてくれる上客なら歓迎とコボルトが今正に地下でポンコツ作成してるカレンを呼びつける


「―――――なんですって!? お爺さんまた来てくれたのね!」


アシュリー工房を開いて唯一カレンの魔道具に価値を見出し求めてくれる上客の再来にカレンも大歓喜で頭上のうさ耳も喜びからばっさばっさ揺れてフードがうごめくがルードは慣れたもので微笑ましく見守るが老婆は事前にルードからカレンの種族については聞かされていたものの(これ本人種族隠す気あるのか?)と心配していた


「おお、カレン嬢久しいのう! これからまたちょくちょく通わせてもらうから宜しく頼むよ」


孫を見守る好々爺然とカレンと握手を交わし続いて老婆も交わす


「私の魔道具を理解してくれるお爺さんなら歓迎よ! ・・・・あ・・・でも売ったら駄目って・・・」


「それなら問題ねぇ、このお二人さんお上公認の許可証あるから大丈夫だ」


「本当!? 凄い! 所で其方のお客さんは・・・奥さん?」


陛下公認の書類を持参できるというのがどれ程の事なのかカレンは理解できず、自分の魔道具を買ってくれるやったぁ程度しか認識せず聞き流す


「くかかっ! こんな性悪な(じい)の嫁なぞ御免じゃ、唯の同好の士じゃよ、名乗る程でも無い、気軽に(ばば)とでも呼んどくれ」


お爺さんの様に気さくに接してくるお婆さんにカレンも気を良くして対応する


「おっけ~」


「所でカレン嬢、さっきから気なってたんじゃがあのでかいのはなんじゃ? 荷物入れかなにかかの?」


以前来た時より改築されて売り場が倍になってるのは判るが隅にある小さい机の隣にある異質な大きい箱が気になりルードは真っ先に尋ねる


「あっこれはね~、ふふ~ん。驚かせてあげるから2人共其処の椅子に座ってて」


促されるまま着席する2人の前にカレンは箱から何かを小皿に装い2人の前に配膳する


「・・・なんじゃこれ?」


「皿に乗せてるから食い物なのは判るが・・・」


「まぁまぁ、食べてみて!」


本来なら2人は立場上差し出された者をそのまま口にする事等先ず無いのだが2人は気にせず恐る恐るそれを口に含む


「「!!?!」」


そんな2人はカレンの思惑通り大いに驚かされ人生初の感触に我を忘れてスプーンを忙しなく口に運ぶ


「なんじゃこれ!! 氷か!? 冷たくて甘いし旨い!! なんじゃなんじゃ!」


「旨いのう! 儂もこんなもの初めてじゃ!! これはなんじゃ?」


「ふっふ~ん。驚いてくれたようね、それは姉様直伝のレシピに私のアレンジを加えた料理で名前は無いんだけど氷菓子とでもいうべきかしら? あ、あんまりがっついて食べると頭がキーンとするわよ」


この頭痛、最初に発症したのは考案した姉妹ではなくシャイタンだった

今で言うアイスクリーム頭痛だがシャイタンは食後に箱を空にする勢いで平らげていると突如激しい頭痛に襲われ何者かの攻撃かと勘違いして配下に調べさせた所…配下が物凄く言いにくそうに冷たい物を急に食したらそうなりますと伝えて家族に知れ渡った


「っ!? 確かにこれはズキズキするが・・・初めての食感に脳が驚いとるのかのう、面白い!」


「それは桃味だけど他にも味も種類も豊富にあるから色々食べてみて」


真っ先に領主絶品の桃の氷菓子を作成し、それ以降アマネの作物を順に氷菓子に挑戦していき今では何十種類と箱の中にある。但しシャイタンいわく禁制品の金色の林檎の氷菓子だけ奥に隠匿しており開店時は鍵を閉めている


「ほう!」


「旨いのう・・・これは是が非でも欲しいが氷ということは直ぐ溶けてしまうのう」


このご時世、農民、市民は勿論の事特権階級の王侯貴族ですら甘味は希少だ。

シャルマーユやフルーラは大陸内でも比較的富裕国に分類されるので多少は贅を追い求められるが並の国では王族の食卓ですら質の悪い砂糖をふんだんに使ったただひたすらに甘いだけの菓子が並ぶのだから


「馬鹿じゃな、毎日通えばいつでも食えるじゃろ!」


「それじゃな!」


老婆を虜にしたこの氷菓子の保存法が浮かばず悩んでいるとルードはさも当然の様に解決策を出し、老婆は納得した


(いやいや・・・あんたら2人そんな入り浸って良い身分じゃねぇだろ)


机を囲んで2人嬉々と話し込んでいる老人2名をコボルトは身分は不明だが貴族階級か同等と察して内心でツッコミを入れていた


「それでカレン嬢、この氷菓子もじゃが肝心のその箱は一体なんじゃ?」


氷菓子を食べ終わったルードが本題に移る、表情も皇国錬研での仕事モードだ、老婆も聞き逃すまいと真剣だが…


「これはね~大規模錬成台で作った魔道具で永続的に中身を凍らす事が出来るの!」


待ってましたと慎ましい胸を反らせてカレンがふふ~んと箱の正体を明かす


「「ふぁっ!?」」


2人とも真面目な表情は吹っ飛びその出鱈目な魔道具に目を剥く


物を凍らす。

これだけ聞けば魔法でどうとでもなりそうで大したこと無さそうだがそれを1つの道具で、しかも補充も不要で永続的に出来るとなればどんな人物でもその凄さは理解できる


上級の魔法で氷系の攻撃魔法は有るが物を凍らせる事は出来ない、最上級魔法でなんとか少量なら凍らす事はできるが有事の際の攻撃手段でそれを食事等の娯楽に、それも補充しながら長距離なんて現実問題不可能だ


だがそんな問題を一切合切取り払う『魔道具』が目の前にある


「そ、それ売ってくれんか!?」


「何を言うか、儂が買うべきじゃろう!!」


「気に入ってくれたのは嬉しいけどこれは中身の氷の販売目的で魔道具自体は売って無いの」


「そ、そんな・・・」


「では毎日通うしかないのう・・・」


「おいカレン、おめぇそれ作った材料まだ半分残ってたろ? まだ作れるんじゃねぇか?」


カレンの非売品発言にお通夜同然の老人2名にコボルトが救いの声を掛ける


「「誠か!?」」


先程の表情が嘘のように狂喜の2人だが続くカレンの台詞で修羅場と化す


「あ~! そういえばそうだったわ。でも材料的に同じものはもう1つしか作れないわよ」


一瞬にして老人2人は視線で檄を飛ばし自分が! と言い争う


「儂に売ってくれ!」


「何を言うか! 老い先短い爺より儂が所有するべきじゃろうが!!」


「戯けっ! カレン嬢の魔道具を満喫するためにもう100年は生きるわい!」


「両足棺桶に突っ込んでる老いぼれが何を言うか、フルーラから来てる儂に譲るべきじゃろう。大体貴様はいつも見せびらかしおって1つも譲ってくれんじゃろうが!!」


以前のルルア騒動で呼び出された老婆は何をしてるんだと呆れながらも友人を説得しにこの地へ赴いた

そして友人は状況も無視して嬉々としてカレンの魔道具を自慢してみせた


何で我が国の魔法の賢者でも扱えん古の魔法を魔道具で発動できるの? え、これ現在存命の人が創ったの? 引退して此処に住むわと決め込んで場を混沌とさせた、友人。フルーラの黄金錬成に至った賢者スーピーだった


それからというもの適当な口上を付けてはシャルマーユへ赴き賢者ルードと知識の交流会と銘打った実際の所はカレンの魔道具自慢会にスーピーは毎度歯がゆい思いをしていたのだ


「当たり前じゃ!! 儂の自慢のコレクションを手放す訳なかろうが!」


かつてルルア支部の錬金術教導組合の保管室の一画を占めていたカレンの魔道具はルードの私室に全て厳重に保管されており激務の後のルードの手慰めと癒しとなっている



熱く口論を交わす客2人を前にコボルトはカレンに耳打ちする


「おいカレン、ちょい耳貸せ」


「何々?」


「―――――出来るんじゃねぇか?」


「あっ。確かに、それならいけるわね」


それはこの場の修羅場を鎮静化さ、あまつアシュリー工房に益もある解決策だった

コボルトは営業スマイル全開で口論中の2人に呼びかける


「良しっ。そこのご両人、その魔道具後2つ作って仲良く2人に渡る円満な方法があるんだが」


「「!? 教えてくれ!!!」」


「教えたいのは山々なんだが、実は今一級原石と工芸品の在庫抱えててそっちの悩みで頭一杯で他に頭が回らないんだよなぁ」


白々しく工芸品の棚へ視線を向け溜息を付くコボルト、老人2人はそんなコボルトの思惑など手に取るように判るが魔道具への誘惑に抗えず立場上有り得ない発言を飛ばす


「在庫全部買うぞい! 買うから早う教えてくれ」


「儂もじゃ!! なんでも買うから是非教えとくれ」


商人相手にこんな台詞を吐こうものならそれこそ有り金吸い尽くされるものだが・・・

そこは公平公正なコボルト、宣言通り一級原石と工芸品だけ買いとってもらう算段だ

最もそれだけで星金貨3枚程ではあるのだが


「そいつはありがてぇ!! まぁ勿体ぶったが単純な話だ。要はそれ1つ分の材料しかないんだからその半分の大きさの奴を2つ創りゃいいだけって訳よ。サイズは小さくなっちまうが販売する訳でもない個人で使う分には十分だろ」


コボルトの案にルードとスーピーは驚きはするが反応は今一だった


「2つ創るじゃと・・・? それは小型化ということじゃろ。より製作難度が高いじゃろうに可能なのか?」


コボルトの発想に驚きはしたが普通に考えれば無理難題だ


「問題無いわよ。元々はその半分の大きさの箱を作るつもりだったから錬成陣も既にあるの。でも姉様が看板商品になるから大きいの創ったほうがいいって事でそのサイズになったのよ」


「――爺の言う通り真規格外じゃな・・・」


「相変わらずカレン嬢は驚かせてくれるのう!!」


既存の魔道具の小型化は魔道具の発明より遥かに難度が高い、其れをカレンは目の前の未知の魔道具を既に小型化に成功しており錬成陣があるという。ルードとスーピーはカレンの超越振りに関心を通り越して空笑いが漏れる


「姉様に協力して貰わないといけないし2つだから明日になっちゃうけど明日以降また受け取りに来てくれる?」


「!? 勿論じゃ! 明日一番にくるわい、それでその魔道具は幾らじゃ?」


2人とも今回のルルア入りは今日だけの予定だったがそれすら吹き飛び明日も来るという

フルーラの王とシャルマーユ皇帝の苦労が伺える奔放振りだった


そして肝心のお代の話になるとカレンは此処で初めて言葉を詰まらせコボルトに助け舟を出す


「え・・・? えっと、どうしよ。これの販売何て考えも付かなかったから・・・幾らが妥当なのかしら?」


「待てカレン。爺さん婆さん、その魔道具のお代は要らねぇ。代わりに今後も贔屓にしてくれ」


そんなカレンにコボルトは即座に待ったを掛け、ルードとスーピーに無料で譲ると言う

当然慈善等ではない。こればかりは先の駆け引きではなくコボルトも絶対の条件だった


コボルトの力強い物言いに老人2人は顔を見合わせどういう事かとコボルトに詰め寄る


「ただじゃと? こんな素晴らしい発明品をただで受け取る訳にはいかんぞい!」


「そうじゃ、これは星金貨数千、いやいや数万の価値がある世紀の発明品じゃぞ」


「・・・・ケチなあんたがただでいいなんて何企んでるのよ」


カレンですら不気味がりうさ耳を逆立たせて客と合わせてコボルトに詰め寄る


「――お二人さん此処だけの話にしといてくれよ」


そう言ってコボルトは手をくいくいと2人を傍に寄せて小声で訳を明かす


「お得意さんと見込んで話すがその魔道具の素材がちょいと訳ありでな、値段のつけようがねぇし下手に値段付けると拙いんだわ」


「ほう・・・?」


(おい爺、この魔道具の効果で拙い品の素材となれば例の失笑秘宝が関係しとるんじゃないか?)


(あ~成程のう、それは確かに売買は拙いのう)


コボルトの物言いから素材の1つは見当がついたがそれを2人の立場で売買は政治的に拙い、それを考慮してのコボルトの提案だと2人は関心してその心意気を買う


「あい解った、その分友と2人で在庫有りっ丈買わせてもらおう」


「おお、そうじゃ。在庫だけでなく噂の果物や弁当も食わんとな」


そして交渉が済んだ2名は氷菓子を幾度かお代わりして商品を結構な数見繕い、最後に一級原石と工芸品を売れ残りだけでなく店にあるだけ全て買い占めてアシュリー工房を後にした


コボルトは在庫を処分でき満足気にこの後の商売に励み、カレンは久々の魔道具の取引に大興奮して姉と約束の品2つの錬成に励んだ


取引というものは、両者に得が無くてはならない。結局の所それが最大の利益を得る方法に繋がる

コボルトは結果に満足だが、やはり根っからの商人だった。客ですら忘れていた肝心要の話を翌日に持ち込み、其方で思い切り欲を通す算段だった。





賢者2名の来訪の翌日、朝餉が済んで食器を片付けていると早速ドアベルが来客を知らせる

カレンとコボルトは顔を合わせて売り場へと向かう


「あら、今日はあのお婆さんは居ないの?」


「うむ、本人は来ると言い張ってたんじゃが已むに已まれぬ事情でのう、あ奴の分も代わりに儂が受け取るから頼むぞい」


已むに已まれぬ事情

勿論以前の賢者来訪騒動と同様のフルーラの王と賢者達による半ば強制連行だった


フルーラの王は只管戻ってきてと頼み込み、シャルマーユ皇帝は自国へ戻り政務へ御戻りをと皇と王の懇願でしぶしぶスーピーは後ろ髪を引かれる思いでルルアを後にした。その代わり来月もルルア入りを許可しろとスーピーは寝転がってもただでは起きなかった。


尚この騒動によりシャルマーユ皇帝は他国の王と賢者のトラブルに心労が達し某受付嬢同様にエナジーポーションを常用する事となり件の受付嬢に近親感が沸いたと言う


「おっけ~」


そしてカレンが例の品は工房にあるからと案内しようとした所、ルードは工房に立ち入るのは無理じゃというので売り場で待たせてもらい、カレンとコボルトで品出しに、入れ替わりにアリスとシャイタンが売り場に現れ、ルードはまたしても狂喜でアリスに詰め寄る


「おお、主はカレン嬢の姉のアリス嬢じゃな!」


ルードの喜び様とは裏腹にアリスは初対面の老人に嬉々として握手をされ困惑してしまう


「お爺さん誰よ?」


「以前賢者会議で出会ったのじゃが気絶してしまって挨拶できなんだわ」


「賢者会議だと? ふむ・・・」


主の困惑振りと賢者会議と聞いてシャイタンは老人を【注視】する


「ロックンの関係者?」


「これは面白い、アリス様。この者はヘルメスが言う所の一流の錬金術師です。カレン様の魔道具の真価が解る錬金術の知恵者です」


【注視】した所、主姉妹に害ある所か、主姉妹の能力を認める一流の錬金術師で尚且つ主達の人柄も買ってる賢者ルードにシャイタンは問題無いと詳細を述べる


「へ~! カレンの魔道具を解ってくれるなんてお爺さん見どころあるわね!」


カレンの良き理解者と聞いてアリスは老人の背をバンバン叩き机に招きお茶を入れ歓迎を示す


「ふぁっふぁ! その反応正に姉妹じゃのう。其れにヘルメス様に一流と言われるとはこの上ない無上の喜びじゃ!! と、挨拶が遅れたな、その者の言う通り儂はシャルマーユ皇国錬金術師を束ねる賢者のルードじゃ、最もカレン嬢には身分は明かしておらんがのう」


相手が初対面の賢者だろうと臆さず接するアリスだった


「おおっ! 賢者にも好評なんてカレンは本当に自慢の愛妹だわ~」


「なにをいうか、カレン嬢もじゃがお主も立派な錬金術師じゃろうて」


「へ?」


「カレン嬢に聞いたがあのバンシーのアイマスクを創ったのはお主じゃそうじゃな。魔力の不備を隠す為に年端のいかぬ女子(おなご)にあれを付けるとは妹想いの素晴らしい姉じゃと感心しとるわい、あれを創れるという特殊性も含めての」


バンシーのアイマスクは曰くある品で之が創れるというのはつまり異端も同様、だがルードからすればそれは関係ないのだ。特殊とはいえバンシーのアイマスクを創れるというその練度に感心を示し妹想いの姉と、アリスを褒め称える


「・・・ありがとね」


ルーシェに続きまたしてもこうしてルードに自分を認められ、褒められるとは思ってもおらずアリスは思わず照れてしまい小声で感謝を述べる


「礼を言うのは此方じゃ、あのような素晴らしい錬金術師を育ててくれたんじゃからな―――して、お主じゃが・・・」


アリスへの狂喜の眼差しと打って変わって胡乱な瞳でもう1人、否もう一柱を注視するルード


「俺はアリス様とカレン様の使い魔のシャイタンだ」


3人とも席に着いて茶を飲んでる事も有って一礼こそしないものの、これで立っていれば一礼していたシャイタン

主姉妹への、特にカレンへの対応と思いやりを見れば当然の対応だ


だが、そんなシャイタンの思惑も知らずにルードは素直に感想を述べる


「直接目にするのはあの賢者会議で初対面じゃったが…あの大戦時後方でゴーレムの指揮しとったからお主の事は耳にしておったが、もっと仰々しい様相かと思ってたのだが・・・その、まるで女子の様で驚いたわい」


幻魔涙戦(げんまきゅうせん)参加者でサタンの名を知らない者は居ない。そんなサタンの所業振りからサタンへの容姿や悪感情は留まるところを知らないが、こうして実際目の当たりにすれば異国の中性的な神物でルードは驚いていた


「なに? そうか、あのゴーレム共は貴様の手製か。あれの数と耐久度には少々困らせてくれたものだ」


「あのサタンを困らせられたなら参戦した甲斐もあったわい! おっと、今はシャイタンじゃったか――じゃがあの戦のせいで錬金術師が戦闘職と世間に誤解を拡げてしまったのは悔やまれるわい・・・」


ルードは友のスーピーの様に黄金錬成のような到達点に至った訳ではない

抑々到達点の3つをはなから除外したカレンと同じく魔道具の研究をしており大戦時ルードは潰えた町を代価に何千何万という精巧なゴーレムを作り上げ、それを操作してのけるという離れ業をやってのけ、レイアードの戦術と合わせてシャルマーユ軍は破竹の勢いだった。


「まぁまぁ! 世間なんてどうでもいいじゃん」


「その通りだ。貴様の活躍を誤認する輩など放っておけ」


「そうかそうか、しかし噂で聞いておったがお主本当に記憶や思考を視れるのじゃな」


シャイタンについては様々な噂が飛び交っていたが目の当たりにして思考が読み解けると知り、ルードは閃き、とある事柄を思い浮かべる


「誰でも、という訳では無いがな。其れに相手も選ぶ」


初手こそルードを【注視】したが今や主の命でもない限り主の客人にその様な事はしない


「ふむ、そんなお主の前では隠し事は出来んのう。陛下の緘口令も無駄になってしまうのう」


だがしかし・・・ルードは言葉とは裏腹に正に思考を読み解けといわんばかりの表情で茶を啜りシャイタンへ目配せする。そしてシャイタンも意図を察して改めてルードを【注視】する


「・・・? ――――ほう! く、くはははっ!! これはまた、カレン様は何処までも脅かせてくれる! 面白い情報を貰った。礼を言うぞ」


賢者はかつての魔道具が日の目を浴びない事を後悔していた

大悪神はその魔道具が神々ですら権能がなければ行使できない出鱈目な効果と知り狂喜の笑みを零し賢者に礼を言う


不可抗力ゆえ緘口令は破っていないのだからなんら問題は無い


「さて何の事やら」


「何々?」


「アリス様、詳しくは後ほど」


「おっけ~」


シャイタンのその恐ろしい笑みにまた良からぬ企てと察したアリスだが…

その新しい武器、もとい兵器を手にシャイタンとヘルメスは後に狂気に明け暮れた


(これは是が非でもカレン様に製法をお教え願わねばな)


シャイタンはまた意地悪を考えていた


そんな物騒な企ても知らずにカレンとコボルトはなんとか自身で抱えられる程の大きさの箱を其々持ち込み、ルードの前に並べる。


そしてここから商人コボルトの交渉の見せ所だ


「所で爺さん、昨日言った通りそいつのお代は要らねぇが肝心な事お忘れですぜ?」


「ん? 何の事じゃ」


見事な小型化に歓喜して箱をしげしげと眺めるルードが理想の魔道具に酔いしれている所に何事かと問う


「箱は有っても中身がなきゃ意味ねぇぞ」


「・・あっ!」


そう、魔道具があまりに逸脱過ぎて昨日はその話で満足してしまったが肝心の中身の氷菓子についての話は全く手を付けて無かった。其れに思い至りルードは口を開けて拍子抜けしてしまう


「言っとくがそれはうちの馬鹿姉妹の唯一の取り柄の力作だからな、そこいらの料理人じゃとても手が付けられんですぜ」


「それはそうじゃ・・・しかし、それを持ち出すという事は、その、期待していいのかの?」


妙齢の娘ならその期待の眼差しとデレ振りに夢中になるのだろうが・・・70過ぎの老人のデレとは誰特なのか

そんなルードを差し置いてコボルトはカレンに尋ねる。既にコボルトは知っているのだがこれも交渉の為だ


「そうだなぁ、おいカレン、あの氷菓子のレシピの種類今幾つある?」


「え? ん~・・・アマネのお陰で日増しに増えてるから今思いつくだけでも80以上は有るわね」


「な、なんと!? そんなにあの美味な菓子があるのか!!?」


「お爺さんお得いさんだしあげても・・・「まぁ待て待てカレン、おめぇの唯一の取り柄の知識を安売りすんな」


「唯一ってなによ!? 私の取り柄は魔道具でしょ!!」


「その魔道具の売り上げと今月の弁当の売り上げ比べてからもう一度ほざいてみろ」


零と毎食完売御礼の弁当の売り上げなど比べるべくもなく、コボルトの酷い言いざまにカレンは姉に泣き縋る


「コボルト酷いっ! ねえさまあああ!!」


「そ、それで持ったいつけんと幾らじゃ!?」


「本来売りもんじゃねぇからお代を頂く訳にゃ商人としちゃ納得できねぇが、なんでもミスキアのローイズで華水晶が発掘されたらしいんだよなぁ」


北鉱山の仲間内から聞いた華水晶、ミスキアのローイズ鉱山で発掘されたからその名が付けられた8色に輝く色鮮やかな水晶はミスキアの新たな特産品となる予定だ


「解った! 何が何でも買い付けて持ってくる」


「そいつはありがてぇ! 俺っちはそれで満足なんだが、やっぱ製作者の姉妹にも何かないとなぁ・・・」


勿論それで満足するコボルトではない、手をもじもじとさせカレンをあやすアリスに視線をやり客へちらりと視線を戻す


「なんでもゆうてくれ!」


華水晶だけで飛んでも無い出費だが件の魔道具に比べたら微々たるものだ、ルードは自身に用意できる物なら天上無しで用意する腹積もりだ


そのルードの心意気にコボルトはよし来た! とお目当ての品を告げる


「エーテル結晶の特急品とフルーラの最上位絹一式ありゃ姉妹も喜んでレシピ贈るだろうなぁ、気持ち次第では今後の新作レシピも定期的に贈るかもしれねぇな」


フルーラの最上位絹一式、これだけでアシュリー工房の月の売り上げをゆうに超える

そしてそれには劣るがエーテル結晶の特急品ともなれば個人では入手できず、有益者が大金をはたいてやっと少量購入できる品だ


「余裕じゃ! まかせい華水晶と合わせて荷馬車に満載にして贈るわい!」


華水晶・フルーラの最上位絹一式・エーテル結晶特急品を荷馬車に満載

コボルトの交渉によりこれ程の財を得る事が出来た


本来ならこれ程の交渉事は契約書を交わすのだがそこは肝心要の魔道具が関係しており書面に残せないので口約束だが老人の意気込みから間違い無いとコボルトも快諾して握手を交わす

本来これ程の規模の売買、公証人立ち合いの元行われるのだが…


「毎度あり!」




嬉々として店を去る老人を見送りカレンがコボルトに本当にただでよかったのかと問うとコボルトがその真意を伝える


「おめぇほんっと阿呆だな、あれの元は他国の秘宝だろ? そんなもんに値段付けて売買しましたなんて表沙汰になればこっちも客も拙い事になるだろ」


「そうなの?」


砕いて錬成しましたが論外は勿論だが、その品事態が国宝なので如何な相手だろうと下手に売買の記録を残す訳にはいかないのだ。

権威のある公務員ならともかく一商店でそれは間違いなく沙汰が下る事になるとコボルトは噛み砕いてカレンにせつせつと説く


「成程な、ふむ。先輩はその辺りの機微が利いてるな」


改めて先輩の有能振りに感心するシャイタンだった


「もっともあの爺さんらも偉いさんのようで事情察してくれたようだがな、その分別の口実で在庫やら大量に買い込んでくれたから大助かりだ」


「お前ほんっと優秀な番犬ね! 特別に今日の餌お前だけ奮発したげるわ」


「そいつはありがてぇ・・・だがまぁおめぇらのあの氷菓子のレシピの代価は妥当かどうか俺っちも解らねぇぞ?」


商人だけに商品には真っ当な値段がモットーのコボルトだが流石に姉妹のレシピともなると価値は不明だ

その点だけコボルトは渋い顔で愚痴るが姉妹兎は真逆に満面の笑みだった


「何言ってんのよ! エーテル結晶の特急品が手に入るなんて最高じゃない・・・ふへへぇぇ」


「あの国の生地ねぇ―――カレンにも着物作れるし見事よ!」



そしてちょうど八日後、老人の使いという使用人が馬車2台をアシュリー工房に届けに来た

コボルトが中身を確認すると例の客と交わした品々が2台に山積みとなっており、約束では1台だったのにどういうことかと使用人に問うと、コボルトも誤算の老人と、老婆其々で魔道具のお代を用意したという

華水晶とエーテル特急品はルードの一声で余裕で集められ、フルーラの最上位絹一式に至ってはその国の王より有名なスーピーの一声で大和から山の如く献上されたという


コボルトは物珍しい華水晶の山に尻尾を振り新しいコレクションに歓喜し、カレンは超大量のエーテル特急品に机上の空論だった魔道具が山と創れることに歓喜し、アリスは大量に有る懐かしいフルーラの最上位絹一式でカレンとついでにアマネに着物をと意気込んだ。




そんな最中



フラミーが森の動物達と意思疎通できると知ったとある日の出来事


カレンがフラミーを連れ森へ立ち寄りフラミーに軽い気持ちで尋ねた。


動物たちは普段どんな会話したりするのか? と


フラミーは複雑な面持ちで森へ意識を傾けた



・・

・・・

・・・・

・・・・・




「お前ら集合」


「なんだなんだ?」


「第36回アマネたんと兎たん姉妹を愛でる会議するぞ」


「え? もうそんな回数会議してたっけ?」


「おっまえ、馬鹿か? アマネたんのあの可愛さなら当然だろ」


「わかるわ~。アマネちゃんマジ女神、神界の神域は馬鹿と気狂いがうじゃうじゃ居て物騒極まりなかったからなぁ」


「あ~あいつだろ? エキトンとかいう奴、アマネたん同様可愛いのに狂いすぎだろ」


「そんな名前だったっけ? エキ・・・エキドンじゃなかったか? 俺も昔あいつに追いかけ回されたわ。まじあいつおかしいわ」


「あ、僕もそいつに付け狙われたよ。ピンクの気狂いだよね」


「ああ、あいつはまじやべぇよ。昔変獣のダチが言ってたけどピンク髪の奴は淫乱で危ないから信用するなって言ってたけど正にその通りだろ」


「いんらんってなんだ?」


「知らねぇけど馬鹿ってことじゃね?」


「名前なんて覚えてらんねぇよ。それに神界の神域は豊穣の神の縄張り争いも面倒で忙しなかったしな」


「それな! 俺が以前住んでた949の星なんて豊穣の神が争ってる間に神域に俺が留守の間に愚かな人間が押し寄せて聖獣のピクシー狩り尽くして竜様が怒り狂って星事滅ぼしたんだぜ」


「竜様まじぱねぇ。流石っす」


「流石竜様! そこに痺れる憧れるぅ!」


「それに比べたら此処はまじで桃源郷だよな~。アマネたんも可愛いしあの兎たん姉妹も可愛いし餌も絶品。馬鹿な人間も他の神の横槍も無いし、俺もう一生此処に住むわ」


「俺も俺も、つか他の仲間も呼ぼうぜ」


「うん、ここが僕達の安住の地だよね」


「けどよ~アマネたんが可愛いのは確定としてよ、あの兎たんの姉妹も可愛いけど変わってるよな。白狐見て可愛いとか言って飛びついて撫で繰り回してたぞ」


「まじでっ?! 白狐先輩が可愛いとかどういうセンスしてんだ?」


「あ~それ俺も見てたわ。白狐が照れて困惑してたぞ、直ぐに腹向けて喜んでたけど。あいつが可愛いとか言われたの多分創造されて初めてじゃね? つかあのフラミーを可愛いと愛でてる時点で変わってるよな」


「だよね。僕達はどうやら怖がられるみたいなのにあの兎ちゃん姉妹はどういう訳か普通に接してくれるんだよね~。それなのに以前はインプを御馳走だ~って追いかけ回してたよ」


「・・・・・俺たちが異形なのは自覚してるけど普通はインプみたいなのが可愛いっていうんじゃねぇの? それを食おうとして俺たちが可愛いって、なんなの? あぁもう! 可愛いなぁもう!」


「抑々フラミー様が可愛いとか畏れ多いわね・・・でもフラミー様も満更でも無いみたいよ」


「てかフラミーめっちゃ御機嫌だよな~正直羨ましい」


「「「それな~」」」


「というかさ、気になってたんだけどあの姉妹、カレン様になんか似てね?」


「あ、それ俺も気になってた。毛色が違うだけでそっくりだよな」


「フラミーから聞いたけどなんでもあの姉妹、カレン様の半身で創造されたらしいぜ?」


「えぇ~・・・あの混沌姫の半身にしてはなんていうか、穏やかと言うか、優しいと言うか、違い過ぎない?」


「あれじゃね? 善の部分をあの姉妹に分けたとか」


「・・・・・おい誰だよこいつに幻覚草食わせたの? あの混沌姫に善の部分あるとか正気か?」


「お前それは幾らなんでも言い過ぎだろ・・・幾らあの混沌姫でも・・・欠片ぐらいあるだろ、多分」


「おい止めろよ。折角の桃源郷なのに物騒な名前出すなよ、萎えるわ~」


「それな、お前空気読め」


「すまんすまん、けどよ~。あの姉妹俺達見ても怖がりもせずに毛繕いしてくれるとか超絶女神みたいな存在だよな」


「ほんとそれな、慈愛の神ですら俺達みたら逃げて相手してくれないのにあの兎たん姉妹は撫でたり毛繕いしてくれるしアマネたんの詩は最高だし、もうなんていうか此処理想郷だよな」


「同意、しかもめっちゃ毛繕いが丁寧で上手いよな。あんだけ可愛くて俺たちに優しく接して旨い飯までくれるとかなんなの? 同種だったら俺番に立候補したいぐらいぜ」


「あの姉妹も可愛いけど俺はアマネたん一筋だぜ!」


「は? お前喧嘩売ってんの? アマネたんを愛でるのは俺の役目だろ」


「お前ら解ってねぇなぁ・・・雄なら黙ってあのコボルト先輩一択だろ」


「―――ぇ、お前、そっちの趣味なの? 引くわ~・・・」


「ばっか、コボルト先輩はそんなの超越してんだよ、なんで最下級の幻獣が居るのか気になって思考看破したらよ――――――」


・・・

・・・

・・・

・・・

・・・


「・・・なにそれ? え、あのコボルトって擬態で実は守護神とか最上級の幻獣なの?」


「いや、正真正銘最下級の幻獣のコボルトだぜ。それがあの大悪神ですら愉悦抜きで引くぐらいの拷問と苦行に耐えてんだぜ? しかも此処の環境造りしてくれたのがコボルト先輩の一計だぞ」


「まじかよ・・・コボルト舐めてたわ。そんな凄い奴だったのか、つかなんでそれで最下級なんだよ、俺より凄ぇじゃん、え? まさか幻獣界にいるコボルト皆そんな化物なの? 何時の間に幻獣界そんな修羅の世界になったんだよ」


「んな訳ねぇだろ。あのコボルト先輩が特殊なんだよ、あのコボルト先輩が居なかったらこの神域も無かったんだからお前らも感謝の気持ちを忘れるなよ」


「まじか~コボルトって確か鉱石好きだったよな? 今度珍しいの探して贈るわ」


「私も」


「俺も俺も」


「贈り物といえばさ、僕他にも気なってるんだけど兎ちゃんがよくそこら辺の草とか花蒐集してるけどあれはなんだろ? 食べるのかな?」


「え・・・確かに俺達には旨いけど、流石に兎たんには食えないんじゃね?」


「いや、抑々食えたとしても、こう・・・人道・・・兎道? 的に色々駄目だろ、そんな切羽詰まってるなら俺以前の星で暴れて有りっ丈食料集めてくるぞ」


「あ、それならこの前アマネちゃんと話してるの偶々聞いたけどレンキンジュツに使うとか言ってたわよ」


「レンキンジュツ? なんだそれ」


「なんか聞いたことある・・・確か魔法の一種だったような、物を別の物に変換するとかそんなやつ」


「でもあの兎たん魔力ないよな? それで魔法ってどういう事?」


「それは判らないけどさ、まぁ可愛いからどうでもいいじゃん」


「「「だな」」」


「会議もいいけどよ、俺実はちょっと気になる事があるんだよ」


「何々?」


「この前な、ロクだっけか? あいつがあの姉妹の塒に入るの見掛けたんだよ」


「ロク? 何それ」


「ほら、あの~名前忘れたけどティアマト様誑かして幻獣界から連れ去った外道」


「あ?」


「おい、それって確か以前袋叩きにしたレンコンだかが見込んだとかいう人間の騎士だか王だかだろ? え、あいつまだ生きてて此処に来てんの?」


「良し、ぶっ殺そうぜ」


「いやいや、駄目だろ。一思いに殺さずじっくり食い殺そうぜ」


「あったりまえだ、ティアマト様を誑かした奴を見す見す見逃したら竜様に顔向けできねぇ」


「でもあいつれ、レコンだっけか? あれに認められるぐらいで剣で次元や概念切ったり竜様と殺し合ったバケモンだろ? 抑々ティアマト様を誑かすぐらいだから俺たちが束になっても敵わねえんじゃね?」


「ティアマト様の為なら死のうと一矢報いる覚悟はあるぜ」


「当然私もよ」


「当然だ、他の星からも戦力の高い神獣呼び寄せようぜ」


「僕もティアマト様の為なら配下と友達引き連れてくるよ」


「おう、俺も命は掛けるけどよ、そもそも俺達が本気でやり合ったらアマネたんは兎も角あの兎ちゃん姉妹にも神威で被害及ぶぞ」


「あ~・・・それはやべぇ、どうする?」


「あんな可愛い兎たん姉妹に怪我とかさせたくねえよ、俺」


「ん~王ってことはどこぞで踏ん反り返ってるんだろ? いっそこっちから襲うか」


「ねぇ、私もティアマト様を誑かした人間を誅するのは賛成だけど・・・ティアマト様が悲しまないかしら?」


「え・・・そりゃあ、、、どうなんだ?」


「ティアマト様に怒られて殺されるのは良いけどあの御方が悲しむのは嫌だな」


「確認しようにも天獄へは伝達も転移もできないしなぁ」


「そうだなぁ・・・それじゃとりあえず半殺しにしとく?」


「お前天才だな! それだ」


「おっけ~それでいこうぜ。其れまでに仲間呼び寄せとくから次見掛けたら取り敢えず半殺しで」


「お前まじ天才じゃね? それならあの兎たん姉妹にも被害及ばないだろうしそれで行こう」


「じゃ、そうい事で」


「あっ! 一応念の為竜様に此処の報告とティアマト様誑かした野郎をどうするか確認しとこうぜ」


「おお、それもそうだな。もしかしたら竜様が直々に攻め込んでくるかもしれねぇし横取りは駄目だろ」


「賛成~」


「でも其れまでに見掛けたら齧るぐらいはいいよね?」


「「「「おっけ~」」」」


・・・・・

・・・・

・・・

・・


「・・・・・そうですね、皆主姉妹の毛繕いやアマネ様の詩に感激しておりとても楽しみにしているとの事です」


「そうなの? じゃあ今度姉様と皆の毛繕いしてあげないとね」


心優しいカレンの台詞とは裏腹にフラミーは会議の参加者達にやれやれと溜息と共に呆れていた


他星では神と崇め奉られる神獣達があんな間抜けな会議してるとは口が裂けても言えないとフラミーは主に申し訳ないと思いつつ隠蔽を図ったのだった

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