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臆病兎の錬金経営譚  作者: 桜月華
43/148

43話 珍客と錬金術師

幻神歴2959年08月07日


「いらっしゃいませっ! お客様初めてですね、気になる品や解らない商品はなんでも聞いてくだせぇ」


(なんだこの客、平服に帯剣? 戦闘職志望の客か? けどそれにしては年食ってるな・・・)


アシュリー工房で平常営業していると初見の来客があったがその客が見るからに不格好だった

地味な平服なのは判る、だが腰に帯剣だけしていたのだ

戦闘職の客は見慣れているが帯剣して平服というのは有り得ない、それこそコボルトの予想したように戦闘職に憧れ先ずは武器を手にしたとも思えるがその割には客は中年層だった

熟練者なら中年層は多いが、これから戦闘職を目指す中年というのは流石に奇異としか言えなかった


その変な客はコボルトに向けて意外な事を尋ねる


「ああ。すまない、商品も後で幾つか見繕うつもりだが先ずは挨拶に来たんだ。此処にアリスが居るだろう?」


コボルトは客から意外な名前が出て一瞬にして蒼褪めた

アリスが関わって碌な事が無いのは明白だ、この変な客の素性は知らないが名指しということはアリスによって何かしらの被害や迷惑が被ったのだと察して低頭に駆け寄って下手に出る


「へ? あ・・・お、お客様っ、うちのアリスがなにかご迷惑でもおかけしたのでしょうか!?」


アリスに常識を説くのは無駄だと長年の苦労で身に染みてる。それこそ幼子に古代魔導書を理解させるほうがまだ可能性がある、それでも今現在自分は一商店で商いをしているのだ

風評被害は商売人として御免だ、内容次第では謝罪金すら用意してなんとか口止めをお願いするつもりだ


そんなコボルトの心境など知らない客は呑気に続きを語る


「いやいや、そういう訳では無くてアリスとは友人でな、立ち寄ったんだ」


「―――アリスのだち?」


コボルトの声音が変わった

今までの蒼褪めた顔が元に戻って客を観察する

先まで脳内で謝罪金や口止め等必死に考慮していたのが一瞬で失せ、アリスの知人という


『あの』アリスの知人だ・・・


「ああ、それでアリスは在宅か?」


「帰れっ!」


アリスを良く知るコボルトからしたら当然の判断だ

最早客でも何でもない

アリスの知人など害悪そのものでしかない、店の不利益所か自身に何かしらの不幸が起きるのも目に見えて判る

誰よりアリスにより被害を被ったコボルトだからこその英断だ


「は?」


客は予想外の返事に素っ頓狂な声を上げた

友人を訪ねて来たのになぜ門前払いをされねばならないのかと

客の聞き及んだ限りこのコボルトは奔放なコボルト種にしては変わり種で誠実で真面目な商売をすると聞いていたのだが・・・


何よりこの客は後にも先にも門前払いをされたのは之が初めてで最後だった


「あの馬鹿のだちなんざどうせ碌でもねぇに決まってる。唯さえ厄介者が増えて困ってるのにこれ以上のトラブルはご免だ。分ったらほらさっさと帰れ帰れっ」


客の戸惑う様子等お構い無しにコボルトは捲し立て客を出口に押し退ける

商売人としてこの態度はどうかと思われるが

コボルトからしたら客でもなんでも無い、アリスの知人など店や自分の厄介者なのだから当然の行動だった


清掃中のルルア兎達も状況は理解してないがコボルトが客を押し返そうとしてるので6匹とも集まってコボルトと一緒になって客をグイグイ押し退ける


「い、いやいやっ! その態度は客に対してどうかと思うぞっ」


コボルトとルルア兎達に押されながらも客はその態度は如何なものかと窘める


「あの出鱈目生物のだちが客な訳ねぇだろうが、むしろ疫病神の類だ!」


一刻も早く疫病神を追い出したい

アリスと知人を合わせたら益々厄介な事になるのはコボルトには判り切っていた

最大の被害者だけに必死だった


「―――仕方ないな。これで余が誰か判るな」


そんなコボルトに困惑した客は致し方無しと言葉使いを改め威厳な態度で帯剣していた神々しい剣を手にコボルトに見せ正体を明かす

お忍びのつもりだったがアシュリー工房に入店した時点で目的は達してるので工房の住人に明かしても問題無いとの判断だった


が・・・


相手が悪かった


「は? 剣がなんだ? ここは錬金術の工房で武具屋じゃねぇんだ。売りたきゃ武具屋行け」


客が何故か急に偉そうな態度で剣を見せつけるがコボルトからしたらだからなんだという話だ

知る者からしたらその剣を売るなんて飛んでもない! と突っ込むのだが


最もその剣を件の幻獣の契約主は拝借して賭けに使って巻き上げられたという哀れな経緯もあるのだが・・・


「いやいやっ! これグラムだぞ!」


流石に客、いやもうシャルマーユ皇帝陛下ロック・フェザスター・シャルマーユがグラムを目にしてその態度は有り得ないと思わず素で突っ込む

レギン様から賜った神剣グラムなど如何なる商人だろうと名のしれた紛れも無い神器なのだから


だが、繰り返すが先程の様に相手が悪かったのだ・・・


「おめぇな・・・グラムだかキロだか知んねぇが幻獣のコボルトに剣の目利きなんざ出来る訳ねぇだろ。ほんとあいつのだちだけあって馬鹿だな」


コボルトは呆れながらも阿呆な客に説いてやる

客がさぞ自慢気に剣を見せつけるがコボルトに剣の目利きなど出来る訳も無いのだ

一部の幻獣なら別だがそもそも大抵の幻獣は物に執着しないし関心が無い

コボルトは種族本能で銀に執着があるが剣などそこらの数打ち品だろうと名剣・神剣だろうと違いなど理解できないし興味も無いので区別すら不可能なのだ


「・・・・・致し方ないな。余はロック・フェザスター・シャルマーユ。当然其方も知っておろう、アリスは戦友でもあってな、こうして会いに来たのだ」


こうして名を公言した以上目の前のコボルトは先程までの不敬罪の数々に苛まれるだろうがロックとしては友人の縁故にそんな罰を下すつもりは無いので見逃すつもりだ


名を明かした以上膝を付いて必死に謝罪するのは明白なのでどう言葉を掛けようかとロックが考えていると当のコボルトは哀れみの眼を自分に向けていた

其処には敬意等欠片も無かった


「――なぁ・・・どこの国の王が1人でこんなしがない商店に来るってんだ? その年で知らねぇとか致命的だが教えといてやるが貴族や王族の身分語るのは重罪だぞ。黙っといてやるから大人しく帰れ、んでおめぇはまず剣より常識学べ、カレンより阿呆な奴初めて見たぞ」


正真正銘正統な皇帝に王族の身分を語るなと最下級のコボルトに窘められるロック

知識は兎も角、剣技は自分なりに極めたつもりだったがどうやら戦闘職の駆け出しと思われてるらしい

常識知らずの阿呆と言われた


色々思う所があるがコボルトの言う通り王が1人でこの様な平服で一商店に尋ねるのがまず有り得ないのは判るのでロックは弁明できなかった


人類最強にして強国の皇帝を門前払いして阿保呼ばわりして窘めるのが最下級の幻獣たるコボルトだった


後にも先にもシャルマーユ皇帝に知らずとは言え此処までやってのけたはコボルトが最初で最後だろう


「「・・・・・」」


客もコボルトも珍問答に困惑して思わず沈黙してしまう


尚ルルア兎達は飽きたのか空腹になったのか台所へご飯を食べに行っていた


「なになに? あ、やっぱロックンじゃん」


聞き慣れた声が聞こえたので珍しく部屋から店舗にローブすら纏わずにひょっこり顔を出したのはアリスだった

この時ばかりはロックにとってはアリスが救いだった

コボルトにとっては最悪の展開だった


「アリス・・・助けてくれ」


この様な事態微塵も想定していなかったロックにとっては成す術が無いので素直に縋った


「ちっ。これ以上の厄介はご免だってのに、おいアリス、おめぇのだちならカレンの部屋連れてけ、他のお客様が来たら迷惑だ」


アリスの目に付いた以上もうどうしようもないと諦めたコボルトはせめて邪魔者を退けようと部屋に押し付ける

事実他の客がロックを目にしたら買物所か腰を抜かして大騒ぎになるのだから邪魔者ではあるのだ



「おっけ~」


「報告ではあのコボルトは真面目で、堅実で、誠実を良しとすると聞いていたんだが・・・」


部屋に案内される短い瞬間にも思わず先程の珍問答を思い返しロックがぼそっと呟く

別に尋ねたわけでもなく、答えを求めての台詞ではなく、あまりの出来事に思わず口に出ていたのだ


「あの犬はせっかく私が契約してやったのにいつまで経っても生意気で反抗期なのよ」


(っ!? あれは妹じゃなくてこいつと契約していたのか! それであの対応・・・成程な。あいつもさぞ苦労してるんだろうな)


常人より聴覚の優れたそのうさ耳が聞き逃す訳も無く、自分の契約してやった犬が中々躾けができなくて困るわ~とアリスが愚痴を零すがそれでロックは全て悟った


てっきり妹のカレン・アシュリーと契約しているのかと思っていたのだがアリスが契約主だという・・・

アリスの性格からしてその苦労は耳にするでもなく察せる物だ。・・・・・最も実際に耳にしたら愉悦を是とする大悪神すらドン引きさせるほどの苦行と難行と拷問の日々(アリス自身は無自覚)の数々なのだが・・・

それで先程の対応の理由が解った。つまり自分もアリス同様に厄介者と思われたのだろう・・・溜まったものでは無い


「カレン~友人紹介するわ。ロックンよ」


「え? え、わっ姉様耳!」


姉妹とシャイタンで仲良くお茶を満喫していると突如姉が部屋を出て行ったと思ったら見知らぬ偉丈夫の男性を連れて戻ってきた

初見の人に戸惑うがそれ以上に自分も姉も頭上のうさ耳が丸出しだったので慌ててフードを被ろうとするが・・・既に致命的に手遅れなのだが幸いにもロックは姉妹の種族を存じているので問題無かった


シャイタンは主のそのおっちょこちょい振りに微笑んでいた


「ああ、大丈夫大丈夫、こいつ私達が玉兎だって知ってるから」


「そ、そうなの? えっと・・・・・初めまして姉様の妹のカレン・アシュリーです。見ての通り私も玉兎です・・・」


姉の言う友人で玉兎と知られてるなら大丈夫だと至りおそるおそるロックの前まで来てたどたどしくも挨拶する

シド程ではないが180㎝程と大柄で年相応の堀の深い武骨な顔に短く刈り上げた金髪の見るからな偉丈夫で精悍振りに姉の友人とはいえカレンとしては若干怯えていた


「初めまして、カレン・アシュリー。カレンと呼んでいいか? 俺はロックンだ。アリスとは古い友人、というか腐れ縁でな。アリスと似て美しいが姉と違って一目見て名前の通り清廉可憐だと判るな」


そんなおっかなびっくりのカレンと打って変わってロックは慣れた所作で外見に似合わず優雅な所作でカレンの手を取り気さくながらもきざな台詞を述べる


「へ、あ・・う、美しいって私マスク付けてるし・・・」


思わぬ初見の人から思いもよらぬ台詞が飛んできてカレンは挙動不審になって慌てふためく

うさ耳も困惑してるようで前後左右にパタパタ揺れていた


そんなカレンの頭上のうさ耳をロックは面白いなと眺めていた

どうやら姉同様に妹もうさ耳は正直な様だ


「これでも美しい貴婦人は山ほど目にして来たのでな、アイマスク等関係無く判る。肝心なのは心持ちだ美しいカレン、その兎の耳も可愛らしい」


言葉だけ取れば口説いてるようなものだがロックにその気は毛頭無い

ロックは皇帝として宮廷や貴族の集いで皇に相応しい様完璧に師に叩き込まれた貴族のマナーとして極当然の口上を述べていたのだ

最も言葉は飾ってるが本心だ。姉同様カレンもアイマスク越しでも誰が見ても美麗な貴婦人だと判るし姉と違い豊満な胸は姉とは違う肉欲的な色香もあった。コンプレックスを拗らせ気付かぬは本人だけだ・・・

サービスとばかリにカレンの手の甲に口づけをするロック


「///わ、私研究してくるっ!!」


容姿もうさ耳も褒められ手の甲に口付けをされ羞恥が達したカレンはついぞうさ耳が垂れ下がり顔を真っ赤にして慌てて地下工房に逃げ込んだ


「「「・・・」」」


「ははっ、お前と違って純情だ・・・な?」


そんな素直なカレンに思わずロックが笑い声を上げ後ろのアリスに妹を褒めようとしたら

アリスは明らかにぶち切れて憎々し気に睨んでいた


「てめぇ何私の妹に色目使ってんだ、殺すぞ」


気立て最狂で器量最高の玉兎が今にも襲い掛からんとしていた


「主を誑かすとは見下げ果てたな剣聖、レギンも泣くぞ」


シャイタンまで憎悪を隠し気も無く発露してロックを睨んでいた、しかも神威まで放っていた


「まっ待て待てっ! あれは貴族としての婦女子への当然の礼儀だろう」


その後10分にもわたるロックの弁明によってなんとか命拾いした

貴族として当然の所作を貴婦人に対して接したのになんで殺され掛けねばならないのか理不尽だと思ったのだがこればかりは時と場所と相手と居合わせた面子が最悪だった


「それでなんでお前が此処に居んのよ。仮にもお前皇でしょ」


とりあえず落ち着いたのでロックも交えて3人で机を囲み粗茶と言わんばかりに紅茶とお手製の茶菓子をぞんざいにだが一応差し出すアリス

最もそれでもロックにしてはうわ旨いなこれっと喜ぶほどの味と風味だった


「仮もなにもこれでも正統な皇なんだが・・・理由は幾つかあるが当然お前らの監視と釘を刺しにだ」


「は? なによそれ」


「お前らが暴れたら止められるのは精々俺ぐらいだろ」


最も目の前の2人が本気で殺意を露わに暴れたらとても自分では時間稼ぎにすらならないのだが、こうして今現在ルルアが無事な時点でその点は大丈夫だろうとロックは思っているのであくまで釘を刺す程度で言葉にしたのだ


「失礼ね。私は愛妹と仲良くご飯の用意、シャイタンも大人しくこの工房の手伝いしてるわよ」


2人を知るロックからしたら有り得ない、むしろ何かの偽装工作とすら疑う程なのだが抑々この2人がそんな器用で手間の掛かるような手段を取る訳も必要も無いと1人納得する


「それは信じがたいが、まぁ実際この通りだしな。ただサタン、ああ、シャイタンだったか。お前第二近衛団の副団長に使い魔と称して悪魔寄越しただろ」


かつて報告にあげられ直接目にした悪魔2柱にロックはこれのどこが使い魔だ! と思わず口に出してしまった程だった


「近衛? 副団長? 何を言っている」


とぼけてる訳でなく本当に知らないとばかりにシャイタンが問い返す


「この町でカレンの警護させてるカザネ・シャーロットだ」


「ああ、あの娘か。確かに素材と警護の礼として配下をくれてやったな」


呑気に茶を啜りながら答えるシャイタンに眉間の皺を抑えながらロックが頼み込む


「どんな財宝積んでもあんな悪魔に釣り合う訳無いだろ・・・というかあれ高位の悪魔だろ、頼むからお前の基準でぽんぽん眷属や配下配るのは勘弁してくれ。あの宗教狂いの国処か他の宗派にばれたら宗教戦争起きるぞ」


神魔については疎いロックですらその禍々しい魔力に察していた、後に専門家に名前を調べさせたら信仰されてる悪魔だと判って余計頭を悩ませた

信仰する宗派からしたら己が信奉する神を使い魔にしてこき使ってます、等と知られれば聖戦が起きる

最も当のカザネはその悪魔2匹をいたく気に入り猫可愛がりしているが・・・


「俺とて相手を選んでいる。あの娘なら問題なかろう」


相手を見抜くシャイタンにとってカザネには問題無い、むしろ主の為に有効活用できると悟って選んだ配下を預けたのだ

その差配に人間の勝手な宗教観念を押し付けられても困るというものだ


「高位悪魔の使い魔なんて幸運じゃん、喜びなよロックン。あ、そうだ、ついでにこの前はそれ処じゃ無かったから今の内にこれ渡しとくわ」


思い出したとばかりにとある友人から預かっていた厄介な物を腰布の間から取り出し机に置くアリス


「なんだ? 魔導書か? 俺はお前と違って魔法はからきしだぞ」


アリスの持ち物については突っ込むのも無駄とかつてに散々思い知らされたが魔法については素人以下の自分になぜ魔導書を寄越すのか尋ねる


「うわ・・・竜と同じ事言いやがる、それ天獄の魔女っ娘ちゃんからお前への恋文よ」


既視感のある台詞に思わずアリスがごちる


「っ!? ティアの・・・っ!!」


アリスの台詞から予想外にして一生忘れられない、忘れる気も無い想い人の名が出て驚愕しその文? を手にしようとするが途中で手を引っ込めてしまう


「文っていうか、まぁ見ての通り書物並みの分厚さでそれ作成するまでの間監禁されたんだから有難く読みなさい」


かつての監禁? と拷問? を思い返して本当に苦労したとばかりに語るアリスだがロックにはそれが耳に入る余裕も無かった


「・・・・ティアを殺した俺にこれを手にする資格は・・・」


罪悪感に圧し潰されとても手に出来なかった


「反応まで竜と同じとか・・・はぁ、じゃ捨てるわ」


そんなロックの胸中等お構い無しにまたも既視感が過りもううんざりだと本当に捨ててやろうと手に取りとある外法を行使しようとするもロックが慌てて奪い取る


「!? 待て待て!」


「竜といいお前といい大人しく受け取れっての」


結局結果も既視感通りな事に呆れてアリスが窘める


「あ、ああ。感謝する・・・」


ロックは文? を大事に懐に納めた

帯剣してるグラム同様ロックにとっては大事な物に変わりない物だ


「それで、目的が他にもあるとか言ってたけど、何?」


「まぁ実の所お前らの監視はついでで重要なのはこっちなんだが、パラミスのほうは恐ろしいぐらい順調に属国化が進んでるんだが問題がテリアでな・・・」


来訪の次なる目的を問われロックが副課題を語る

国家機密そのもので最重要機密なのだがこの2人は例外だ、抑々この2人のせいなのだから知恵を借りるのは当然だろう


「はぁ、、、パラミスにテリア? それがどうしたのよ」


アリスとしてはパラミスもテリアもなんでこんな時にそんな名前が出るの?

と意外な国名に友人の意図が掴めずに疑問符を浮かべていた

其の二国にかつて自分が指示して使い魔に行わせた所業などとっくに頭から綺麗さっぱり抜け落ちているのだから


「お前達のせいでテリアが半壊しただろうがっ!」


「お前何言ってんの? なんで私がテリア攻めるのよ!」


ロックの酷い言い掛かりにうさ耳と共に逆切れするアリス


「アリス様、カレン様探索の折にテリアに眷属を放ったのでその結果かと」


「へ? あ、あ~・・・そ、そうね。そうだったわ、うんうん。テリア滅ぼしたわ」


思い出していない、ただシャイタンが言うからそうなんだろうと何となく話を合わせる

因みに滅ぼしてはいないのだが・・・


「勝手に滅ぼすな、半壊と言っただろうが、相変わらずお前の物忘れは酷いな・・・それでそのテリアからの救援要請が様々な国に出されていてな、シャルマーユにも救援の要請が来ている」


「放っておくなり救うなりしたらいいじゃん」


あっさり、適当に、興味無さげに言いのけるアリス

自分個人的な都合で一国を半壊させこの台詞は身勝手通り越して異常者のそれ其の物だが、ロックは友人がそういう性分だと知ってるし問題の国の実情を知って一切の同情も無い


「簡単に言うな。奇しくもシャイタンの所業の結果あの国の実情が知れてな、パラミス程では無いにしろあそこも凡愚な国でな、何の国交も無いし救援の義理は無いがテリアの馬鹿な王がシャルマーユの前王同様に棄民を計画してるらしくてな・・・」


棄民

自国民の一部を切り捨てる政策で手の施しようのない地区等を放棄する政策なのだが当然国民の反感を買う愚策なのは語るまでも無い


シャルマーユの前国王はそれを打ち立てついに革命が起き崩御した

それほど致命的な愚策だ


「うへ、棄民とかもう国として成り立たないじゃん、棄民政策は手の負えない疫病地区なんかの一部を除いたら一過性で前期安定するだけで中期すら持たない最も愚策なのにそんな事も判らない程愚かなの?」


「それだ、かといって救援しようにも、お前も知っての通りシャルマーユは前政権の遺物で国庫は潤ってるが人的資産が致命的に不足していてな、いっその事俺が乗り込んで王族切り捨てようかと思うぐらいなんだが流石に一国の皇がそれは外交問題だし困ってる」


ロックの性分と技量なら余裕でやってのける、むしろ義憤に駆られてやりたいのだろうが生憎とロックは皇帝の身分なのでそれが許されない


それはアリスにも判るが・・・だからどうしろという話だ


「はぁ・・・なに? 私にテリア滅ぼせって話?」


「馬鹿がっ! 暴れさせないために監視に来たのにそんな物騒な指示する訳ないだろう」


「え~と、つまり私にどうしろと?」


「どうしたらいい?」


ロックの率直な乞いにアリスは大きい瞳をぱちくりして使い魔に即興で冗談めかす


「―――シャイタンシャイタン、しがない平民に政策案求める皇がいるらしいわよ」


「アリス様もご冗談が上手い事で、そんな道化の皇が居たら見てみたいものですね」


主の意を汲んで愉悦に笑い答える使い魔だった


「嫌味はいいから・・・そもそも終結後本来ならお前に皇を委ねるつもりだったのに姿くらませやがって、お前と違って俺は剣しか取り柄のない武芸者だぞ」


一国の皇が王位の譲渡などあり得ない話だが過去の経緯から自分よりアリスのほうが為政者として相応しいのはロック自身が痛感していた、実際王位について改めて過去にアリスが呑気に口走ってた政策が完璧な善政で時世を先読みしていたと思い知らされたのだ


「私は可愛い妹しか取り柄の無い平民よ」


「お前の奔放振りを考慮しても政治思想は完璧で鉄人政治が可能だろう。お前は隠してるつもりだろうがどこぞの大貴族か姫の出だろ? あのレイアードとミューズ様が称賛する程の帝王学を身に着けてるんだから」


アリスは大戦時粗暴に振舞っていたが時折見せる所作やぽろっと語る政策や思想に師のレイアードや文学・学術・芸事を司るミューズが関心していたのだ


「――勘弁してよ、カレンに窮屈な王宮生活させろっていうの?」


アリスはかつての、遥か過去を一瞬思い出し苦笑いして拒否する


未練は・・・無い。望んでも其処には肝心な者がもう既に居ないのだから


唯その台詞を呟いた時の瞳はアリスには似合わない遠くを見やる儚い眼だった


シャイタンはそのアリスの様子を無言で眺めていた


「はぁ・・・まぁこれは断られるのは目に見えていたが、実際テリアをどうするべきか、放置しては大勢の民衆の犠牲が目に見えてるしな」


「そうねぇ。シャイタン、テリアで有能な貴族や政治手腕の優れた者はどれぐらい居た?」


ロックの性分から民衆を思っての悩みと判るのでアリスも知恵を貸す事にする

自分の招いた結果を悔いて、という理由じゃないのがアリスらしい行動原理だ


「零です」


「・・は?」


シャイタンの即答に思わず素っ頓狂な声を出してしまう


「あの国は有能な者は既に亡命か他国に引き抜かれて残っているのは権力だけ有する無能か毒にも薬にもならない凡愚だけです。国是で奴隷制度を敷いているので人材だけは無駄に多いですがあえて挙げる取り柄と言えばそれぐらいでしょう」


「え、待って。それってお前を基準にしての話よね? 流石に有能な奴が皆無とか有り得ないわよ?」


如何な国だろうと有能な知恵者が1人も居ない等有り得ない、それでは国として成り立たないというかとっくに亡国になっている

シャイタン自身の能力を基準にしての判断だとアリスは改めて問う


「いえ、この世界での平均を考慮しての能力推察です。ちなみに先程述べた人材以外は国庫も乏しくテリア特有の資源だった貴鉱石と希少で高品質な薬草の類も取り尽くしてその殆どが他国に流出しているので最早なんら価値も無いと言えるでしょう」


アリスとしては有り言えない答えだった。抑々その状況で悪魔の侵攻以前になぜ亡国になってないのか逆に感心するぐらいだった


これはもう手の打ちようが無い、溜息を付いてうさ耳も項垂れてる


「自国の特産品尽くすとかありえねぇ・・・そこは短期の税収を犠牲にしてでも税率を下げて長期的な経済安定を図るか借金奴隷を国家事業に携えて犯罪奴隷を過酷な開拓に酷使するなりして領土の安定を優先するべきでしょ」


「あの国にそれに至る有能な者が居ない時点でお察しの愚かな国です。それとテリアでは奴隷に区別なく犯罪者に限らず容姿の優れた市民や希少種族を攫って富裕層の愛玩奴隷か見世物とされてます」


戦争が必然悪なら奴隷は必要悪で無く社会悪だ


10人に聞いても10人が概ね奴隷は可哀そうと意見を述べるだろうがそれは間違いだ

乞食と違い管理されてるので最低限の衛生面の保証があり、男の奴隷には最も求められる力仕事のために体力仕事を任され、女の奴隷には殆どが性の手解きを仕込まれる


性の手解きと聞いて大方の者が想像する酷い扱いは実際の所先ず無い。女性が娼館で働くには性の手解きより接客業を叩き込まれるので奴隷期間を過ぎれば接客業の店に就職もできるし給金も良いという事でそのまま娼館に務める者もいる程だ



悪徳な奴隷商人に買われたらそれこそ悲惨な結果になるが往来にして商人は金に目敏く、奴隷商売を後物商品と捉えているのでそのような悪徳、否,この場合3流の商人など極一部だ。


そして奴隷にも様々な区分けがある。犯罪奴隷や終身奴隷等は大抵の者が奴隷と聞いて予想する通り酷使されるが借金奴隷などはその限りではない

にも拘らずテリアはそれを区分けせず全て雑に扱ってるという・・・


「・・・・・もう平民や奴隷以外滅んだほうがいいんじゃないの? 救い様無いでしょ」


アリスは呆れて匙を投げる、そのような国例え救援しても碌な事にならないし救援の価値も無い


「それが手っ取り早いですが残った平民と奴隷では国営は無理なので遠からず滅ぶでしょう」


シャイタンも同意だがその末路も告げる


「なぁ、シャルマーユでは犯罪や借金による正規の手続き以外奴隷を禁じてるが税率下げて経済回復ってどういう事だ?」


一方ロックとしては話に付いて行けず先程の税を下げて経済回復が訳が分からずアリスに問う

誤解の無い様弁護するとロックは善政を敷く皇帝ではあるがあくまで政治に無縁の兵士上がりで貴族から成る騎士の出ですら無いのだ、現在帝王学を叩き込まれてる最中だが未だ政治方面に疎いのは致し方ないのだ


それを知ってるだけにアリスは呆れながらも詳細を語る


「はぁ・・・お前本当に政治について浅学だな、税率を下げたら一時は領主の税収が下がるけどその結果農民や市民の懐が安定して市場が潤い、商売が盛んになる。商売が盛んになれば目敏い商人は他国より税の少ない国に集まる、その結果短期の税の減少は中期には回復して長期になると元の税収を超えるでしょ。特殊な経済国によっては通じないけど大抵の国は先ず効果あるわよ」


「な、成程」


説明されて思わず頷くが話半分しか理解できてなかった


「国の経済の要は農民でも貴族でも王でも無い、大商人よ。優れた国は如何に大商人を扱うかで決まるわ。為政者は目先で無く長期の眼で経済を見越すのが技量の見せ所でしょ。王が綺麗毎並べて滅んだ国は数え切れない程ある、その大半の理由は滅ぼされたんじゃなくて自国の経済を上手く回せなかったからよ」


極論だがその実的を得た話だ

王侯貴族の動かす金は莫大だがではその金は何処から集まるか? それは商人だ

農民の作物も重要だが金次第で他国から仕入れる手段も取れる。大局を視たら商人が国を握るのだ

王など行ってしまえば抑止に過ぎず、代えも利く。だが大商人を複数手放すか他国に流れると国が乱れる


「その点シャルマーユは無駄に領土拡大を狙わず圧政を敷かずに安定し統一した税収だから優れていると言えるな」


領土云々、これはシャイタンも実情を知っているので世辞に過ぎないのだが

ただ、税の統一は素直に褒めている

元平民なロックだけにあらゆる税に関する苦労は身に染みていたのだ


「領土拡大も何も戦後のシャルマーユは国庫が無駄にあるだけでそれを扱う為政者が圧倒的に不足しているからな。お前らなら知ってるだろうが正直シャルマーユは裕福で強国なんて言われてるが現状かなり切羽詰まってる・・・とても他には口にできんがな」


自国の要人にすら明かせない内容だが目の前の2人はそれを既に知っているのだから問題無い


シャルマーユに限らず何処の国も圧倒的に人手が不足しているのだ

中でも大国であるシャルマーユは周辺国から強国と敬われているが実の所、大国という事はそれだけ領土が広い、領土が広ければそれを治める領主なり代官が必要だがかつての大粛清でまともな為政者が致命的に少なく、空白地帯や破棄された領地も多い・・・


「まぁ・・・人材育成は時間掛けるしか無いからねぇ。んで、テリアどうすんの?」


人材育成に関しては古来より時間を掛けるしか無いとアリスは知っているので見切りをつけ話を戻す

最もその育成法もアリスは知っているし解決策もあるがもう説明が面倒と話を切り替える


「他に救援要請を打診されてる国も余裕が無いかこの機にテリアを飲み込もうと企んで放任してる。あの聖国ですら無視するぐらいだからな」


「あ~あいつ非合法の奴隷制度大嫌いだからなぁ」


友人のソフィアは奴隷制度をなにより嫌っている。


かつてソフィアにあらゆる分野の知識を叩き込んだ際に奴隷制度は悪だと憤ったがアリスがそれは社会悪であり犯罪への抑止と国力の維持、底上げにも繋がる。お前が市民ならその偽善も結構だが為政者として国を担うなら清濁併せ呑む度量が必要だと説いたのだが、ソフィアはそれを飲み込んだ上で自国で奴隷制度を敷かずに、敷く必要の無い程国を徹底管理、安寧を齎した


それを抜きにしてもゼファースは独立国を是として他国との友好は兎も角過度な干渉は控えている

テリア等の愚かな国に関わる訳も無かった


「あいつ?」


アリスの呟きに誰の事かとロックが問う


「こっちの話。それより棄民予定の住民受け入れたら? 人的資産回復するし丁度いいじゃん」


「それは賢者会議でも案が出たが、棄民の数が膨大過ぎて暗部や間者の確認がとても出来んから頓挫している。最悪それを無視しても危険思想の種族が紛れ込んだら致命的に拙い」


「膨大ってどれぐらい?」


「現在のテリアの人口は首都に700万、領土全てで1500万だが首都から200万を棄民予定らしい、最低でもな。そして寒村地区は口減らしとして膨大な市民を粛清するらしいがそれについては数は未定だ」


数を聞いてアリスは間の抜けた顔になってしまう、うさ耳もピンと立っては微かに揺れている

棄民の数では無かった。自国の要である首都の半数弱を捨てるなど最早棄民ではなく国の瓦解だ


「それ棄民じゃなくて亡国一直線じゃん。そのテリアの王ってのは他国の間者か密約でも交わしていてテリア滅ぼしたいんじゃないの?」


「馬鹿な俺でもそう思うぐらいだ・・・」


アリスとロックが2人して呆れて溜息を付いて紅茶で一息着いたところで大悪神の手が伸びる


「ふむ、剣聖。取引と行こうじゃないか」


それはもう愉悦とばかりに大悪神に相応しい笑顔で取引を持ち掛けて来たシャイタンにロックは警戒心を剥き出しにする


「お前との取引とか嫌な予感しかしないんだが・・・・・一応聞く」


「パラミス同様テリアの支配者層全て洗脳してやるから貴様の好きなようにしろ」


さも近所にお使いに行く程度のノリで奇行を言ってのけるシャイタン

実際パラミスのようにシャイタンからしたら造作も無い事なのだと判ってはいるが・・・


一国の皇としてはそんな奇行見過ごせないのだが・・・現状それが魅惑的な最適解なのは否めない

苦渋の末に内容を確認する


「―――またそれか・・・まぁ現状それが最善だが、取引というからには見返りはなんだ? お前が金なぞ求めんだろうし住民の命とかいうなら断るぞ」


「そんな塵いらん。テリアにある錬金素材を全て寄こせ」


シャイタンを知るロックとしては生贄か自身に悪政を敷かせるかと思っていただけに全く予想外の要求に理解が及ばなかった

警戒心など霧散して目に見えて困惑していた


低位の使い魔や悪魔なら兎も角、それを統べる頂点の大悪神たるシャイタンにとって一国のたかが数百万の命等貰った所で荷物にもならない塵に過ぎない

多少の愉悦は味わえるだろうがそれより己が仕える主姉妹の感心のほうが比べるべくもなく勝るのだから


「・・・・は? え、お前、何言ってるんだ?」


「貴様此処がカレン様の経営されている錬金術の工房なのを忘れているのか?」


「いやいや・・・ぇ―――金じゃなくて素材?」


万歩譲ってそれは判ったとしてもそれなら金のほうがあらゆる面でいいのではと思わず呈してしまうロックだった


「カレン様は財より素材を求めておられる。それに過度な財は人を欲に堕とすしな、まぁカレン様には無用な心配だが。――最もアリス様の許可が頂ければの話ですが、如何でしょうかアリス様」


自身の敬愛するカレンに財を積んで見せた所で喜ぶ所か以前のように警戒するだろう、よしんば受け入れたとしてもそれで素材や家族に散財するのは明白で我欲に堕ちるとは微塵も思ってない、・・・最も堕ちたら堕ちたでシャイタンとしてはそれはそれで一興だと愉悦に浸れるのだが


ロックへの横柄な態度が一変して主たるアリスに甲斐甲斐しく伺うシャイタン


「カレンが喜ぶだろうし良いじゃない! むしろお願いするわシャイタン! やっちゃって」


のりのりでおっけ~とばかりに許可するアリス

この2人にとって一国の支配等些末な事でそんな雑事より素材を前にして喜ぶカレンのほうが遥かに、何より大事なのだ


「畏まりました、アリス様。――それで、どうなんだ剣聖」


2人のやり取りに放心していたロックにシャイタンが横柄に戻って再度確認する


「・・・本当に錬金素材だけでいいのか?」


予想外過ぎて疑ってしまう内容だった


「俺が誰か知っているだろう、人間を騙し陥れる事は有ってもこと契約に関して嘘偽りは有り得ん」


かつての敵とはいえシャイタン、この場合サタンと思うと確かに悪を良しとする存在だが取引契約に関しては絶対なのはロックでも理解していた

下位の低級使い魔なら騙すかもしれないが使い魔や悪魔を統べるサタンが一人間との取引を偽るなど存在意義に関わる

それはある意味なによりも信頼できる


「―――判った。属国と同時にテリアの素材を集めてお前に贈る。だが流石に規模が規模だけに月日は掛かるしその間に他国に流れたり消費された素材についてはどうにもできん。それと上級までのポーションの素材と一部の医療系の素材は勘弁してくれ、流石にそれが無いと属国にした所で国民の健康維持が補えん」


「構わん。取引成立だな、今日中にテリアの王族含めた支配者層と富裕層全て洗脳して貴様の傀儡にして置くから明日にでも好きなように国交を結べ」


こうして知恵を借りるつもりがあっさりと超常の力によって解決してしまった

最高の結果を伴って


悩みの種が解決したと一安心した所でロックとしては一日で一国を洗脳支配できるシャイタンに改めて危機感と最早ある種の畏敬を感じる程だった


「本当お前規格外だな。幻魔涙戦(げんまきゅうせん)の時お前本気ならこの世界好きに出来たろ」


「あれは俺にとって単なる戯れにすぎん。それにあの時は他の神々も介入していたしな、流石に今の様に好き勝手はできん」


つまり今は好き勝手できるという事だ


「頼むからシャルマーユにその力使わないでくれよ、気が付いたら俺以外皆敵とか年甲斐も無く泣くぞ」


心からの乞いだった


「アリス様の友人でもありカレン様を案じて色々してくれてる貴様には感謝しているんだぞ。そんな恩のある国に手を出す訳なかろう、最もアリス様とカレン様の命なら即実行するが」


「―――アリス、俺達心友だよな?」


シャイタンの答えを聞いてロックは隣の癇癪持ちの困った友人に形振り構って慣れないと、迷わず肩を組んでいい笑顔でアリスに確認というか縋っていた


「友達だけどいつの間に心友に・・・まぁいいけど、私も此処ルルアやロックンには感謝してるしそんな馬鹿な真似しないわよ。あ、属国と言えばお願い有るんだけどさ」


ロックの意を汲んでジト目になりながらも思いついた案件を口にする

こればかりはお願いでもあるがロック、というよりルルアの為でもあった


「お前この流れでお願いとか卑怯だぞ・・・なんだ?」


「テリアやパラミスの玉兎受け入れるのはいいけどシャルマーユの玉兎含めて此処ルルアには1人も寄越さないで」


今までの態度と打って変わって冷たくいい放つアリス

その変貌振りとお願いの内容に合点がいかずロックが疑問をぶつける


「? それは構わんが普通逆で同族を招き入れるんじゃないのか?」


アリスは玉兎族のカレンへの扱いをロックに包み隠さず説明した

人間に追い詰められた玉兎族の拗れた種族思想には昔から根深く欠陥種族を忌み嫌い、同族ですら害虫の如く駆除が当たり前となっていると

それが原因で以前カレンは言葉にするのも悍ましい酷い目にあったと

だから同族を嫌悪、憎んでるし視界に入ったら感情を抑えきれず殺してしまうと


それを黙って聞いていたロックは勢いよく机に拳を下ろし怒りを露わにする

玉兎族については不明点が多かったがそんな種族だったのかと…


「なんだそれはっ!! 判った、俺の名に誓ってお前達姉妹以外のルルアへの玉兎の立ち入りは禁じる。ルルアに既に玉兎が居たら立ち退かせるし見掛けたらそれはお前の好きなようにしていい。だが既にシャルマーユに居る玉兎や移住してくるかもしれない玉兎について罰したりは流石に出来んぞ」


玉兎族については友人姉妹しか碌に知らないが実情を知って自身の名に懸けて約束を付ける


「おっけ~。ありがとね」


友人のロックの怒り様にアリスはああ、やっぱこいつ良い奴だなと改めて友人に感謝していた


「有益者云々以前にそんな話聞かされたら当然だ」


神に見初められる程の根が善人のロックが友人姉妹にそんな酷い扱いをする種族を許せる訳が無かった


「流石ロックン! で、要件は終わり?」


「何言ってんだ、肝心な本命が残ってるだろ」


そう、ロックとしては先の2つより重大な事が残っていた

これ見よがしにいい笑顔をアリスに向ける


「え、まだあんの? 何よ」


これ以上の厄介事は勘弁とさっさと追い返そうと目論んでいたアリスだが次の台詞に虚を突かれた


「約束だ。飯食わせろ」


「―――ああ、ああ! おっけ~!! 私達姉妹の渾身の手料理を振舞うわよっ」


自分の料理が大事だと言い放つ友人に気を良くしたアリスは立ち上がってウィンクしながらサムズアップして意気込みを露わにする


「光栄に思え剣聖。アリス様もカレン様も料理絶品だぞ」


「それは楽しみだ」


さぞ舌の肥えてそうなシャイタンの後押しもあって益々楽しみが増したロックだった




その日の夕餉


姉妹の力の籠った贅沢な料理の山々にシャイタンとコボルトとロックはガツガツと平らげていた


そしてカレンのロックンさん呼びにロックが愛称に敬称は困るから呼び捨てでいいと言ってカレンが若干照れながらも「じゃ、じゃあロックン・・・」と呼び、そんなロックにコボルト以外のアリス・シャイタン・アマネの嫉妬の視線が向けられた


そしてコボルトがアリスにおめぇの友人ならせめて王族騙るような馬鹿な真似は止めさせろと呈するもロックは苦笑いでそのやり取りを眺めていた


それからというもの、流石に頻繁にではないが監視とゆう建前を掲げアリスの知恵と姉妹の料理を目当てにちょくちょくロックはアシュリー工房に密かに通っていた


そんなお忍びも師であるレイアードにばれて怒られ、問い詰められ暴露すると悪童の知恵なら確かに有益だと見過ごして貰えることになった

ただし如何な強者な陛下とはいえ1人では何かと体裁もあるし困るとかこつけ自分も偶に付いて行くと言い切る

明らかにアマネへの参拝目当てなのは明白だった・・・

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