42話 幕間 使い魔の悪巧み
三千世界の中心 ~神界~
シャイタンの古城跡にて
「獣、来い」
「はっ、お久しぶりで御座いますサタン様」
シャイタンの呼び出しに応じ現れたのはかつてアリスをシャイタンの元へと案内した翼の生えた子牛ほどの大きさの犬だった
「久しいな。今はアリス様からシャイタンの名を賜った、それで呼べ」
「シャイタン―――くくくっ、成程。あの方らしい命名ですな、心得ましたシャイタン様」
「それで、俺が留守の間の首尾はどうだ?」
獣はとある経緯から名を封じられたが大悪神でシャイタンの忠臣にして副官だ
不在時の一切を任せられる程シャイタンの信頼を得ている
「恙なく、309の星と407の星も完全にシャイタン様を国教として崇め支配下に治めました。これで今現在385の星が支配下になりました。ただシャイタン様の支配下にあった46の星がシャイタン様の忌み嫌う例の禁術の儀式を行ったので勝手ながら怒りの余り滅ぼしてしまい正確には支配下にあるのは384の星ですな」
星は無数にあるが400弱の星を支配下にするのは並の大神ですら不可能だ
シャイタンの場合大悪神であるが星や国によっては大善神としても崇拝されており、数多の星でシャイタンへの信奉が爆発的に増えている
神への信奉は善悪の行いどちらにせよ過激な程名が広まる
かつて悪逆の限りを尽くしたシャイタンは400弱の星を信奉させる程神明が轟いている
「なに? それは構わんがあの星に蟲毒十法奇を行使できる程の知恵者が居たのか?」
悪を良しとするシャイタンでも嫌悪する事がある
その内の一つが禁術の儀式である蟲毒十法奇
これは外法に分類されるがその中でもシャイタンが特に嫌う禁術で国を犠牲に悪神を無理やり召喚する術だ
正規の術なら問題無いが禁術で強制召喚は冒涜だ
善神にしろ悪神にしろ冒涜は侮辱で忌み嫌う。故にシャイタンは之を固く禁じている
「いえいえ、本来の目的は敵国を生贄にするつもりで宗主国が行使した結果、奇しくも蟲毒十法奇に至ったようで、あれが広がる前に星事滅ぼしました。あれが他の星々に伝われば他の神々の支配下にまで問題が起きますからこれが最善かと至りました」
冒涜に類する物や術は固く隠匿されており之を破るのは神界の怒りを買う事と同義
獣はその結果あっさり星を1つ滅ぼしたと言ってのけた
「成程な、素晴らしい差配だ。相変わらず貴様は有能だな」
「お褒めに預かり光栄です。それで此度はどの様なご用向きで?」
「くくくっ。星の支配等より面白い事が始まるぞ」
シャイタンは心底愉悦に浸った笑みを見せる
「それはそれは、さぞ楽しみですな」
獣も主の笑みに釣られ微笑む
主の喜びは獣の喜びだ
「これを見ろ」
主の片割れのカレンから許可を得て模写した魔道具の数々の製表を取り出し獣に渡す
獣は丁寧に咥え地面に置いて其々眺める
「―――これは・・・魔神器の製法ですかな? 効果が度を越えてますが一体これは? 流石にこれ程の効果ですと代償も問題になるのでは?」
神器と対となる魔神器という物が存在する
だが魔神器は効果は絶大だが代償が必要で効果に応じて代償も変わる
効果は計り知れないが代償が伴うので神器の対とはいえ価値は同等でも大抵の星では忌み嫌われ禁制となっており神界では最早神器の失敗品と揶揄されている
獣は効果から魔神器と判断したがシャイタンが正す
「それは魔神器では無く魔道具だ。アリス様に師事されたカレン様が発明された物だ」
「魔道具でこれ程の効果ですと!? という事は代償無くこの効果が? ・・・いやはやあの姉妹方は本当に楽しませて頂けますな」
魔神器程の効果を代償無しの魔道具で発揮できると聞いて獣は驚き感心して改めて姉妹に感服する
悪神にとってはこれらは無限に愉悦を満たす神器に等しい
「取り敢えず善神の街にあるヘルメスの元へ向かうぞ。着いてこい」
「はい」
ヘルメスの店
「ん? げっサタン様!? な、何故ここに・・・?」
ヘルメスの弟子たる小神が来客を確認して驚き引きつる
この店には到底無縁の大悪神が獣を率いて来たのだ、天災の来訪に驚愕し警戒する
「客として来てやったんだ、それよりヘルメスを呼べ」
横柄に主人を呼び出すシャイタンだが抑々シャイタンからしたらヘルメスは別派閥の大神とはいえ遥か格下の神各だ
「あ、あいにくヘルメス様は留守でして・・・」
丁重に居ないので帰ってくださいと弟子が伝えようとするが遮られる
「貴様俺が誰か知っての発言か? まぁ良い、留守ならさっさと連れてこい」
「は、はいっ」
嘘など余裕でお見通しだが問い質す手間も惜しいので強引に進める
この場合連れてこいとは他の星に居ようとお構いなしに連れてこい。という意味だと小神もそれを理解してるので大人しく師に伝える
「ヘルメス様・・・その、客といいますか・・・サタン様が獣を連れてお見えですが如何しますか?」
部屋で趣味の占星術の研究をしていると弟子から禍言を告げられる
ヘルメスは仰天して咄嗟に居留守を図る
サタンの来訪等天災としか言いようがない
「はぁ!? なんでサタン様が? 俺病気になるから、今から瀕死になるからとてもお会いできる状況じゃ無いから丁重にお断りして帰ってもらってくれっ!」
それはもう必死だった、大悪神が来て良い事がある等有り得ないので本気で毒薬を服用しようかと考える程だった
「は、はぁ・・・」
「サタン様、その、ヘルメス様は今重篤でして・・とてもお目見えできる状況では・・・」
師の必死振りも判るので恐れながらもなんとか師の意思を伝える
小神からしたら勘弁してほしい内容だが師の命令で仕方なくだ・・・
「――1分やる。それまでに四肢がもげてようが首だけでも連れてこい。さもなくばヘルメスの支配下の星全て滅ぼすぞ」
にべもなくシャイタンは告げる
ヘルメスの支配下の星は20に満たない
「その役目は私にお任せを」
適任の獣がその役目を引き受けるという
犬顔でも判る笑顔で言い放つ
「お、お待ちをっ!」
「これはこれはどうもサタン様! 態々お越し頂き有難うございますっ!!」
小神がシャイタンの言葉をそのまま伝えるとヘルメスが飛び出してきた
サタンと獣からしたら自分の支配下の星を全て滅ぼす等1日も掛からず可能だ。そして無言即実行だと神界では誰もが知っている
無事やり過ごせたらお祓いや邪気払いでもしてもらおうと決めてヘルメスはそれはもう丁寧に接する
「重篤とやらは平気なのか?」
仮病と知っての細やかな嫌味だ
「サタン様に相見えるなら病気など吹き飛びました!」
本当に重篤でも飛び出してくるだろうヘルメスだった
「都合のいい病気だな、まぁいい。別に暴れに来た訳ではない、客として来た」
「――客・・・ですか? サタン様は占星術に興味でも?」
強奪か暴れに来たと言うほうがまだしっくりくる相手だけに思わずヘルメスは拍子抜けする
「そっちでは無い、錬金術だ」
「は、はぁ・・それで何をご所望でしょうか?」
占星術や神働術を得意とするヘルメスに客としてきたのだからそれらの術の行使か術法を買い(奪い)に来たと思ったのに又も意外な錬金術と来た
サタンに錬金術など無縁なのに何故? と疑問に思うが機嫌を損ねたくないので大人しく伺う
「物ではない。本来なら貴様と言いたいとこだが流石にそれは拙いからな。貴様の弟子でも眷属でもなんでもいいから腕の言い奴を10人ほど寄越せ」
ヘルメスの弟子10人ともなれば錬金術師なら全てを投げ売ってもその1人に師事を乞う存在なのだがシャイタンはお構いなしに要求する
これでもシャイタンなりに配慮してるのだ。本来なら問答無用でヘルメスに用を済まさせるのだが主の名声の為にシャイタンなりに控えていた
それでも手塩に掛けてる弟子を10人引き抜かれては溜まったものでは無いのだが・・・
「・・・・・すみません仰る意味が・・」
意外を通り越して最早意味不明だった
それこそサタンなら幾らでも人材を集められるのになぜ態々自分の店に来て寄越せというのか
それこそ洗脳して勝手に連れて行くようなものを・・・
「ふむ、まぁこれを見ろ」
予想通りの反応なので獣にも見せた製法を手渡す
ヘルメスなら十全に価値が判る筈だ
「はぁ・・・・」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「――な、なんですこれっ!? 魔道具で疑似奇跡に古代魔法!? これなんて原初魔法・・・あ、ありえん・・・こ、これは一体!?」
てっきりどんな邪悪な内容が記されてるかと恐る恐る見たらそれは有り得ない魔道具の数々だった
発想も製法も効果もヘルメスですら及ばないどれも素晴らしい数々だった
「流石に貴様ならそれが判るようだな」
予想通りの反応にシャイタンは愉悦に微笑む
「効果も出鱈目ですがなによりこの錬成陣、魔力が介在していない・・・これをエーテルだけで? 星によっては魔力も無しで錬成は可能だがエーテルを介しての錬成は難度が跳ね上がるというのに・・・・・この製法は発明の権能のあるどの神が造られたのでっ!?」
是非この製作者にあって友誼を結びたいと必死のヘルメス
「それは神ではなくとある星の人間界の住人が発明した物だ」
あえて人間とは言ってない、それをヘルメスが勝手に勘違いするのは相手の勝手だ
「に、人間が・・・・? この多重錬成陣を? あ、ありえん・・・発明に関する加護があろうと不可能だ・・・こんなもの俺でも想像もできん・・・・・」
さぞ有能な神の発明かと思いきや人間界の住人の発明と聞いて腰を抜かして尻もちを着くヘルメスだった
錬金術の祖だけあってこの資料の凄さが誰よりも判るヘルメスだからこその反応だ
その製作者がお馬鹿で発明の加護も無い小兎と知ったらヘルメスは自尊心が圧し折れるだろう
「多重錬成陣? なんだそれは? 生憎俺は魔道具の効果だけでその錬成過程については知らん」
錬金術については無知だが陣については魔法に精通してるので判る、故に多重という言葉が気になりヘルメスに問う
「――錬成陣は1つの円の中に錬成予定の品に合わせて紋様を刻む物です。ですがこの錬成資料の錬成陣は複数の円を重ねてます。二流なら複雑な錬成陣と勘違いしますが一流ならこの多重錬成陣が理解できるでしょう・・・俺でも3つが限界なのにこの発案者は3つ所か4つも・・・い、一体だれがこれを!? 是非俺の元に、弟子、いやいや! 同士でも師でも構わないっ!!」
ヘルメスは相手がサタンという事すら忘れて縋り付いて形振り構わず乞う
今一凄さが伝わらなかったシャイタンだがヘルメスが弟子にしてほしいというほどだから余程なのだと察して改めて主のカレンに感服する
錬金術師のその祖に乞われる等さぞ光栄な事だろう
だが主たるカレンは神の存在を知らないし信じてないのでこの栄誉は伝えるだけ詮無いことだ
「生憎聖人でも無いから無理だな、それより俺の意図が貴様なら判るだろう?」
聖人でも無い人間を神界に連れてこれない、アリス? あれは規格外なので例外だ
そして肝心の話を進める。大悪神たる自分が物を見せたのだから伝わる筈だ、そして根っからの研究肌のヘルメスの答えも判っていた
「―――これらをどうされようと構いません。10人と言わず錬金術の直弟子含めた携わる者50名を預けますので是非この叡智を授けてください!!」
サタンの思惑は判る。之を使って天災と混沌を招くのだろう
だがそんな事どうでも良い。この魔道具の製作者の知恵に関われるなら些末に過ぎない、となれば数が多いに越した事は無い、指定された数の5倍の50人を提示する
多ければ多いほど知恵からの閃きが増すのだから
「くくくっ良い返事だ。その資料を預けるから量産しろ。代価に定期的にその発案者の資料を渡す。構わんな?」
シャイタンの予想通りの展開だったがまさか50人も寄越すとは思わず愉悦で無く純粋に笑みを零す
研究肌だけあって予想通り此方の思惑を知っても魔道具の誘惑に抗えなかったのだ
「望外の代価ですっ! 物が物だけに神界は論外なので俺の支配下の星で機密工房を建造して大量生産させます―――所でこれらの魔道具には名前が記載されてませんが名前はなんでしょうか?」
ヘルメスからの予想外の問いにシャイタンが考え込む
「名前か・・・」
(確かカレン様は魔道具への名前に関心が無かったな)
「必要か?」
「え・・・魔法にも名前が有りますよね? 魔道具も同様に名前が無いと不便ですが・・・特にこれ程の魔道具となると名前は必須ですよ」
「名前は貴様が好きに決めて良い」
主が関心も興味もないならどうでもいい、自分も効果を使って愉悦に浸りたいだけなので名前はどうでもよかった
「よ、よろしいので!?」
ヘルメスからしたらこれも望外の代価だった、これ程の魔道具の名付け等最高の栄誉だ
製作者はその名付けの意義すら理解してないのだが
「ああ、但し一定量生産して普及させる際には発案者の名前を出す、名前はその時明かす」
これは当然の申し出だ。むしろこれが本命だ。愉悦は自己満足に過ぎず、本題は主姉妹の名を轟かす事なのだから
「判りましたっ! 最近は占星術と神働術に熱中してましたがこれを見せられたら錬金術への意欲も戻ってきました!」
ここでヘルメスについて語るが・・・
ヘルメスは占星術・神働術・錬金術を司る神だが、だからといって全てを極めてる訳では無い。
権能として3つを授かったがヘルメス自身は錬金術より占星術・神働術に関心が大きかったので錬金術は精通しているものの最近は怠けていた。だが此処に錬金術への執着を滾らせる製法がある。司る神として燃え上がっていた
「それは結構な事だ。それともう1つ、貴様これを複製できるか?」
此方は副題だが懐から1つの水薬を渡して見せる
主から譲ってもらった育毛剤だ
「これは、また奇怪な・・・直ぐには無理ですが、これなら10日も有れば解明してみせます」
流石のヘルメスだけあって即座に効能を理解して複製も可能だった
この品については先の魔道具のような驚きとは違い奇抜さにヘルメスは意表を突かれた
(10日か、となるとあの地の人間界では十ヵ月か・・・少しでも欲しいからその都度お願いしてみるか。くくくっカレン様とのやり取りも楽しめるし好都合だ)
カレンとのやり取りも純粋に楽しいのだ
愉悦ではなくあの純粋な主をからかい、多少の意地悪で困った様は可愛く微笑ましい。こればかりは悪神も愉悦も関係なく、男性として女性をからかう楽しみだった
「それも解明したら量産しろ。それの名前も発案者も先と同じようにな」
「判りました。しかし・・・この植毛剤は流石に神界に普及させると先の魔道具の娯楽と異なり製作者の囲い込みが起きますが大丈夫でしょうか? サタン様の身内なら大抵の派閥の誘いは跳ね除けれるでしょうがこれは大神やそれ以上の方でも興味が惹かれる品ですよ」
「植毛? 毛髪が伸びる育毛剤とは違うのか?」
「育毛・・・? 確かに頭髪が伸びる効果も有りますがそれは副次効果で之は毛根の無いものでも毛根を再生させる植毛剤ですよね? 人間は勿論神々でも髪に悩む者は多いのでそれこそ血眼で欲する品ですが・・・」
「・・・・・それは何か違いがあるのか?」
「―――人型が服用すれば毛髪を、人外が服用すれば全身が、それこそ髪が薄れていようと毛根が死滅してようが育毛だけに及ばず新たに生やす事が可能なので・・・その、髪の薄い者からしたらある意味下手な加護や神器より欲する品ですよこれ」
「くっくくくっ。あの御方はとんでもない物を・・・構わん。それについては此方で対応する」
「判りました。素晴らしい叡智を有難うございます!」
「では頼んだぞ」
店を後にして帰路に着く
「まさかあのヘルメス様が腰を抜かして驚くとはカレン様の錬金術は素晴らしいですな」
「全くだ。凄すぎて人間界では普及できんのが悔やまれる」
「確かにあれらが出回れば世界を蹂躙できますからな―――ですが他の星々でそれをお望みでしょう?」
「当然だ。あれを手にした愚か者の欲、その末路、我々にとっては最高の愉悦だ。星が幾ら蹂躙されようと構わんが神界ではさぞ重宝され主姉妹の名が知れ渡るだろう」
国が、星が主の魔道具で乱れ我々は最高の愉悦に、神界ではその魔道具の素晴らしさに主姉妹の名が轟く最高の結果だ
「確かに、直接滅ぼすのは容易ですが愚者の手で自ら乱れるほうが我々にとってはさぞ楽しみですな」
「さて、用は済んだし・・・ちっ」
「これは厄介ですな・・・」
偶然か、前方から厄介な神と遭遇して思わず舌打ちする
『獣、カレン様の存在は明かすな』
『心得てます』
咄嗟に伝達で主の隠匿を伝える。
アリスの存在は知られているが妹の存在は知られていない、これに知られると厄介になるのは明白だ
「ん? サタンに獣ではないか。久しいのう」
自身と同格にして大悪神のエキドナとの遭遇にシャイタンは隠しもせずに怪訝な表情を見せる
「俺としては貴様の面など見たくないのだがな」
嫌味でなく本心だ、エキドナとはなにかと相性が悪すぎるのだ
「相変わらずつれんのう・・・ん?」
飄々とした顔から一変してエキドナはシャイタンを注視して険悪な表情に変わる
「なんだ?」
「貴様・・・使い魔になるなどとどういう了見じゃ?」
敵意と神威を発揮してシャイタンを威嚇するエキドナ
「ちっ、貴様には流石に判るか」
最悪は想定していたがやはり判明してしまいどう説明するか逡巡してしまう
獣は語らず距離を取った、最悪命を賭しての戦闘を覚悟しての事だ
「当たり前じゃ。妾の専売特許ぞ、貴様の勝手は構わんが妾と同じ永久評議神たる貴様が使い魔等流石に見過ごせん。訳を話せ」
内容次第でエキドナも交戦の覚悟だった、永久評議神が使い魔など前代未聞で沽券に係わる。神界がざわめく問題だ
「・・・遮断しろ」
止む無しと、エキドナ相手に嘘は通用しないので語る場を用意させる
「ふむ―――よいぞ」
シャイタンの意を汲んで防音の結界を張るエキドナ
「俺の主はアリス・アシュリー様だ」
率直に告げる
「アリスじゃと!?」
何処の神と結託したのかと疑っていたがまさかの眼を掛けている弟子(予定)の名前が出て驚く
そしてすぐ様思考してある結論に至る
「ああ、共に人間界に居る」
「――成程のう・・・アリスなら貴様の性分からして納得じゃ。それに人間界に居ると言うのも都合がよい」
契約主次第では解約させるか滅ぼしてでも口封じさせるつもりだったが意外な結果に神威も敵意も霧散してむしろエキドナにとっても都合のいい結果だったので満足だ
「都合? どういう訳だ?」
エキドナの様子の変貌と都合と言う台詞にシャイタンは意図が掴めず問う
「色呆けのヘカーティアから聞いたんじゃが玉兎、特にアリスは性行為が夢魔を凌駕する程凄いらしくてな、あのヘカーティアが一週間我を失う程だったそうじゃ」
「っ!?―――なんだそれは!? 玉兎の性行為が過敏とは聞いていたがあの色狂いが我を失う程だと?」
エキドナの台詞に一瞬殺意が沸いたが今は取り敢えず抑え続きを促す
「うむ、妾も最初は半信半疑だったがあの色呆けの様子からして事実じゃろうな。そしてそれが神界に伝われば、どうなるか判るじゃろう?」
これで合点がいった
「成程――あの最高神を筆頭に男神連中が絡んでくるな。アリス様が万が一神界に赴くようならさり気なく忠告しよう」
つまりエキドナもヘカーティアも目を掛けてるアリスが神界にきて男神に囲まれるのを防ぎたい訳だ
肝心のアリスは神界に嫌気がさしてるので先ず来ないだろうがそれを伝えたら余計な事をしかねないので嘘ではなく言葉にしなかった
「うむ、あ奴の素質を情欲で埋もれさせるのは惜しいからのう。それで、あ奴は外法の精進を重ねておるのか?」
エキドナらしい問いだ、偽ってもいいがこれは素直に伝えておくべきだろう
「忠告の礼に答えるがアリス様は貴様や色狂いと違って外法の精進に関心が無いぞ。今は人間界の商店で商いの手伝いをしている」
正確には手伝いというか・・・引き籠りの無職なのだがそこは主の名誉の為伏せておく
アリスはカレンの部屋に入りびたりで日がな一日ベッドか地下工房でカレンと遊んでいる、偶に姉妹で食事を用意するぐらいか・・・
「な、なんじゃそれはっ!? 貴様もあ奴の素質は知っておろう! 商い等馬鹿な事させんと何を置いても外法の手解きをせんかっ!!」
特別眼を掛けてる弟子(予定)が怠けているなどエキドナとしては耐えられない
先程とは違う種で激怒していた
「俺は使い魔だぞ? 主の意を汲むのが道理だろう」
「話にならんわっ」
もう用は無いとばかりに退散するエキドナだがまだシャイタンは用が残っていた
「待て」
「なんじゃ!」
「俺の使い魔の件は他には伏せろよ」
エキドナは納得したが他にばれると非常に拙いので釘を刺す
「本来なら窘めるべきじゃろうがアリスの都合を考えると妾にも都合がいいからな、それは心得た」
「感謝する」
「感謝なぞいらんからあ奴に手解きせいっ戯け!」
悪態を付いて去っていく・・・
「シャイタン様、よろしかったので?」
獣の安否はアリスだ、エキドナに怠けてると伝えたら何をするか判らない
「アリス様の現状の件か? 構わん。あれの性格からして人間を洗脳して如何な都合よく契約しようとも使い魔になる等有り得んからな、あの魔狂いが神威を抑える訳が無い」
魔導への追及一筋のエキドナが神威を抑えるなどあり得ない
それは魔導の研究の妨げになる。その点に置いては信頼の置ける相手だ
「成程、確かに有り得ませんな」
獣も同じく同意する
「それよりあの色狂いだ。アリス様を汚しただと? 忌々しい・・・同じ永久評議神だろうが構わん、滅ぼすぞ」
我が主を汚した汚物を殺意と神威を全力で発揮して滅ぼすと決める。
エキドナは兎も角ヘカーティアなら問題無い
此処神界では自分も獣も顕現しても問題無いなのでヘカーティアなら2柱で攻めれば余裕で滅ぼせる
「その件ですが、以前アリス様とお会いした折に少しアリス様の思考を覗かせて貰ったのですが・・・」
獣としてはシャイタンの命なら喜んで実行するが勘違い故の事故なら正せばいいだけだ
「ほう」
「どうやらヘカーティア様はその、汚してはおらず純粋に愛でているようです、最も加虐が過分に含まれてましたが。そしていずれアリス様に神各を授けて交互に御子を成すつもりのようです」
言葉は控えめだが事実を述べる
「―――ふっ、く、くはははっ! なんだそれはっ?! あの色狂いが愛でるだと? アリス様もカレン様も正に魔性だな!!」
まさかの内容にシャイタンは殺意も吹き飛び思わず大笑いする
あの加虐の権化のヘカーティアが愛でる等どれだけアリスは可愛がられてるのか、我が主ながら益々感心する
「正しく。夢魔も真っ青な程の魔性でしょうな、現にヘカーティア様やエキドナ様だけでなくシャイタン様まで虜にされておられます。永久評議神を3柱も虜にするなど色欲や夢魔所か美の女神ですら不可能でしょうな」
改めて言葉にされると確かに、あの姉妹は神に特効のある魅了か何かあるのでは? と疑う程だ
実際の所そんな魅了というか、『あの御方の片割れ』だから惹かれるのもあるがそれとは別のものも確かにあるのだろう
「本当に俺の主姉妹はどこまでも楽しませてくれる」
自分の選んだ結果、歩んだ『未知』だが本当にアリスの言う通り愉快な日々だ
「シャイタン様が楽しまれておられるなら私も満足ですぞ」
シャイタンの心からの満足感が重々伝わり獣も満面の笑みになる
「そういう事なら滅ぼすよりアリス様を人間界に引き留めるほうが余程良いな。あの色狂いが焦れるほうが愉悦だ」
加虐の権化のあの女王から特別可愛がってるアリスを取り上げ虐めるほうが滅ぼすより余程楽しい
「ヘカーティア様もあの性分からしてエキドナ様以上に使い魔などあり得ませんからな、さぞ悔しがるでしょう」
「くくくっ」
あの色狂いが焦れる姿を想像するだけで思い出し笑いが出てしまう
「所でシャイタン様、ご相談と尋ねたい事が」
空気を変えて獣が真面目な口調で話し掛ける
「なんだ?」
「まず相談事ですがシャイタン様のご不在、そして例の魔道具での件で今後の経過を考慮して代理の指揮者を増やしたほうが宜しいかと」
確かに今後を考えて指揮するものが必要になるだろう
獣は忠臣だがそれだけに懐に置いておきたい
「ふむ・・・判った、それは相応しいのを用意しておこう」
「感謝しますぞ、流石に私1柱では統治はできても指揮までは手が届きませんからな」
「それで、何が聞きたいのだ?」
「先程の神威ですが・・・支配下の星が増したにしても明らかに異常な程でしたが一体なにがあったので?」
神威の増加は信奉を増やすか稀に永久評議神が口にできる果実以外有り得ない。にも関わらず先程のシャイタンの神威は支配下の星が増したにしては明らかに異常な程膨大になっていた。己が主が力が増すのは結構な事なのだが純粋な疑問からの問いだ
一方問われたシャイタンは又しても思い笑いをして事も無げに答える
「ああ、その件か。ふふっ、内密にな。なんとアリス様がエデンの果実の神樹を1本拝借して人間界で栽培してる。当の本人は真価も知らずに唯の旨い林檎と思ってだぞ?」
「!? なっ! そ、それは流石に問題になりますぞっ!」
神樹の独占など神界にばれれば己が主以外の永久評議神の総意で神罰が下る
流石の重大事に獣が慌てて進言する
「なに、事が事だけに人間界にある等誰も予想せん、俺ですら目にしたときは疑ったぐらいだからな。大方『あの御方』の仕業と勘違いして永久評議神の連中が困るだけだ、あの連中の困る様を想像してみろ。それこそ愉悦の極みだぞ?」
想像するだけで愉悦が増す程の珍事だ。己が主はどこまでも愉悦を満たしてくれる
「な、成程・・・確かに、想像するだけでこれは力が漲りますな。本当にあの姉妹方はどこまでも神界、特に悪神側にとって貴重な神宝ですな」
愉悦を是とする悪神にとってはこれ以上無いほど貴重な存在だ
獣も想像するだけで体が滾る。己が主が心底羨ましい程だ
「貴様も楽しめ。さて、俺は主の元へ帰る。後は任せたぞ」
「心得ました。シャイタン様、存分にお楽しみください」
「ふっ」
主の元へ帰り楽しい日々に戻ろう
そうだ、カレン様をどうからかおうか、楽しみだ、ああ、本当に楽しみだ




